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サプライズ

 ローズブルグへ戻った冬華たちは報告のため、すぐさまマリアのもとへと向かった。

 サンドガーデンであったことを報告し、陛下へはマリアから報告してもらうようにお願いした。

 そして、アキの魔力特性を調べてもらった。これで本人かどうかわかるだろう。

 当然サラはいい顔はしなかったが、これで信じてもらえるならとアキが同意したためサラも渋々同意した。

 拒否されるのではないかと思っていたシルフィは驚き、ひょっとして本当に本物なのか? と疑念が揺らいでいた。

『どうですか?』

 検査が終わり逸る気持ちを抑えシルフィはマーサに訊ねた。

 検査をしてくれたのはマーサだった。マリアは陛下へ報告へ向かってしまいいなかった。何よりアキの魔力特性の情報はマーサしか知らなかったからだ。

 マーサもはじめアキを見た時かなり驚いていたけれど、調べれば真偽は判明すると思いすぐに検査をしてくれた。

「ふむ、以前検査した結果と同じじゃ。本物じゃよ」

 マーサは少しほっとしたように結果を告げた。本物でなかったら敵を招き入れたことになるからだ。そして、サラの喜んだ顔も見られるからだろう。

 サラは当然アキに抱きついて喜びを表している。そしてシルフィへ視線を向ける。

「これで信じてもらえますね。アキは本物だと。生きていたのだと!」

 サラは強めの口調で言った。

 そんなサラを抑えるようにアキが口を挟んだ。

「サラ、そんなに責めなくてもいいだろ? シルフィは当然の事をしたんだ。死んだと思っていた者がいきなり現れたら怪しむのは当然だ。仲間の命が掛かってるんだからな」

 アキは語気は強めだが優しく微笑みながら言い含めるように言う。仲間同士でいがみ合うようなことはしてほしくないのだろう。何よりサラにはシルフィと仲良くしてほしいと思っているのだろう。

 サラはアキの優しさを感じた。

「そうですね、すみませんシルフィさん。私たちの事を思ってしてくださっていたのに……」

 サラはシルフィの行動の意味も考えずに声を上げていたのだとアキの言葉で気付かされ謝罪した。

『いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。結果が出た以上は疑う余地はないでしょう。アキ、疑ってごめんなさい』

 シルフィはマーサが嘘を言うような人ではないと知っているため、これ以上疑うことはできなかった。まだ少し違和感は残っていたのだが、それを口にすると不和を生んでしまうと思い口を噤んだ。

「まあまあ、これで疑いも晴れたことだしみんなのところに行って驚かしてやろうよ!」

 冬華は雰囲気を変えようと持ち前の明るさで声を掛けると、悪巧みを考える。

『冬華、何を考えているんですか? 顔が悪いですよ』

 シルフィは冬華の顔を見て、またろくでもない事を考えていると確信した。本来なら止めるべきだろうけれど、冬華がシルフィとサラのぎこちない雰囲気を解消しようとしてくれているのだと気付き、冬華の話に乗ることにした。

「顔が悪いって失礼だな! こんなに可愛い私をつかまえて! もう、いいからいいから」

 冬華は頬を膨らませていたが、早く準備に取り掛かりたくて3人を手招きする。

『仕方ないですねぇ』

「ん? なんだ? なんか面白いことか?」

「ふふっ、何を思いついたんですか?」

 シルフィは話に乗るつもりでいたが、一応いつものように仕方なく付き合う体を見せる。

 アキはワクワクした風に冬華へ寄っていく。

 サラはアキとなら何でも楽しいようだ。アキと手をつなぎ軽やかに冬華へと寄っていく。

「んふふっ、えっとねぇ……」

 冬華は顔に悪い笑みを浮かべると作戦を伝えていく。

 そんな4人の楽しそうな、いや、サラの元気な姿を見てマーサは微笑みを浮かべていた。

 そしてこれから、冬華プロデュースによるサプライズドッキリ大作戦がはじまろうとしていた。



 その夜、光輝たちは冬華から招集を受け、光輝の部屋へと集まっていた。

「冬華ちゃん戻ってたんですね。先輩たちは知ってたんですか?」

 結衣が汐音たちに訊ねた。結衣の知らないところで話がいっていたのかと思ったのだ。

 最近結衣は一人でいることが多い。汐音はカレンと共に魔法の修行をし、総司は光輝と修行している。結衣はたまに総司の修行の見学をしてたりするが基本は一人でいた。

 それはなぜか……結衣に対しみんなは腫れものに触るような態度で接してくるからだ。理由はわかっている。召喚初日のあの出来事だろう。結衣は努めて明るく振る舞っているのだが、みんなはどこかぎこちない。それがどうにも気になり距離を置くようになっていたのだ。

