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バカルマ

「ただいまぁ」

 ローズブルク城へたどり着き冬華は第一声を発した。

「……」

 出迎えなし……門兵すら一睨みするのみだ。

「なんか寂しいね」

『仕方ないでしょう。帰るとは伝えていませんでしたから』

「まあ、そうだけど……」

 冬華たちが話しながら城門を潜ろうとすると、明らかに若そうな門兵が道を塞いだ。

「と、止まれ! 何用だ!?」

 門兵は冬華たちの事を知らないようで、そんなことを言う。

「え? 帰ってきただけなんだけど」

 冬華は怪訝そうに言う。

「お前たちのような、あ、怪しげな者たちを入れるわけにはいかん!」

 門兵は冬華たち、特にフードで顔を隠した人物を見て言う。

「あ~。じゃあ、コウちゃんたち呼んで来てよ」

 冬華はフードの人物を見ると納得し、そう頼んだ。

「コウちゃんだと? 誰だそれは?」

 門兵は顔を顰める。

『光輝ですよ、聖光輝』

 シルフィはフルネームで言った。

「バカな!? 光輝殿を呼べだと! そんなことは無理に決まっているだろう! あの方々は陛下のお客人だぞ! どこの馬の骨ともわからぬ輩に会わせられるか!」

 門兵は取りつく島もないように言い放った。

「誰が馬の骨よ! 失礼ね!」

 冬華は怒り心頭で言う。

「は、歯向かう気かキサマ!」

 門兵は槍を構えて声を上げる。若干声が裏返っていたが。

「上等じゃない! やってやるわよ!」

 相変わらず沸点の低い冬華である。

『少し落ち着きなさい冬華』

 シルフィは冬華の頭を小突いて言う。

「いたっ、だって~」

 冬華は頭を押さえながら不満の声を上げる。

『立て続けに襲われていたのですから警備も厳重になりますよ。彼はしっかり仕事をしているのですから』

「だったらどうするの?」

 冬華はシルフィに訊ねた。

『そうですねぇ。(私が忍び込むという手もありますが……)では、冬華とシルフィが来たと伝えてもらえますか? 私たちは宿にいますので』

 シルフィは門兵にそうこ言伝(ことずて)を頼んだ。

「あ、ああ、一応(うけたまわ)った。だが、上官殿を通すからしばらくかかるからな」

 門兵は警戒を解くことなくそう言った。

『ではお願いします。ほら行きますよ』

「え、うん」

 冬華たちはシルフィに従いその場をあとにした。


「ホントに伝えてくれるかなぁ」

 宿に着くなり冬華が呟いた。

『たぶん大丈夫でしょう。彼は新兵のようですから仕事はしっかりやりますよ。上官に伝わりさえすれば大丈夫でしょう』

 シルフィはそう説明する。

「え~なんで新兵だってわかるの?」

 冬華が小首を傾げて訊ねる。

『私の事を知らないのは仕方ないですが、冬華を知らないということはあの戦いの後に志願して兵になったということですよ。応対もぎこちなかったですし。……それだけ兵が減っているということかもしれませんね』

 シルフィは頬に手を当て、困った風に言う。

「なるほどねぇ、じゃあ私たちは待ってればいいんだね?」

 冬華はベッドにドカッと座り言う。

『ええ、少しくらいなら外に出てもいいですよ。あなたはダメですけど』

 シルフィは二人にそう言う。

「ああ、わかっているよ」

 フードの人物はそう言い頷いた。

「私も宿にいるよ。いつ来るかわかんないし、一人にはできないしねぇ」

 冬華はそう言っているが、明らかにつまらなそうに足をぶらぶらさせている。

『無理しなくてもいいですよ。私は残りますから』

「私一人で行ってもつまんないじゃん」

 冬華は口を尖らせ呟く。

『そうですね、冬華一人だと何か騒ぎを起こしそうですし』

 シルフィは微笑み言う。

「そんなことしないし」

 冬華は頬を膨らませて言う。

『それではのんびりしていますか』

「は~い」

 シルフィがそういう前から冬華はすでにぐで~んとしている。

「ところで戻ってきたはいいけど、これからどうする? 麻土香ちゃんの言ってた山に行ってみる? それともサンドガーデンだっけ? 東にある国、そっちに行ってみる?」

 冬華はベッドでゴロゴロしながら訊ねた。

『行儀悪いですよ。……山は光輝たちの状況次第ですね。どんな敵がいるのかもわかりませんし。サンドガーデンについては陛下の方に情報が来ているかもしれないのでそれを聞いてから決めましょう』

