第百五十九話 宝船
貢ぎ物をしたい。海洋国家サザーランドからそう申し出が来たのは暗黒大陸側の連合が形になり、各々が担当する分野にて全力で邁進している時であった。
マイノグーラ、すなわちタクトは今回起こるであろう大戦争において暗黒大陸側の盟主でもある。急ごしらえの連合での立場を向上させようとサザーランドが色気をだして顔色伺いを行うのは予想の範囲内とも言える。
(わざわざ僕に直接来て受け取って欲しい……ねぇ)
しかしながら拓斗が出向いてとなると少々問題が出てくる。
すなわち両国の格の問題や、拓斗の権威の問題だ。
それなりの国力を有しているとは言え、所詮は連合の一国でしかないサザーランドが格上の盟主であるマイノグーラの国家元首を呼びつける。
形はどうあれ周りからはそのように取られるであろう。
向こうもその辺りの無作法は承知の上らしく平身低頭の文章であったが……。
(それだけの価値はある、か。うーん、個人的に興味あるんだよなぁ……)
贈り物に関して、サザーランドはかなりの自信があるようだった。
恐縮がありありと見て取れる文面ながら、その貢ぎ物に関してだけは自信と誇りが溢れており、やたら小難しい文章で描かれた自画自賛の言葉はよほどの物でなければ出てこないだろう。
それを贈る……マイノグーラへ。
(よし、影武者を送るか。周りの反応は後で考えれば良いし、話を聞く程度の時間ならある。それに、僕が見てみたい)
個人的な動機ではあったが、拓斗は今回の申し出を受けることを決断する。
モルタール老らダークエルフの説得は必要だろうし、アトゥも良い顔をしないだろう。
もしかしたらドラゴンタンで書類の山や打ち合わせに忙殺されているTRPG陣営にいらぬ隙を見せるかもしれない。
だがだとしても……。
拓斗は今回の申し出に、何か運命めいたものが存在する気がしていた。
◇ ◇ ◇
「ようこそお越し頂いた! 偉大なる我らが盟主、イラ=タクト王よ! ささ、こちらに席を用意した、大海が見渡せる陸上迎賓館の特等席だ!」
「むぅ。屋上かい? 視界が開けているのは警備上あんまり好ましくないんだがねぇ……」
同行していたトヌカポリの嫌みに、総船団長ドバンは岩のようにゴツゴツとした顔を歪めた。
今回の話にフォーンカヴン自体は特に関係していない。だが暗黒大陸の連合国内で盟主を動かす程の贈答が行われるとなれば探りを入れないわけにはいかないだろう。
両国の関係が変にこじれた場合の緩衝材としてもフォーンカヴンは必要だ。そのような観点から杖持ちであるトヌカポリは参加していた。
彼女はチラリと拓斗に視線を向ける。どうする? の合図だ。
大儀式があるとはいえ襲撃の可能性は捨てきれないし、何より間者を気にする必要がある。そのような意図で先の指摘を行い、拓斗の判断を待っているのだろう。
しかしながら拓斗はあえてここでサザーランド側の思惑に全面的に乗ってみることにする。
「まぁそう言わずに。こちらは構わないよ……」
「盟主殿がそう仰るなら、こちらに文句はないさね。失礼した総船団長」
「けっ! いいってことよ!」
わだかまりなく話は進む。この程度でいちいち腹を立てていては何も進まぬと、この場にいる全員が理解しているからだろう。
そこらに居る経営者気取りの商会長ではないのだ。全員がこと交渉事においては歴戦の猛者である。
もっとも今ここにいる拓斗が大呪界から遠隔操作されている影武者であることは、サザーランドもフォーンカヴンも知らない。
拓斗としてもいくら一時的な同盟とは言え、安全策を講じないという甘えはなかった。
(そもそも忙しくて普通に影武者じゃないと無理なんだけど……)
現在暗黒大陸は全ての国家をマイノグーラの名の下に一つに纏めるという第一段階をクリアしている。そして第二段階としてそれぞれの国家間での暫定的な指揮系統の振り分け、第三段階の軍備増強と大決戦に向けた作戦立案を並行して行っている。
すなわちどこもかしこも手一杯なのだ。
これに加えてTRPG勢力との関係性構築の為の折衝や繰腹の能力確認。帰還したRPG勢力の能力確認と関係性構築がのし掛かってくるのでもはや猫の手も借りたい状態。
まさか社会生活においてここまで事前根回しや顔合わせが大事だと思っていなかった拓斗は、一気に膨れ上がった関係者からの挨拶を捌きながら、心の中のコミュ障拓斗が号泣している様を確かに幻視していた。
