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対ロイド戦

「クヒッ、ワタヒ、ワタシガ、ミチビクゥゥゥッ!」

 ロイドは狂声を発し、あたり構わず暴れはじめる。

 その為、近くにいたケイトもその標的となった。

「チッ! まったく、あなたの相手を向こうでしょうに。敵の区別もつかなくなったのですか?」

 ケイトはロイドの攻撃を躱し悪態を吐くと、後方に跳びロイドの攻撃範囲から距離を取った。

 手近な獲物がいなくなったロイドは、次なるターゲットを捜し首をカクカクと動かしまわりを見渡す。そして一番近くにいたロマリオへ視線が向くと、首がピタリと止まる。

「ヘイカ、ヘイカハ、ワタ、ワタヒガァァァッ!」

 ロイドはロマリオへ向け黒い血を撒き散らしながら猛然と突進していく。

「やめろロイドッ!?」

 ロマリオは何とかロイドを正気に戻そうと、声を張り上げるが、ロイドは止まる気配を見せない。

「陛下! お下がりください!」

 マーサがロマリオの前に出ると、防御壁を展開する。

 ロイドは、防御壁の上からその腕を振り下ろした。

「クヒャァァァッ!」

ガツンッ

「グッ!?」

 マーサは、その衝撃で片膝を着く。

 ロイドはさらにもう一撃腕を振り下ろそうとする。

 そこへ、出遅れた光輝が割って入って行く。

 光輝は左腕に風を纏わせ、振り下ろされるロイドの腕めがけて、拳を打ち上げた。

「うおらぁぁぁっ!」

ドズンッ

「グッ!?」

「クヒャッ!?」

 お互いの腕は弾き返される。

 しかし、光輝の突っ込みながらの打ち上げは体勢が悪く、突進の勢いを止めるのに一瞬の硬直が生じた。

 それと対照的に、ロイドは二撃目だった為、体勢は崩しておらず、すぐさま三撃目を放ってきた。

 光輝は何とか防御しようとするが、間に合いそうにない。

衝撃の矢(インパクトアロー)!」

ヒュンッ

ドンッ

 汐音が衝撃の矢を放ち、ロイドの三撃目を弾き返した。

 腕をかち上げられ隙のできた脇腹へ、光輝は風で圧縮した空気の塊を両腕で押し出し打ち込んだ。

空気爆弾(エアーボム)!」

ドッ、バァァァァン

 空気の塊がロイドの脇腹に直撃すると、圧縮した空気が一気に拡散し、爆風となってロイドを吹き飛ばした。

 ロイドの体は、ドチャッブチャッと耳障りな音と共に地面に打ちつけられ、バウンドしながら転がっていく。膨張した体が転がる様は、まるで血肉製の大玉転がしのようだ。

「ばあちゃん! じいちゃんは?」

 光輝がマーサに訊ねる。

「こ、光輝?」

 その呼ばれ方に違和感を覚えたマーサは、すぐに答えることができずにいた。

「あ~っと、し、師匠はどこだ?」

 光輝は誤りを正すように言い直した。

「あ、ああ、嵐三はワイバーンの相手をしておる。早く加勢に向ってほしいんじゃが……」

 嵐三一人にワイバーンを任せるには年を取り過ぎている為、心配なのだろう。しかし、今のこの状況で光輝たちを向かわせる事も出来ず、困っているようだ。

 光輝もあんな変貌を遂げたロイドを放って行くことは出来なかった。

「じいちゃんには悪いけど、少し踏ん張ってもらうしかない。まずはこいつを倒す! ばあちゃんは陛下を連れて下がっててくれ!」

「う、うむ、わかった」

 マーサはやはり光輝のその呼び方に違和感があるようが、今は素直に従い、ロマリオを連れて戦闘エリア内から離れる。

 光輝はロイドを見据えたまま声を張り上げる。

「ケイト! ロイドにどれだけの瘴気を打ち込んだんだ!」

「どれだけ? そうですね、少し多めにローズブルグを護れるくらいに、ですよ。元々の肉体が弱い所為で、耐えきれずに肉体が崩壊をはじめていますが、本望じゃないですか?」