「そうだね……ふわぁぁ、私は昼寝させてもらうよ~おやすみ~」

 冬華はあくびをすると眠りに落ちて行った。

『おやすみなさい』


 小一時間ほどぐで~んと寝ていると、先ほどの門兵が冬華たちを迎えに来た。

 言うまでもないが門兵は頭を下げ平謝りしていた。


 城へ着くと、門兵の上官が謝罪をし通してくれた。通してくれたのだがそこで問題が発生した。カルマがワザとらしく通りかかったのだ。まあ、それだけならよかったのだが……

「あ、冬華じゃないか!? 戻って来ていたのか?」

 なんともワザとらしい言い方である。

「なによその棒読み加減は……あんた知っててここに来たんでしょ?」

 冬華は呆れ気味に言った。

「何を言うかなぁ、そんなわけあるわけがないだろう?」

 もはや嘘にしか聞こえなかった。

「あ~はいはい、そういうことにしといてあげるわ」

 冬華は軽くあしらった。

 そこへ、

「カルマ!? よかった無事だったんだな?」

 フードの人物がフードを取ってカルマへ話しかけた。

「ん? ……!? アルマ! テメェ生きてやがったのか!」

 カルマは驚き目を見開いている。

「ああ、この通り……」

 アルマの話を遮るようにカルマは剣を抜いてアルマへ斬りかかっていった。

「死ね!」

「!?」

キンッ

 カルマの剣はアルマに届くことなく冬華の剣に受け止められた。

「いきなり何すんの!」

 冬華はカルマを睨みつける。

「何言ってやがる。仕留めたと思ったアルマが生きてやがったんだぞ! それともお前もニセモンか!?」

 カルマは剣を引くことなくそう言い放つ。

 門兵たちも剣に手を掛け警戒に入る。

「あんたねぇ、私が本物か偽物かまでわかんないの?」

 冬華はなんとか怒りを堪えて言った。眉がヒクヒクしている、限界も近いようだ。

「ニセモンはみんなそう言うもんだろうが!」

ギュインギン

 カルマは連撃を加えて言う。

「このバカルマ! いいわ、やってやるわよ! あとで後悔しても遅いからね!」

 冬華は怒りのままに言い放った。

 今回は我慢した方だとシルフィは感心していた。

『冬華手加減くらいしてあげなさいよ。死んじゃうから』

「死んだらこいつが弱いせいよ! 私の事がわかんないようなヤツどうなろうが知らないわよ!」

 シルフィが一応口を挟んだが冬華は頭にきて聞く耳を持たない。

「二人ともよすんだ!」

「うっさい!」  

「黙れ!」

 アルマが止めに入るが二人はやめる気はないようだ。

「カルマ殿、助太刀します!」

 門兵たちが加わろうとする。

『はい、邪魔しないでくださいね』

 シルフィは腕を一振りし、門兵立ちを吹き飛ばす。

「うわぁぁぁぁ!?」

「お前たち!? テメェら!」

 カルマは怒りに任せて斬りこんでくる。

「この……バカルマぁぁぁぁ!!」

 冬華はカルマの剣をショートソードで受けるとその剣の腹をダガーで突き剣を破壊する。

「なっ!?」

 ダガーの突きの勢いをそのままに冬華は体を回転させるとショートソードを振り抜いた。

ヒュン!

