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「お兄ちゃんのぉ……バカぁ……くーくー…………ぐがっ!? ……ふぇ?」

 冬華は体をビクつかせて寝覚めた。人に見られたら少々恥ずかしい場面だろう。

 しかし、幸いにもここには冬華以外に誰もいない。

 冬華は、ボーッと天井を見上げていた。

「ここ、どこ?」

 ゴロンと寝返りを打ち、自分が寝ている場所を確認する。

 白い机、白い椅子、白いドレッサー、ついでに白い防具、白に統一されたこの部屋……。

「ここ、私の部屋だ……あれ? どうして私の部屋なの?」

 冬華は起き上がり、状況を確認する。

「確か、アイズと戦って、その後、お兄ちゃんが変な闇でカルマを取り込んで、私もお兄ちゃんに取り込まれたんじゃなかったっけ? それなのにどうして……?」

 部屋は先程確認した通り冬華の部屋、照明の光で煌々と照らされている。服は部屋着、学校から帰って、着替えて寝てしまったのだろう。窓の外は夜のようで真っ暗だった。

「寝すぎた!? ていうか、全部夢だったの? ……夢オチなの!? 私、なんて夢を見てたんだろ。彼氏がいないからって、あんな……」

 冬華は、夢の中でカルマという自分に好意を寄せてくれる人物を作り上げていたことに、羞恥心を抱いていた。しかも、一国の王子だったり、村の子供にまで求婚されていた。これでは逆ハーレムモノのアニメだ。

「お兄ちゃんじゃあるまいし、どうかしてるわ」

 冬華はベッドから起き上がると、服が肌に張り付いていることに気付いた。寝汗を掻いていたようだ。

「あんな夢を見てたし、うなされてたのかも……ハァ、シャワー浴びよ」

 冬華は重い足取りで、一階へ向かった。

 リビングの前を通りかかると、扉越しに声を掛ける。

「お母さーん! 私シャワー浴びるね」

 冬華がそう告げると、返事の代わりに食器の音が聞こえて来た。きっと夕食の準備をしているのだろう。

「きょ~おっのごっはんっはなっんだっろな~」

 と、冬華は音程の外れた歌を歌いながら浴室へと向かった。

 脱衣所で服を脱ぎ、下着を脱ぎ、洗濯籠の中に放り込むと、浴室に入る。

 お約束があるとするなら、ここにアキがいるはずなのだが、さすがにそんなベタなお約束が起こることはなかった。

「そういえば、お兄ちゃん今日は大人しいな。部屋で何してるんだろ? エッチな雑誌でも見てるのかな? 後で突撃してやろ~っと」

 冬華はシャワーのハンドルを回す。

 シャーっと勢いよくお湯が掛かる。

 ここでもお約束の水ハプニングはなかった。

「これじゃ、私がつまんない子みたいじゃない。笑いの神はどこ行っちゃったのよ? 私が裸だからって遠慮することないのに」

 冬華は笑いの神が降臨することを切望しながらシャワーを浴びる。

「フンフンフフ~ンフンフン~……」

 音程の外れた鼻歌が浴室に響く。元の歌がなんなのか、冬華以外にはわからない見事な外しようだった。

 すると、

ガタッ

 浴室の外から物音が聞こえて来た。

(笑いの神キタ―――!)

 と、笑いの神の到来に歓喜しつつ、冬華は浴室の扉を勢いよく開いた。

「神―――! ……あれ?」

 しかし、そこには神はいなかった。それどころか、誰もいなかった。

「お兄ちゃんの慌てふためく姿が見れると思ったのに……」

 冬華はガッカリしながら扉を閉める。

 シャワーを浴びながら冬華はハッとした。

「私、何をお兄ちゃんに期待してるの? あんなやる気の欠片もなくなったお兄ちゃんなんて……ホントカッコ悪い。夢の中のお兄ちゃんは格好良かったのに……ああもう! 辛気臭い! 折角のシャワーが台無しよ!」

 冬華は頭を切り替えるように、自らシャワーを水に変え、頭からぶっかけた。

「ヒャウッ!?」

 シャワーを終え、浴室を出ると、

「あ、パジャマ忘れた」

 仕方がないから、冬華はバスタオルを体に巻き、頭にタオルをターバンのように巻いて自室へ戻ろうとする。

 それと同時に、玄関の扉が開いた音がした。

「ただいま~」

 その声は紛れもなくアキの声だった。静かだと思えば、まだ帰っていなかったようだ。エッチな雑誌を見ていたわけではなかったようだ。

(チッ、つまんない男ね)

