目撃情報
「ちょいさぁぁぁぁ!」
「「「ちょいさぁぁぁぁ!」」」
冬華の妙な掛け声の後、まわりから合いの手を打つように同じ掛け声が響き渡る。
「くっ!?」
コンッ、ココンッ
奇妙な掛け声がこだまする中、激しく木刀が斬り結ばれていた。
冬華と総司は演習場で試合を行っていた。観戦付きで。
「お、ソウ君やるねぇ。今のを受けとめるなんて」
冬華はニヤリと笑う。
「そう何度も負けてられないからな」
総司は頬を引き攣らせながら言う。正直ギリギリだった。二刀流を相手にするのがこうも面倒だとは思わなかった。部活の時にアキがたまに見せてくれていたが、何度お願いしても手合わせはしてくれなかったのだ。今何とか受け止められたのは冬華の実戦を何度か見ていたからだ。それでもこの試合の戦績は1勝2敗で負け越している。と言ってもこの1勝も冬華がまだエンジンの掛かっていない1試合目に取ったもので、その後は2連敗している。年下の女の子に負けているようじゃまだまだである。
「総司負けるなぁ!」
結衣の声援が聞こえてくる。それだけで総司の内から覇気が沸いてくる。
「おうおう、お熱いねぇ。彼女の黄色い声援を受けて羨ましいねぇ」
冬華は冷やかすようなことを口にする。動揺を誘うと言うわけではないのだろう。これはいつものことである。
「そっちだって、応援してくれる人達がいるだろ?」
総司はチラリと観客の方を見る。
「冬華ちゃ———ん!」
「冬華さんいけ———!」
一緒に訓練して仲良くなった娘たちや門兵のシルバたちが声援を送っている。
「まあねぇ、私の魅力は異世界でも留まるところを知らないから~」
冬華はおちゃらけて言う。
魅力かどうかはわからないけれど、誰とでも気さくに話の出来る冬華はすぐに友達を作っていた。そしてその剣技に魅了された兵士も少なくはない。弟子入りを希望してくる者もいるとか、いないとか。人気は確かなものだろう。
しかし、そこにはいてほしい人物がいなかった。
「カルマはいないけどな」
「うっ」
総司は冬華が密かに気にしていることを言ってしまった。
そのせいで冬華の動きは止まってしまう。
それを狙って言ったわけではない。確かにカルマがアキと共に行ってしまったと聞いた時、冬華は「なんでカルマなの?」と怒っていたが、それ以降は何も言っていなかった。その為、もう気にしていないのだと総司は思っていた。それがこうも如実に効果が現れるとは正直驚きだった。
予想外の展開ではあるが、この隙を逃す手はない。
総司は、一気に踏み込むと木刀を振り下ろした。
「メェェェェェン!」
言葉の通り面を打ちこんだ。
「うわっ!?」
冬華はそれを左の短刀で受け止める。
コンッ
冬華は短刀で受け止めたまま、右の長刀を総司の胴に横薙ぎに振り抜いた。
総司は腰を引き後方に下がりギリギリで躱すと、木刀を逆袈裟で斬り上げ冬華の短刀を弾き上げた。
そして、木刀をクルリと斬り返し、ガラ空きとなった胴を斬り抜く。
「どおぉぉぉぉぉぉっ!」
「っ!?」
木刀は胴ギリギリで寸止めされた。
それを見下ろし、冬華は頬を膨らまし文句を言う。
「ソウ君ずる~い!」
「「そうだ! ずるいぞ!」」
まわりからもブーイングが沸き起こる。
ブーイングを上げた者には、容赦なく結衣の眼光が突き刺さっていた。
「なに言ってんだ、戦場でズルイもクソもないだろう」
総司はアキが言いそうな言葉を言う。
「え~何それ~お兄ちゃんみたいなこと言わないでよ~。なに? お兄ちゃんの事リスペクトしてんの?」
総司は最も言われたくないことを言われショックを受けた。一度はクズと吐き捨てた男だ。そんな男と同類視されたくはなかった。
「誰がするか! そもそも先にチャチャを入れてきたのは冬華だろう!」
そう言われても冬華には身に覚えはない。なにせ意識して言っているわけではなく、ルーチンワークの如く、自然と口にしていたのだ。
「え? 何の事?」
冬華は可愛らしく小首を傾げている。
「……」
総司はさすがに呆気に取られてしまった。
試合の合間の小休止をしていると、二人に向け声が掛けられた。
