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闇へ

 二人が眠って一時間も経たない時分

「戻ったぞ」

浅黒い肌のゴツイ身体つき(ゴリマッチョ)の男が手下数人を引き連れて帰ってきた。

(かしら)、おかえりなさい。どーでした北の方は?」

「ダメだ、ほとんど残っちゃいねぇ。魔物共のせいで獲物がいやしねぇ」

「レイクブルグが魔物に落されちまいやしたからねぇ。偉そうにしてたわりに情けねぇ奴らだ」

「つーかハイド、なんだおまえのその恰好? 転職でもしたか?」

 頭は呆れ顔で訪ねる。

「何言ってんすか、この恰好の方が仕事がしやすいんですぜ?」

「そうか?」

「その証拠に、フッフ~ン、これを見てくださいよ」

 と言って、ハイドは得意げな顔で手足を縛られ床に転がっている二人を指す。

「どうです? こいつらホイホイ着いて来やしたぜ」

「ほう! 黒髪とは珍しいなぁ、いくらくらいにするか……」

「女の方はかなりの上玉ですぜ」

 頭は女の髪をつかみ起こした。

「うっ」

「ほう、こりゃいい。面もキレイじゃねぇか。肌もそこらの女じゃくらべもんにならねぇくれぇ白くてスベスベだな。……クックッ体つきもなかなかそそられる」

「でしょう?」

 頭は胸のふくらみを確かめながら値踏みする。

「んっ」

「お、起きたか?」

 女が苦悶の表情をしながら目を開く。

「ほ~、目も黒か。高値を付けられそうだな」

「ひっ!? な、なに?」

「何って、品定めよ」

 頭はニヤリといやらしく嗤う。

 女は怯えた表情で逃げようとからだを捩る。



 結衣は目の前の見知らぬ男の、ナメクジが体中を這いまわるようないやらしい視線から逃げようとからだを動かすがうまく動けない。

 見ると手は後ろ手に縛られ足も縛られていた。

 横には総司も同じように縛られて倒れている。

「総司! 総司!」

 呼びかけても起きない。

「当分起きねぇよ、残念だったな」

 ガタイのいい男の横からハイドが愉快そうに言う。

「あんたたちなんなのよ……」

 結衣は震える声で振り絞るように言った。

「なに、か……ん~そうだなぁ、商人か?」

 ガタイのいい男は考える素振りを見せるとニヤニヤしながら言った。

「……商人?」

 どう見ても商人には見えない。(バカにして……)

(かしら)ぁ、そりゃ無理あるでしょう。クックッ」

「間違ってねぇだろ? 品を仕入れてそれを売る! ほれ、商人だろ」

「ハハハッ、品が人間ってとこが違いますけどねぇ」

「ハハハハハッ」

 笑えない冗談に二人が、そしてまわりの男たちが笑う。

「さ・て・と」

 頭と呼ばれる男が顔を近づける。

「ひっ!?」

「……味見をするか」

 下卑た笑みでそういうと結衣の腕をつかみ引っ張っていく。

「イヤッ、離して!」

 結衣は抵抗を見せるが、縛られているうえ力の差が歴然だったため、引かれるまま引きずられていく。 

 クックックッ、ヒッヒッヒッまわりからも笑い声が上がる。

「頭ぁ、後でおれたちもいいっすか?」

「あ? ……仕方ねぇなぁ、キズはつけんなよ」

「ヒャッホ———! さすが頭だぜ!」

 男たちの下卑た歓声が部屋中で沸きあがる。

「誰か助けて!! 総司!総司———!!」

「イヤ———!」

 頭は結衣を連れて奥の部屋へと連れて行き、結衣をベッドへ放り投げると扉を閉めた。

「総司! 総司———!」

 結衣は張り裂けんばかりの声で叫ぶ。しかし男たちの声に掻き消されていく……

 今朝いつも通りの時間に家を出ていつもの通学路を総司と一緒に登校し、いつものようにアキがウザかった。ただそれだけで幸せだったのに……今はこんなわけのわからないところで、こんな薄汚い男に今まさに犯されようとしている。こんな一瞬で幸せだった時間が壊され、希望に満ちた未来が奪われていく。そんな理不尽に抗う術を持たない結衣は自分が難く悔し涙を流す。

(どうしてあたしはこんな……)