 冬華はカルマの首ギリギリでショートソードを止めた。さすがにそれくらいの理性は残っていたようだ。

「!?」

 カルマは何が起こったのかわからない風に硬直していた。

「カルマ殿!?」

 ただ吹き飛ばされただけだった門兵が声を上げた。

「うっ……」

 カルマは自らの首へと据えられた刃に目が止まる。

 自分の首が斬り落とされる寸前だったのだとようやく気付いたようだ。

 そのカルマへ冬華が声を掛ける。

「あんた、さっきの斬り込みはなんなの? 全然なってないわ! 弱くなったんじゃないの? 私がいない間遊んでたわけ? そんなんじゃ足手纏いになるだけじゃない! はぁ……それと、さっきの言葉許さないからね……行くわよシルフィ、アルマ」

 冬華はそういうと剣を納めスタスタと行ってしまった。

「か、カッコイイ……」

 新兵は冬華を見つめて呟いた。

 アルマはカルマを心配しながらも冬華について行った。

 シルフィはカルマの前に立つ。

『はぁ、バカですねぇあなたは。あのアルマは本物ですよ。アキが助け出し匿っていたのです。話も聞かずに斬りかかるなんて、おまけに冬華を偽物呼ばわりするとは……あなた冬華の何を見てきたのですか?』

 シルフィは哀れな男カルマを見下ろした。

「じゃ、じゃあ……」

 カルマは放心したように呟く。

『もう、冬華の事は諦めたら?』

 シルフィはそういうと、冬華の下へと向かう。

『あ、そうそう冬華ね、レイクブルグの王子に妃になってほしいってプロポーズされてたわよ。冬華は断ってたけど、向こうは諦めていないみたいだったわね。冬華はなんで断ったのかしらね? 玉の輿なのに……』

 シルフィはそう言葉を残しその場をあとにした。

 これでわからないようならそれまでだとシルフィは思っていた。

 その話を聞き焦りを感じたカルマは門兵たちを置き去り、シルフィを追い抜き冬華を追いかけた。

「と、冬華! ちょっと待ってくれ!」

 冬華は無視してツカツカ進む。

 カルマは冬華の前に回り込むと冬華の両肩を掴んで引き止める。

「冬華、オレが悪かった、許してくれ! アルマに関しては、普通本物のアルマが生きてるなんて思わなねぇだろ? 偽物は首だけの化け物だったんだからよ~。お前を偽物扱いしたことは謝る。でもこうでもしねぇと本物かわかんねぇだろ?」

 カルマはあの偽アルマが本物のアルマを殺し体を奪ったと思っていた。そして、結衣、アルマの例があるだけに冬華の偽物が現れたのだと思っていたようだ。

 しかしこの言い訳はまずかった。

 冬華はカルマと目を合わさずに聞いていたが、最後の言葉を聞きピクリと眉が動いた。

「ふ~ん、ああでもしないと私だってわかんなかったんだぁ、へぇ~」

 冬華はさらなる怒りを覚えカルマの手を払いのけ、カルマを睨みつける。

「な、なんで怒ってるんだよ?」

 カルマは危険を感じ声が震えている。

「そんなこと自分で考えなさいよ! バカルマ! 強くなって出直して来い!」

 冬華はなにもわかっていないカルマを蹴り上げた。

「!?」

 見事に蹴り上げられたカルマは情けない顔になると、前を両手で押さえピクピクして(うずくま)る。

 どこを蹴り上げられたかはご想像の任せるとしよう。

「ふんっ!」

 冬華はカルマを見下ろすと鼻を鳴らした。

 このときアルマは思った。

(カルマ、もう尻に敷かれているのか……)と……

 そこへ騒ぎを聞きつけてきたマリアが駆け込んできた。

「何事ですか!?」

「あ、マリアさん」

「冬華さん!? いつ戻られたのですか?」

「今さっきだよ~」

 冬華は笑顔で答える。

 その足元でピクついてるカルマを見てマリアが頬を引き攣らせて訊ねた。

「カルマ殿はなにを?」

「え? カルマって誰?」

 冬華は怖いほどの作り笑顔で言った。

「そ、そうですか……」

 マリアは触れてはいけないと悟り口を噤んだ。

『すみませんが陛下にお目通りできませんか?』

 いつのまにか冬華の横に来ていたシルフィが願い出た。

「え!? あ、はい、わかりました。陛下に伝えてきますので、執務室でお待ちください」

 マリアはそう言い、冬華たちを執務室へ連れて行くと、陛下を呼びに向かった。

 カルマは置き去りにして……


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