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調査

 サラは今、川に向かっている。

 目的地へ最短で行こうとすると、だいたいの位置を地図に照らし合わせ距離だけで言うなら、森を突っ切る形で直線に進み歩いて一日くらい。でも森の中は魔物が多く出没するので、戦闘しながらになってしまい余計に時間がかかりそうだ。安全面を考えるとなるべく戦闘は避けたい。という理由で、少し遠回りになるけれど、森を抜けて川沿いの道を北上していくことにした。途中の村で一泊すれば明日には現地で調査ができるはず。


 このあとの予定を決めたサラは軽やかな足取りで進んでいた。

「ふふっ」

 さっきのアキさんわたしの胸や脚ばかり見てたなぁ。確かに露出は多いけど、動きやすさを重視しただけなんだけど。女としての魅力があるってことかしら、ふふっ。キョドキョドしてたのはちょっと可愛かったかも。異世界の男性ってみんなあんな感じなのかしら? ん~きっとアキさんだけよね。

 とサラは朝のアキのことを思い出し微笑んでいる。

(わたし、なに浮かれてるんだろ)

「アキさんは異世界の人なのに……気を引き締めなきゃ!」

パチッパチッ

 雑念をはらうように両手で頬を叩き気合を入れる。

「よし! 今は調査のことだけ考えよ」


 サラは歩みは速めたが、鼻歌交じりで軽やかにスキップをしていた。




 森の中、少し開けたところに建つ山小屋の側で俺は剣を握ってうなだれていた。

「はぁ~~魔力なしかぁ」

 もともとなかったものだから気にする必要はないのだけれど、一度期待しちゃうとなかなか切り替えが難しい。

 ばあちゃんは城に行けばもう少し詳しく調べられるとは言っていたけれど、期待はするなとも言っていた。

「これでまた期待して、結果が同じだったら立ち直れないっつーの」

 切り替える意味も込めて今剣を振っている。

 剣、竹刀ではなく正真正銘の剣です。真剣、真身の剣、当たれば切れる本物の剣。魔力がないならもうこっちを鍛えるしかない! ってことで、ばあちゃんにお願いしたら物置に眠っていたこの剣を譲ってくれた。特に名剣というのではなく、普通に広まっている一般的な鉄製の剣だ。当然なのだが、本物ははじめて握ったし、はじめて振った。


「……重い」


 竹刀と比べるとやっぱり違う。総司たちならうまく扱えただろうけれど。

「これ振り回し続けるの大変だぞ。こんなことならもっと真面目に稽古しとくんだった」

(最近さぼってたし……)

 ま、今は真面目に稽古しないと命にかかわるからやるけどね。

 剣を両手で握り直し素振りを始める。

「ふっ、ふっ、ふっん」

 剣線がぶれるなぁ、筋トレして体幹も鍛えないとな。早くカンを取り戻さないとサラさんにカッコ悪いところを見せることになっちゃうな。まぁカンなんてもともとないんだけど……あと才能も。


 それにしても、見た目には俺の知ってる普通の森と変わらないんだよなぁ。空気も綺麗で、いい風吹いてるし。でも、何かに見られてるような気もする……魔物じゃないよな? 大丈夫だよね? 森の奥に入らなければ大丈夫って言ってたけど、何を根拠に言ってるんだろうか。相手は一応魔物だよ? 魔物の考えてることはなんてわからないから安全じゃないと思うんだが……魔物、まだ見たことないんだけどね。

 こんな中でオレ気絶してたんだよな、よくかすり傷だけで済んだよな。そのときのこと、サラさんが戻ったら詳しく聞いてみよう。



 小屋の中、マーサは窓から外にいるアキを見つめていた。

「……どうしたもんかのう」

 マーサはアキの扱いに悩んでいた。

 魔力のないものなどはじめてじゃ、魔力があったならワシらの手伝いもできたじゃろうが……剣を握るのも初めてとは、この分だと剣の腕も期待できないじゃろうからワシらの護衛役もできんじゃろう。困ったのう。城へ連れて行くとは言ったが、城の連中は能力主義だからのう、アキにはつらい環境じゃろう。サラの(かせ)になるようなら一緒に連れ歩くわけにもいかんし……サラが戻るまで様子を見るか、決めるのはそれからでもいいじゃろう。

 マーサは結論を先延ばしにすると本棚に目をやる。そして何かに引かれるように埃を被った一冊の書物に目を止める。書物を手に取りパラパラとページをめくり、ピタリと止まる。

