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魔物からの逃走

「アキ! アキィィィ!」

「グエェェェェッ!(パパァァァァッ!)」

 サラとルゥは空に向かって叫び続けていた。

 アキの姿はすでに見えなくなっている。洞窟も崩れ始め、いつまでもここに居続けるわけにもいかない。

「このままだと生き埋めになるぞ! とにかくここを出るんだ!」

 カルマはサラの腕を引き洞窟を出ようとする。

「でも、アキが!」

 余程動転しているのだろう、届くはずのない、すでに見えなくなったアキに向け手を伸ばしている。

「しっかりしろ! こんなところで取り乱してどうする!」

「で、でも!」

「アキはヤツよりも大物のドラゴン相手に一人で向かって行った男だぞ! あんなのにやられるはずないだろ!」

 突然の襲撃に動転し、その事実を忘れていたサラは、カルマの言葉を聞き幾分か冷静さを取り戻した。

「そ、そうですね。……ここを出て、アキを探しに向かわないと」

「その意気だ。とにかくここを出るぞ! 鳥! お前も早く来い!」

 カルマはルゥを鳥呼ばわりする。

「グエェェェッ! グエ!(鳥じゃない! ルゥ!)」

 ルゥがどんなに否定しても、カルマに通じることはなかった。

 カルマは来た道を戻ろうとしたが、すでに崩れ穴は塞がれていた。

「グエッ、グエッ!(あっ、こっち!)」

 ルゥは何かを思い出したように東側へと走っていく。

「お、おい! 鳥! 待て! どこに行くんだ!」

 カルマはルゥを鳥呼ばわりし、呼び止める。

 しかし、ルゥは止まることなく進んで行くと、暗がりに向け(くちばし)で何かを差す仕草を見せる。

「グエッ! グエェッ!(早く! こっちだよ!)」

 やはりカルマには通じなかったが、サラはルゥの仕草を見て気付くことができた。

「何かあるみたいです。行ってみましょう!」

「え!? 今の、何言ってるのかわかったのか?」

 カルマは驚愕の声を上げる。

「ルゥちゃんの言葉を理解できるのはアキだけです。ただ何かを必死に伝えようとしているのはわかります。きっと何かを見つけたんですよ」

 サラはそういうと迷わずルゥの下へと駆け寄る。

「マジかよ……」

 カルマは二つの意味で呟いた。

 一つはアキがルゥの言葉がわかると言うこと。

 サラのように「なんとなく伝えようとしている事がわかる」くらいならば納得もできるが、人の身で鳥語が理解できるというのは信じ難いのだ。

 もう一つはルゥが何かを見つけたということだ。

 動物の勘とでもいうのか、ルゥはそんな勘とは無縁のように見えたのだ。

 とはいえ、来た道が塞がっている以上別の出口を見つけなくてはならない。

 カルマは藁を掴む思いでサラの後に続いた。

 すると、ルゥの差す暗がりに東へ向かう横穴がぽっかり空いていた。

「マジか!」

 カルマは驚きの声を上げる。

 この横穴は以前ウィンディが通って入ってきた横穴である。ルゥはそれを思い出したのだ。

「ルゥちゃんさすがです。お利口ですね」

 サラはルゥの頭を撫でてやる。

「グエェェ(えへへ)」

 ルゥは嬉しそうに身を捩る。

 そうこうしてる間にも洞窟は崩れ続けている。早く脱出しなければ。

「い、急ぐぞ!」

 カルマは先行していく。

 魔物が現れるかもしれない為、兵士として、男として女性を守る義務があったのだ。

 なにより、サラたちに怪我でもさせようものなら、アキに何をされるかわからない。義務感ではなく、アキに対する恐怖心からだった。修行初日にされたことを今でも忘れられないのだ。

