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お茶会と宴

 ……


 ……薄暗い洞窟の中、二つの黒い半透明な結晶がある

 その中に白い女と黒髪の女

 その結晶の前に三つの黒い影がいる

「首尾はどうだ?」

 黒い影は口らしき部分を動かし言った

 黒い男は恍惚とした表情を見せる

『なかなかの素材でしたよ。次に会うのが楽しみですね』

 黒い男は下舐めづりをする

 黒い影はピクリと揺らぐ

「殺していないのか?」

 黒い影は訊ねた

 黒い男は黒い影を横目にちらりと見る

『姫の方ですか? あの娘に興味はありません』

 黒い男は剣を交えた別の娘のことを思う

 黒い影は怒りを抑えるように揺らぐ

「何のために行かせたと思っている?」

 黒い影は威圧感のある声音で言う

 黒い男はふんっと鼻で嗤う

『あなたに指図される覚えはないですね……人間崩れが』

 黒い男は吐き捨てるとその場を立ち去る

 それを追うようにもう一つの黒い影も立ち去る


 ゴツゴツしたシルエットの黒い影は訊ねた

『それで、またすぐに行くのか?』

『まさか、もう少し熟してからの方がさらなる絶望を与えられるでしょう? 早く絶望に歪む顔をわたしの物にしたいですね』

 黒い男はそう言うと、娘の絶望する顔を思い浮かべ身悶える。

『……』


 ……



(…………?)