「いえ、私たちも知りませんでした。帰ったのなら顔を出せばいいのに」

 汐音はすぐに顔を出さなかった冬華の行動に違和感を覚えていた。何か良くないことが起こるのではないか……いや、きっとろくでもないことだろう。

 汐音は冬華の顔を思い浮かべ溜息を吐く。

「冬華ちゃんも報告とかあるし、すぐには顔を出せなかったんだよ。ちゃんとしてて、いいことじゃないか」

 光輝は一応フォローしたが、光輝自身本当にそう思っているわけではない。報告はシルフィかサラがするだろう。冬華がするとは思えない。そしてこの招集、怪しすぎる。幼馴染である光輝は確信していた。きっとろくでもないことをやろうとしている、と。

「それにしても、なんでわざわざ招集なんて掛けたんだ? 顔を出せば済むことだろうに」

 総司は冬華が招集などという面倒なことをするとは思えなかった。猪突猛進といったイメージを持っていたため、不審に感じている。

「きっと、冬華ちゃんのことだからサンドガーデンでなにかおもしろい情報を入手したんじゃないですかね? だからみんなに聞かせたくて招集したんですよ……あ、でも話を一回で済ませたかっただけ、かも……」

 カレンは冬華の性格上同じことを何度も言うのが面倒なのだろうと結論付けた。

「あはは、冬華ちゃんならありそうだね」

 総司は笑ってカレンに同意する。

「ふふっ、ですよね」

 カレンも微笑みを返す。

 そんな二人を見て結衣は一抹の不安がよぎる。総司がカレンに惹かれているのではないかと。そしてカレンも総司の事を……

 結衣は自分が総司に捨てられてしまうのではないかと、ありもしないことで不安が膨らんでいき無意識に総司の服を掴んでいた。

「どうした?」

 服が引っ張られているのに気づき、総司は不安そうな表情の結衣を見て首を傾げる。何か不安なことがあるのだろうかと。ここにはみんながいる。何が起ころうと安心だと思っていた。

「大丈夫だよ。いくら冬華ちゃんでも変なことはしてこないさ」

 総司は冬華が何かをしてくることを前提にはなし、結衣の考えていることとは違うことを返してきた。

 以前なら察してくれていたのに、今は違う。結衣はなんだか総司の心が離れていく気がして寂しくなった。

「う、うん。そうだね」

 結衣はそういうと服を掴む手を離した。


 しばらく待つと、なんだか生暖かい空気が流れ込んできた。

「なんだか空気が気持ち悪いですね」

 汐音が空気の変化に気付き呟いた。

「確かに生暖かいような……」

 光輝も汐音に同意する。最近では夜の空気は冷たいものに変わってきている。この生暖かさはおかしいと感じ怪訝な表情をする。

 すると、突如異変が起こった。照明が点滅し出したのだ。

 ここの照明は魔法具によって照らされている。大気中の魔力が尽きない限り点滅などしないはずだ。

 光輝は何かが起こりはじめていると思いまわりを警戒しはじめると、ついに照明が消えた。

「なんだ?」

「な、なに?」

 総司とカレンの声だ。動揺しているのが声の感じから伝わってくる。

「きゃっ!?」

「ひっ!?」

 汐音が可愛い悲鳴を上げて光輝の腕にしがみついた。

 汐音の声に驚いてカレンも悲鳴を上げているようだ。

 突然の汐音の行動に光輝は戸惑ってしまう。汐音の表情は驚きと怯えが入り混じっているようだった。

「ど、どうした?」

「せ、背中に何か、つ、冷たいものが!?」

 汐音は完全に怯えている。こんな涙目の汐音を見るのも珍しい。光輝は可愛らしい汐音を新鮮に感じていた。

 しかし、そんな感じに浸っている場合ではない。明らかに異常事態だ。敵の襲撃かもしれない。しかし、誰にも気づかれずにここまで来られるだろうか。いや、影を使った転移術なら可能なのか? 光輝は周囲を警戒しつつ思考の海を漂っていた。