 冬華は心の中でアキに悪態を吐き、階段へ向かう。

 階段は玄関のすぐ横にある。嫌でもアキと顔を合わせることになる。顔を合わせて無視するのもどうかと思った冬華は、一応「おかえり」くらいは言ってやろうと考えていた。

 玄関のアキを見て、冬華は絶句する。

 帰ってきたアキは、夢で見たような格好をしていた。

 レインコートというには、どう見ても水を弾きそうにない布のローブを羽織っている。チラリと見えた背にはダガーが二本、腰や脇の下には、数本ナイフのささったナイフホルダーが装着されていた。

 まるで何かのコスプレのようだ。

「恥ずっ!?」

「ん?」

 冬華が侮蔑の言葉を漏らしていると、ドタドタと足音が近づいてきた。

(お母さん、そんなに走らなくてもいいじゃん)

 そんなことを思っていると、

『おかえりぃ、アキ―――!』

 と、何か黒い人影がアキに抱きついていた。

「え!? なに? この黒いの!?」

「だあっ!? 抱きつくな! ていうか誰? お前?」

『ひどーい、僕、アルスだよぉ! アキ()ア・ル・ス!』

「はぁ!? なんでそんな……」

 アルスと名乗った黒いそれは、人の形を成していた。正確には小さな子供のような背格好で、顔だちは可愛らしい女の子だった。ただ、頭のてっぺんから足の先まで、全身真っ黒だった。そして、目だけが怪しく赤く輝いていた。

『凄いでしょ? あの汚水の精霊から僕の一部を取り戻したからぁ、前よりもアキの好みに近づけたんだよぉ』

「好みって……俺は幼女趣味じゃねぇ!」

『え~だってぇ、あのミューズっていう精霊には優しくしてたよぉ?』

「そりゃ、長だから。冷たくしたら俺の立場が危うくなるだろ!」

『ふ~ん、まあいいやぁ。このまま僕を取り戻して行けばぁ、いつかあのお姉ちゃんみたいなナイスバデェになれるよねぇ』

「なっ!? ……なれるのか?」

『うん! きっとなれるよぉ。僕頑張るぅ!』

「おう、がんばれ!」

 アキは拳を握り込み、アルスを応援していた。

 蚊帳の外でそのやり取りを見ていた冬華は、呆然と立ち尽くしていた。が、ハッとし、再起動する。

「ちょっ、ちょっと! お兄ちゃん! それなんなのよ!」

 冬華は勢いよくびしっとアルスを指差した。

パラッ

「何っておま……えっ!?」

 アキは冬華を凝視し、硬直していた。

 勢いよく動いた所為で、冬華の体を覆っていたバスタオルが床に落ち、小ぶりな胸を露わにしていた。もちろん下も。薄っすら焼けた綺麗な裸を惜しげもなく披露していた。

『おー』

 その堂々とした姿にアルスは感動していたが、アキは焦ったように指摘する。

「た、タオル落ちてるぞ! 前を隠せ!」

 プルプル震える腕で、冬華の体を指差し、上下に忙しなく動かしている。

「え?」

 ここにきて、ようやくお約束が発動した。

「何照れてんの? 別にいいじゃん、兄妹なんだし。昔は一緒にお風呂入ってたじゃん」

「い、いいわけあるか! それは子供の時の話だろ! もっと恥じらいを持て!」

「え~今更~」

 裸なんて見慣れてるんじゃないの? 私のより凄いの見てるんじゃないの?

 と思いつつ、アキが狼狽える姿を見れて満足していた。

(あれ? どうして見慣れてるって思ったんだろ? 童貞のお兄ちゃんが女の人の裸なんて見る機会なんてないはずなのに……あ、エッチな雑誌か)

