プロローグ
意識を取り戻して、自分がなぜ倒れているかを思い出すまで少しかかった。
体がギシギシと痛む。
魔物に襲われてどれくらいが経ったのか。
他の者達はどうなっただろうか。
体が言うことを聞かないせいで周囲の確認もできない。
思い出そうとすれば、魔物の攻撃に翻弄されてしまった戦いが頭をよぎる。
もっと人を連れていれば。
もっと自分に力があれば。
もっと、兄のようであれれば。
指先の感覚はなくなり、視界が暗くなっていく。
そのことにほんの少し安堵する自分に、息を漏らした。
カサカサとした葉が擦れる音が耳に入る。
反射的に身を硬くしたことに自嘲の笑みを浮かべ、すっと力を抜いた。
まだ生きようとしてしまうとは。
今の状態ではラービでも倒すことはできないだろう。
愛らしい見た目に反して、鋭い前歯で襲いかかって来る魔物を思い浮かべながらその時を待ったが、一向に痛みは感じられない。
「あなた、生きてる?」
小鳥が話しかけてきているのか?
馬鹿馬鹿しいとおもいつつも、そう思うような声だった。
薄っすらと瞼をあげる。
「あら、動いたわ。ラウル! こっちの人間も生きているみたいよ。案外しぶといものね」
黒い布の塊がこちらを覗き込んでいた。
ぎょっとしつつも、記憶を辿ればなんてことはないことに気づいた。
ほんの一瞬だけ、新種の魔物が湧いたのかとも思ったが、そうではない。
「こっちはあらかた運び終わった」
「これも森の外まで運ばないといけないわね」
「…他のと比べて怪我が酷いようだな」
《守人》が見つけてくれたようだ。
幸運、と喜ぶべきなんだろう。
これで森の外へ帰れることは確約された。
護衛についていた兵を家族の元へ帰してやれる。
キースは体から力を抜いていった。
このまま浮かび上がらないほど深くへ沈めるようにと。
「しょうがないわ。この人だけはしばらく森で預かりましょう」
その言葉を聞くこともないままに。