戦隊ヒーロー?
女性の名前はチェイミー。鼠族の女性で、外見で子供だと冬華たちは勘違いしていたが、れっきとした大人だった。鼠賊は他の種族よりも一回り小さく、よく子供と間違われるらしい。
男性の名前はイーサム。鼠族かと思っていたが鼬族の男性だった。鼬は鼠を食べるというが、瘴魔化し襲っていたのはそれが目的なのか? と、冬華が訊ねていたが、それは動物がそうであって理性のある獣人には当てはまらない。と、若干怒られていた。
それはさておき本題に入ろう。
チェイミーは王都クーデルハイムの住人で、その王都が突如現れた敵に襲撃されたらしい。城の兵士や街の自警団が防ごうとしたが、防ぎきれず壊滅状態となってしまった。目撃者の話では襲撃犯は炎を纏った女で、先程のような炎の魔物や瘴魔化したどこかの村人を従えていたらしい。チェイミーは生き延びた仲間と共に近隣の村に助けを求めたが、その村もすでに襲撃された後で、魔物や瘴魔化した村人に襲われてしまったらしい。その際に一緒に逃げて来た仲間とはぐれ、今に至るというわけだ。
ちなみにイーサムはその村の住人なのだそうだ。
「炎を纏った女ねぇ……むぅ」
ボソリと呟いた冬華にチェイミーが食って掛かる。
「信じてないの!? これだから人間は……」
これだから人間は、というのは、こちらでは常套句のようだ。
しかし、冬華は信じていないわけではない。心当たりがあるから唸っているのだ。炎を纏った女というのは、おそらくフレイアの事だろう。フレイアが王都を壊滅状態に追いやったとなれば、取り逃がした冬華にも少なからず責任がある。と、自責の念に駆られていたのだ。
「いや、心当たりがあるだけだ」
黙り込んでいる冬華に変わり総司が訂正した。しかし、それがあらぬ誤解を生んでしまった。
「心当たり? まさかあなた達が!」
すべて人間の所為にしようとする考えに、冬華は呆れ気味に溜息を吐く。
「ハァ、違うわよ。たぶんそれは精霊だよ。ん~、瘴気に当てられてしまった火の精霊ってとこ」
とはいえ、そうしてしまったのはかつての人間、人間の所為にされても文句は言えなかった。
「精霊様がそんな事……」
「ありえない……」
チェイミーたちは信じられないようだ。
二人が信じようと信じまいと、事実は変わらない。そしてやるべきことも変わらない。
冬華は聞くべきことを訊ねた。
「で? 王都はどこ? イーサムの村はどっち?」
「王都は真っ直ぐ南下して行けば着くわ。村はその途中に」
「わかった。とりあえず村を目指そっか。あ、いいよね?」
冬華は勝手に決めようとしてしまったことに気付き、総司に伺いを立てた。
とはいえ、聞くまでもないだろう。
「ああ、それで構わない。ていうか、一々確認しなくてもいいんだけど、ダメならすぐに止めるから」
「あ、そうなの? じゃあ、気を取り直してレッツラゴー!」
冬華が握り拳を天に突き上げると、結衣が「おー!」とノリよく付き合ってくれた。総司は黙って見守り、チェイミーとイーサムは「何この人間たち」というような怪訝な視線を向けていた。
―――鼬族の村。
イーサムの村に到着した冬華たちは言葉を失っていた。地域柄なのか、家々は石造りとなっている。しかし、そのすべてが黒く焼け焦げていた。申し訳程度に生えていたであろう草木も焼け焦げ炭と化している。村の中を闊歩するのは炎の魔物、そして瘴魔化した村人たち。正気を保てている村人はいないようだ。
「こんなことになっていたのか……」
瘴魔化していたイーサムはこの事実を知らなかったようだ。
落ち込むイーサムをチェイミーが優しく慰めている。自分の街も同じような状態にあるチェイミーも、イーサムの気持ちが痛い程よくわかるのだ。