 と、カルマは言うかもしれないが、実際には修行を見てもらった恩を返したかったのだ。

 こう見えて義理堅い男なのだ。


 洞窟内を出口へ向かって駆け抜ける。

 こちら側にも魔物はおらず、難なく外に出られそうだ。動物は危険を察知して回避するという。魔物も同じなのだろう。

 しかし、洞窟を出て森に入ると、先ほどまで遭遇しなかった反動のように魔物の群れが現れた。

 異変の起こった山から、何かが出てくるのを待ち伏せていたかのような位置取りとタイミングだった。

 ヘルハウンドはカルマが間合いに入って来ると、躊躇うことなく襲ってきた。


グアウッ


 カルマは、飛び掛かられるまで気づかなかった為、剣を抜く暇がなかった。

「くっ!?」

 カルマは足を止め、咄嗟に左腕でガードする。

 すると、いつもと違う感覚に襲われた。

 ヘルハウンドの攻撃による衝撃が小さかったのだ。

 カルマは不思議に思いつつも右手を握り込み、左腕に喰いついているヘルハウンドを殴り飛ばした。

グチャ

「え!?」

 カルマは自分でやっておいて、驚きの声を上げていた。

 いつもなら、ドスッという音と共にヘルハウンドは左腕を放し、殴り飛ばされるところだ。

 しかし、今のカルマの拳はヘルハウンドの左前足だけを抉り取り、殴り飛ばしていた。

ギャウン

 ヘルハウンドはその衝撃と激痛に悲鳴を上げ噛みついていた左腕を放し、地面をのたうち回る。

「カルマ殿、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、なんともない」

 サラが声を掛けてきたが、カルマは放心したように自らの両腕を見つめていた。

 無意識だったとはいえ、両腕に気を留め防御力を高めていたのだ。カルマは修行の成果が表れてきたのだと喜び感激していた。

 しかし、喜びに浸っている暇はない。

 ヘルハウンドは群れで現れているのだ。一匹倒したぐらいで喜んでいられない。ヘルハウンドは仲間の負傷などお構いなしに次々と襲って来ていた。

 カルマが感動で打ち震えている間、ルゥがヘルハウンドを相手取っていた。

「グエグエグエェェェッ!(邪魔邪魔邪魔ぁぁぁっ!)」

 ルゥは飛び掛かってくるヘルハウンドへ、ヘッドバンキング突き(嘴の連続突き)を放つ。眉間をピンポイントで打ち貫き、一撃必殺で次々と仕留めていく。

 そして、極度の頭の揺れでクラクラし動けなくなっていると、サラが魔法で援護し、ルゥに魔物を近づけなくしていた。

 自信をつけたカルマは剣を抜くと、一気にヘルハウンドの群れへと向かって行く。

 ヘルハウンドが飛びかかって来るのにもお構いなく突っ込んだ。

ガウガウガウッ

 ヘルハウンド共は次々にカルマに喰いついていく。

 カルマは体に気を留め、防御力を高めていた。

 しかし、体に伝わる衝撃と痛みはいつもと同じモノだった。

「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」

 カルマは剣を振り回し、ヘルハウンドを引き剥がしていく。

「カルマ殿!」

「くっ」

 サラが声を掛けてきたが、カルマはヘルハウンドを引き剥がすと、放心したように自らの両腕をを見つめていた。

 体に気を留め、防御力を高めていたつもりでいたが、カルマはまだ動いている最中に気を留めておくことができない。ましてや走りながらなど無理に決まっている。

 先ほどは、足を止め腕だけに集中していた為、たまたまできたのであって、完全にモノにしたわけではなかったのだ。

 幸いにも、上半身は鎧で覆われているため大怪我はしていないが、肌が露出している部分は攻撃を防ぐことができず出血していた。


「自信を持つのは良いけど、過信は禁物だ」


 アキがルゥに言っていた言葉が脳裏を過る。

 カルマはたまたまうまくでき、自惚れ、過信していたのだ。

 これで相手がワイバーンだったらと思うとぞっとしてしまう。それこそ命がない。

 カルマは一時気の事は忘れることにした。

 カルマはルゥのいる位置まで後退し、剣を構えると状況を確認する。

 知らないうちにルゥのまわりにはヘルハウンドの死骸がゴロゴロしてた。カルマが放心している間にめまいも収まり、再び攻勢に出ていたようだ。

