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謎の黒幕と謎の依頼

 麻土香と風音はその場に座り込みむ。

 シルバは悔しそうに下唇を噛みしめ、飛び去っていくワイバーンを、その背に(またが)るケイトの背を姿が見えなくなるまで見つめていた。

「カレンちゃん……」

 汐音はカレンの消えた場所を見つめていた。

 心配気な汐音に光輝は告げる。

「カレンを助け出すチャンスはまだある。ヤツ(ワイバーン)はカレンに何か仕事をさせようとしていた。まだ利用価値がある以上命を奪うことはないだろう」

「ですが、それが危険な仕事だとしたら……」

 どこかの国を亡ぼす仕事だとしたらかなり危険だろう。人間から敵と認識されてしまう。

 しかし、光輝はそれはないと考えていた。

「大丈夫だ。カレンが送られた先は、おそらく……くっ!?」

 光輝はガクンと膝を折り、倒れてしまった。

「光輝!」

 汐音は光輝を抱き起す。

「大丈夫ですか!?」

 汐音は光輝の顔色、目の色を確認する。

 肌の色は今だに黒ずんでおり、目の色は、瘴気の侵食の所為で白目がわずかに見える程度。瘴気の浄化はまだ完了していないようだ。

「あ、ああ、カレンは大丈夫だ」

「違います! あなたの事を言っているんです!」

「あ? 俺の事? 心配して……」

 汐音が自分の事を心配してくれているのだと気付いた光輝は、最後の力を振り絞り目の前の汐音に抱きついた。

「ありがとう!」

ガバッ

ガシッ

 しかし、汐音のアイアンクローの前に押し返されてしまった。

 瘴気の影響で力が上手く出せないようだ。

「大丈夫そうです、ね!」

 汐音は手の力を強める。

 ギリギリと頭が締め付けられる。

「ぅおあっ!? はい! すみません、調子に乗りました!」

 光輝が謝罪し大人しくなると、汐音はアイアンクローを外す。

「ハァ、悪いけど風音を呼んでくれないか?」

 光輝は汐音に支えられたままそう頼んだ。

 汐音はすぐに風音を呼び寄せた。

 汐音は、風音に浄化をさせるつもりなのだと思っているようだ。

 しかし、光輝は呼び寄せた風音に違うことを頼んだ。

「風音、東の空に二発爆音を鳴らす魔法を放ってくれ。それがマリアさんへの合図になってるから」

 風音は少し不貞腐れたようにそっぽを向く。

「光輝兄ちゃんがすればいいだろ。兄ちゃんみたいな力があれば俺の力なんて必要ないだろ」

 光輝の魔法を見て、自分の力は必要ないと感じてしまったようだ。

「風音!」

 麻土香が風音を(たしな)めようとする。

 それを光輝が手で制止する。

「風音、お前の力は必要だ。今の俺はこの様だ、しばらくまともに魔法は使えないだろう。それに俺の力は一時的なものだ。すぐに使えなくなる。無駄にデカイ魔法を使ったのは風音に見ててほしかったからだ」

「俺に?」

「ああ、お前はいずれシルフィと盟約交わすことになる。そのとき、シルフィの力を最大限引き出すには、お前が成長するしかないんだ」

「そんなの、兄ちゃんがすればいいだろ。俺の力なんて……」

 風音は光輝との力の差を見せつけられ自信を失ってしまったようだ。

「俺にその資格はないんだよ。俺はシルフィと盟約を交わすことはできないんだ。言っただろ俺のこの力は一時的な物だって。シルフィと盟約を交わせるのは、風音、お前しかいないんだ」

