襲撃者
(……ん? ママ? ママって……)
冬華は鳥族の子を凝視していた。
サラは、鳥族の子を抱き上げ、じっと見つめる。
こんな小さな子をサラは知らない。首を傾げていると、腰のところに見覚えのある物を見つけた。
肩から斜め掛けにしているポーチ。これはルゥが首にかけていた物、汐音が掛けてあげたポーチだった。
「これって、ルゥちゃんの……でもどうして……」
ルゥのポーチをこの子が盗った? でもそんなことをするようには見えない。だったらどうして?
サラは思い切って訊ねてみた。
「どうしてあなたがルゥちゃんのポーチを持ってるの? あなたは一体誰なの?」
すると、鳥族の子は悲しそうな表情をし、その瞳を潤ませる。
サラは、その瞳を最近見た気がした。それは、城壁の外に置いて来たルゥの寂し気な瞳に似ていた。
「グエェェェェェ……」
鳥族の子は遂に泣き出してしまった。
「え? その鳴き声……まさかルゥちゃん?」
「グエッ! ママァァァッ!」
鳥族の子は喜びのあまり、サラの胸に飛び込んだ。
「本当にルゥちゃんなの? でも、どうしてこんなことに……」
「グエッ?」
鳥族の子は首を傾げている。その仕草はまさしくルゥそのものだが、姿はまるっきり別物だ。飛ぶことを拒否するかのような丸っこい姿ではない。にわかには信じられないだろう。
鳥族の子は、何かに気付いたようにピョコっと立つと、小さく縮こまった。
そして、
「グエェェェェェェッ!」
と雄叫びを上げ両腕を広げると、ボンッと姿を変えた。
そこに現れたのは、なじみ深い丸っこい体躯のルゥそのものの姿だった。
「グエ?」
ルゥは「どう?」と言っているようだ。
「本当にルゥちゃんなのね……」
どういう理屈かはわからないけれど、ルゥに変身能力が備わったようだ。
(ひょっとしたら、あの無尽蔵の食欲は、この能力の覚醒を促すためのものだったのかもしれない)
サラがそんなことを考えていると、ルゥは再び獣人型に変身し、サラの胸に飛び込んだ。
「ママァァ」
どうやらずっとこうして甘えたかったようだ。
「ルゥちゃん、ごめんなさいね。すぐに気付いてあげられなくて」
サラはルゥの小さな頭を優しく撫でてやる。
ルゥはとても幸せそうに微笑んでいる。
「いやいや、普通気付かないって。あの丸っこいルゥちゃんが、こんなちっこい可愛らしい女の子になるなんて……ていうか、女の子だったんだ」
冬華が驚いていると、カルマが驚愕の表情でボソリと呟いた。
「野郎じゃなかったのかよ……」
冬華はニヤニヤしながら茶化すように言う。
「あんた、もうルゥちゃんと喧嘩できないんじゃない?」
「ハァッ!? 関係ねぇし!」
「ふ~ん、そう?」
カルマは誰が相手でもお構い無く言いたいことを言うし、勝負を挑まれれば喜んで応じる。しかし、少し甘いところもある。強く押し切られると折れてしまう場面がままある。まあ、その対象は冬華なのだが……
冬華はそれに気づいていない為、少し心配していた。「喧嘩するほど仲が良い」という。可愛らしい姿になったルゥに対し、気持ちに変化が起こるのでは? と、無意味な心配していた。
「おい、鳥! サラ殿はこいつらの回復しねぇといけねぇから、甘えるのは後にしろ!」
カルマはルゥに対する接し方を変えない事をアピールするかのように言い放つ。
礼拝堂に蹴り入れられた恨みがある為、甘やかす気はないのだろう。
ルゥは潤んだ瞳で、チラリとカルマを見る。
「グェェェェ……」
その切ない鳴き声に、カルマは動揺する。
「そ、そんな鳴き声出してもダ、ダメだからな!」