「……うき……」

 突如声らしきものだ聞こえてきた。

「ひっ!?」

 汐音は短く悲鳴を上げると光輝にしがみついてガタガタと震え離れなくなる。

 光輝は声を聞き取ろうと耳を澄ませる。

「……こ、うき…………こうき……」

(僕? 僕を呼んでるのか?)

 光輝は声のした方へ視線を向けるが目がまだ闇に慣れてなく、まわりは真っ暗で何も見えない。

「こうき……どうして……」

 またしても声がする。今度は反対方向から。視線を向けるがまだ見えない。

 しかしその声は男のもののようだ。なんだか聞き覚えがある気がする。頭の中で知っている顔と今の声とを照合していくが合致しない。

 他に思い当たる人物はいないかと頭を巡らせていると、まわりが静かになっていることに気付く。

 光輝はみんなの様子が気になり声を掛けた。

「みんな! 大丈夫か?」

「あ、ああ」

「は、はい」

「だ、大丈夫です」

「……」

 総司、カレン、結衣と返事が返ってくる。汐音は光輝の腕に絡みついて離れていないから無事なのはわかる。どうやらみんな無事のようだ。

 光輝が安心し一瞬気を緩めたところに、

「きゃぁぁぁっ!?」

「ひっ!?」

 悲鳴がこだました。

 視線を汐音から外すと視界の端に、宙に浮かぶ火の玉が映った。

「っ!?」

 光輝は声にならない声を上げた。体がビクッとしたことにより汐音も驚いたようで、腕に絡みつく力が増していた。光輝は腕の痛さを感じてはいたが気にしている余裕はなかった。

 火の玉はゆらゆらと宙を漂うと、二つに分かれる。二つの火の玉はゆらゆらと部屋の中を漂っていく。

 光輝はその様子をただ目で追っていた。

 視界が奪われ、悲鳴がこだまし、火の玉が現れ、汐音はガタガタと震えている。立て続けに妙な現象が起こり、光輝の頭の中は混乱し何が起こっているのか理解できないでいた。

 ゆらゆら漂っていた二つの火の玉は、一点に集まると動きを止めた。

 光輝は生唾をのみ込み二つの火の玉を凝視する。

 すると、火の玉の間に人影が見えた気がした。

「っ!?」

 光輝はビクッとし、汐音の手を掴んだ。

 それに気づいた汐音は恐る恐る顔を上げる。

 二人は見た。見てしまった。

 二つの火の玉の間から一人の男がすーっと現れるところを……

 それは、青白く生気を失った血みどろのアキの姿だった。

「「っ!?」」

「こうき……どうして……」

 二人は呼吸をするのも忘れてアキを凝視し口をパクパクさせる。そして恐怖で操られているかのようにその言葉を聞かされる。

「どうして……助けてくれなかったんだぁぁぁぁ!!」

 アキは二人へと迫ってきた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 二人は抱き合ったまま腰を抜かしてしまった。