村を解放するには魔物を倒し、村人たちを浄化すること。それは今の冬華たちには造作もない事だった。
「じゃあ、さっさと片付けよっか」
「ああ」
冬華と総司が刀と剣をそれぞれ抜くと、イーサムとチェイミーが驚愕の声を上げた。
「片付けるってどういうことだ!」
「まさか、彼らを殺すというの!」
冬華たちの戦いを見ていなかったチェイミーも、イーサムと同じように殺人鬼でも見るかのような視線を向けて来た。
「そんなこと……」
そんなことしないと否定しようとすると、その声を遮るように怒声が響き渡った。
「そんなことはさせん!!」
「「「え?」」」
冬華たち三人は突然の声に驚き、声の主を探しあたりを見渡した。
「ここだ!」
言われるまでもなく、冬華と総司はすでに見つけていた。結衣は素直に驚き振り返った。
石造りの家の屋根の上、そこに彼らはいた。
戦士然とした格好の4人と、それを代表するように立つ煌びやかな鎧を纏った人物が1人、布で隠れて顔は確認できないが、明らかに怪しい5人組が冬華たちを見下ろしていた。
「あなた方は!」
チェイミーが両手を握り合わせ、感極まったように見上げている。知り合いなのだろうか。
「……誰よ? あんたたち」
怪訝そうに冬華が訊ねると、鎧の人物が答える。
「ならず者に名乗る名などない! が、敢えて名乗ろう!」
「結局名乗るんだ」
冬華の軽いツッコミをスルーし、彼らは名乗りを上げる。
「土の戦士、ロック!」
一番右端の男(声からして男)が、両拳のガントレットを打ち付け、シャドーボクシングのようにシュシュシュッと拳を振りポーズを決める。
「風の戦士、ラファ!」
右から二番目の女(声からして女)が、槍で連続突きを放ち、そしてバトンのようにクルクルと回しポーズを決める。
「火の戦士、フェルゴ!」
一番左端の男(声からして男)が、大剣を大車輪のように回し、その場で跳び上がり唐竹斬りのように振り下ろしポーズを決める。
「水の戦士、レイン! (です)」
左から二番目の女(声からして女)が、長い杖のようなものを両手で持ち、綺麗な所作でお辞儀した。
つられて結衣もお辞儀した。
「…………そ、そして、勇者ロウ!」
中央に立つ男(声からして男)が、剣で目にも止まらぬ連続斬りを見せ、ポーズを決める。しかし、レインにリズムを狂わされ、頬が引き攣っている。
「ご、5人揃って」
「「「「「 サルベェイジャー!! (です)」」」」」
ドッカーンと背後で爆発でも起こりそうな感じにポーズを決めている。
サルベェイジャー、「救済する者たち」という意味だろうか?
「……」
「……」
総司と結衣は絶句していた。
「……ああ、なるほど。戦隊ヒーローね」
冬華は冷静に分析し、痛々しい発言とポージングをする彼らに冷たい視線を向けていた。
子供の頃ヒーローに憧れていたアキや、その影響を受けた光輝がいたら歓喜していたかもしれないが、今ここに、あれを喜ぶ者は誰一人としていなかった。
ちなみに冬華は影響を受けていない。冬華にとってのヒーローは、アキ一人だけなのだから。
ロウが冬華たちに剣を向け言い放つ。
「我ら勇者と4戦士! 弱きを守り悪を挫く!」
「へ~、それで?」
「彼らは瘴気によって瘴魔化しただけだ! 罪なき者を傷つけることは我々が許さん! あまつさえ、女性を人質に取るとは卑怯なり! 我らが成敗してくれる!」
「誰もそんな事……」
そんな事してないから、と否定しようとするも、畳み掛けるように被せて来た。
「問答無用! 卑劣漢の言う事など聞かん!」
「私女なんだけど」
「私も」
冬華と結衣の呟きなど聞く耳を持たない5人は、文字通り問答無用で攻撃を仕掛けて来た。
「ゆくぞ!」
「「「「 おう! (はい) 」」」」
「おい!?」