「さて、イラ=タクト王には同盟の締結以来様々な面で支援して貰って心から感謝している。特に農地改革や木材の輸出については俺たちの命に深く関わる話だ。この大陸にある他のどの国であろうとこれほどの支援は行えないだろう!」
友好の構築……加えて首根っこを掴むため、拓斗は可能な範囲でサザーランドにいくつかの支援を行わせていた。
まず一つ目が農業改革。ドラゴンタンの龍脈穴から出る大地のマナを用いた土地改善の効果はすでにフォーンカヴンで証明されている。
丁度かの国の肥沃化も一段落付き、派遣していた魔術ユニットである《破滅の精霊》が手持ち無沙汰になりがちだった頃合いだ。
そのままサザーランドに支援を向かわせる事は費用対効果として実に高かった。
サザーランドは海洋国家ではあるが無論農業も行っている。主食のパンや酒は麦を用いて作られており、収穫量の増加は諸手を挙げて歓迎すべき事だろう。
その点で言えば、木材の輸出もひけを取らず彼らにとっては福音となる。
彼らの使う船には木材が山ほど必要なのだ。暗黒大陸の荒れた土地では入手が難しいそれも大呪界なら問題ない。余るほど生えているし、樹木を高速で育成する【植林】の技術も有している。
当初はどちらかというと怯えと生存本能から同盟締結を行っていたサザーランドのドワーフたちが、手のひらを返してマイノグーラを賞賛するのもむべなるかな。ドバンがわざわざ偉大なる盟主と拓斗を呼ぶのも当然の帰結と言えた。
拓斗は鷹揚に頷いてみせる。
大抵の場合これで話がすむ。特段拓斗が言葉をかける必要もないし、向こうも求めていないだろう。
ただ相手の話を聞いているというポーズが必要なのだ。
こうして早くも二回目になるマイノグーラとサザーランドの会合は始まる。
マイノグーラ側は影武者拓斗、無理矢理時間を作ったモルタール老。
サザーランド側は総船団長ドバンと幾人かの船団長。
そしてオブザーバーとしてトヌカポリだ。
今回の話し合いはあくまで非公式かつ秘密裏なものなので、全体的にこじんまりとした印象を受けるが、事実はもう少し違う。単純に皆忙しかっただけだ。
故にマイノグーラ側もこの会合を済ませればとんぼ返り。サザーランド側から夜会などの招待はされているものの固辞した経緯がある。
「さて早速ではございますがお互い忙しい身。無作法を承知で、可能な限り早く進めさせて頂きたいのですが?」
モルタールが不躾に切り出す。
本来であれば叱責ものであるが、マイノグーラが立場的に上であり、加えて双方本当に忙しい。嫌みや牽制抜きに、早く終わらせたいという思いが強くあった。
「ああ、それはもちろんだ! そう、その通りなんだ……」
その言葉にモルタール老含め、マイノグーラ側の面々は訝しむ。
何を迷うことがあるのか? さっさと話を進めて終わらせたいのは双方同じでは? もったいぶる理由が無い。
相手が何らかの罠をはっている可能性は低く、また贈答物を元に交渉を持ちかけるような状況でも無い。
こと交渉においては経験豊富で老練なるやり手のモルタール老でさえ、総船団長ドバンの反応は意外であり予測がつかないものであった。
「どうかなされたか? 何やら想い悩んでおられる様子ですが……」
助け船を出す。
むしろこのまま放置していては話が進まないために促す意図があったとする方が正しいだろう。
だがモルタールの言葉にも、ドバンは難しい顔を続けるばかりだ。何かを耐えていると言っても良い。
「吾輩があてて見せましょう! ずばりウンコを我慢しているのです!」
全員の視線がヴィットーリオに向かった。
なぜこいつがここに? マイノグーラの面々――無論拓斗も含む全員の思いは一致していた。
一方のドワーフ側の意見もまた似たようなものだ。すなわち「誰だコイツ?」というものである。
どちらにせよ彼がこの場にそぐわないのは全会一致の意見だった。
「何か悩みが……いや、想いがあるんだねドバン。話してみな。どっちにしろそうしないと始まらんさね」
故に、彼の存在をまるでいなかったかのようにトヌカポリが話し出したことについて誰も疑問に思うことがなかった。
マイノグーラ側はそれが一番正しい対応であると知っているが故に、サザーランド側はマイノグーラがスルーしているのであればそれに乗っかっておくかという適当な対応故に……。