 ケイトは、さも当然のように言うが、とてもじゃないがそうは見えない。

「どこがだよ」

「だってそうでしょう? 国を守るには皆さんのような力が必要、でも自分にはそれがない。だから皆さんを国に縛り付けようとした。私はそんなロイド殿にその力を与えたんです。皆さんの力を必要とせず、自分の力で国を守ることができるんです。これほど嬉しいことはないでしょう? 残念ながら自我が崩壊し、国を護るという目的を忘れてしまったようですけどね。だから光輝さん、遠慮なく始末してくれて構わないんですよ」

 ケイトは、真っ直ぐにロイドを見据えて言い放っていた。

 やはりシルバと目を合わせる気はないようだ。

「どうしてそんなことをする?」

「どうして? それはロイド殿が望んだことだからですよ」

「ロイドが?」

「ええ、ロイド殿は光輝さんたちに変わる力を欲していた。あなたたちは精霊の世界に向おうとしていましたから、力を手に入れることが急務だったのでしょう。そこへあの方がお声を掛けたのです」

「あの方?」

「セイシ様です」

「セイシ?」

 どこか日本風な名前が出て来た。そのセイシとやらが瘴気に手を加えて扱っているのだろうか。

「セイシ様がワイバーンを手なずけられるところを見せると、ロイド殿はすぐに跳びつきました。そして、それを陛下に戦力として認めさせるためにローズブルグを襲わせたのです」

「なんてことを……」

 汐音は信じられないモノを見るような視線をロイドへ向ける。

 しかし、デモンストレーションとして効果は抜群だろう。ローズブルグを襲わせ、手なずけたワイバーンでそれを制圧する。そしてプレゼンすれば認めざるを得ないだろう。襲わせたのがロイドだと知られれば、反逆罪として捕らえられるが、言わなければ済む事だ。たった今ケイトに暴露されたけれど。

「しかし、ロイドの計画では魔物で襲わせるつもりはなかったはずだ。いや、本当に襲うつもりなどなかったはずだ。あくまでもフリのつもりだったはず。ロイドはあれでも国の事を考えているだろうからな。セイシがロイドの計画を利用し、魔物を使って襲わせローズブルグを滅ぼそうとした。違うか?」

「いえ、それは結果的にそうなるだけのことです。セイシ様の目的は他にあります。それは……」

 ケイトはそこまで話すと、顔を歪ませ口を噤んだ。

 確信を突くようなことは話してくれないのか。それとも……

「ケイト!」

 シルバがケイトの名を叫ぶと、ケイトは、顔を伏せ背ける。

「ケイト、どうしてそこまで話してくれたんだ?」

「……」

 ケイトは光輝の問いかけに無言で答える。

「ケイト、お前は……」

 光輝が更に問いかけようとすると、

「ワタ、ワタヒガ、ワタヒガガガガァァ……」

 ロイドが起き上がり狂声を上げた。

「チッ! シルバ! ケイトを説得しろ! 行け!」

「はい!」

 シルバはケイトの下へと駆け出した。

 ケイトはビクッとし、シルバから逃げるようにその場から駆け出していく。

「待ってくれケイト!」

 シルバはケイトを追いかけて謁見の間を出て行った。

「汐音は俺を援護してくれ!」

「はい!」

 その声を聞き、ロイドは光輝たちに向け呪詛のように言葉を吐き出した。

「ジャマジャマジャマジャマジャマジャマ、ジャマヲ、ヒュルナァァァァッ!」

 ロイドは血反吐を撒き散らしながら光輝へと突進してくる。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 光輝は、ロイドへ向け竜巻を放った。