「ちょっと!?」
戸惑う冬華と総司にそれぞれ二人ずつ襲い掛かって来た。
冬華と総司は武器を構え応戦する。
結衣はチェイミーとイーサムを護るため、防御壁を張った。
ガツッ
「危なっ!? こっちにはチェイミーさんもいるのに!」
「む!? 女性を盾にするとは卑怯な!」
結衣に斬り掛かって来たロウが結衣を睨みつける。
「してないでしょ! どこ見てるのよ! そっちが攻撃して来てるんじゃない! あたしは護ってる方でしょ!」
結衣の非難の声も彼には届いていないようだ。ロウは「黙れ!」と言ってさらに斬り付けてくる。
ガツッ
しかし、当然結衣の防御壁を突破することはできず、それでもなお攻撃し続けている。
「やるな。しかし、正義に貫けぬものなし!」
その言葉に呼応するかのように、二人の男が総司に襲い掛かってくる。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
「正義は我らにあり!」
「正義って……くっ!?」
フェルゴが大剣の重量を生かし唐竹斬りで仕掛けてくる。
総司が剣で受け流すと、ロックが左から回り込み、隙のできた胴へガントレットで殴り掛かってきた。
総司がバックステップで交わすと、ブンッと拳が空を切る音が鳴る。続けてロックは地面を殴りつけ魔法を放った。
「大地よ! 岩の壁を!」
すると、総司の背後の地面から岩がせり上がり壁を作った。
総司は岩の壁に背中を打ち付け行く手を阻まれた。
フェルゴは大剣を振り上げ、動きの止まった総司へ魔法を放つ。
「炎よ! すべてを切り裂け! フレイムスラッーシュ!」
剣を振り下ろすと炎の斬撃が放たれ総司を襲う。
「ふっ!」
総司は襲い来る炎の斬撃を剣で斬り払った。
すると、間髪入れず、炎の斬撃の影に隠れていたロックが飛び出し総司に襲い掛かって来た。
総司は左腕でそれをいなすと、斬り返した剣でロックを斬り付ける。
「おっと!?」
しかし、ロックはサイドステップで躱し、攻撃後の隙のできた総司へ炎の斬撃が襲う。
ボフンッ
「くっ!?」
かろうじて障壁を張り防いだが、再び間合いを詰めて来たロックが襲い掛かって来た。
二人は見事なコンビネーションで総司を翻弄する。
フェルゴの炎の斬撃による援護、ロックの近接攻撃、反撃の隙を与えない連続攻撃の所為で、総司は防戦一方となっていた。
「ソウ君!」
冬華が声を上げると、女二人が襲い掛かって来る。
「よそ見してる暇なんてあるの!」
ラファが槍で連続突きを放ってくる。
「フンッ、全然あるわよ」
冬華はその連続突きを体捌きだけで躱していく。カルマの突きを何度も見ていた冬華には、この程度の突きを躱すのは朝飯前だった。
「これならどう!」
ラファが至近距離で魔法を放つ。
「風よ! 彼の者に戒めを!」
冬華を囲うように風が巻き起こると、一気に収縮し、冬華の体を拘束する。
「へぇ、やるじゃん」
冬華はまだ余裕を見せている。冬華の体捌きを見て只者ではないと感じたのか、ラファはそこで止めを刺しに突っ込んで来るようなことはしなかった。ラファが距離を取ると、レインが杖を振りかざし魔法を放って来た。
「水よ! 彼女を包み込んで!」
冬華の足元から螺旋状に水が立ち昇り冬華を包み込む。そして、水が折り重なり、繭のような形状になる。この中で窒息死させる気のようだ。
「あ、安心してください。気を失ったらすぐに解放しますから」
「正義は無駄な殺生はしないものよ!」
レインは申し訳なさそうに小声で「ごめんなさいごめんなさい」と連呼し、ラファは得意気にフフンとふんぞり返えり水の中の冬華を眺めている。
(何なの? さっきから正義正義って。まさか自分たちの正義に酔ってるの? マジで?)