 マーサはしばらく悩むと呟いた。

「サラがなんと言うか」



 日が西の山に沈むころ、サラはなんとかここリオル村にたどり着くことができた。

 暗くなると危険度は飛躍的に増してくる。魔物の活動も活発化するし、野盗も出る。サラのような女性は特に危険だ。

 サラは手早く宿を取り、部屋に荷物を置いてから、一階にある酒場兼食堂に来ている。もちろんお酒は飲めないので食事にきているのだけれど、まわりはお酒を飲みにきている客で騒々しい。

 時折聞こえてくるのは、廃墟だったり、魔物だったり、人攫いといった単語である。

「はいよ、おまたせ」

 恰幅のいい女将さんが愛想のいい顔で料理を持ってくる。

「わー、おいしそう。いただきます」

 サラはホクホク顔で食事に手を付ける。 

 料理は野菜と肉を煮込んだものとパン、ミルクが出てきた。質素ではあるけれど、懐かしさを感じさせる味で、サラには十分満足だった。

 サラ一人ということもあって女将は気軽に話しかけてくる。

「騒がしくてごねんなさいね、騒ぐのが好きな奴らばかりでねぇ」

「いえ、あの女将さん。みなさんの話してるのって?」

 サラはさっきから耳に入ってくる話について訊ねた。

「ん? 廃墟の話かい?」

「廃墟ですか……」

 女将は腕を組み説明する。

「ああ、ここから東に少し行くと教会があったんだけどね、そこが魔物に襲われてしばらく廃墟になってたんだよ。だけど、最近野盗の集団が入り浸るようになってね、そのころからちょくちょく行商人が襲われたり、旅人が攫われるようになったのさ。その野盗連中の仕業じゃないかって、そんな話さ」

「野盗が人攫いですか……」

 サラは眉間にシワを作り呟いた。

「まぁ、十中八九奴らの仕業なんだろうからあんたも気をつけなよ。あんたみたいな美人は真っ先に狙われるからね」

 女将さんはわたしの全身を観察しながらそんなことを言った。

「そんな、美人なんかじゃ……」

「とにかく、あそこには近づかないことだよ。じゃごゆっくり」

 女将さんは手を振ってカウンターに戻っていった。

 サラは食事を終えると、部屋に戻り噂話を思い出す。

「東の廃墟に野盗、そして野盗が人攫いか……」

 地図から見てわたしの目的地はそのあたりなのよね。しっかり準備していかなくちゃ。




「……ここ、よね?」


 翌日、サラは日が昇りきる前に廃墟のある高台へとたどり着いた。

 かなり崩れてはいるけれど、建造様式や残骸から教会であることがうかがえた。

すこし高台に建つ教会は、廃墟となる前は数多くの巡礼者が訪れる立派な教会であったであろう。

 やはりレイクブルグ城が魔物に襲われたときにここも襲われたのだろう。なにがあるかわからない、いつでも剣を抜けるように手をかけておく。

 廃墟に近づくにつれて焦げたような臭いが鼻をついてくる。

 建物が燃えたようすはない……?

「何が燃えたの?」

 サラは怪訝に思い呟く。

 サラは建物内に何者かの気配がないか確認し中に入ると、そこは目を背けたくなるような惨状と臭いに包まれていた。

「うっ……ヒドイ」

 サラは口元を手で覆い目をしかめる。

 人の死体や魔物の死骸が重なりあうように横たわっている。

 死体の状態は切り割かれているもの、焼け焦げているもの、咬み砕かれたもの、食い散らかされたものとがあったが、よく見ると少しおかしな点がある。焼け焦げている死体、切り傷のところが特に焦げている。

「切り口から燃えだしたみたいな……炎で切った……とか?」

 サラは推測を呟き、考え込む。

 火属性の魔法だと普通に燃えるだけなんだけど……炎を収束した? 剣の刃先ほど収束させるなんてことできるの?

 死体は見るからに盗賊然としている。そんな輩が扱える術ではない。

 さらに奥に入っていくと、丸く変形した部屋があった。

 部屋は寝室のようで、押し潰されたベッドの上に破れてはいるけれど見たことのある服が落ちていた。


「これアキさんの着てる服に似てる」


 イヤな予感が沸々と湧き上がってくる……女として嫌悪、怒り、憎悪、負の感情があふれてくる。

(きっと今のわたし、怒りで醜い顔になっているだろう……こんな顔誰にも見せられない)

 そう思いサラは負の感情を振り払うように頭を振り心を落ち着かせる。そして視線をまわり向ける。

「なに……これ?」

 部屋はベッドを中心に外側へ押し広げられたように球状に変形していて、壁に血や肉片が張り付いている。

「ここでなにがあったの?」

 でも、この異常な状態、一昨日に感じた場所は間違いなくここだろう……



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