第13話 三人の少女と変化の理由
「……信じがたい話だが、一応確認するぞ。お前ら、ヴォルフラムたち本人、ってことでいいんだよな?」
ファビラが改めてそう尋ねると、三人の少女は頷く。
ヴォルフラムに口調の似た少女は、ヴォルフラムのように不機嫌そうな顔で、しかし確かに。
フランクのように落ち着き払った少女は、フランクのようにため息を吐きながら、ゆっくりと首を縦に。
ジュゼッペのように能天気に笑う少女は、ジュゼッペのようになんだかおもしろそうな顔をしながら。
三者三様の表情と仕草だが、ファビラにはもう、疑いはなかった。
全員、ヴォルフラムたちそのものだ。
隠し子で、娘ならこれくらい似ることもあるか、と無理やり自分を納得させていたわけだが、彼女たちが本人であると認めてしまえば、ここまではいくら身内だとしても似ないだろうと思ってしまっている。
そりゃそうだ。
誰の子供を見たって、その仕草にふと、親のそれを感じることはあっても、一挙手一投足に至ってまで同じということはまず、ないのだから。
しかしそれにしても……。
「おい、お前ら……」
「あぁ?」
ヴォルフラムが不機嫌そうにそう言う。
以前は低く野太い声で喉を鳴らすものだから、威嚇にしか聞こえなかったそれだが、今ではただの少女の可愛らしいものでしかない。
ファビラは頭を抱えつつ、聞きたいことを尋ねる。
「……質問は、一つだ。なぜ、おまえらそんなことに……?」
それが一番大事な質問なのは、論を待たない。
それはヴォルフラムたちも分かっているようで、ファビラに説明を始めた。
◇◆◇◆◇
「……荒唐無稽な話だ」
すべて聞き終わったファビラは、そう言ってため息を吐いた
依頼の途中に、突然出遭った謎の少女に姿を変えられてしまった。
言葉にすれば一言だが、これほど信じがたい話もない。
まぁ、その少女が実はとんでもなく強力な魔術師で、何かの呪いで彼らをこのような姿にした、という可能性は全くないではない。
ただ、そんな魔術などファビラは知らない。
そんなことは出来ないとされているのだから、当然だ。
「……魔術で、それは可能なのか?」
ファビラがジュゼッペにそう尋ねる。
ファビラは冒険者組合長という立場上、魔術にもそれなりに詳しいが、やはり本職ほどではない。
ジュゼッペは人格的には色々と問題があるが、魔術師としての知識と経験は、このデアイドル冒険者組合において、随一を誇る。
なんどか管内で魔術に関わる問題があったとき、相談して解決してもらったこともあるくらいだ。
その正確な分析力と膨大な知識は、尊敬されるべきものである。
しかし、そんなジュゼッペですら、この件には首を横に振った。
「……正直、分からん。似たようなことは全くの不可能とは言えんが……それでもそのためには長大な儀式と膨大な供物が必要じゃ。あんな、何もないところで軽く使えるようなものではなかろう」
そう言って。
これは驚くべきことだった。
なぜなら、
「どんな魔術であってもやろうと思えば出来る、とか大言壮語吐いてた爺さんにしては、また随分と消極的な発言だな」
ファビラがそう言う。
実際に使ったところは見たことは無いにせよ、大概の魔術を自分にもできるとむきになっていうところのある爺さんだ。
それなのに、こんなことを言うのは甚だ意外だった。
しかし、ジュゼッペも、今回のことについては本当にお手上げらしい。
「主のように頭まで筋肉で出来て居る輩に説いても仕方のない話かもしれんが……魔術には定められた規則があるのじゃ。今回わしらがかけられたこれは、その規則から大幅に外れておる。単純に、姿が変わっているわけではないのじゃ。数時間、女性に姿を変えるくらいの魔術なら実際に存在しているのじゃからな。しかし、これは……。そういう魔術なら《解呪》することで対応できるが、今のわしらにそれをしたらどうなると思う?」
皮肉から始まったジュゼッペの講義であったが、話している内容はまともなので真面目に聞いていると、質問された。
ファビラは少し考えてから答える。
「……もとには戻れねぇんだろ? それだけじゃねぇか」
「うむ。そうじゃ。それで間違っておらぬ」
深く頷いたジュゼッペであるが、一体何を言いたかったのか分からずにファビラが首を傾げると、ジュゼッペは続けた。
「そのことが問題なんじゃ。《解呪》の魔術は、魔術のかけられた《異常》な状態から《正常》に戻す魔術じゃ。ここまではよいな?」
「あぁ……」
それくらいは流石にファビラでも分かっている。
魔術は理を曲げる技術の総体である。
したがって、それが働いているのは、自然状態からすれば、《異常》とされる。
それを《解呪》によって《正常》に戻せる、と聞いたことがある。
しかしジュゼッペは言う。
「じゃが、強力な魔術が欠けられている場合、《解呪》は失敗することがある。これは、その魔術が強力であるがゆえに、その《解呪》では《正常》に引き戻せなかったからじゃ。これもよいな?」
「さっきから何当たり前のこと言ってんだ」
分からないはずがない。
単純に力量が足りないから結果に結びつかなかった、それだけの話だからだ。
しかし、とジュゼッペは首を振りつつ、答える。
「今回のわしらの場合は違う。この《変化》の力が強すぎるから《正常》に戻せない……のではない。この状態こそが《正常》であるがゆえに、戻しようがないのじゃ。わかるか、この意味が? 魔術は理を曲げるもの、いうなれば、レンズや水によって、光が曲げられるのと似ている。光源のある場所、光があるという事実、それを変えることは出来ないのじゃ。けれどわしらの《変化》は……そもそも、光源がそこにあるという事実そのものを変えておるのじゃ。そこにあるのは、光ではなく、土じゃ、とかそんな風にな。魔術は今の話で言う、レンズや水を取り払うことも光源が土であるように見せかけることも出来るが、光源自体を別のものに変えることは出来ぬ。じゃから……」
「……理を曲げているのではなく、理自体が変えられている、ということか」
難しい話だったが、要はそう言う話なのだろう、とファビラは理解した。
ジュゼッペは頷き、
「まさにそれじゃ。曲げた理は、放置しておけばそのうち直る。いつかな。しかし、理自体が変えられると……わしら人にそれを変える手段は、今のところ見つけられてはおらん。お手上げじゃ。そういうことじゃよ」
と自嘲するようにいった。
今まで、どんな魔術も任せろと言って来たのに、自分の無力さを悟っての台詞だったのかもしれなかった。