 冬華は一人納得すると、バスタオルを拾い上げ体に巻き付ける。

「はい、これでいいでしょ。で、それなに? なんで家にそんなのがいるの?」

 冬華は再びアルスを指差した。

『ひど~い、ここは僕たちの家なのにぃ』

「は?」

 アルスの物言いに、冬華は低い声を発し怪訝そうな視線を向けた。自分の家に、得体の知れないものが我が物顔で居る事にイラついたのだろう。

「お前は黙ってろ!」

『ん~モゴモゴ……』

 アキはアルスの口を押さえ黙らせると、冬華に向き直る。

「とりあえず着替えて来い。話はその後だ」

「む~わかったわよ。すぐ着替えてくるか。逃げないでよ!」

「逃げねぇよ」

 冬華は踵を返し、階段を駆け上がって行った。

 下にいたアキからは、冬華の丸いお尻が丸見えだった。

「恥じらい!!」

 下からアキの声が聞こえてきたが、冬華はお構いなく上がっていく。いや、むしろ反発するように一段抜かしで上がっていく。危うく秘部まで見えてしまいそうだ。

「冬華!!」

 アキが声を荒げるが、冬華はフフンと鼻で笑い飛ばした。

 冬華は自室に駆け込むと、手早くパジャマに着替え、再び階段を下りリビングに駆け込んだ。

 そこで再び冬華は絶句した。

 リビングには、アキと黒い幼女、そして夢に出て来た人物達がいた。

 テーブルを挟み、奥にアキと黒い幼女、手前にピリピリとした雰囲気の二人が座っていた。

 四人は静かに紅茶を啜っていた。

 手前に座っている内の一人、ミュウが冬華に気付き駆け寄って来た。

『冬華! 何か変な事はされなかった? 大丈夫? すぐに冬華のところに行きたかったのに、この女が冬華に合わせてくれなかったのよ』

『仕方ないでしょ。ここであなたたちに暴れられると困るのよ』

 もう一人の人物、ウィンディが落ち着いた様子で説明する。

 しかし、冬華は状況が飲み込めず、話が耳に入って来なかった。

 呆然としている冬華を見て、何かされたのだと察したのか、ミュウが冬華を抱きしめウィンディに非難の視線を向ける。

『冬華に何をしたの! 冬華が喋らないじゃない!』

『何もしてないわよ。それに、さっき「お母さん」とか言ってたじゃない』

『じゃあ、どうして喋れないのよ!』

『さあ? この子が怖いからじゃないの?』

 と言い、先程の黒い幼女アルスを指差した。

『え~僕怖くないよぉ』

 アキの横にちょこんと座っているアルスは、見た目可愛らしく頬を膨らませた。

 自分の家で、よくわからないやり取りが行われている。

 とりあえず、優しく抱きしめられ落ち着きを取り戻した冬華は、理解できるところから訊ねてみた。

「ど、どうして、夢の中の人達がいるの? 私、まだ夢見てるの?」

 全員の視線が冬華に集まる。そして、第一声を発したのはアキだった。

「わかる! わかるぞ! 俺も最初ここに来た時、夢だと思ったからなぁ」

 アキは腕を組み、うんうんと頷いている。

『ああ、アキも驚いてたよねぇ』

 と、アルスは軽い感じでアキに同意し、アキにすり寄っていく。

 アキはアルスの顔を押し退け、鬱陶しそうに引き剥がそうとする。

『つまり、寝惚けているということですか』

 ウィンディは溜息を吐いた。

『アキ! さっさと説明しなさい! この女何も教えないのよ!』

 ウィンディの態度が気に入らないのか、ミュウが不機嫌そうにアキに説明を要求した。

 アキは冬華を座らせると、説明をはじめる。

『なるほど、アキの精神世界ですか。で、その女とそっちの黒い子は居候という事ですね』

 ミュウは二人をチラリと見て、嫌味を含んだ言い方をした。

 アルスとウィンディは不服そうにミュウを睨んでいる。

 その二人を無視して続ける。

『そして今現在、ある事情でこの家周辺はその黒い子の腹の中という事ですか』

「まあ、そんなところだ」

 アキはミュウの言葉を肯定した。その結果、二人から非難を受けたことは言うまでもない。

『しかし、精霊である我々はわかりますが、冬華は生身の人間、どうやってアキの中に?』

「ん~俺の中というより、アルスの中だな。俺の中のアルスが冬華を取り込んだ形だな。ロシアの民芸品のマトリョーシカみたいな?」

『それで例えますか。相変わらず適当ですね』

 ミュウは溜息交じりに呟いていた。

 すると、一人黙り込んでいた冬華がボソリと口を開いた。

「夢じゃなかったんだ……」

「ああ、夢じゃない」

「じゃあ……カルマも?」

 冬華は恐る恐る訊ねた。

「ああ、あいつには必要な措置だったからな。お前たちは、俺の話を聞く気がなかったから、落ち着かせるために仕方なくここへ入れた。大事な話だってのに、余計な負担掛けさせやがって」

「だって!? ……ご、ごめん、なさい」

 冬華は反論しようとしたが、アキの有無を言わさぬ視線にその勢いを抑えられ、消え入りそうな声で謝った。

 アキは立ち上がると、冬華の側に近づき、頭にポンポンと手をのせる。

 冬華が見上げると、アキは告げた。

「ついて来い。カルマのところへ行くぞ」

 それはつまり、カルマは無事だという事だ。

 冬華は期待したような晴れやかな表情で「うん」と頷き立ち上がった。

 しかしアキは、そんな冬華を見て一瞬表情を曇らせた。

 アキは冬華から手を離すと、リビングを出て行く。

 アキの表情の変化に気付かなかった冬華は、足早にアキの後を追いリビングを出て行った。


カルマの状況や如何に!

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