「どうじゃ? 体の調子は」
「あ、おじいちゃん」
「先生」
総司は剣の稽古をつけてもらうようになった為、嵐三のことを先生と呼ぶようになっていた。
嵐三は二人の様子を確認するように顔色を窺っている。
「無理はしとらんか?」
「はい。昨日までは体が重かったですけど、今日は以前よりも体が軽く感じます」
総司は腕をクルクル回して見せる。
「うん。もう絶好調だよ! 今ならお兄ちゃんにも負ける気はしないよ」
冬華は木刀をブンブン振ってニヤリと笑う。
「おいおい、空雄を実験台にするでないぞ?」
嵐三はヤレヤレといった感じで冬華を見る。
「え~大丈夫だよ、お兄ちゃんなら死ぬことはないでしょ」
絶対の信頼あってこそ言える冗談だろう。笑えはしないが。
「まあ、よい。体に不調はないのじゃな?」
「はい」
「うん」
「それならばよいのじゃ」
嵐三は元気そうな総司と、可愛い孫を見て安心していた。
すると、城の方からカレンが血相を変えて駆け込んで、ではなく飛び出して来た。
「みんな! サラさんたちが帰って来たよ!」
カレンの知らせを聞き、冬華は掴み掛からん勢いで訊ねた。
「今どこにいるの!」
「え!? えっと、今マリアさんと陛下のところに行ってるよ」
「お兄ちゃんめ! なんで私を置いてったのよ! とっちめてやるんだから!」
カレンに居場所を聞き、冬華は駆け出して行ってしまった。
しかし、冬華は重要な箇所を聞き逃していた。カレンは「サラさんたち」と言ったのだ。カレンであればアキたちと言うのが自然である。
そこに気付いた総司たちは険しい表情になり顔を見合わせる。
お互いに頷き合うと、冬華の後に続き陛下の下へと向かった。
その途中、陛下の居場所がわからず迷っている冬華と合流した。
どうやら一度謁見の間に行っていたようだ。修復中だと誰も教えていなかったようだ。
それを教えると「なんで誰も教えてくれないのよ!」と可愛らしく頬を膨らませていた。
会議室へ行くと、部屋の外にマリアの下で魔法の勉強をしていたはずの風音が立っていた。立たされているわけではないだろう。マリアたちと共にここへ来たのはいいが、入り難く総司たちが来るのを待っていたのだろう。
ノックをし中に入ると、席には城の高官たちが並び、シドー村の継美たちもいた。精霊の世界への遠征について話していたのだろう。
今は、カルマとサラが報告をしている最中のようで、重々しい空気になっていた。
しかし、カルマとサラはいるのだが、アキの姿は見えなかった。ロマリオへの報告なのだ、自室にいると言うことはさすがにないだろう。ルゥと一緒に自室で待っているということも考えられるが、二人の様子がどうもおかしい。何かあったのだろうか?
総司は嫌な予感がしていた。
冬華は顔をキョロキョロさせアキを探している。
ここで、いつもなら光輝が事情を聞くところなのだが、今はいない。総司が訊ねようとすると、マーサの下へ近づいた嵐三がサラをチラリと見て先に訊ねていた。
「何があったのじゃ? 空雄はどうした?」
嵐三は少し呆れたような表情をしている。きっと、またアキが勝手に単独行動をしているのだと思っているのだろう。
「それが……」
申し訳なさそうにしているサラに代わり、カルマが事のあらましをはじめから話した。
リーフ村での事、あの洞窟でのことを順を追って話していった。
・
・
話を聞き終わり、皆呆気に取られていた。
「何をやっておるのじゃあいつは」
嵐三の表情は少しどころか完全に呆れたものになっていた。
それもそうだろう、探していたワイバーンに連れ去られたと聞けば呆れもする。アキほどの力があれば大丈夫だと信じているからこそそう思えるのだが、力とは関係なしに心配する者もいる。アキに好意を寄せている者は気が気ではない。
それとは逆に、アキを蔑む者もいた。度重なる被害を受け、アキを良く思わない者も確かにいる。その者たちは「自業自得だと」吐き捨てていた。アキのせいではないのだが、アギトの印象が強すぎたのだろう。