「海の事を考えていた。俺たちがともに駆けた海のことだ……」
ぽつりと、ドバンが呟く。
そこからは早かった。先ほどまでの苦悩が何処にいったのかと思わんばかりに海の益荒男は饒舌に、そして自分でも止められぬとばかりにしゃべり出す。
「この前は情けない姿を見せた。暗黒大陸に我がサザーランドありと自負していたが、蓋を開けりゃこの様だ。マイノグーラには敵わぬとも、もう少し俺たちの意地を見せられると思っていたんだ……」
ドワーフは気高い種族である。
誇り高いというよりもどちらかというと頑固と言った方が正しい表現となるが……。とかく体面や面子というものを重視する傾向がある。
乾坤一擲の秘策として繰り出したドラゴンがまるで子犬のごとく降参した。その衝撃はすさまじく、流石のドワーフたちとしても情けなくて今後表を歩けないといった心情なのだ。
そしてそれを痛感しているのは他ならぬ総船団長のドバンである。彼がサザーランドの船長とも言うべき存在。全ての責任は彼にあった。
「しかし総船団長。貴国のドラゴンは素晴らしい。今後繁殖が叶えば様々な面で有効になるでしょう。もちろん許可していただいた禁書や技術も含め、我が国は決して貴国の誠意を軽んじた訳ではありませぬぞ。ただ、純然たる差があった。それまでですじゃ……」
「わお、火に油ぁ」
モルタールの言葉にヴィットーリオがちゃちゃを入れ、ドワーフたちが悔しさに歯ぎしりをする。
愉快に笑う道化師の言葉通り、あまり良い受け取り方をされなかったのだろう。モルタールとしては精一杯の慰めと彼らの立場を重んじた発言であったが、些か居丈高な物言いとなってしまったことは否めなかった。
ドバンの表情は更に歪む。
それは怒りだ。ドワーフの挟持を傷つけられたことによる怒りだ。
そしてその対象はマイノグーラにはなかった。
不甲斐ない自分たちに……である。だからこそドバンはここまで苦渋に満ちた顔をしていたし、今回の貢ぎ物を持って誇りを取り戻す術としたのだ。
「俺たちには覚悟が足りなかったんだ。この船に乗るという覚悟が。盟主殿と運命を共にするという覚悟が。いや、もしかしたら安物買いを狙っていたのかも知れねぇな。くくっ、判断にしくじるなんて船長としては失格かもな。だがまだ取り戻せる……」
その言葉で先程まで不安そうな、そしてどこか神妙な面持ちで事態の推移を見守っていたドワーフの船団長たちから初めて横やりが入る。
「本当にいいのか総船団長?」
「確かに気持ちは分かる。だが……」
「ドバン。お前の船団の、いや、国の至宝だぞ」
察するに何か特別な宝物らしい……。彼らにとって如何ほどに重要であってもマイノグーラにとってそうとは限らない。
だが彼らはその至宝の価値について疑っている様子はなかった。マイノグーラとサザーランドが持つ圧倒的な差を、ドラゴンを持ってしてもなお届くことのない差を知りながら疑う事が無かったのだ。
その態度に、拓斗も興味が湧いてきた。
チラリとモルタール老に視線を向けると、その仕草を正しく受け取った老賢者が質問をする。
「……失礼。それは一体どのようなものなのかな? 王も興味を持たれたようです」
「ああ、盟主どの。我らが連合の頼もしき盟主どの。とくとご覧じろ。我らがサザーランドの誇りだ――」
そして、示される。
サザーランドがマイノグーラにとって、この連合にとって価値ある存在だと証明する宝が。
「メルーリアン号の帆を下ろせ!!!」
総船団長が屋上の手すりへと向かい、大声で叫ぶ。
「――――っ!!」
瞬間、マイノグーラの誰もが予想しない光景がそこに現れた。
屋上から見える大海原に現れたそれは、一隻の船だった。
だが他のそれとは明らかに質が違う。
まるで別の国が……もしくは人類とはまた別の存在が作り出したかのような、そんな美しい巨船が浮いていたのだ。
拓斗は瞬時に理解した。
何故ドワーフが海洋航行技術の未熟なこの大陸で、別大陸に渡るほどの能力を得ることが出来たのか。
そして何故彼らが土地と鉱山を失ってなおこれほど強力な国力を維持しているかを。
そして何より……。
ドワーフたちがこの船を出すことにどれほどの覚悟が必要だったかを。
「《偽装》……いや、《透明化》ですなぁ。しかもあれ……もしかしてぇ?」