 光輝は悲しそうな表情で告げた。

「でも、俺の力じゃ……浄化だってまともにできないのに」

「はじめはみんなそうだ。麻土香だって最初はまったく浄化できなかったんだ」

 光輝の言葉に続くように麻土香が告げる。

「そうよ、私にもできるようになったんだから、風音にだってできるわよ!」

「そうですよ。自分の力を信じてください」

 汐音が力を伝えるように風音の手を握る。

「……うん、わかった。俺、どこまでやれるかわかんないけど、兄ちゃんに負けない風使いになれるように頑張るよ!」

 風音は汐音の手を握り返し決意を新たにする。

「なんで汐音の言うことは素直に聞くんだよ」

 光輝はジトッとした視線を風音に向けて呟いた。

「まあまあ、風音も男の子なんだし、やっぱり女の子に励まされた方がやる気になるのよ」

 と、麻土香がフォローする。

「うぐぐぐぐ……」

 光輝は、頭では納得できなかったが、気持ち的にはわかってしまうため、納得するしかなかった。

 風音が汐音の言うことを素直に聞くのは、少しシルフィに似ているところがあるからかもしれない。

 風音はやる気を取り戻すと、光輝に言われた通り、東の空へ魔法を放った。

 初見で、光輝の魔法を見抜いたと汐音から聞いていた。そのセンスがあれば同じ魔法を放つことは出来るはず。

 光輝の推測は当たり、バンッバンッと東の空に大きな破裂音が響いた。

 この分だと、マルボルネードもすぐにできるようになるかもしれない。使わないかもしれないけど、と光輝は少し悲しくなった。

 合図は送れた。後はマリアたちの到着次第石化を解き、ここを任せて城に戻るだけだ。

 麻土香と風音はマリアたちが来るのを村の前で待とうと、東門へと向かう。

 光輝はマリアが到着するまでに体を動かせるようにしようと思い、体を起こすと体内の瘴気と向き合おうとする。

 すると、

「あの、今の話ですけど……」

 と、汐音が話し掛けて来た。

「あの力を使えなくなるというのはどういうことですか?」

 汐音は不安げな表情で訊ねる。

 光輝がワイバーンを相手どっていた時に感じた不安が、光輝の話を聞き膨れ上がっていたのだ。

 光輝は汐音が心配してくれているのだと気付き、パアッと晴れやかな表情で感激を露わそうとハグしようとした。が、今は体が動かずハグできなかった。

 光輝は、その衝動をグッと堪えて告げる。

「なんでもないよ。汐音が心配するようなことは何もないから安心していい」

 その表情は、やはり悲しげなものだった。

 その為、その言葉を聞いても汐音の不安感は晴れなかった。

「あ、あなたは大丈夫なんですか?」

 汐音の言葉に光輝は目を丸くする。

 まさか本当に心配してくれているとは思っていなかったのだ。

 しかし、それでも光輝の答えは変わらなかった。

「大丈夫、汐音がそうやって少しでも心配してくれるなら……俺は平気だ」

 光輝はそういうと、微笑みを見せる。

 それはこれ以上の事は何も言わないと、暗に言っているようで汐音は胸が苦しくなった。

 汐音はそこで引いてはいけない気がし、さらに問いただそうと口を開こうとした。

 そこへ、

「光輝さん、少しいいですか?」

 シルバが話に割って入ってきた。

 光輝の中では汐音との話は終わっていた為、頷き返した。

 汐音は会話を切られ一瞬表情を曇らせる。

 しかし、シルバの話も気になるため、光輝への問いただしは後でゆっくりしてやろうと、心に決めた。その時は当分来ないのだが……

 シルバは光輝たちに訊ねる。

「あの、光輝さんたちはケイトの事を気付いていたんですよね?」

「ああ、かもしれない、程度だったけどな」

「ケイトは……敵、なんですか?」

 シルバは口にしたくなかったであろう言葉を口にした。拳を強く握り込んでいるのが見える。余程悔しく辛いのだろう。

 光輝はシルバを真っ直ぐに見つめる。

「敵かもしれない、と思っていた。けど、違うかもしれない」

 光輝の言葉にシルバだけでなく汐音も驚いた表情をしている。

「それはどういう意味ですか? 光輝はケイトさんの事を疑っていたじゃないですか」

 と、汐音が横から口を挟み訊ねてくる。シルバも同じ疑問を抱いているのだろう、黙って光輝の言葉を待っている。

「俺もそう思っていたんだけど、違うかもしれない。あくまでも推測の域を出ない考えだし、希望的観測かもしれないけどね」

「それは、どうして?」

「ケイトは本気でシルバの事を心配していた。ワイバーンに襲われるシルバを助けようと真っ先に飛び出して行ったから、それは間違いない」

 そこは汐音も同意見のようだ。

「そして、ケイトは最後、シルバの顔を見ずに別れを告げた。顔を見ると決心が揺らぐと思ったんじゃないか?」

「決心?」

 汐音はわからないと言った表情だ。

「ああ、決別の決心。シルバの顔を見たら、言ってしまうかもしれない。助けて、と」

「助けて……」

 シルバはあの時のケイトの姿を思い出し、俯く。

「ケイトはヤツの命令を聞くしかなかったのかもしれない。だから決心を鈍らせるシルバの顔は見れなかった、かもしれない」

「かもしれない」

 シルバは願いを込めるように復唱した。

「何か理由があるかもしれない。だから、まだ諦めるな」

「はい!」

 光輝の励ましにシルバは力強く返事をした。

 汐音は別のところに引っかかっているらしく、難しい顔をしている。

「光輝、一ついいですか?」

「ん? なんだ?」

 光輝は質問を促す。

「ヤツがケイトに命じた事なんですが、依頼とは何なんでしょう? 城へ向かったようですし、滅ぼすとも言っていました」

 今回の件はカレンを捕えるためのものと思っていたが、まだ終わっていないようだ。奴らの目的はローズブルグを滅ぼすことなのか? それが依頼なのか? その依頼は誰から?