 レイクブルグのバルコニーで4人の女性がティータイムを満喫していた。

「いやー、賑やかで明るくなってきたねぇ。最初来たときは辛気臭いとこだったのに」

 城下を一望し冬華が感慨深く言った。

『辛気臭いというか滅んでいましたからね』

 シルフィは3人に合わせて(・・・・)紅茶? に口をつけながら言った。

 以前冬華に言われたことを実践しているようだ。

「あははは……」

 麻土香は乾いた笑いを漏らす。滅んだように不気味な雰囲気を作った一因が自分にもあると思い顔を引き攣らせていた。

「本当に皆さんのおかげです。ありがとうございます」

 レイナは深々と頭を下げた。

「お姫様がそんなにポンポン頭下げちゃっていいの?」

 冬華は素朴な疑問を口にした。

「救っていただいたのですからお礼を言うのは当然だと思います」

 レイナは当然の事のように言う。

「でも後ろの人たちはそう思ってないみたいだけどね~」

 冬華はレイナのお付きの侍女たちを見て言う。

 少し離れたところで困惑したようにこちらを見ている。

「お気になさらないでください。彼女たちには何度も言っているのですがなかなか……」

 レイナは少し困った顔で言う。

『仕方ないでしょう。一国の姫が一般人に舐められるわけにはいかないんですよ』

「ヤンキーの世界みたいだね」

『そんな感じです』

「その例えはどうなの?」

 冬華とシルフィのやり取りに麻土香は呆れた表情を見せる。

「ところでさぁ、お姫様はなんでコウちゃんに護衛頼まなかったの?」

 冬華は唐突に訊ねた。

「え? それは……光輝様はローズブルグのお客人ですので、そのようなお願いはできませんよ」

 レイナは少し考えそう答えた。

「ふ~ん、そんなもんなの? 頼めばいいのに~」

 冬華は納得いってない様子で呟いた。

『ローズブルグには石碑もあるんですよ。それに何度も襲われているのです、そう何度も留守にはできませんよ』

 シルフィは冬華に説明する。

「ふ~ん、でもお姫様、コウちゃんと離れたくなかったでしょ?」

 冬華は遠慮なく言った。

「え!? そ、そんなことは……」

 レイナは動揺を隠しきれずにいた。

「え!? そうなんですか! 恋なんですか!」

 麻土香がなかなかの勢いで食いついた。

「こ、恋!?」

 レイナは顔を赤くして俯く。

「コウちゃんって、光輝君のことだよね? 確かにイケメン君だったけどお姫様はああいった優等生タイプが好みなんですね」

 麻土香は光輝を思い出すように言った。

「イケメンだよね~ちょーっと鈍いとこあるけど、優しいからねぇ。お姫様のハートを射止めちゃったかぁ……でも汐音ちゃんもいるし、私はどっちを応援したらいいんだろ?」

 冬華は一人で悩んでいる。

 シルフィは全く興味がないように景色を眺めている。景色と言うのはコロコロ変わる冬華の表情なのだが。

「そんな、恋などではありませんよ……ただ、お話していたいだけといいますか。笑顔を見ていたいと言いますか……」

 レイナはモジモジしながら言う。

(それって恋じゃないのかな?)

