第六章「恐怖」
「・・・」
真はベッドの上で考え込んでいた。
陽もただ座っているだけで何も話さない。
無理もない、あんな事件の後なのだから。
真と陽が教室に帰るとき、女子トイレの中に複数の教員が入っていた。
教員達の中から聞こえた「笹川」という名前が真にこれが事件と関係あることを悟らせた。
恐らく笹川は殺されたのだろう。
その後、全生徒が教室に集められ、緊急HRが開かれた。
内容は「笹川千香の死について」。
ほぼ全ての生徒が恐怖し、怯えた。
先生の「何か知っている人はいないか?」という質問も全く意味を成さない。
パニック状態だった。
あの後、生徒は全員部屋へ強制的に戻された。
死体は教員達が回収し、今は職員室で緊急職員会議が行われている。
真は「フゥ・・・」とため息をついた。
落ち着こうと思うのだがなかなか落ち着かない。
陽と何か話そうかとも思ったが、話す事が見つからない。
そんな状態だった。
部屋はしんとした静寂だけで、音を発する物はなにもなかった。
真は部屋の片隅にあるノートパソコンに気がついた。
古い機種だがまだ使える。
そういえば陽が家から持ってきていたのだ。
「なあ、陽」
「ん?」
「あのパソコン、ネット繋がってるっけ?」
「ああ、確かな。それがどうした?」
「ちょっと使っても良いか?」
「ああ」
真はすぐにベッドから降り、ノートパソコンの電源を入れた。
「お前、何をする気だ?」
「ちょっと調べたいことがあるんだ」
「こんな時にか?」
「ああ」
真は起動したのを確認すると、すぐにネットに繋いだ。
陽は真の後ろからパソコンの画面を覗き込んだ。
真は検索サイトを開き、なにやらカタカタと文字を打ち始めた。
「Z県高校生連続惨殺事件」
「あったな。そんな事件も」
「似てないか?」
「何がだ?」
「今回の事件と・・・」
真は事件について詳しく書かれたページを開いた。
「ほら、ここ見て見ろよ」
「・・・」
「被害者の殺害された順番が出席番号順なんだ。」
「待てよ。今日殺されたのは笹川だぞ?確かに最初は浅木だが・・・・・・。他の奴が殺されてるとは限らないだろ」
「いや、恐らく殺されてる。でないと7人もの生徒が理由もなしに休むとおもうか?」
「まあ、そりゃそーだが・・・」
「じゃあ、次の犠牲者は・・・」
「確か・・・。鈴川だ。鈴川明」
それを聞いた瞬間陽が突然勢いよく立ち上がった。
「明ッ!?」
「お、おいどうしたんだよ?いきなり興奮して・・・」
「こうしちゃいれねえ・・・!」
そう言うと陽はすぐに部屋を飛び出して行った。
「お、おい陽ッ!」
真がそう叫んだ頃には既に遅く、陽はどこかへ行ってしまった。
その頃・・・。
鈴川明は怯えていた。
クラスメートが1人殺されたのだ。
無理もない。
ベッドの片隅でビクビクと震えていた。
そんな彼の様子を細木雅夫は不安そうに見ていた。
「明。大丈夫か・・・?」
雅夫の呼びかけにも答えず明は震えている。
(陽・・・!僕、怖いよ・・・!!)
明は陽の親友だった。
というよりも、明が陽を慕っていた。
過去、彼はいわゆるいじめられっ子だった。
そんな彼を助けたのが陽だった。
それから2人は仲良くなり、陽は明にとって兄のような存在となっていた。
陽自身も明の事を放っておけないようになっていた。
「ちょっと俺トイレ行って来るわ」
雅夫はそういうとトイレの中へと入っていた。
明の震えは1人になったとたん大きくなった。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・・・)
ガシッ!
「!?」
明は突然足に違和感を感じた。
明はその違和感がなんなのかなんとなくはわかっていた。
しかし怖くて確認する事が出来なかった。
(ま、雅夫君が帰ってきてから確認しよう・・・。)
ズリズリッ!
明がそう思ったのもつかのま、明はその違和感にベッドの下に引きずり込まれてしまった。
「ヒッ!」
ベッドの下は真っ暗でなにも見えなかった。
その暗闇が、明にはとてつもなく怖かった。
明はすぐにベッドから出ようとしたが、すぐに何かに足を掴まれた。
「!?」
やはり思った通りだ。
先程の違和感は手だったのだ。
足を手で握られていたのだ。
そう。
今だって握られている。
ガブリッ!
腹部に激痛が走る。
噛みつかれたらしい。
痛みと恐怖でもう声も出ない。
しかしすぐに痛みは消えた。
消えたと言うより感じられなくなったと言った方が正しい。
その何かは明の腹部をどんどん喰っていった。
腸を喰い終わるとその何かはベッドからはいずり出て、ベッドの近くの窓を開け、飛び降りていった。
数秒後、雅夫は用を足し終わり、トイレから出てきた。
「あれ・・・?明・・・?」
雅夫は部屋の中を見回すが、明はどこにもいない。
「・・・」
ふと雅夫が下を見ると、なにやら赤い液体が見えた。
「う、うわああああああああああああああああッ!!!!!」
そしてやはりゴロリと転がる少年の首。
「明ァァァァァァッ!!!!!!!!!」
バタンッ!
突然部屋の中に陽が入ってきた。
しかし、陽が入ってきた時にはもう明は首だけだった。
「明・・・・・」
陽はその場に立ちつくし、明の首を見つめた。
続く




