遺跡にて
「これが遺跡かぁ」
総司は遺跡を見学しに来ていた。
結衣たちを護衛しシドー村へ来たのだが、結衣の用事が終わるまで時間を持て余してしまい、こうして遺跡を見に来たのだ。
遺跡は壁は崩れ、石柱は倒れ、屋根は吹き飛んでいる。
「なんか、廃墟みたいだな」
総司は誰かが言ったようなことを呟いた。
まだ修復はされていない。というか、そんなにすぐに元通りになどできるはずがないのだ。
総司は瓦礫を避けながら奥へと進んで行く。
遺跡の最奥では、守理が数人の魔法士と共に転移陣に封印の術式を施している最中だった。
封印と言っても、完全に閉じてしまうわけではない。今まで通り、許可無き者が出入りできなくすると言うものだ。つまり出入りできるのは精霊が出した条件に該当する者、継守と同じ力を持つ者とその同行者ということだ。
「ん~アキを追いかけるならまだ術が完全に施されていない今しかないってことか?」
総司はとんでもないことを口走っている。
それはいろいろな約束や条件を反故にする最もダメな行動である。
今総司が一人で精霊の世界へ行くということは、結衣を守ると言う約束を破る事、そして、精霊の出した条件を破る事、そして、嵐三が出した提案を潰すことになるのだ。
結衣を守る、それはアキとの約束であり、結衣との誓いであり、自分に課した使命である。
精霊の出した条件というのは言うまでもなく、許可なき者が精霊の世界に足を踏み入れないと言うものだ。
そして、嵐三の提案というのは、総司たちが城を出る条件として高官たちに出したものだった。
総司たちが城に縛られている最大の理由、ドラゴン。これを早急に見つけ討伐するには、一か所に固まっているのは得策ではないと言うのが嵐三の言い分だ。当然高官たちは反対するだろう。戦力を分散することは自らを危険に晒すようなものだ。しかし、ドラゴンを討伐するために光輝たちを城に留めているのだ、それを理由に出されては反対もできないだろう。もし反対してしまったら自らの保身のためと言っているようなものだ。嵐三はそこをついてそう提案したのだ。
そして総司たちを選んだのにも、理由がある。
結衣の用事がそれである。
結衣は今、継守の下で修行している。結衣の力の話をアキから聞いていた嵐三だが、それが自分の専門外の力だと手に余り、同種の力を持つ継守に相談したのだ。結衣の力を見てもらうため、そして同じ力ならば修行をつけてもらおうとしたのだ。
結果、結衣は今修行をつけてもらっている。同じ力だったのだ。
結衣が力をつければ、継守や継美に頼らずに精霊の世界に入ることができる。つまり、今強行して精霊の世界に行き精霊と敵対することもないということだ。
そして、結衣たちの護衛に総司を選んだのは、結衣と一緒にいさせてやるということもあるが、総司が高官たちの事を良く思っていないと気付いていたからだ。イライラが募っては総司の精神衛生上よくない。問題を起こして立場を危うくしてしまうのもよくないと思い、外に出したのだ。
嵐三の心遣いを無下にしないためにも、総司は強行して精霊の世界に行くつもりはない。さっきの一言はちょっと言ってみただけなのだ。
なのだが、それに答える者がいた。
「今行っても、アキ兄ちゃんのいるところに行けるとは限らないよ」
声の方へ振り返ると、一人の男の子がいた。エルロンだった。というか、いて当たり前なのだ。総司をここまで案内してきたのはエルロンなのだから。
「それはどういうことだ?」
総司が訊ねると、エルロンは顎に手をやり、思い出すように説明する。
「えっとね、転移陣の中央に魔石があるでしょ? あれに魔力を注ぐと転移陣が発動して精霊の世界、エルメティアに転移するんだけど、アキ兄ちゃんが転移した時に注がれた魔力がなんか特殊だったんだって。で、同じところに転移するには同じ魔力を注がないといけないんだけど、それを持っているのがルゥだけなんだよ。だから、もう同じところへは転移できないんだよ。って、守理様たちが話してた」
「じゃあ、俺が魔力を注いでも別の場所に転移してしまうってことか」
「うん。でも運が良ければ近くに転移できるかもしれないよ?」
エルロンは試してみる? と言いたげに、ニタニタ顔をしている。総司がそれを実行しないとわかっているからそう言っているのだ。完全に面白がっている。
そのニヤケ面を見た総司は、悪戯好きな女の子やその兄の顔を思い出してしまい、イラッとし意地悪したくなってくる。
「確かにお前の言う通りだな。よし! ロンがそういうなら試してみるか」
総司はエルロンが言ったからと強調して言う。神妙な顔でエルロンにそそのかされたと言う風に。
「ええ!?」
さすがにエルロンも焦りを見せる。自分の発言のせいで精霊を怒らせることになったら洒落にならない。説教どころの騒ぎでは済まないのだ。
エルロンは思い留まるように必死に説得をはじめる。
「や、やめた方がいいよ! 一人じゃ危険だよ! 近くに転移できるかもなんて知りもしない俺が勝手に言ってるだけなんだから、変なところに転移したら大変だよ! 結衣姉ちゃんも心配するよ! だからやめようよ! ね? やめよう? ……やめてくださいお願いします!」
エルロンは最終的に頭を下げお願いしていた。