 冬華と麻土香はレイナの様子を見ながらそう思った。


「レイナが恋をしたのかい? 相手はどのような男なのかな?」


 部屋の中から男の声が届いた。

 冬華たちは声のする方に視線を向けると、一人の男が出てきた。

 背が高く、無駄な肉が付いていないガッシリとした体躯、整った顔立ちはレイナの面影がある。

「お兄様!?」

 レイナは男を見ると声を上げた。

「レイ様!」

 麻土香は立ち上がり頭を下げる。

 そんな麻土香を見て男は口を開いた。

「頭を上げてくれ麻土香。キミは客人なのだから」

「はい」

 男の言葉を聞き麻土香は顔を上げた。

 男はレイナの横へ立つと胸に手を当て名乗る。

「わたしはレイナの兄のレイフォードと申します。以後お見知りおきを」

 レイフォードは二人へウィンクをして見せる。

 冬華は若干引きながらも礼儀として自己紹介をした。シルフィは白けた視線を向けるだけで何も言わなかったため、冬華が紹介した。

「冬華にシルフィか、わたしの事はレイと呼んでくれて構わないからね」

 レイは冬華を見て言った。

「はあ」

 冬華はレイから離れるようにジリジリとシルフィににじり寄る。

 直観的に肌に合わないと感じているようだ。

「もう、お兄様! 今は女の子同士のお茶会なのです。お兄様はお戻りください」

 レイナは「自己紹介も終わったのだからいいでしょ」と言いたげに追い出そうとする。聞かれたくない話があるようだ。

「おいおい、まだ来たばかりだろう? 確かに女性だけの方が話しやすいこともあるだろうけど」

 レイナは引くことなく可愛らしく睨み続ける。 

「はぁ、わかったわかった、わたしは退散するとしよう。それでは皆さん宴の席でお会いしましょう」

 レイはそう言って立ち去った。ただ、今の最後のセリフは冬華を見て言っていた。

「なんか私すっごい見られてたんだけど」

 冬華はシルフィにしがみ付き言う。

『そうですね。まあ、悪意はなかったので放置していましたが』

 シルフィは冬華を優しく見つめて言う。

「ごめんなさい、不快な思いをさせてしまったみたいで」

 レイナは申し訳なさそうに言う。

「あ、いいよ。ちょっと引いただけだから、お姫様のせいじゃないし」

 冬華は隠すことなく引いた事実を告げた。

「でもどうして冬華ちゃんを見てたんだろ?」

 麻土香は疑問を口にした。

「あの~お兄様はお強い女性が好みだそうで、ですから冬華さんに興味をもたれたのではないでしょうか」

 レイナは苦笑いを浮かべ言った。

「え!?」

 冬華のタイプではなかったようでものすごく嫌そうな顔をした。隠す気はさらさらないようだ。

「さすが冬華ちゃん、モテモテですねぇ。将来はお妃さまだねぇ」

 麻土香がからかうように言う。

『当然です。冬華は強くてカワイイですからね。でも冬華はあげませんよ』

 シルフィは冬華を抱き隠す。

「やめてよね~マジで」

 冬華は本気で嫌そうに天を仰いだ。

「あの~みなさん?」

「何~お姫様ぁ」

 今だ絶望の淵にいる冬華が何とか這い出そうとレイナの呼びかけに答えた。

「そのお姫様と言うのをやめていただきたいのです。その、レイナと呼んでいただけないでしょうか?」

 レイナは恥ずかしそうに上目遣いで言う。

 その可愛らしい仕草に冬華は参ってしまった。

「ヤバイ、超可愛いんですけど……レイナちゃんカワイイ!」

 冬華は絶望の淵から飛び出しレイナに飛びついた。

「きゃっ!?」

 レイナは冬華の餌食となった。

「と、冬華ちゃん!? レイナ様に何してるの!」

 麻土香は動揺し突っ込んだ。しかし手は出せないでいた。

「かわいいなぁかわいいなぁ」

 冬華はレイナへ頬ずりをして放さない。

「シルフィさん、助けてください!」

 レイナはシルフィに助けを求めた。

『仕方がないですね、レイナ、しばらく我慢してください。直に飽きると思いますので』

 シルフィはそう告げると、景色を見ながら紅茶を啜る。もちろん景色とは幸せそうな冬華の笑顔である。

「そんなぁ……」

 冬華を止められるのはシルフィしかいないと期待していたが見事に裏切られレイナは成す術なく頬ずりされ続けた。

 成す術なく立ち尽くすレイナ、幸せそうに頬ずりする冬華、それを微笑まし気に見つめ紅茶を啜るシルフィ。

 麻土香はその光景を茫然と眺めていた。

「なにこれ……」


 夕刻、予定通り宴が催された。

 宴は立食パーティーの体を成している。

 最初にお約束の陛下からのお言葉をいただき、冬華たちは労いの言葉を掛けられた。

 そして乾杯の音頭が掛けられると冬華は脇目も振らずご馳走へと向かった。

 そこへ、

「冬華、少しいいかな?」

「ごめんなさい今無理です」

 冬華は声の主の確認もせずそういうとご馳走へと向かった。

「……」

「冬華ちゃん!?」

「……なに?」

 冬華は声を掛けられてもご馳走から目を離さない。

「(今のレイ様だよ!)」

 麻土香は焦るように耳打ちする。

「(ゲッ、マジ!?)」

 冬華は一応振り向いて確認すると、あっけにとられ茫然とした表情で冬華を見つめるレイがいた。

 城の重鎮たちも同じようにあっけにとられていた。救ってもらったこともあり何も言えないという微妙な状態である。

