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サラの夢?

 ……


 ……闇


 ……見知らぬ城の最奥に、全身を黒で統一されたスーツにも似た衣服に身を包んだ男がいる

 それは細身のすらっとした体躯、白髪で白い肌、目鼻立ちも整いまさに眉目秀麗と言った容姿をしている

 その傍らには生気を失たような青白い顔色、快楽に身を投じたような表情の美しい女性が横たわる


 ……男はその紅い眼を怪しく光らせ、真っ直ぐに一点の闇を見つめる

 「なにヤツだ?」

 男は闇に向かい訊ねた

 闇は怪しく蠢き、人の形を成していく

 そして、闇に浮かぶ紅く光る双眸が男を捉える

 「力が欲しくはないか?」

 闇が訊ねる

 男の紅い瞳がさらに怪しく光り闇を睨みつける

 「力だと?」

 「そうだ、欲するのであれば与えてやる」

 男の瞳は細く鋭くなる

 「不要だ!」

 「ほう……」

 「力は奪うのみ!」

 男はその身を霧に変え闇へと迫る

 「ふっ……」

 闇は靄へと姿を変える

 霧と靄は城内を駆けめぐり、衝突する

 石柱は倒され、玉座は破壊され、壁に掛かるランプは砕け散る

 横たわる女性の裸体も衝突に巻き込まれ、ズタズタにされ無残にも切り裂かれた

 何度衝突を繰り返しただろう

 ついに決着が訪れる

 霧は靄に呑み込まれた

 男は霧の姿を維持できなくなり元の人の形に戻る

 「ぐっ、なんだ!? うっ、うわぁぁぁぁぁっ!?」

 闇の靄に侵食されて行く男は、紅い瞳をこちらに向け手を伸ばしてくる

「キ、キサマがぁぁ……」

 

 

「キャァァァァァァッ!?」

 サラは悲鳴を上げ飛び起きた。

「ハァハァハァ……」

 胸を押さえ、心拍数を抑えるように呼吸する。

 全身に汗を掻き、薄手の服は肌にピッタリと張り付いている。その艶めかしい体の輪郭をくっきりとさせていた。

 夢の最後、あの男の瞳がこちらに向けられ、自分が見られていたような錯覚を覚えた。

 サラは悪夢に引きずり込まれるのではないかと恐怖していたのだ。 

 そこへ、


コンコンコン


 部屋の扉がノックされた。

 サラはビクッとし扉を凝視する。悪夢が呼びに来たのだと恐怖が過る。

「どうされました?」

 部屋の外から様子を窺う声が掛けられる。

 宿の主人だろうか? サラの悲鳴を聞き様子を見に来たようだ。

 しかし、サラの思考は恐怖で正常に稼働していない。まともに返事をすることができなかった。


「すみません、お騒がせして。悪い夢を見ただけですので大丈夫です」


 サラのすぐ横からそう答える声がする。

「そうですか、何かありましたら声をおかけください」

「すみません、ありがとうございます」

 そうやり取りをすると、扉の向こうで足音が遠ざかっていった。

 サラは恐る恐る振り返ると、心配そうにこちらを見るアキがいた。

「ア、キ……」

 愛しい人を認識しサラは泣き崩れるようにその胸に縋り付いた。

 そして、恐怖を吐き出した。

「アキ、アキ、わたし……」

 サラは夢の内容を話した。 

 アキは黙って聞いてくれている。

 しかし、驚いている風ではない。確認するように聞き、頷いていた。

 話終えると、サラはアキの胸に頬を付けアキのぬくもりを感じる。

 アキの胸からはトクントクンと規則正しい鼓動が聞こえる。

 そのおかげでサラは落ち着きを取り戻す。

 そして不思議に思う。

 今のサラは汗で服が張り付き、艶めかしい体のラインを披露している。そしてアキに抱きついている。

 にもかかわらずアキの鼓動は正常に律動している。いつもなら早鐘を打つよう荒々しくなるのに……

 サラは怪訝に思い顔を上げアキの顔を見上げる。

 アキは真剣な表情で闇を見つめていた。夢の内容を考察していたのだろうか?