その動揺っぷりでは説得力はなかった。
冬華はジトッとした視線を向ける。
「ルゥちゃん、いい子だから少し待っててね」
サラはルゥを宥めると、負傷者達の元へ向かう。
ルゥは……
ドガッ
「ガハッ!?」
甘えタイムを邪魔された恨みを晴らすようにカルマを蹴り飛ばした。もちろん、サラに見られないように。
「鳥! テメェ何しやがる!」
「グェッ!」
ルゥは自分は悪くないと言わんばかりにそっぽを向いた。
小さな子供がその仕草を見せると、可愛らしさで許してしまいそうになる。
しかし、蹴りの威力が普通の子供のそれとは比べ物にならない為、カルマは許すことができなかった。
「この鳥ぃぃぃ」
「グエッ! グエェェグエッ!」
ルゥは「あん? やんのかコラ!」という顔をしている。
その結果、一人と一匹は、いや、二人は、喧嘩をおっ始めた。
冬華の心配は本当に無意味だった。
「ていうか、ママは言えるのに他の言葉はまだ話せないんだ……」
冬華は二人の喧嘩を眺めながら、どうやって言葉を覚えさせようか。などと考えていた。
(うふふ、ルゥちゃん楽しそう。よかった)
負傷者に回復魔法を掛けているサラは、見当違いな事を思っていた。
「さてと、子供達は放っておいて・・・」
子供代表の冬華が、そんなことを言いながら周りに視線を向ける。
冬華が見ているものは瘴気、瘴気に侵された村人達だった。
サラのように怪我の治療はできないが、瘴気の浄化ならできる。サラの回復が終わるまで、彼らの浄化をするつもりなのだろう。
冬華が手をかざすと、それを見ていた兵士長が声を上げた。
「な、何をするつもりだ!」
助けられたは言え、まだ人間を信じることはできないようだ。
しかし、動くことのできない兵士長は、仮にここで冬華が村人達を殺すと言ってもどうすることもできないだろう。
それをわかっている冬華は、兵士長には目も向けずに告げる。
「うるさいわね、黙って見てなさいよ……おいで、ミズチ」
すると、床から水柱が立ち登る。そして、ウネウネと蠢き、大きな水蛇となる。
冬華は倒れている村人を掴み上げると、無造作に投げ上げた。
それをミズチがバクッとキャッチする。
「き、貴様! 村人をそのバケモノのエサにするつもりか!」
兵士長が怒声を上げるが、冬華はそれを無視した。若干不機嫌そうな表情をしているが、それは兵士長が黙って見ていないからだろう。
ミズチの中の村人から黒い靄がにじみ出ていく。
そして、黒い靄が出なくなると、ミズチは村人はペッと吐き出した。
ご丁寧に、兵士長に向けて吐き出した。
冬華のイラつきがミズチに伝染したかのようだ。
「ぐっ、貴様……くっ、大丈夫か!」
兵士長は村人をかろうじて受けとめると、村人に声を掛け様子を窺った。
村人は静かな寝息を立て、眠っているようだ。瞼を開くと、正常な色に戻っている。戦闘による負傷はあるが、命に別状はなさそうだ。
兵士長はホッとし、肩から力が抜けて行った。
冬華はチラリとそれを確認すると、残りの村人達を拾い上げていく。
拾っては投げ拾っては投げ、それをミズチがバクッバクッとキャッチする。
犬とボール遊びしている感覚になり、「もっと高く投げたい」という衝動に駆られる。
しかし、さすがにそれをやると、「だから人間は……」と、少し回復した印象をまた悪くしてしまうと思い、グッと我慢した。
礼拝堂内の村人をすべてミズチに呑み込ませると、サラの回復の方も大方終わっていた。
兵士長が動けるようになった兵士達に、教会内の村人を含めた負傷者達を集めるように命じる。
