第壱拾章「人格」
あれからすぐ、真は陽の家へ向かった。
その時は既に警察が駆けつけており、中には入れなかった。
しかしこれだけはわかった。
陽は殺されたのだ。
陽の言う、あいつに。
そのあいつが誰なのか・・・?
り・・・?
真は陽の最後の言葉を思い出していた。
真にはまだわからなかった。
真は家に帰ると、しばらく泣いた。
陽や太一、親友が、クラスメイトが次々に殺されていく。
もう出席番号最後の自分しか残っていないのかもしれない。
そんな事も考えた。
しかし悲しんでいる場合ではない。
解決しなければ・・・。
真は急いで生徒名簿を探した。
「確か入学式でもらったはずだ・・・!」
1年以上前の物だが捨てたおぼえはない。
とにかく見つけなくてはならない。
陽が最後にくれたヒント「あいつ」と「り」。
そして玲奈がくれたヒント「生徒名簿」。
この2つの指す真実は、クラスの中に犯人がいる。
それしかなかった。
「あ、あった・・・!!」
真は1番から順番に見ていった。
「浅木・・・園部・・・浜田・・・・・・陽。」
「え・・・?これって・・・?」
真は何かに気づいた。
何故見落としていたのだろう。
簡単な事だった。
何故誰も気づかなかったのだろう・・・。
「嘘・・・だろ・・・?」
真はバタリとベッドに倒れ込んだ。
「ありえねえ・・・よ」
翌日。
真は朝早く起き、身支度を始めた。
「これは持ってた方が・・・良いよな」
真は部屋にあったカッターを取り出した。
真は刃が出るかどうか確認すると、ポケットにしまった。
護身用だが、あまり役に立つとは思えない。
ないよりはマシだが・・・。
「よし」
真は1階に降りた。
美代子が台所で朝食を作っている。
「あら、真。おはよう」
「おはよう」
「朝食、できてるわよ?」
「ありがとう。でも食欲わかないよ」
「そう」
真はそう言うと玄関へ向かった。
「どこかへ行くの?」
「ああ。ちょっとな」
「それとおふくろ・・・」
「何?」
「ありがとな・・・」
真はそう言い残すと靴をはき、外へ出ていった。
「真・・・?」
(絶対に逃げない。どうせ逃げられないのなら、立ち向かう!)
真は近くの廃屋に向かっていた。
あそこなら誰にも迷惑がかからないからだ。
そう、真は闘うつもりなのだ。
陽を、クラスメート達を殺した何かと。
そして真は知っている。
その何かが何なのか。
真は廃屋につくとすぐに中に入った。
本当はいけないのだがやむをえない。
中はかなりボロボロだった。
壁の所々がはげ、家具という家具がほこりをかぶっている。
真はここで待つつもりなのだ。
「あいつ」が来るのを。
その「あいつ」は真のよく知っている人物だった。
「あいつ」・・・いや、彼女はいつもそばにいた。
まさか彼女だとは思わなかった。
信じられない。
信じたくない。
しかし玲奈の言葉が何度も蘇る。
生徒名簿をよく確認する事ね・・・。
そして確認した生徒名簿。
そんな事を考えていると、ガチャリとドアがあいた。
「!?」
「真・・・」
李那だ。
「李那・・・」
「どうしてこんな所にいるの?」
「聞きたいのはこっちだよ。お前こそ何でこんな所に来るんだよ?」
「そ、それは・・・」
李那がうつむく。
「少し昔話をしようぜ。お前と出会った時の話を・・・」
「半年前だ。お前と出会ったのは。廊下で出会って、いきなり話しかけてきた」
「うん」
李那はコクリと頷く。
「それからお前はよく俺と陽と話すようになったよな?」
「うん」
「半年前だぜ・・・」
真は懐かしそうに言う。
「半年前、Z県で何があったか知ってるか?」
「え・・・?」
「連続高校生惨殺事件だ。あるクラスの生徒達が出席番号順に殺されていったんだ」
「今回の事件とそっくりだよな・・・?」
「それが・・・何なの・・・?」
「李那・・・。お前、出席番号何番だ?」
「32番・・・だよ」
「おかしいんだよ・・・」
「え?」
「ないんだ。生徒名簿には・・・」
真の目から涙がこぼれる。
「32番なんて数字はどこにもないんだッ!!出席番号の最後は31!俺なんだッ!!32番なんてないんだよッ!」
「存在しない出席番号、半年前の事件、そしてお前・・・!犯人は・・・お前しか考えられないんだ・・・」
真は大粒の涙をこぼしながら近くの机を叩いた。
「俺の言ってる事が嘘ならそう言ってくれ・・・」
「やっぱりすごいよ」
パチパチパチパチ・・・!
李那が突然拍手をし始める。
「まさかここまで推理できるとは正直思っていなかった」
「ふふふ・・・」
李那が笑い始める。
「そう、全部私。白凪校の事件も、この事件も・・・。全部私」
「正確には、そうじゃないんだけど・・・」
「え・・・?」
「もう1人の・・・私」
「な、何言って・・・」
動揺している真とは裏腹に、李那は淡々と話し続ける。
「知ってる?多重人格って。自分の中にまったく違う人格ができちゃう精神病」
李那はそっと自分の胸に手を当てた。
「居るの。私の中にももう1人。私じゃない私。言ってる意味、わかるかな?」
「前の事件の時、私は何度も止めた。誰も殺さないで。でも止まらなかった」
「どうしてもタベタイタベタイって・・・。言うことを聞かないの」
李那の目からも涙がこぼれる。
「だから約束したの。クラスのみんなを喰べたらもうやめるって。でも約束は守られなかった」
「お、おい。ちょっと待てよ。でもお前は生徒じゃなかったんだろ?何で学校に?」
「私は親もいないし、学校にも行けなかったから・・・。人並みの事がしたかったの」
「だから少しの間だけでも、バレるまでの時間だけでも、学校と言う空間にいたかった」
「集団って不思議だよね。知らない内に1人増えても、知らない内に減ってもあまり気づかないんだよ?」
「でももう終わりだね。真以外はみんな私が喰べてしまった。前の時だってそう」
「でも、お前は渡部玲奈だけは殺さなかった。何故・・・?」
「玲奈ちゃんはね、私の唯一の親友だったの。私が生徒じゃないってわかっても、仲良くしてくれた。だから無理矢理私を止めたの。私は、真だって喰べたくない。だけど・・・」
「もう、ダメ」
「え・・・?」
「多分、この後玲奈ちゃんも喰べちゃうかも」
李那の表情が変わり、真を睨みつけた。
その顔はさっきまでの悲しい李那の顔ではなく、獲物を前にした肉食獣のような・・・
そんな顔だった。
続く