 そんな結衣を見て楽しむように頭は嗤う。

「クックックッ」

 頭は胸当てはずし服を脱いで近づいてくる。

「おまえも楽しめよ、楽しめるのは今だけかもしれねぇんだからよ。売られた先で何されるかわかんねぇぞ。ここが天国に思えるかもなぁクックックッ」

「イヤ、やめて、お願い助けて」

 結衣は泣きながら懇願(こんがん)した。

「安心しろ、すぐに気持ちよくしてやる。自分からせがんでくるようになるぞ。クックックッ」

 頭はそう言いながら馬乗りになり、結衣の首筋から舐め上げていく。

「ヒッ!?」

「うめぇ、最高だなぁ」

 結衣後ろ手に縛られているため身動きが取れない。

「イヤ……ヤダよ……たすけて、たすけて総司———!」

 頭は結衣の服をつかむと下着もろとも力任せに引きちぎった。

 張りのある豊かな胸が揺れ、結衣の裸体があらわになる。


「イヤァァァァァァァァァァッ!」




 歓声の沸く部屋の中、一人の男が転がっているものに引っかかり転ぶ。

ゴンッ

「いって———」

「ハハッ、なぁにやってんだよ」

「こいつが邪魔なんだよ!」

ゲシゲシっと蹴る。

「テメェ! いつまで寝てやがる!」

ガッ

 男は転がっている男の顔面を蹴り上げた。


「クッ、痛って」

 総司は闇の中から目覚めると、自分が手足を縛られ鼻から血を流していることに気付く。

 見上げると不機嫌そうな男が総司を睨んでいる。

「ケッ」

 男が唾を吐きかけてくる。

 この男が鼻血の犯人か、と総司は認識し視線をまわりに向けると男たちが騒いでいつのが見えた。

 歓声のようだがなんだか下卑たものが含まれている。妙な腰の動きをしている者もいる。

 イヤな予感がしてまわりを探すと、結衣の姿が見えない。

 焦り部屋中を見まわして探していると、さっきまでは男たちの声に掻き消されて気付かなかったが、下卑た歓声に混ざって女性の悲鳴が聞こえてくる。

 総司は反射的に叫んでいた。

「結衣? 結衣———!」

 総司の叫び声に気付いた鼻血犯の男が近づいてくる。

「ユイ———か?」

 男は嘲る(あざける)ように言う。

「おまえの女は今頭と楽しんでるぜ」

「な、んだと!?」

 頭の中がチリチリと焼ける……

 脳裏に絶望の闇がよみがえる……

 男は醜い顔をさらにニヤケさせながら下卑たことを言う。

「今頃自分からむしゃぶりついて、腰ふってんじゃねぇか?」

「…………す」

「かぁぁぁぁ。早くヤリてぇぇぇっ。頭早くおわんねぇかなぁ」

「…………ろす」

「そしたらてめぇの前でヤリまくってやるよ! ヒッヒッヒッ」

 男が腰を振る動きを見せたとき、

ぶちっ

 総司の中で何かが切れる音がした。

 総司の意識は……闇の炎に染まった。

「ぶっ殺してやるぅぅぅぅっ!!」

 総司の手足を縛るロープはすでに炎で焼き切れていた。

 下卑た笑いをしていた男は憎悪に染まった総司の瞳を、炎に包まれる総司を見て震え上がっている。

「な、な、なんなんだおまえ!?」

 総司は男の腰に挿してある剣を掴み、そのまま振り上げ切り裂いた。

「ギャァァァァァァァァッ!」

ボゥッ

 男は切り裂かれその切り口から全身に炎が広がっていく。

「な、なんだ!?」

「おい、どーした?」

 事態をのみ込めない男たちが困惑し、取り乱している。

「ヒィィッ! バ、バケモン!?」

 もはや奴らの声など聞こえない。聞く必要もない。これから死ぬ奴等の声など……総司は耳から意識を外した。

「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」

 総司は呪詛のように唱え続ける。

「殺してやるぅぅぅぅぅぅっ!」

 総司は弾けるように炎を纏った(まとった)剣で男たちに切りかかっていった。

 その瞬間、奥の部屋の形が変わったことにも気づかずに……

ただ、切り付け、凪払い、刺し貫き、焼きつくし、殺し、殺し、殺し続けた。

「やめろ!? やめてくれ!」

「邪魔だ、どけっ! ぐぁ」

「一人相手に何やっぐぎぇゃぁぁぁぁっ!?」

 男たちの命乞いなど耳に入ることもなく、人でないものが混ざっていることにも気づかず殺しつくした。


「ハァハァハァ……」


 総司男たちを皆殺しにし、返り血を全身に浴び血に染まった手で奥の扉を開く……

 目に入ってきたのは、壁に張り付いた血まみれの肉塊と、ユイを担いで窓から飛び立とうとするコウモリの羽を持つ魔物の姿だった。


「結衣を……離ぇぇぇぇぇぇっ!」


 総司は剣を魔物めがけて振り下ろしたが間に合わず、魔物は飛び去っていく。


「ぅおあぁぁぁぁぁ——————!」


 総司は窓を乗り越え結衣を取り戻すべく後を追った。

 魔物の飛び立つ瞬間、追って来いと言わんばかりの目を総司に向けていたことにも気付かずに……


 総司は魔物の飛んで行った北へと走る……


 走る、走る、走る……


 陽が沈み闇のとばりが下りようとする中、総司は走る……


 甘い香りの広がる深い深い闇へと走っていく……



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