兵士たちが講堂側へ向かうと、冬華はサラ達へ告げる。
「さて、逃げよっか」
「え!?」
「ハァッ!?」
「グエッ?」
サラは驚き、喧嘩をしていたカルマも驚きで喧嘩をやめてしまう。ルゥは一人首を傾げている。
「折角混乱してるんだし、逃げるなら今でしょ!」
「ここをこのままにして行くんですか?」
「逃げるなら処刑の時だって言ってたじゃねぇか。それまで濡れ衣が晴れることに懸けるって」
「もう無理でしょ。どうせこの騒ぎも、私達の所為にされるのがオチでしょ。後の事はイルムに任せておけば大丈夫でしょ? なんたって担い手様なんだから」
「いや、まあ、それはそうだけどよ……」
サラとカルマはこの騒ぎを放置して逃げ出すことをよしとしないようだ。国と国民を守って戦う兵士の気持ちが痛い程わかるのだろう。
「冬華さん……」
サラの視線が痛い。「本気じゃないですよね? 見捨てないですよね?」と訴えかけているようだ。
(うっ……お兄ちゃん、いつもこんな気分なのかな? これじゃ断れないじゃん)
冬華は諦めモードに入っていた。
「はいはい、わかりましたよ~やればいいんでしょ、やれば~」
「さすが冬華さんです。アキが知ったらきっと喜びますよ」
「そ、そうかな?」
冬華はまんざらでもなさそうだが、自分に容疑を掛け処刑しようとしていた者達を救おうというのだ。きっとアキは喜ぶと言うより笑うだろう。「また捕まったのかよ!?」と。
冬華は兵士長に訊ねる。
「どうして村人達はここを襲ってきたの?」
「……わからない」
「わからないって……」
「仕方ないだろう。瘴魔化した彼らの行動理由などわかるはずもない」
「それもそうか……じゃあ、外でも村人が暴れてるみたいだけど、街の方は大丈夫なの?」
「報告によれば、街には目もくれず、ここを目指してきたそうだ」
「ここを? じゃあ、外で暴れてる人達を鎮めれば終わりなの?」
「……いや、主教様達が城へ避難すると、それを追うように村人達も城へ向かっていった」
「は? それって、完全に狙いは主教じゃない! ……まあ、わからなくもないわね。あの主教じゃ」
冬華は散々容疑者扱いされ、極刑まで下されたことを根に持っていた。
「とにかく、主教様が狙われているのなら、主教様を助ければ極刑を取り下げてくれるかもしれませんよ?」
主教と聞き、やる気ボルテージの下がる冬華にサラは発破をかける。発破というよりも、鼻先にニンジンをぶら下げた感が強い。
単純な冬華は「それもそうね。恩を売りつけてやる」と息巻いている。
冬華達が礼拝堂を出ようとすると、兵士長が声を掛けて来た。
「ちょっと待て! 本当に主教様をお助けするつもりなのか?」
兵士長は、冬華が主教を殺しに行くとでも思っているのかもしれない。
「ん? 私達の濡れ衣を晴らすために仕方なく助けてあげるのよ」
冬華は「仕方なく」を強調して言う。
「ならば私も同行する。まだ貴様らを信じたわけではないからな。これで主教様が殺害されるようなことがあれば、私は貴様らを見過ごしたことになってしまう」
「はいはい、勝手にすれば。言っとくけど肩を貸したりとかしないからね」
「ふん、貴様らの肩を借りるつもりはない」
冬華は「サラさんに回復してもらったくせによく言えるわね」と思っていた。
「ほら、行くよ」
冬華は外の様子を窺い、素早く出て行った。
外ではいまだ戦闘が繰り広げられていた。
しかし、それに構っている暇はない為、巻き込まれないようコソコソとすり抜けていく。
べ、別に、兵士長の身を案じてるわけじゃないんだからね!