 サラはなかなか見ることのできない、アキの凛々しい表情をボーッと見つめてしまった。 

 サラの視線に気付いたアキは優しく微笑む。

「大丈夫、それはサラの夢じゃない。サラが怖がることはないよ」

「え? それはどういう……あっ」

チュッ 

 アキはサラの言葉を遮るように額にキスをする。

「おまじない、もう怖くないよ」

 それは子供の頃、怖い夢を見て泣きじゃくる冬華にしてあげていたおまじないだった。

 サラはアキの唇を目で追いかける。

 そして頬を膨らませて告げる。

「もう、わたし子供じゃないんですからね」

 そういうと、サラは自らの唇をトントンと指差し催促する。額では満足できなかったのだ。

 アキはヤレヤレと言った面持ちでサラの唇にそっと口づけをする。

 そして、唇を離すと、サラは「それだけ?」と瞳で告げていた。

 アキはサラの頭をポンポンと撫でる。

「もう遅いから、おやすみ」

 サラは満足できていなかったが、明日は早朝から調査だと聞いていた為、渋々諦めた。

「服、着替えます」

 サラはそういうとベッドから離れ、汗で濡れた服を脱ぎはじめる。

 アキの視線を感じ、見せつけるようにその艶めかしい裸体をさらけ出す。おあずけをくらった仕返しのように。

 そして真新しい服に身を包み、アキの腕の中に潜り込んだ。

 サラはアキの腕の中で、アキのぬくもりを感じ、安らぎを感じていた。

 すでにサラの心に悪夢の恐怖は無くなっていた。

 しばらくすると、サラはアキの腕の中で静かに寝息を立てはじめる。

「スーッ、スーッ……」

 

 アキはサラの寝顔を愛おしそうに見つめ、頬に掛かる髪をそっと掻き上げる。

 そして、天井を見つめ呟いた。

「のんびりしてられないな……」

 



 闇夜の森、闇に紛れて西の山へと向かう一つの影がある。

 まるで何かに追われるように、風のように疾走する。

 夜の森は魔物の世界、何人であろうと侵入は許されない。命と引き換えでなければ入ることも出ることも叶わない。

 その影も例外ではなく、魔物の群れに行く手を阻まれる。

 影はひるむことなく魔物に立ち向かう。

 群れに飛び込み、近づくの魔物から斬り裂き、貫き、蹴り飛ばしていく。

 飛び掛かってくる魔物には、手をかざし吹き飛ばし、地面に押し付け圧殺する。

 影は魔物共を蹂躙していく。

 次第に魔物は数を減らしていく。

 魔物共は怯えおののき、影から逃げるように去っていく。

 影は逃げ惑う魔物に深追いはしなかったが、東へ逃げようとするモノには容赦なく手を掛けた。

 そして再び西へと向かい走り出す。


 影は山にたどり着くと、断崖絶壁を見上げる。

 そして、岩壁の出っ張りを足場に飛び移りながら駆け登っていく。

 山頂付近まで登ると、横穴にたどり着いた。

 影は穴の中から漂う異臭に顔を歪める。

 影は周囲に気を配りながら奥へと進んでいく。

 奥へ進むと、天井から微かに光が射している。

 その光の先には、巨大な巣が見える。

 そしてその傍らに、巨大な塊が横たわっていた。

 影は慎重に近づき、その塊を調べる。

「ワイバーン……死んでる」

 ワイバーンの表情は驚愕と憎しみに彩られていた。

 巨大な死骸には、鋭い爪で斬り裂かれ、所々(つい)ばまれたような痕が刻まれていた。

 ワイバーンを殺せる生物。

 同じワイバーン同士で共食いをしたのか? それともワイバーンよりもさらに上位種の生物に殺され、喰われたのだろうか?