ヴィットーリオが呆れたようにマイノグーラ側の気持ちを代弁する。
この場には追跡型の《出来損ない》が随伴してる。彼がもつ《看破》は《偽装》などを見破り、主の危機にすぐさま反応することが可能だ。
会談の場であまり大きな行動が取れないとは言え、少なくとも拓斗に対して警告などを送ることはできただろう。
しかし……その出来損ないが反応しなかった。
すなわち彼の看破では見破ることのできない《偽装》。より上位の能力による偽装で間違いない。
(レガリア……か)
白く輝く巨大なガレオン船。
それこそがサザーランドの総旗艦――宝船メルーリアン号だ。
(しかし、ここに来てまるで用意されたかのように現れるなぁ)
ヴィットーリオが呆れるのも無理はない。拓斗とてこの光景はあまりにも予想外すぎた。
敵が自分たちを上回ってくるという警戒は常に抱いているし、隙を見せたつもりも警戒を怠ったつもりもない。
だがあくまで正統大陸連盟に対する備えの準備段階として見ていたサザーランドからこのような驚愕がもたらされるとは思っていなかったのだ。
沈黙が、その場に訪れる。
誰もが――その秘宝を知っているはずのドワーフたちですら、海上にたたずむ白き巨船を静かに眺めている。
総船団長ドバンはゆっくりと、一字一句かみしめるかのように語り出す。
「あの船は俺たちの魂だ。あの船の為に大勢の男が汗と血を流した。もちろん死んだ奴もいる。怪我で二度と船に乗れなくなった奴なんざごまんといる。全員、アレに見せられ、アレとともにデカい商いをしてきた……。良い船だ。俺には――俺たちにはもったいないくらいの最高の船なんだ」
「ああ、分かるとも。素晴らしい船だ。世界に二つと無い。君たちが誇るに値するものだよ」
ここに来て、拓斗が初めて言葉を放った。
今まで頷いたり配下に目配せをしたりするしかなかったイラ=タクトが、初めて口を開き、賞賛したのだ。その価値があると、それほどの物だと。
言葉は何よりも雄弁で、だからこそ誰しもがドワーフの誇りと覚悟が確かに舞い戻ったことを理解する。
「盟主殿――船を任せる」
ドバンは、一言だけそういった。
他のドワーフ達は言葉を発さなかった。その言葉の重みが、どれほどのものか分かっていたから。
総船団長がどんな想いで船を差し出したかよく理解できたからだ。
今のままでは、いずれ世界の命運が決しようとドワーフたちの未来は暗い。
仮にマイノグーラが作る連合が勝利したところで、サザーランドの地位は限りなく低い事は明らかだからだ。
――ドワーフは意気揚々とドラゴンを繰り出しましたが、なんの役にも立ちませんでした。
そんな馬鹿らしい歴史の一文を消し去り、栄光と誇りある海の漢として責任を果たすため。
必ず起こるであろう大戦争は決してマイノグーラだけの戦いではない。彼の、彼らの戦いでもあるのだ。情けないマネはできなかった。
二度目は逃げない。
それが、古い時代に土地を捨て、暗黒大陸の果てまで逃げることとなったドワーフの末裔。
総船団長以下サザーランド船団長たちの総意で間違いなかった。
その決意は拓斗に通ずる。
サザーランドに向けた、この程度であれば御しやすしと下した評価を覆すほどには……。
(まさかこんなものを用意していたとは、正直度肝を抜かれた。ちょっとこれは今後の対応を変えないとダメかもね……)
レガリアは急速に集まりつつある。
まるで仕組まれているかのように。
船のレガリア。贈り物として穏当に譲渡されるそれをここで手放す訳にはいかない。すなわちサザーランドの面倒を今後も見ることも含まれるが、すでにフォーンカヴンで通った道だ。その辺りはどうとでもなるだろう。
最終的に次元上昇勝利を為すときに彼らの処遇をどうするかが問題ではあるが、その点についても拓斗にはいくつか解決策がある。
ここまで利用価値を示してくれたのだ。用済みとあらばポイと捨てるようでは拓斗の矜持に関わる。
「あれはレガリアだ。我が国にとっても重要な品。返さないよ? 絶対に」
拓斗は確認を取る。それは最後通告でもあり、契約でもあった。
「ドワーフに二言はない。酒の席で愚痴は吐くだろうがな!」
未練を振り払うように、冗談交じりにドバンは叫んだ。この場に軽口はあまり相応しくないが、彼の瞳にうっすらと光る物があることに気づかぬ者はいない。