と、心の中でツンデレていたりはしないはずだ。一応気にはしているが、デレたりはしない。冬華がデレるのはアキのみ。たまにカルマあたりにツンデレたりする。
いらない情報を公開している間に、冬華達は城内へ入った。
城内には兵士や村人達が倒れているが、意外と静かなものだった。おそらく、動ける者は主教を追って奥へ向かったのだろう。
冬華はサラに案内を頼み謁見を目指し階段を上ろうとする。
「おい! 貴様達、どこへ行くつもりだ?」
振り返ると、兵士長が怪訝そうな表情をしている。
「どこって、謁見の間よ。こういう時は、大抵謁見の間でボス戦が待ってるのよ。腕が鳴るわ」
冬華は腕をグルグル回し、自信満々で言う。どこのゲームの話だろうか。
「避難所はそっちじゃない。ついて来い」
冬華はぶぅ垂れながらも兵士長の後に続き、階段脇を通り更に奥へと進んで行く。
廊下には兵士や村人達が倒れていた。確かにこっちに向かっているようだ。
そして、中庭に出る。
兵士長は振り返り告げる。
「ここだ」
外観からは気付かなかったが、中庭の中央に頑強そうな建物が立っていた。シェルター程ではないが、そう簡単には壊れないだろう。
冬華達は避難所の入り口まで、戦場と化した中庭を一気に駆け抜ける。
入り口はすでに開け放たれていた。
冬華達は中の様子を窺うと、コソコソと中に入って行く。
中には瘴魔化した村人達がいたが、争っている様子はなかった。ただ立ち尽くし、微動だにしない。その代わりに、奥から微かに話し声が聞こえて来た。
気付かれないように声に近づいて行くと、
『……を教えてもらおうか』
聞き覚えのある声が聞こえて来た。
冬華は若干げんなりし、物陰から覗き込み一応確認する。
「(ハァ、やっぱりあいつか……)」
瘴魔化した村人達を操り、主教達を取り囲んでいたのは、闇色の水の衣を纏ったお馴染みのアイズだった。
「(チッ、またあいつかよ)」
カルマもうんざりしているようだ。というより、冬華を執拗に狙って来るのが気に入らないのだ。
「(行きましょう。ヤツの好きにさせるわけにはいきません)」
「(ちょっと待って)」
サラが出て行こうとすると、サラの手を掴み冬華が止めた。
「(もう少し様子を見よう。あいつの目的が知りたいし)」
アイズは何かを知りたがっているようなことを言っていた。しかも一人で来ているとなると、他の連中も別の場所で同じように何かを探している可能性がある。ここでそれを知ることができれば、他の場所で先手を打つことができるかもしれない。
冬華はそう考えたようだ。
「(……わかりました)」
冬華達は、アイズと主教達の会話に耳を傾けた。
「何が目的だ」
『そんな事、お前が知る必要はない。お前はさっさと答えればいいんだよ』
「貴様のような怪しい輩に、聖域の場所を教えるとでも思っているのか!」
主教は声を荒げて言い放つ。
アイズは目を細め、主教を睨みつける。
「(聖域……)」
アイズの探しているのは聖域の場所のようだ。しかし、さすがに目的までは言ってくれないようだ。
冬華は兵士長に訊ねる。
「(ねぇ、聖域に何があるの?)」
「(私は知らない。知っていても教える気はないがな)」
「(あっそ……)」
冬華はフンッと視線を外し、再びアイズ達の会話に集中する。
アイズはニヤリと笑みを浮かべた。
『そうか、それは残念だ。だったら話したくなるように、端から順に殺して行ってやろう』
アイズは端にいる兵士から順に指差し告げた。
「なに!?」
『安心しろ。お前は一番最後にしてやる』
「くっ!? そんな脅しに屈してなるものか!」
『だとよ。主教様はお前らの命などどうでもいいんだとよ』
アイズはいやらしい笑みを浮かべ兵士たちに告げた。
しかし、兵士達は臆することなくアイズへ睨み返す。
「貴様の戯言に耳を貸す者など、ここには一兵たりともおらぬわ!」
ライオニールが一歩踏み出し、猛々しく言い放った。
(百獣の王キタ―――!)
冬華はライオニールの登場に歓喜した。
「そうだ! こちらには担い手様もおられる。瘴魔化した者達は立ちどころに正気に戻る! 貴様一人に何ができる!」
主教が形勢を有利に運ぶため、強気で言い放った。
やはりイルムもここにいるようだ。
(なんでこいつは他人任せなの?)