もちろん冬華たちはその者たちに良い顔はしていない。というか、睨みつけていた。陛下の御前ということもあり飛び掛かって行かなかったことは成長したのだと評価しよう。
とはいえ朗報もあった。ワイバーンの1体がグリゴールの巣で死骸となって発見されたということだ。懸念されていた事柄の一つは解消されたのだ。
しかし、
「それが、アキが連れ去られた洞窟で、孵ったばかりと思われる卵が二つありました」
カルマが当時を思い出すように話す。
「自分は遠目で見ただけなのですが、アキはそれを調べている様子でした。あの様子からあまりよくないモノだと思われます」
「つまり、ワイバーンの卵だと?」
「はい」
ロマリオの言葉にカルマは頷き返した。
「うむ、ワイバーンの子が2体か。まだ2体残っておると言うのに……」
ロマリオは眉間に深い皺を刻み込み考え込む。それもそうだろう。卵があると言うことは3体の内の2体は番いだと言うことだ。死骸となったのがその片割れでなければ、下手をすればこれからさらに増えていくかもしれないのだ。早めに見つけ出し討伐しなければ、国民が危険に晒されてしまう。
「アルマ」
「ハッ」
コンコンッ
ロマリオがアルマにワイバーンの捜索をするように命を下そうとすると、扉をノックする音が響き渡った。
中に通されたのは魔法士の女性だった。
女性の報告によると、2件通信が入ってきているらしい。
一つはモルデニアから、きっと国の奪還に成功したという報告だろう。
もう一つは、レイクブルグから、特に思い当たるモノはない。ただこのタイミングでというのが気になった。
ロマリオはここで話を聞くことにし、通信鏡を二つ用意させた。双方にも話を聞かせるためだろう。
通信鏡が用意され、通信が開かれる。
鏡の向こうに映し出されるのは双方の景色。
モルデニアは、城の一室だろうか、正面にモニカが、その後ろに光輝たちがいる。
「お~い、汐音ちゃ~ん、麻土香ちゃ~ん」
「姉ちゃ~ん」
冬華と風音はまわりの高官たちがいるのにも関わらず、二人に呼びかけ手を振っている。
汐音と麻土香は困った顔で小さく手を振っていた。
光輝は溜息を吐き、モニカは微笑ましそうにそれを見ていた。
レイクブルグは謁見の間だろうか、正面にレオニールが、その後ろにレイナとレイフォードがいる。
レイナは場をわきまえているのか、おとなしくし微笑んでいる。
「冬華~!」
レイは嬉々として冬華の名を呼び手を振っていた。
「げっ!? なんでレイまでいんの!?」
冬華はつい声に出していた。
いてもおかしくはないだろう。レイはレイクブルグの王子なのだから。ローズブルグと通信をするとなれば、冬華の顔を見られるかもしれないと思いそこに来るだろうと、容易に推測できる。
レオニールは頭痛でもするのか頭を押さえていた。後継者である息子が公然の場で女性の名を呼び、手を振っているのだ。怒りや呆れを通り越し頭痛がしていた。
その光景をカルマは目を細めて見ていた。睨んでいたと言っていい。目の前に冬華にプロポーズしたと言う男が映し出されたのだ。自分のライバルをその目に焼き付けているのだろう。
ロマリオたちは軽く挨拶を交わすと、早速本題に入った。
まずはモルデニア、モニカが報告をする。
瘴気を抑え、大地を浄化し結界を張った事、そしてワイバーンを1体倒したと報告した。
報告を聞き、会議室内は二つの意味でどよめいた。
一つはワイバーンを倒したこと。人数が限られる中倒したのだ、光輝を賛辞する声が室内に広がっていた。光輝の功績はうなぎのぼりだった。
そしてワイバーンの数も残り1体、いや子供を入れて3体。順調に減ってきている。これが喜ばずにいられますか? というはなしだ。
もう一つは大地を浄化した事、これは麻土香が力に目覚めなければ無理だと思われていた為、まだ当分は無理だと思っていたのだ。主に驚いていたのは嵐三と仲間たちだけだった。高官たちはそれにはあまり関心を示さなかった。他国の事には興味がないらしい。世界の危機なのにそれもどうなのかと思うのだが。そんなものなのかもしれない。世界を左右する力を持たない者からすれば、世界の危機などと言われてもピンと来ないだろう。自分の身を第一に考えるのが普通だろう。