 それにしては敵が減っていない。洞窟から出て来た時はこんなに多くはなかったはずだ。

 10体前後だったはずが、倒したにもかかわらず倍近く増えていた。

「なんで増えてるんだ……」

 カルマは呟いていた。

 その呟きにサラが答える。

「目的はわかりませんが、南に向かているところで我々に気付き襲ってきたようです」

 カルマは群れの奥に視線を向けると、確かに南へ向かう魔物がちらほら見える。そしてこちらに気付き向かてくるモノがいた。

 このままでは消耗戦になり、こちらが不利になってしまう。

 そのうえ、森の中は視界が悪く、どこに魔物が潜んでいるかわからない。実際にはもっといるのかもしれないのだ。

「このままじゃまずい、街道まで突っ切って行くしかない。鳥、東に向かって先行しろ。殿(しんがり)は俺が務める。行け!」

「グエッ……グエェェェェ(うん……鳥じゃないって言ってるのに)」

「わかりました」

 カルマの指示に頷くと、ルゥはヘルハウンドの群れを蹴散らし、東へと突き進んでいく。

 サラはすぐ後に続き、カルマはサラの後に続く。

 しかし、足はヘルハウンドの方が速いため、追い付かれてしまう。

「先に行け!」

「はい!」

 カルマは叫ぶと足止めをするために振り返る。

 群れを見ると、数がさらに増えていた。

「マジかよ……」

 カルマは飛び掛かってくるヘルハウンドを斬り付け、群れの方へ蹴り飛ばす。斬り付け蹴り飛ばし、斬り付け蹴り飛ばす。

 そして足が止まったのを確認すると、踵を返し、東へ向け駆け出した。


 森を抜け街道に出ると、サラたちが街道でキョロキョロし、どちらに向かうべきか迷っていた。

「鳥! アキがどっちに連れて行かれたか匂いでわかんねぇか?」

 カルマはルゥを犬か何かと勘違いしているのだろうか? 背後からはヘルハウンドの群れが迫っている。それだけ焦っているのだろう。

「グエェェェェェェ、グエェ(パパの匂いしないよぉ、ママァ)」

 ルゥは不安そうな表情で首を振ると、サラに頭を摺り寄せる。

「ルゥちゃん……」

 サラは自分も不安ではあったがルゥの不安を和らげるため、優しく頭を撫でてやった。

 遥か上空に昇って連れ去られたのだ、匂いなど残ってはいなかった。せめて地上を行っていれば、アキとカレンの後を追ったように匂いを辿り見つけることもできただろう。

 ルゥの不安そうな態度で、さすがのカルマも行方がわからないのだと気付いた。

「仕方ない、一旦城へ報告に戻るぞ」

「アキを探さないんですか!?」

 サラはカルマを睨むように見る。

「グエグエェェェ!(この人でなし!)」

 ルゥはどこで覚えたのかそんな事を言いカルマを睨む。

「闇雲に探しても意味がないだろう! 城にはマーサ殿も精霊達もいる。何か探す方法があるかもしれない。それに、アキ一人ならワイバーンを振り切って逃げて来られるだろ? 元々ワイバーンを見つけるのが目的だ、奴らの住処(すみか)を見つけたらきっと報告に戻ってくる」

 確かにカルマの言うことも一理ある。

 問題はそれがアキだと言うことだ。一人で倒そうとするかもしれない。逃げられないと判断すれば迷いなく戦うことを選ぶだろう。

 それをさせないために合流しようにも探す術がない。

 ヘルハウンドの群れが迫る中、迷っている時間もない。

 サラは苦渋の決断を下す。

「わかりました。一度城へ戻りましょう」 

 サラは下唇を噛みしめ不安や悔しさで打ち震えていた。

「グエッ、グエェェェェェ?(ママ、パパ探さないの?)」

 ルゥは不安そうにサラを覗き見る。

 その不安そうな表情でルゥの言葉が伝わったのか、サラはルゥを抱きしめ告げる。

「大丈夫、城のみんなでアキを探しましょう」

「グエ……(うん……)」

 ルゥはサラに頭を摺り寄せ頷いた。

 手掛かりもなく、自分では見つけられないとわかっていたのだ。

「よし、行くぞ!」

 カルマに促され、サラたちは城へ向け駆け出していった。


ゲロまみれのアキは何処に?

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