だから誰も彼を責めなかったし、責める気にもならなかった。これほどの男が涙することの意味は十分理解できた。
拓斗はその言葉を噛みしめるようにしっかりと、そしてハッキリと相手に見せるよう頷く。
「いいだろう。貴国の魂、しかと拝受した。そして約束しよう。君たちの魂に見合うだけの物を、必ず返すと。破滅の王イラ=タクトの名においてそれを誓おう」
「ああ、頼むぞ盟主殿! 我らが頼もしき破滅の王よ!」
=Message=============
以下のユニットがマイノグーラに譲渡されました
《宝船メルーリアン号》
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………
……
…
そこからはもうダメだった。
総船団長は人目も憚らず大泣きし、つられた船団長たちまでも泣き始める。
どこからともなく酒を出して別れ酒と言わんばかりに宴会を始め、今は各々メルーリアン号との思い出を語り合っている。
幸いだったのはマイノグーラの面々が蚊帳の外だったことだろう。
下手にあのノリに巻き込まれて逆に困るため拓斗としてはありがたいの一言に尽きる。折角一国の王として誰にも指図されない立場に君臨してるのに、唐突に始まる飲み会への強制参加など嫌にも程があったからだ。
屋上の手すりから海を眺め、悠々と浮かぶメルーリアン号へと視線を向け、能力を確認する。
積載量もかなりあり、レガリアということで速力も期待できる。
思わぬ兵科の出現に、今まで不可能だった様々な作戦が現実性を帯びてくる。
「しかし、船……か。迷うな」
「あ、我が神ももしかして同じ事考えていらっしゃいました? ん~! 相思相愛!」
いつの間にか横に居たヴィットーリオが茶々を入れる。
おそらく同じ事を考えているのは明らかだ。でなければレガリアの船という言葉でここまでテンションを上げない。
だがこの二人が瞬時に判断できることを他の者ができるかというと、不可能と答えるしかない。
「む? 一体何を? 確かにすさまじい船。我が国と連合にとっても有益となるでしょう。しかし御言葉ながら次なる戦は陸の戦い。出番は流石にないのでは……?」
話を聞いていたモルタール老が静かに会話に入ってくる。
この辺りの緩さもマイノグーラの良いところだ。他国であれば少々気軽にすぎるかもしれないが、下手に畏まられる方が拓斗としては居心地が悪い。
しかし説明するには場所が悪くもあった。
拓斗はチラリと酒を飲みながら大げで歌い出したドワーフたちに視線を向ける。次いで目を向けたのは隣で手すりにまたがる道化師だ。
「ヴィットーリオ。いけると思う? 僕はギリギリいけると思うんだけど」
「いやぁ……厳しい気がしますなぁ。神のお考え通り事が運ぶかどうかというより、生産条件の方の話です。技術はクリアしたとしても、コストが重い重い~」
「確かに、全て順調にいったとしても、ギリギリに開戦に間に合うか間に合わないかって感じだよね~」
「うむむぅ!」
モルタール老とて拓斗の視線からあまりおおっぴらに出来ない話であることは推測出来ている。だが自分を差し置いて王とヴィットーリオが盛り上がっていることに少々歯がゆい気持ちが湧いてくる。
嫉妬と言うよりは、自分が至らぬことへの苦渋と戸惑いだ。とは言えこの話を彼に推測しろというのは無理からぬ事だ。
拓斗は戸惑う配下を労うかのように、少しだけ自らの内にある作戦をさらけ出す。
「ちょっと新しい英雄を使って悪いことを……ね」
モルタール労の目が驚愕に見開かれた。
おおよそこの場では出てこないであろう言葉。
どのように考えても関連性の見いだせない言葉。
だが拓斗は嬉しそうに。何か悪いことを思いついたかのように、鼻歌を歌い始めた。
「吾輩が毎回活躍を楽しみにしている英雄ですぞ!」
ヴィットーリオが付け加える。
モルタール老の内心で唐突に警戒の音が鳴りはじめた。
だが拓斗の態度や表情を見る限り、その判断も疑問に思えてしまう。
ただ――。
また一つ、とても大きなうねりが起きようとしている事だけは分かった。
=Message=============
新たな英雄が生産可能です
《虹色に輝ける宇宙キノコ》
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