だからこそ、自分たちの身に降りかかるであろう身近な危機、ワイバーンという害悪を倒した光輝を称賛しているのだろう。
だからこそ、冬華たちはそんな高官たちにいい顔をしないのだ。
愚痴っていても仕方がない。次の報告だ。
次はレイクブルグ、どうやら目撃報告のようだ。
なんでも、突如ワイバーンが飛来してきたと言う。
ワイバーンは湖に現れると、巨大な鳥と交戦し東へと飛び去って行ったとか。
そしてレインバーグを巡回にしていた兵士の話によると、そのワイバーンと巨大な鳥は北の山を飛び越え、東へと向かって行ったという。
それを聞き、シドー村の継美とモルデニア側の光輝が声を上げた。
「その先にはシドー村が!」
「巨大な鳥ってまさか!」
さすがに二つの話を同時には聞くことは出来ない。
ロマリオは先に継美へ話を促した。
「ワイバーンの向かった先には我々の村があるのです。無事だと思いますので、ワイバーンの行方が分かるかもしれません」
「ふむ、連絡の手段があればいいのだが……」
「鏡を貸していただければ、私が繋げられますが」
「そうか、では用意させよう」
ロマリオはそう言うと、先ほどの魔法士の女性に鏡の用意を指示した。
鏡が用意されるまで時間があるため、その間にモルデニア側の話を聞くことにした。
光輝の話によると、城へ入る前、南から飛来したワイバーンと巨大な鳥が、上空で空中戦を繰り広げたという。そして、ワイバーンと巨大な鳥はそのまま西へと飛び去って行ったと。そのおかげで、街道周辺の魔物が南へ逃げ、城へ潜入しやすくなったそうだ。
それを聞き、カルマが声を上げた。
「それで魔物がわんさか襲って来やがたのか!」
「は? どういうことだ?」
光輝がカルマに訊ねた。
カルマはロマリオに報告した内容をかいつまんで説明した。
「は!? アキが?」
「はぁ、何をしているんですかあの男は」
当然光輝たちは驚きの声と呆れた声を漏らしていた。
「あ、そう言えば、ワイバーンたちが空中戦してる時に変な声が聞こえてたような、「うぇぇぇぇ」みたいな声が」
麻土香が思い出したように言う。その時はワイバーンの鳴き声だと思って気にも留めていなかったが、話を聞きもしかしてと思ったようだ。
それはまさにアキが嘔吐物を撒き散らした瞬間だったのだが、それは誰も知らないことだった。
情報をまとめると、光輝が口を開いた。
「えっと、つまり、アキを連れ去ったワイバーンは、子供にエサを与えようと戻る際に巨大な鳥に襲われてモルデニアで戦い、魔物はその被害を避けるために南へ逃げて行き、洞窟から出て来たカルマたちを遭遇し戦闘になった。ワイバーンたちは西へ向かいレイクブルグを経由して、シドー村へ向かった、てことか?」
「まあ、そうだな。2体は倒され、アキを連れ去ったのは子供じゃなかった。あんな巨大な鳥もそうそういないだろうし、タイミング的にもそうだろう。光輝が倒したワイバーンがアキを連れ去った奴なら、近くにアキがいるはずだしな」
「ああ……」
カルマの話を聞き光輝は少し戸惑った。確かにアキはいなかった。しかし、近くにアキがいるような感じがしていた。気のせいかもしれないが、少し気懸りではあった。
そうこうしていると、鏡の用意ができ、継美がシドー村と繋げてくれていた。
鏡に映しだされたのは白髪の老人だった。どこか日本人の面影のある老人だった。
継美は目を見開き驚きの声を上げる。
「おじいさま! なぜおじいさまが? 母上はどうされたのですか?」
「あやつは今遺跡に行っておる。お前の要件もそれに関わることじゃろ?」
おじいさまと呼ばれた老人はすべて見越しているようなことを言う。
そして、チラリと嵐三たちを見た。
「ふん、嵐三にマーサか。いい年してまだイチャついておるとはのう」
「アホ抜かせ! なぜわしがこんなジジイとイチャつかねばならん!」
「なんじゃと! それはこっちのセリフじゃわい! なんでこんなばバアさんと!」