 その後ろでレイナが苦笑いを浮かべて立っている。

「(ま、まあいいじゃん。麻土香ちゃん相手してあげなよ。私今忙しいから)」

 冬華は長テーブルに並べられた料理を自らの皿へと乗せていく。

「(ダメだよ。冬華ちゃんご指名なんだから!)」

 麻土香はそう言い募る。

「(ご指名って、なんのお店よ~)」

 冬華はうんざりしたように言った。

「冬華」

 レイナが冬華に歩み寄り声を掛けた。

「なに? レイナちゃん」

 冬華の声を聞き、まわりはギョッとしていたが、冬華は気にしない。レイナにそうして欲しいと言われたからだ。

「(少しでいいのからお兄様のお話相手してもらえないかなぁ? お願い!)」

 レイナは手を合わせお願いポーズを可愛く決めた。頬ずりされまくったおかげでずいぶんと打ち解けたようだ。

「はぁ、わかったよ~レイナちゃんにそんなに可愛くお願いされたら断れないじゃん……」

 冬華は山盛りの皿を片手に溜息交じりにレイの下へと向かった。

 レイは冬華が近づいてくるのを今だに茫然と見ていた。

「王子様、御用はなんですか?」

 冬華は少しばかり気を使って嫌さ加減を軽減して言った。しかし、隠しきれない感情が目の表情に現れてしまっていた。

「あ、ああ、少しテラスに出ないかい?」

 レイは気を取り直して冬華を誘った。

「はあ」

 冬華はレイに続いてテラスへと向かった。

「(麻土香! 私たちもいきますよ)」

「(え!? ダメですよそんなことしちゃ)」

 と言いつつ麻土香はレイナの後に続きこっそりと後をつけた。シルフィはいつの間にかいなくなっていた。

 レオニールはそれを微笑ましく見ていた。苦労を掛けた娘が友人へ年相応の笑顔を向けはしゃいでいるのが嬉しかったのだろう。


 テラスへ出ると日は沈み、空には星がちりばめられていた。

「今日の空は一段と綺麗だ」

 レイは空を見上げ言った。

「ほうれすね」

 冬華はご馳走を口に運びながら空を見上げた。

「ふふっ、おいしそうに食べるね」

 レイはご馳走を頬張る冬華を見て微笑む。

「ふぁい、おいひいれす」

 冬華は頬張ったまま返事を返した。

「そう、それはよかった。ところで、冬華は女だてらに剣士なんだってね」

 レイは冬華の目を見て言った。

「モグモグ……ゴクン、そうですけど、ダメですか?」

 冬華は表情を変えずに言った。

「いや、素敵だと思うよ」

 冬華はレイの言葉に鳥肌が立った。

(素敵って……)

「わたしは強い女性が好きなんだ。どうだい冬華、私と勝負してみないかい? キミの力を見せてもらいたいんだ」

 レイは自分が冬華の力を試すと言っている。自信満々に……

「いえ、いいです」

 冬華は皿を見ながら断った。好かれたくはないし、それに……

「どうしたんだい、冬華ともあろう女性が臆するなんて……自信がないのかい?」

 レイは挑発的に言う。

「……いや、そういうわけじゃ」

 冬華はお腹をさすりながら言う。

「異世界の剣が王族の剣に負けるのが怖いのはわかるけれど、逃げるのはどうだろう? それとも自分より強い者とは戦うな、という教えでもあるのかい?」

 レイはバカにしたように言う。

 冬華は沸点が低い。見事なまでに挑発に乗っかった。

「上等じゃない! やってやるわよ! ギッタギタにしてやるわよ!」

 冬華は鼻息荒く言い放った。しかし皿は手放さない。

「フフッ、そうこなくては。では明日の朝、演習場で勝負ということで」

 レイは嬉しそうに微笑んで言う。

「明日覚えてさない!」

 冬華はふんっと鼻を鳴らし足早にその場を離れる。

「デザートもおいしいですよ」

 後ろからレイが声を掛ける。

「食べるわよ!」

 冬華はそう言い放ち中へ入っていった。

 レイはそんな冬華を楽しそうに見つめていた。


『冬華……あなたバカなのですか?』

 シルフィは唐突に言った。

「うわっ!? ビックリした。いきなり出てこないでよぉ」

 冬華は胸を押さえて言う。

『あんなど下手くそな挑発に乗るなんて、お腹でも空いてたんですか?』

 シルフィは冬華の持つ空になった皿を見て言う。

「だって、早くお代わりしたいのにあいつしつこいんだもん」

 冬華は口を尖らせて言う。

「「それが理由なの!?」」

 冬華の後ろから麻土香とレイナが声を投げかけた。

「うわ!? なんで二人までいるのよ!」

 冬華は文句を言う。

「だって……気になるじゃない、ねぇ」

 レイナは麻土香へ同意を求める。

「私はダメだって言ったんだけど」

 麻土香は寝返った。

「ずるいわ麻土香!?」

 レイナは麻土香へ詰め寄る。

「いや、どっちも有罪だから」

 冬華は冷たく言い放つ。

「「うっ……」」

『それで、本当に勝負をするんですか?』

 シルフィは呆れた風に訊ねた。

「うん、やるよ。約束したし……どの程度強いか見てやるわ」

 冬華はお代わりをよそいながら悪い顔をする。


 その後冬華、はレイに言われたデザートを食べ、

「んま————い!」

 と声を上げ、そんな冬華をレイは満足気に見ていた。


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