ただ、魔法に関してはなかなか良いセンスをしていると冬華は感心していた。
「でも、水の魔法で勝負を挑むとはね。レインって言ったっけ、腰の低さとは違っていい度胸じゃない! 格の違いを教えてあげる!」
威勢よく言っているが、水の中にいるため、実際にはゴポゴポ何を言っているのかわからなかった。
冬華は刀に魔力を纏わせ振り抜いた。
ヒュン
一振りすると、その振りに合わせるように水の繭が揺れ、刀に吸い寄せられていく。
「え? ええ? 何が起こってるの!?」
自分の放った魔法が自分の制御を離れ、予期せぬ動きを見せはじめたことにレインは戸惑いを見せている。
瞬く間に繭の水がすべて刀に吸い寄せられ、巨大な水の刀、大太刀へと変化する。
「安心して、殺したりしないから」
冬華はそう告げると、水の大太刀を振り抜いた。
ビュオッ
水の刃が伸び、二人に襲い掛かる。
「キャァァァァァァッ」
「イヤァァァァァァッ」
しかし、水の刃は二人を斬り裂くことはなく。二人に巻き付いて行く。
「「え?」」
戸惑う二人をよそに、水の刃はクルクルと蜷局を巻き二人を拘束していった。
すべての水が撒きつくと、冬華は刀を振り上げ切り離した。
すると、その先端が蛇の頭部へと変化する。
水への支配力は担い手である冬華の方が数段上だった。というか、弱い者いじめに近かった。
二人は抜け出そうともがいているが、そう簡単に逃がす冬華ではない。
「ミズチ、二人を逃がさないでね」
そう告げると、ミズチは二人の頬をチロリと舐め上げた。
「「ヒィッ!?」」
二人は小さく悲鳴を上げる。
「うん、いい声で鳴くね。これは調教のし甲斐があるね。あんなことやこんなことまで……ふっふふふっ」
冬華はニヤリと嗤う。
二人はさらに縮みあがり顔が青ざめていく。
『冬華、最近顔が悪いですよ』
「うぐっ、いつもみたいに言わないでよ!」
冬華は一つ咳払いすると、戦隊ヒーロー気取りの男たちに告げる。
「コホン、はい、ちゅーも―――く! この二人にあんなことやこんなことをされたくなかったら武器を納めなさい!」
完全に悪役だった。
「何!?」
ロウが攻撃を中断し振り返る。
「リーダ~」
「ごめんなさ~い」
涙目の二人を見て、ロウは「卑怯な」と言い苦々しく顔を歪め剣を下ろした。他の二人も、下唇を噛みしめ武器を下ろす。
「よしよし、いい子ね。ていうかソウ君! そんな二人相手に何苦戦してんの! まあ、本気を出せないってことは知ってるけど」
「知ってるなら一々嫌味を言わなくてもいいだろ」
「まあ、お約束的な?」
「それより、あんなことやこんなことって、それじゃ完全に悪役だろ!」
総司たちにとって、それは思い出したくもないトラウマだ。脅し文句だとわかっていても、感情がそれを否定してしまうのだろう。結衣もあまりいい顔はしていない。
「あはは、悪乗りが過ぎたね。ごめんなさい」
冬華は素直に謝った。二人に嫌なことを思い出させてしまったことを反省したのだろう。
とはいえ、冬華の言うあんなことやこんなこととは、くすぐりの刑程度のモノだろう。笑い死ぬくらいが関の山だ。
「何もしないから安心して。話をしたいから少し大人しく……あ」
話を進めようとした冬華だったが、それを阻む者の存在に気付いた。
「だよね~。これだけ派手に暴れてれば気付かれるよねぇ」
冬華たちを囲むように、魔物と瘴魔化した村人たちが包囲していた。村の真ん前で戦闘を行えば気付かれないわけがない。
「しまった!? ……くっ」
ロウは村人たちとは戦えず、かといって囚われている二人を置いて行けず、どうすべきかと迷っているようだ。
「あんたたちは下がってろ」
「何?」
総司の言葉にロウは怪訝そうな視線を向けてくる。
「ここは俺たちがやる。冬華ちゃん」
「わかってるって。ミズチも下ってて」
ミズチは二人を拘束したまま結衣の下へ下っていく。
「待て! 彼らを殺させはしない!」
「しつこい! そんなことしないって言ったでしょ!」
いや、言わせてもらえなかったはずだ。
「黙れ! 彼らは我々が救う!」
思いがけないというか、突拍子のないことを言うロウに、冬華たちは呆気に取られていた。
村人を救うには浄化するほかない。しかし、普通の人間は疎か、精霊ですら浄化することはできない。彼らにその手段があるとは到底思えなかった。
「救うってどうするつもりよ!」
「いいから引っ込んでいろ! 邪魔をするのなら容赦はしない!」
ロウは冬華たちの横を通り過ぎ、敵の前に歩み出た。
ロウの啖呵を聞き、フェルゴとロックもロウの横に並び立つ。
「わかったわよ。じゃあ、お手並み拝見と行きますか」
彼らが村人を殺すとは思えない。もし手に余るようならすぐに助け舟を出せばいい。冬華はそう思い引き下がった。
総司へ視線を向けると、同じ考えのようでコクリと頷きを返した。
戦隊ヒーロー気取りの三人は武器を構える。
「行くぞ!」
「「 おーっ! 」」
三人は一斉に駆け出して行った。
彼等の事を覚えている人はいるだろうか?
前に、ほんの少し出て来たんだけど。さあ、捜してみよう!