その様子がおかしく、総司はふき出し大きな声で笑いはじめた。
「ぷっハハハハハハハハハハッ、ひぃ、ふふっ、じょ、冗談だよ。今は行ったりしないよ」
「……ひっでぇ、からかったのかよ!」
エルロンは頬を膨らまし、怒りお露わにするとそっぽを向いてしまう。
先にからかったのは自分だと言うことをすっかり忘れているようだ。
「ゴメンゴメン、悪かったよ」
総司が謝罪するも、エルロンはむくれたままだった。
「まあとにかく、今はドラゴンを見つけることが最優先だな。結衣の修行が終わるまでには見つけ出して倒してしまいたいところだな。でもどこに……」
結衣の修行が終わり次第、精霊の世界に向かいたいと思っている総司は、そういうと考え事をしながら村へ戻って行く。エルロンをその場に残して……
「あ! ちょっと待って! 置いてくなよ~」
そっぽを向いていた為総司が戻って行くのに気付かなかったエルロンは、焦ったように総司の後を追いかけて行った。
総司と結衣はしばらくシドー村に滞在することとなるのだが、近いうちにドラゴンの情報を手にすることになる。
……
……闇
……暗闇の中、赤い光が点々を灯っていく
轟轟と音を鳴らし、光は拡がっていく
「お願いだ! 助けてくれ! うあぁ! うあぁぁぁぁぁぁっ!」
「イヤァァァァァァッ!」
慈悲を乞う声や、悲鳴が響き渡る
それを嘲笑うかのように見下ろす女がいる
女は闇色の炎を全身に纏っていた
女は逃げ惑う人々を焼き払いながら町中を横断していく
男も女も、大人も子供も、幼児から年寄りまで、容赦なく焼き尽くし蹂躙していく
城が見えてきたところで、女の前に行く手を阻むかのように立ち塞がる者たちが現れた
「そこまでだ!」
戦士然とした格好の4人と、それを代表するように立つ身なりの良い男性の5人
「これ以上はやらせん!」
身なりの良い男性が声を上げると、4人は闇の炎を纏う女に魔法を放っていく
一人は炎、一人は水、一人は風、一人は土
各々魔法を放つ、が、
『ふん、マガイモノ共が!』
闇の炎を纏う女は腕を一振りすると、それらの魔法を弾き返す
「「「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」」」
4人は弾き返された自らの魔法をくらった
「よくも!」
身なりの良い男性は豪華な剣を振り上げ突進していく
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
その豪華な剣を振り下ろすが、闇の炎を纏う女はヒラリと躱す
そして、
『目障りだ、死ね』
闇の炎を纏う女は腕を振り上げると、纏っていた闇の炎を剣の形状に変化させ、振り下ろした
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
……
……
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
アキは大きな悲鳴を上げると、ベッドから飛び起きた。
「ハァハァハァ……また夢か」
アキは夢だと認識すると、再びベッドにバタンと仰向けに倒れ込んだ。
「……今のはフレイアってヤツだな。何をしようとしてたんだ?」
アキは夢の内容を思い出しつつ、分析をはじめる。今の夢が予知夢だと確信したのだ。
フレイアは城を目指していたようだ。前回の夢と合わせて考えても、どれも城を目指している。城に何があるのだろう? 城にある何か、それが奴らの狙いなのだろうか?
しかし、その何かがわからない。流れ的にもう一度夢を見そうな気もする。次の夢でそれが判明するといいのだが。
と、アキは夢任せ的な事を考えていたのだが、
「(いやいや、それが判明するってことはそれを奪われるか手遅れになるってことじゃね? ダメだろそれ……困った)」
と、困ってしまった。
選択肢としては、夢任せにするか、アキも城を目指すしかないのだ。
夢任せは手遅れになりかねない。
城へ向かうにしても、城で何を探したらいいのだろうか? 奴らのうち誰かを捕まえて聞き出すしかないだろう。しかし、居場所がわからない。
「(ん? いや違う、城に向って何かを探すんじゃなく、城で奴らを待ち伏せればいいんじゃね? うん、それが手っ取り早い)」
アキは行動方針が決まった。
次にあの登場人物たちについて考える。
それにしても今の夢に出て来た5人組、4戦士のおとぎ話を模しているようだったけど……偽者だろ? フレイアもマガイモノだと言っていたけど、どうなんだろう? あの力を見る限りでは本物ではなさそうである。というか、冬華たちがいるのだ本物のわけがない。では、なぜなりきろうとするのだろう? 憧れからか、妬ましかったのか、目的がわからない。
夢の中の話であるため、今の段階では確認のしようがない。特に重要ではないのかもしれないが、実物に会ってから確認するほかないのだ。
結論が出たところで、アキは起き上がろうとする。
そこで気が付いた。ようやく気が付いた。
視界いっぱいに広がる天井が、見知らぬ天井であるということを……
「ここ、どこ?」
アキは夢の中から困惑の渦に突き落された。
戦力分散、ドラゴンと遭遇したら、総司と結衣は二人で倒せるのか!