 竜巻はロイドに直撃すると、ロイドの動きを封じるように体のまわりに渦巻いて行く。

 矢を番えた汐音が光輝に訊ねる。

「どうするんですか? 浄化して助けられるんですか?」

 ロイドの膨れ上がった体は、すでに元の体を保っていない。肥大し過ぎて皮膚や筋はズタズタになっている。このまま浄化したところで、体の崩壊を止めることは難しいだろう。浄化出来たとしても五体を失い植物状態になるだけだ。汐音はそれに気づいているようだ。

「浄化はする。しかし、どう見ても助からないだろう。だから、終わらせる」

 光輝は無慈悲に告げた。 

「くっ、わかりました」

 医師を目指す汐音としては、助けられる命は助けたいと思っている。それと同時に、助けられる命とそうでないモノを振るいに駆けなければならない時があることも知っている。

 国を思っての行為かもしれないが、狂行に及んだこれが報いだろう。

 しかし、それを躊躇なく言い放つ光輝に(アキに)、汐音は不快感を覚えていた。

 光輝はロイドを捕える竜巻を風の檻にすべく、魔力練り込む。

 そして、魔法を放とうとした。

風の(ウインド)……」

バシャンッ

 すると、水をぶっかけたような音が響き、ロイドを覆っていた竜巻が斬り裂かれ霧散した。

 竜巻を斬り裂いたのは、ロイドの腕から伸びる、黒い血の滴る黒い刃だった。

「チッ! ただの竜巻じゃ拘束できなかったか」

 ロイドは黒い血刃を振り回し、光輝に迫って来る。

衝撃の矢(インパクトアロー)!」

ヒュンッ

ドンッ

 汐音の衝撃の矢がロイドの顔面に直撃し、一瞬突進を止める。

 その隙に光輝は両腕に風を纏わせ、風刃へと変えた。

バシュッバシュインッ

 ロイドの黒い血刃を光輝は腕に纏った風刃で受け止める。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 そして、両腕の風刃を振るい、ロイドへ連撃を浴びせる。

「グワァァァッ……」

 ビチャビチャッと黒い血肉を撒き散らし、ロイドは苦悶の声を上げる。

 所詮は宰相、兵士でないロイドに戦闘スキルはない。いくら瘴気で力を増したとはいえ、それを生かす技量はなかった。

 光輝は、もう一度ロイドを捕える前に、再び黒い血刃で斬り裂かれないように先手を打った。

「うおらっ!」

ザシュザシュッ

「ウギャァァァッ!?」

 光輝は両腕の風刃を振り下ろし、ロイドの両腕を斬り落とした。

 肉も筋もズタズタになっているロイドの両腕は、容易く斬り落とすことが出来た。

 光輝は後方に飛び退き、魔力を練り込み魔法を放つ。

「ハァァァッ! 風の檻(ウインドケイジ)!」

 ロイドの足元から竜巻が巻き起こり、ロイドを包み上げて行く。

 そして、逃げ道を塞ぐように竜巻の先端と根元が萎んでいき、風が乱回転しはじめ球体となる。

 光輝は両腕を風の檻に向け浄化をはじめる。

 風の檻の中から、轟轟と鳴る風の音に混じりロイドにうめき声が漏れ聞こえてくる。

 汐音は矢を番え、自身に身体強化(フィジカルフォース)を掛けもしもの事態に備える。

 