 疑問は尽きない。

 光輝も同じ疑問を抱いていたが、わかることは少ない。

「今回の件は、カレンを捕えることだけが目的ではなかったんだろうな。ローズブルグを滅ぼすことが目的なら、それを邪魔するであろう俺たちを排除したいはずだ。今回の件は俺たちを(おび)き出す為の陽動かもしれない」

「だとしたら、依頼というのは……」

「ああ、カレンを捕えることではなく、ローズブルグを滅ぼす事、かもしれない。そしてそれを依頼したのは……」

 汐音は、その依頼をしたであろう疑わしい者の名を、自信なさげに告げる。

「宰相のロイド、ですか?」

「ああ、あれだけ俺たちを城から出すのを反対していたロイドが、掌を返すように快く送り出したんだ、怪しいだろう?」

「ですが、彼がローズブルグを滅ぼすようなことをするでしょうか?」

 良くも悪くもロイドはローズブルグの事を思っている。さすがにそこまではしないと汐音は思っているようだ。

「そうです! ロイド様はご自身と国を守ることはしても、滅ぼすようなことはしません」

 シルバも汐音と同じ考えのようだ。しかし、自身を先に言ってしまうあたり、シルバがロイドの事をどういう風に見ているのかがわかってしまうな。

「だよな。そこ、引っ掛かるよな。だから、依頼自体が違うんじゃないか?」

 光輝の言葉に二人は怪訝そうな表情をする。

「ローズブルグを滅ぼす事が依頼だって、あなたが言ったんですよ?」

「ああ、かもしれないってな」

 光輝はフフンと言った表情をする。

 汐音はイラッとした。

「じゃあ、本当の依頼って何ですか?」

 汐音は苛立ちを抑え訊ねる。

「ロイドにとって、今一番邪魔なモノは何だと思う?」

 光輝の問いに二人は難しい顔をし答える。

「やっぱりローズブルグを脅かす存在、ですか?」

「ドラゴンじゃないですか?」

 汐音とシルバはそれぞれ答えるが、光輝は惜しい! と言ってヒントを告げる。

「確かにそうだが、外敵だけが敵とは限らないだろ?」

 シルバは思考が追い付かず首を傾げている。

 汐音は少し悩むと、答えにたどり着いたのかハッと顔を上げる。

「私たちを精霊の世界に送り出そうとするロマリオ陛下ですね!」

「さすが汐音! 正解した汐音には商品として俺がハグをしてあげよう」

 光輝はそういうと両手を広げる。しかし動けない為、汐音が胸に飛び込んできてくれないとハグできなかった。

「いりません」

 汐音は冷静に拒否する。

 光輝がガッカリしたように項垂れる。

「推測だけどさ、ヤツとロイドがどこでどうやって接触したかはわかんないけど、ロイドはヤツに陛下を亡き者にしてくれと依頼した。そして、陛下亡き後、ローザ様を王座に据え、実権をロイドが握る。みたいな? そんなありがちな展開かなって」

 光輝は軽い感じに締めくくる。

 つまり、ロイドがクーデターを起こそうと画策していると、光輝は言っているのだ。

「そんな大それたことを、ロイド様が本当にすると思ってるんですか?」

 とてもじゃないが信じられないと言った面持ちでシルバは声を上げた。

「だから推測だって」

「ではローズブルグを滅ぼすというのは?」

「それは、ロイドの依頼と称してローズブルグを滅ぼしてやろうっていうヤツの狙いだろ? 瘴気に手を加えるようなヤツだぞ? それくらいするだろ」

 汐音の問いに、光輝は当然のように答える。

 黙り込む二人を一瞥すると、重苦しい空気を払拭するようにさらに告げる。

「何度も言いけど、あ、く、ま、で、も! 推測だからな? ヤツがどういう理由でローズブルグを滅ぼすのかもわからないし、ロイドが本当にそんな依頼をしたのかもわからない。それを聞き出す為にも早く城へ戻ってワイバーンを倒し、ケイトを止めるしかない。ケイトならヤツの正体や滅ぼそうとする理由を知ってるかもしれないしな」

「そうですね。ワイバーンの相手は我々がしますが、ケイトさんを止めるのはシルバ君の仕事ですね」

 汐音はチラリとシルバへ視線を向ける。

「え? 俺ですか?」

「当たり前だろ? 惚れた女くらい命懸けて救って見せろ!」

 光輝はシルバに発破を掛けるようにケツを蹴りたかったが、動くことができなかった。

 シルバは、はい! っと照れることもなく返事をした。

 少しは動揺しろよ、つまんねぇなぁ。と、光輝は思っていた。

「まあ、そういうわけだから、今のうちにしっかり休んで置けよ。マリアさんが到着したらすぐに出発するからな」

 光輝はそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。

「光輝!?」

 汐音は先ほどの不安もあり、光輝が永遠の眠りにでもついてしまうのかと錯覚していた。

 光輝は再び目を開くと、しら~っとした視線を汐音に向ける。

「ちょっと、この瘴気を何とかするからしばらく話し掛けないでくれる」

「あ、そうでしたか……あ、それなら麻土香さんに浄化してもらいますか? すぐに呼んできますよ」

「いや、いい。自分でするから。ちょっと休みたいし、汐音も休んでてくれ」

 光輝はその場でゴロンと横になった。

 汐音はその側に腰を下ろしたまま、じっと光輝の顔を見つめていた。


 しばらくすると、マリアたちの部隊が到着した。

 麻土香が村人たちの石化を解くと、村人たちの容態の確認、結界の修復、村の警備へとそれぞれに別れ仕事をこなしていく。

 光輝はまだ動くことができなかった為、汐音がマリアに事情を説明した。

 汐音たちは、マリアから馬車を借り受け、光輝を積み込むとローズブルグへと出発した。


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