 影はワイバーンを殺した生物の手掛かりを求め辺りを調べはじめる。

 ここで暴れたためか巣は半壊し、血肉が飛び散っている。

 そして、血肉に混じり大きな羽根が地面にいくつも刺さっていた。

 このサイズの羽根はグリゴールのモノだろうか? 血に染まり暗闇のため色は判別できない。

 影は壁を調べる。

 壁は焼け焦げ、闇と混じり合いその漆黒さを増す。

 洞窟内を一周まわり、死骸の下へと戻る。

 影は差し込む光の下で佇む。

 死骸は一体のみ。他にワイバーンはいない。

 手掛かりは傷跡と羽根のみ……

「グリゴールがワイバーンを?」

 影は呟く。

 すると、


「クエェェェェェェェェェェッ」


 光の射し込む先から鳴き声が聞こえた。

 影は横穴の入り口へと駆ける。

 入り口へ戻ると空を見上げた。

 月の光を背に、巨大な鳥が優雅に飛んでいた。

 首と尾の長いシュッとした巨大な鳥。

 月の光で逆光となり、そのシルエットしかわからない。

 鳥は上空をグルグルと回ると、北東の空に飛び去っていった。

「あれは……」

 呟く影の顔が月の光に照らされる。


「アキッ!?」


 サラは目を覚ました。

 まだ日は登っていないが、空は白みはじめていた。

「……ハッ、アキ!?」

 サラは横で眠っているはずのアキを覗き見る。

 しかし、アキの姿はなかった。

 サラは夢の内容を思い出し、アキが一人でグリゴールの巣へ向かったのだと思い飛び起きた。

 すると、


ガチャリ


 扉が開き、アキが入ってきた。

 アキは寝る前と同じ薄手の生地の服に身を包んでいた。とても夜の森に出かけられる格好ではなかった。

「アキ!」

 サラはアキの胸の中に飛び込んだ。

 そして不安そうな表情でアキを見上げる。

「アキ! どこに行っていたんですか!?」

 アキは首を傾げ戸惑ったような表情で答える。

「へ? 用を足しに行ってたんだけど?」

 サラはアキが森に行っていたと思っていたため、思わぬ答えに思考が止まってしまう。

 アキの格好を見ればそれはないと気付くはずなのだが、サラの思考は正常に働いていなかった。

「え? え? 用?」

 サラの動転ぶりにアキは困惑する。そして、何かに気付いたように照れ笑いを浮かべる。

「え? なに? どうした? ……ああ、ひょっとして起きたら俺がいなくて寂しくなっちゃったとか? もう、サラは可愛いなぁ」

 アキはサラを愛おしそうに抱きしめる。

「あ……」

 サラはアキのぬくもりを体全体で感じ取り、頭が冷静になっていく。

 そして、アキへと腕を回し抱きしめ返した。

「アキ……」

 アキはサラの首筋に顔を近づけ、鼻から胸いっぱいに空気を吸い込む。

「スーッ、ハァ、いい匂い。サラはいつもいい匂いで安心する」

 寝汗をかいたからだろう、少し汗の匂いがする。しかし、サラの甘い香りが損なわれるほどではない。

(いやいや、それはそれでいいだろう。なんだか逆に刺激されると言うかなんというか……興奮します!)

 アキの性癖が怪しい方向に覚醒していく。

 サラはハッとし、首に手を当てアキから体を離す。

「に、匂いを嗅がないでください! わ、わたし今寝汗が……」

 サラの頬は羞恥心で真っ赤になっている。

 アキはそんなサラにキュンとしてしまった。

「ん? 俺は気にならないけど?」

 アキは努めて平静に告げる。さすがに性癖を晒すようなことはしない。

「だ、ダメです! わたしが気になるんです!」

 サラはそういうと後ずさり、さらに距離をとる。

「大丈夫だって。サラはいい匂い」

 アキは妙な褒め方をするとにじり寄っていく。寄るなと言われると寄りたくなるのが人と言うものだろう。

 普段なら嫌われるからしないのだが、サラに限ってそれはないと信じているため強行できるのだ。つまり、アキは再びサラの匂いを嗅ごうと画策していた。

 当然サラはアキを嫌いにはならない。しかし、だからと言って黙って匂いを嗅がせたりはしない。

 サラはアキの魔の手からいかにして逃れるか、逃走経路を探る。

(絶対に掴まるわけにはいかない! 匂いは嗅がせないわ!)

 アキはその経路を塞ぎにかかる。断じて逃がすつもりはない。

(再びこの手に抱く! そして匂いを嗅ぐ!)

 二人の攻防は朝日が昇るまで続いていた。


 サラはすっかり夢の事を忘れていた。

 自分の汗の匂いを気にし、アキから微かにしていた異臭に気付かなかった。


この二人、絶対すでにヤッてるよね……

やってるやってるぅ!


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