冬華は主教の態度にげんなりした。
『担い手様だぁ?』
アイズは視線を走らせ、それらしい者を捜す。
しかし、お目当ての者が見つからず首を傾げている。
『どこにいるんだよ?』
アイズが訊ねると、主教達の視線が背後に向き一人の獣人に集まる。
「え? え!?」
イルムはいきなり矢面に立たされオドオドしはじめた。
アイズはイルムの顔をじーっと見ると、がっかりしたような表情をする。
『誰だお前? 冬華じゃねぇのかよ』
「冬華? あの人間の事か?」
『なんだ、やっぱりいるんじゃねぇか。おーい! 冬華! 早く出て来ねぇとこいつら殺しちまうぞ!』
アイズは避難所全体に響くくらいの大きな声で冬華の名を呼んだ。
サラ達からの視線が痛かったが、冬華は無視した。
「貴様とあの人間に繋がりがあるとは……やはりあの人間、聖域に仇名す者だったか」
『ああ? 冬華とはこれから繋がるんだよ。俺たちは一つになるんだ』
アイズは恍惚とした表情で言い放つ。
(キモッ! キモッ!! 私がいないとこで何言ってんのあいつ! キモイんですけど!)
冬華は背筋に怖気が走り身震いした。
カルマは今にも飛び出していきそうな足を押さえつけ、アイズを睨み「(あの野郎、勝手な事言いやがって。冬華とは俺が……)」とゴニョゴニョ言っている。
「何を意味のわからぬことを……担い手様、どうか彼らをお救いください」
主教はアイズを放置すると、イルムに村人達の浄化を頼んだ。
しかし、イルムはオドオドしたまま困った顔をしている。
「担い手様?」
主教が声を掛けると、ビクッとし硬直する。気持ち顔色も青ざめている気がする。
そして、しどろもどろになりながらも告げる。
「ぼ、僕は……僕には、彼らを救うことはできません」
「なぜですか!? 精霊様のお力をお借りして、どうかお救いください!」
主教が再度願うと、どこからともなく声が聞こえて来た。
『ボク、そんなおっかない精霊のいるところになんて出ていけないよ! 怖いよぉぉ……』
幼いフォンテはアイズを目の当たりにし、怯えているようだ。本能的に危険だと感じているのだろう。
「ぼ、僕は、フォンテを仲間の下に返してあげるためにここまで来たんだ。僕には何の力もないんだよ!」
イルムは頭を抱えて蹲ってしまった。
冬華の目には、イルムの側に同じように蹲るフォンテの姿が見えていた。
『アハハハハハッ、そんなガキの精霊に助けを乞うとは、この国も終わりだな』
アイズにもフォンテの姿が見えているようだ。
精霊の力は見た目では測れない。それはアーサーを見ればわかることだ。しかし、フォンテは明らかに怯え、戦える力はないように見える。
「そ、そんな……それでは我々はどうすれば……」
主教の顔は青ざめ、無意識に後ずさっていた。
『どうする? 聖域の場所を言うなら命だけは助けてやるぞ?』
アイズの甘い囁きに主教はピクリと反応する。
しかし、主教が言葉を発する前に、ライオニールが前に出て言い放つ。
「黙れ! 貴様の戯言に耳を貸す者などいない! そう言ったはずだ!」
(おお、さすが百獣の王! でも、あと一押しで主教の口が割れたのに……まあアイズに知られるわけにもいかないか……)
冬華はこの機に便乗して聖域の場所を聞き出せないかと密かに考えていた。
『そうか、それなら予定通り一人ずつ殺していくか。いや、どうせなら、その担い手様を最初にしてやろう。何もできないなら、せめて主教の期待に応えて真っ先に死んでやれ』
「ええっ!?」
アイズの標的が自分に変更になったことで、イルムは腰を抜かしてしまった。
腰を抜かし動けないイルムに、アイズは近づいて行く。
そこへ、ライオニールやリューイ、兵士達が立ち塞がる。
「貴様の相手は我らがする!」
『ああ? お前らの相手はこいつらだろ?』
アイズが手を上げると、瘴魔化した村人達がライオニール達に襲い掛かっていく。
「くっ!? 卑怯な!」
『フンッ、言ってろ』
村人達に襲われるライオニール達を横目に、アイズはイルムの前で止まる。そして、腕を振り上げると、手から黒い水が伸び剣の形となる。
アイズは闇水の剣を握り、
『まず一人!』
イルムへと振り下ろした。
やっぱりアイズでしたね。
でも、冬華はなぜなかなか手を出さないのか……