嵐三とマーサは憤慨し睨み合っている、老人を無視し、二人の世界で睨み合っている。イチャついていると言われても仕方がない気もする。
「ほら見ぃ、やっぱりイチャついとる」
「「しとらんわっ!」」
老人がジトッとした目を向け呆れ気味に言うと、二人は声をそろえて否定する。もう疑いようもなく仲良しだった。
「もういいわ、お前たちを見ていると胸やけしそうだわい」
老人は、うえ~と言った表情をしている。
「フンッ! どうせお前とて、今でも一匹狼を気取ってるのじゃろう? 俺に近づくと怪我するぜとかぬかして、ぷぷっ」
「そうじゃそうじゃ、継守は昔もそうじゃったからのう、ぷふっ」
「んなもん、もうしとらんわい。今のわしは孫やひ孫に囲まれて幸せいっぱいじゃ!」
二人に逆襲され笑われて、継守と呼ばれた老人は憤慨した。
そんな継守の様子を継美たちは驚いたように見ていた。こんな表情は見たことがなかったのだ。いつもは威厳のある風格で隙など見せなかったのだ。それが今は威厳の欠片もない子供の様な喧嘩をしている。隙だらけである。継美は驚きと共に、いつもこうなら楽しいのにと、心の中で思っていた。
老人たちのプチ同窓会をいつまでも見ているわけにもいかない。
会議室内は老人たちの喧嘩しか聞こえてこない。すでに皆呆気に取られ妙な空気になっていた。
このまま放置していては話が一行に進まない。何とかして話を進めなくては。
この妙な空気を破壊できるのはやはりこの娘しかいない。
「いい加減にしろ———っ!」
スパ———ンッ!
小気味いい音が響き渡る。
冬華はどこから取り出したのか、ハリセンを手に嵐三の頭を叩いていた。
「な、何するんじゃ冬華! じいちゃんの頭を叩くとは! まだボケとらんじゃろう!」
冬華の理不尽な突っ込みに嵐三は物申した。ボケた後ならいいのだろうか?
「いいのよ! おじいちゃんがすでにボケてんだから! 話が進まないから黙る!」
大好きな可愛い孫に怒鳴られ嵐三はシュンとなる。
「先に言ってきたのは継守なのに、理不尽じゃ」
完全に拗ねてしまった。
後で甘やかせばいいだろうと思い、冬華は話を進めるよう継美を促した。
継美は気を取り直すように一つ咳ばらいをすると継守に訊ねた。
「コホン。おじいさま、ワイバーンがそちらに現れませんでしたか?」
冬華の剣幕に気圧されていた継守はハッとし、しどろもどろになりながら答える。
「え? あ、う、うむ、それなんじゃがな、巨大な鳥に追われてワイバーンは村の上空を通り過ぎ、遺跡に墜落して行ったのじゃ。巨大な鳥もそれを追い遺跡に入って行ってしまったのじゃ」
「遺跡に? では向こうの世界に?」
「かもしれん。それ以来出て来んしのう。今それを確認しに行っておる最中なのじゃ」
「そうですか。では人がいたかどうかはまだわからないのですね?」
継美がそう呟くと、それに応えるように継守の横から子供が顔を出してきた。
「人いたよ!」
「あ、エルロン君」
カレンは子供の顔を見て呟いた。その子供はシドー村で知り合ったエルロンだった。
「あ、ねぇちゃん久しぶり~」
エルロンは鏡に顔を近づけ手を振っている。距離感がすごい。超アップだった。
「エルロン君、近いからもう少し下がろうか」
カレンは見ていられず注意した。
「あ、ゴメン」
エルロンは謝ると、鏡から顔を離す。
「それで、その人って?」
継美が窺うように訊ねる。
「うん、オレ丁度見てたんだけどさ、ワイバーンに掴まれて、うわぁぁぁぁぁって叫んでるアキ兄ちゃんを見たんだ。すげえよなぁ兄ちゃん、ワイバーンを手なずけるなんてさ」
エルロンは憧れるような表情で言っていた。冗談で言っているわけではないようだ。意外と純粋な子だった。うわぁぁぁぁぁっと叫んでる時点でそうではないと気付くはずなのだが。本気でアキに憧れているエルロンはそれに気づかなかった。
「ホントに何してるんだよアキ……」
アキの仲間はサラを除き全員が呆れかえっていた。
さて、アキは本当に精霊の世界に行ってしまったのでしょうか?