 順調に浄化が進んでいるかに思われたが、リオル村での光輝の浄化を見ていた汐音は、明らかに浄化のスピードが落ちている事に気付いた。

 ロイドの打ち込まれた瘴気が村人を蝕んでいた瘴気の比ではないにしても、遅すぎるのだ。それに、光輝の様子もおかしい。

「くっ……」

「光輝? 大丈夫ですか?」

 光輝は明らかに表情を滲ませていた。

 浄化が上手くできていないということなのかと、汐音が声を掛けるが、

「だ、大丈夫だ。思ってたより、瘴気が多くて苦戦してるだけだ」

 と光輝は言う。

 汐音はその言葉を信じ、警戒を続ける。

 すると、斬り落としたロイドの腕が自我を持ったかのように蠢き、光輝に向け飛び掛かってきた。

「クソッ!?」

 光輝は身動きが取れず悪態を吐く。

「光輝!」

 汐音は、番えている矢ではロイドの両腕を防ぎきれないと判断し、弓矢を手放し、太腿に装備している警棒に手を伸ばす。

 ジャキンと警棒を伸ばすと、警棒に魔力を籠め光輝の前に壁となるように立ち塞がる。

 身体強化で能力を向上させた汐音は、素早く警棒を振りロイドの両腕を叩き落とす。

ガツガツッ

 そして、素早く蹴り飛ばし、風の檻に蹴り込んだ。

 ロイドの両腕は、風の檻の気流に飲み込まれ、内側へと、引き込まれて行った。

「すまん、汐音」

「いえ、それより早く浄化を」

「ああ、おぉぉぉぉぉっ!」

 光輝は力を振り絞るように浄化の力を注ぎ込んだ。

 ロイドのうめき声が絶叫へと変わって行く。

 そして、うめき声が消えると、フォンッと風の檻は霧散する。

 後に残るは、血みどろのロイドだけだった。

 ロイドは膝から崩れ落ち、膝を折るように仰向けに倒れていく。

ドチャッ

 と血肉が潰れ散る音が響く。

 ロイドは目を見開き、その視線は何を見るでもなく宙を彷徨わせている。

「わた、わたひが、ヘイカをおまもり、し、このクニを……ゴプッ」

 ロイドは、自分こそが陛下を守り、国を守るのだと今でも考えているようだ。保身の為だとばかり思っていたが、国の事を第一に考えていたのだろう。ただやり方を間違えただけで……

 光輝はロイドを見下ろし呟いた。

「お前はもっと、自国の兵士たちの力を信じるべきだったんだ」

 戦いが終わったと察し、ロマリオとマーサが歩み寄って来る。

「ロイド、一人で思い詰めず、我々と協力し合うことができていれば……」

 ロマリオは口惜しそうに、黙考する。

 そして、光輝に告げる。

「ロイドを、この国を思って尽力してくれたこの男を、解放してやってくれ」

 それは、国を守るという呪縛から解き放ってやってくれと言う事だ。

 光輝は頷くと、剣を抜きその切っ先をロイドの胸へ向ける。

 そして、一突きに心臓を貫いた。

ブスッ

 ロイドの体は、ビクビクッと痙攣すると、動かなくなった。

「悪いな、痛みもなく終わらせてやりたかったんだが……」

 きっと汐音ならその方法を知っていたかもしれないが、汐音にそれをさせることに抵抗があり、光輝は自ら手を下したのだ。

 光輝は剣を抜くと、黙祷を捧げる。

 汐音も同じく黙祷を捧げた。

 目を開いた光輝は振り返り、まだ戦闘を続けている嵐三の下へ向かおうと汐音に告げる。

「行くぞ、汐音」

「はい!」

 戦闘音は隣の兵舎の辺りから聞こえてくる。

 ロマリオたちを巻き込まないようにワイバーンを引き連れ場所を変えたのだろう。

 光輝たちは、以前のアキとシンの戦闘で壁が崩れ落ち吹き抜けとなったままの箇所から、兵舎の屋上で戦う嵐三とワイバーンの姿を目視する。

 光輝はしばし考えると、汐音をお姫様だっこで抱きあげる。

「ちょっ、ちょっと! こんな時に何をするんですか!」

 汐音は動揺を見せ、光輝の腕の中で暴れ出す。

「バッカ、暴れるな! 落ちるだろうが! いいから大人しくしてろ!」

「で、ですが……」

 汐音は恥ずかしいのか、俯いてしまう。

 お姫様だっこなど、そうそうされるものではない。ましてや自分がされるとは思ってもいなかったのだから、取り乱しても仕方がないだろう。

「いいからちゃんと摑まってろ!」

 光輝はそう言うと、躊躇なく飛び降りた。

「え? えっ!?」

 そして、城中に汐音の悲鳴が鳴り響いた。

「キャァァァァァァァァッ!?」


感想お待ちしております。心から。

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