しろいのとくろいの
のんびりするのにお気に入りの場所は、動物園。
檻に入れられたかわいそうな動物をからかったり、動物見てるつもりが実は自分が動物から観察されてる人間をさらに観察したり。
オレ?オレは自由を楽しむカラスさ。
パトロール飛行で、ふれ合いコーナーに新入りを発見。からだが白くて目が赤い、モルモットの子どもだ。
「おい、白いのっ!」下まで降りて行くと、ほかのモルモット達は驚いて物陰に隠れちまったが、ちっこい白いのはポカンとしたままだった。
「おい、新入り!あいさつしろよぉー!喰っちまうぞっ!」
ちょっとおどかしてやろうとしただけなのに、ちっこい白いの、涙目になって固まっちゃった。
「ここ、どこ?……ぼく、ケンキュウジョから来たんだ……。」
な、なんだ!?ケンキュウジョって!?
ケンキュウジョってとこには、からだが白くて目が赤いモルモットがいっぱいいるらしい。
「ジッケンに使うから、白くないとダメなんだって。ジッケンは,毛をそって、薬をぬることだよ。」
なんでも,人間が使うシャンプーを作るとき、モルモットでまず試すらしい。んで、大丈夫だったら、人間が使うらしいぞ。
「ここ、広いね。ちょっと怖いな……。」そう言ってちっこい白いの、オレにすり寄ってきやがった。
「おいおい、オレはお前のかーちゃんじゃあねぇぞ?」口ではそう言ってみたが、白くてやわらかい毛は気持ちよかった。
そしたら,ものすごい顔でホウキを振り回し、飼育員が走って来た。
「コラッー!アッチイケ!」
オレは、ひらりと空に上がり、飼育員に贈り物を一つしてから、動物園を後にした。
それから毎日、オレはちっこい白いモルモットに会いに行った。けどアイツ、あっという間に大きくなって、ちっこいを卒業しちまったが。
ふれ合いコーナーには、毎日たくさんの人間の子どもがやって来る。たまに、大人の人間も来る。
「子どもは、あんまり好きじゃあないなぁ。急に上からつかむから、怖いんだ。あっ、あの子、すごく乱暴だから、ボク逃げる。また後でねっ!」
ちゃんと覚えてるんだな。
「大人の人間は、だいたい優しいよ。ひざの上にボクを抱いて、じっとしてる人が多い。ときどき頭をなでたり。『イヤサレル〜』って、よく言う。」
人間の方が観察されてんな。
「ご飯のとき、飼育員さんの手にボクの手を置いたら、飼育員さんが笑ったんだ。だから、置いてあげるの。今は、『お手』って言われたら、置くんだよ。りんごが余計にもらえるからねっ!」
なんだか、犬みたいだな……。
夏になった。
毎日暑くて、からだが黒いオレにはつらい季節だが、白くても大変そうだ。
ふれ合いコーナーには。人間用のベンチがいくつかあったけど、その下には大人のモルモット達がもう逃げ込んでいた。あの白いモルモットは、ベンチ下には入れず,脇でぐったりしていた。ふれ合いコーナーには,ほとんど日陰がないんだ。
オレは噴水に行って、頭から水をかぶった。羽根を振るわせて、全身に水をしみ込ませた……実際は、羽の油が水をはじくから、ほとんどしみ込まない。でも、何度も水をかぶって、とにかくからだを濡らした。そして大急ぎでふれ合いコーナーに戻り、羽根をひろげた。
「オレの羽根の下に入れっ!」
「あ、ありがとう……。」小さな声が、羽根の下から聞こえた。
水は直ぐに蒸発し、その度、オレは大急ぎで噴水に行き、水をかぶって羽根を濡らした。何度かやってるうち、ベンチ下にもぐり込めなかった他のモルモット達も、オレの羽根の下に入って来た。
「ありがとう……。」
「ありがとう……。」
小さな声の合唱が聞こえた。
次の日、ふれ合いコーナーは中止になり,モルモット達はハウスの中にいた。
だが、あの白いモルモットはいなかった。そして飼育員が小さな箱を持って出てきた。飼育員はオレに気づくと、足を止め、箱のふたを開けた。
「おはよう!昨日はどうもありがとう!」あの白いモルモットが、箱から顔を出した。
「なんだよっ!おどかしやがって……。」
「ごめん!あいさつしたくて。……お別れなんだ。ボク、もらわれて行くんだって。いつも来てたお姉さんのとこに……。」そう言うと、モルモットは、黙っちまった。
「ってことは、その……まぁ……『イヤサレタイ』んだな、そのお姉ちゃんはっ!」
飼育員が動き出すのと同時に、オレも飛び立った。今度は、贈り物は落とさなかった。
もう、動物園に来ることは、ないかもな。オレもそろそろ、かわいい彼女と過ごせるもっとロマンティックな場所を、見つけないといけないからね!