 汐音は光輝の腕の中で小さくなる。

 光輝も汐音を守るかのように力の限り抱きしめていた。


 そして照明が灯された。

「アッハハハハハハハハハハハハッ!」

 室内に笑い声が響き渡る。

 目の前には腹を抱えて大笑いする冬華がいた。

「大成功!」

 冬華は楽しそうに声を上げた。手にプラカードでも持っていそうなセリフだった。

 しかし、光輝は意味がわからず涙目で茫然としていた。

「あ、あれ? サプライズドッキリ大作戦だったのにお気に召さなかった?」

 冬華は首を傾げている。

「折角肝試し風にして凝ってみたのになぁ」

 冬華は汐音の背中に水を垂らすという簡単な役を担当していた。

 水じゃインパクトがなさ過ぎたかな? やっぱりこんにゃく、は無いからス〇イムとかを吊るして……などと冬華は考えていた。

『やり過ぎではないですか? 汐音が気絶してますよ』

 テラスからシルフィが呆れたような顔をして入ってきた。自分もその片棒を担いでいたというのに……ちなみにシルフィは生暖かい空気を担当していた。

「え!? ウソっ?」

 冬華は光輝の腕の中の汐音をのぞき込んだ。涙を流して気絶していた。

「あ、あれ~やりすぎた?」

 さすがにやり過ぎたのではないかと冬華は頬を引き攣らせる。

「これはちょっとやり過ぎでしょう」

 サラがシルフィの後に続いて入ってくる。当然サラも片棒を担いでいた。サラは火の玉を担当していた。

「あ、あははは」

 冬華の笑いは乾いた笑いに変わっていた。

「で、でもコウちゃんには役得だったんじゃない? 汐音ちゃんを独り占め~」

 冬華は自分の体を抱きしめ光輝たちの今の状態を見せつけた。明らかに茶化して誤魔化そうとしている。

 光輝は冬華の思惑に気付く余裕もなく顔を赤くすると、汐音の体にまわしていた腕を離した。

 汐音は気絶している。支えが無くなれば倒れてしまう。光輝が腕を離したことで汐音は床に倒れていく。

「わっと!?」

 光輝は咄嗟に汐音の体を支えると、汐音を揺り動かす。

「汐音君、大丈夫か?」

「……ん、ん? ハッ!? 幽霊は!?」

 汐音は目覚めると光輝に抱きつき怯えはじめる。どうやらホラー系に弱いようだ。

 冬華は満足気に二人を見ると他へと視線を向けた。

 カレンは総司にしがみつき総司はカレンを守るようにしている。

 結衣は腰を抜かしたのか床に座り込んでいた。

 冬華は怪訝そうな視線を向ける。

「組み合わせ、違くない?」

 冬華は総司とカレンを見て突っ込んだ。やはり男は心変わりする生き物なのかと疑念に満ちた目を総司に向けた。

「これが男の(さが)なのね?」

 冬華は呆れたように呟いた。

「な、ちっ違っ」

 総司とカレンは慌てて離れた。

 カレンは顔を赤らめ俯いた。

 総司は誤魔化すように結衣を立ち上がらせようと手を差し伸べる。

 結衣は一瞬躊躇するが、いつものように手に掴まり立ち上がった。

 その光景に違和感を覚えた冬華はそのまま口にした。

「ん? 二人なんかあった?」

 猪突猛進、思ったらすぐ行動。少しは考えてから行動してほしい。

 結衣はため息交じりに答える。

「ううん、何でもないよ」

 その笑顔はぎこちないものだったが、結衣がそういうのならそうなのだろうと冬華は納得することにした。話したくなったら話してくれるだろう。

「そ、それで、そのアキの変装をしてるのは誰なんだ? 冗談にしては(たち)が悪すぎる! 笑えないぞ!」

 光輝は怒っているように語気を強めて言う。

 それもそうだろ、目の前で死んだアキを幽霊として選んだのだ。変装する方もする方だと光輝は腹を立てていた。

「どうせカルマ辺りだろう、さっさと変装を解けよ!」

 光輝はここにいないカルマが変装していると思っていた。きっと冬華に許してもらうためにその役を引き受けたのだろう。光輝はそこまでして冬華の機嫌を取ろうとするカルマに呆れていた。

 しかし冬華はニシシと楽しそうに笑う。

「残念でした~そんなカルマなんて知らない人ではありませ~ん。このお兄ちゃんは、なんと! 本物で~っす!」

 冬華はジャーンと効果音が出てきそうなジャスチャー付きで本日の主役を紹介した。

「どうも~アキで~っす」

 アキはサラに血のりを拭き取られながら前に出てきた。

 しかし、みんなの反応は薄かった。信じてはいないようだ。

 この後アキが本物だと信じてもらうのにそこそこの時間を要してしまった。


「いでででっ!? 顔引っ張るなよ!」

「よくできてるな」

「本物ですよ!」

 アキは昔ながらの変装見破り法である、頬を引っ張るという行為を代わる代わる何度もされていた。

 信じてもらえた頃にはアキの頬は腫れ上がっていた。


サプライズって準備が大変そう。

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