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襲撃

 翌朝、俺は朝食を食って買い物をしてから教会跡へ向かう予定だ。

 朝食の際にまた女将さんと少し話たんだが、今日午後から村の結界の張り替えをするらしい。どうも張り替えの見物人もいるらしく、俺もその見物をしていくものだと思ったらしい。

 城や街、村には魔物避けの為に結界が張られているそうだ。そうでなきゃいつ魔物が侵入してくるか怖くて生活できないしな。村の四方、東西南北に触媒である魔石を設置して結界を張っているそうだ。門の上に乗っていたソストボール大のあれね。

 あれを年に数回、効力が切れる前に取り替えるのだが、先日、東北の村からくるキャラバン隊がその魔石を運んできたらしい。そのキャラバン隊が各街や村、城に魔石を配り回っているらしい。(そういえばサラさんがそのキャラバン隊に同行して帰ってきたんだった)

 その結界を張る瞬間が神秘的で綺麗だから見て行ったらどうかと勧められたんだけど、俺としては一刻も早く教会跡へ確認しに行きたかったから丁重に断った。

 まぁ、間に合いそうなら戻って来て見物したいんだけど。興味もあるし……

 とはいえ、まずは教会跡が優先なんだけどね。


 というわけで、今俺は買い物をするために出店を回っている。

 出店は家の屋根から棒を柱に布を張って(ひさし)にしている。品は武器防具、アイテムに薬、食料品や民芸品、調度品などが売られている。朝ということもありボチボチ人も増え始めている。

 昨日ゲットした魚人のヒレ&尾ヒレなんだけど、結果から言うとたいした金額にはならなかった。カレンを追いかけてた方のヒレの方が高く売れたんだけど、もう一段成長した(最終段階)魚人だと高値で買い取ってくれるそうだ。

 ただ最終段階になった魚人はえらく強くなるらしく、なかなか倒せないらしい。だからほとんどの魚人は成長する前に仕留めるから個体数が少ないらしい。だからこそレアな素材となり高値で取り引きされるわけだ。

「そんなの俺じゃ倒せねぇんじゃね?」

と、思ったけれど、そんなの相手にする必要がないから関係ないんだけどね。すぐ逃げるし……

 さて、それは置いといて、さっさと武器(投げナイフ)を買って教会跡へ向かうとするか。


「……マジ?」


 今武器屋に来ているんだけど……苦無があった。そんなバカな、なんで苦無があんの? 苦無って日本特有の武器なんじゃないの? いや、今じゃ海外でもあるのかな? よく知らないけど。いやいや、そもそも今の時代じゃ存在はしてても売ってはいないでしょう! 元の世界では! なのにこっちにはあるって、しかも売ってるし…

 どうなってんの? 一応店主に聞いてみよう。

「すいませーん、この苦無ってこちらで作ってるんですか?」

とは聞いたものの、見た感じ普通の小太りのおじさん店主なんだけど、この人全然職人に見えないしなぁ。見た目で判断しちゃダメってことか?

「はいはい、このナイフですか? これはこの間来たキャラバン隊から仕入れたものですね。彼らはこういった変わったものをどこかから仕入れてきてくれるんですよ」

「へ~」

「ほかの店でも変わったアイテムとか売ってますから見てみるといいですよ」

 何気にほかの店の紹介とかしてるし、村の活性化を狙ってのことかな? ここの商店街で組合とかつくってんのかねぇ。

 それよりもそのキャラバン隊って、何者? 結界の魔石だったり苦無だったり、職人の集まった村落から来てんのかねぇ。まぁ、今は詮索しても仕方ないから苦無だけ買って行こう。


「まいどあり~」


 意外と高いのな、三本しか買えなかった……十本くらいほしかったのに。貧乏って辛い。贅沢も言ってられないので我慢して出発するか。

 サラさんの話だと、リオル村から東にあるってことだったな。


 ちなみにカレンとは会えなかったので晩飯代は未回収……ま、ミルクぶっかけちゃったからクリーニング代ということでよしとするか。



 出発して2、3時間進んだ。ここに着くまでに当然魔物と遭遇したりもした。しかし集団じゃない限りなんとか倒せるわけで、おかげで戦利品をゲットすることができた。できたんだけど……かさばるなぁ。これみんなどうやって運んでんだろ? やっぱり馬車とかかなぁ。などと考えていると、高台に廃墟らしき建物があるのに気付いた。

(あぶなっ、素通りするところだった)


 高台に上がり建物に近づく……建物は崩れていて、屋根のてっぺんが崩落している。建物の脇の瓦礫のところに十字架が落ちている。

「ここだな」

 俺は用心深く中の気配を探る……ゴメン気配なんか感じられなかった。ホントは物音がしないか耳を澄ました。風音がするだけで中からは何も聞こえない。

「……入るか」

 ……コエェ~お化け屋敷思い出すんだけど……お化け屋敷行くといつも緊張でお腹痛くなるんだけど、今もそんな感じでお腹が……

 建物は土壁? コンクリートに近い感じで、とにかく頑丈そうなんだけど見事に破壊されてるなぁ。中に入ると崩落した天井から日の光が差している。空気は少しひんやり……

「うっ!?」

ゲェェェ、ゴホッゴホッ

 俺は外に逃げ出し吐いてしまった。話には聞いててもあれを直に見るのは正直キツイ、ていうか無理。

「ハァハァ……なんだよあれ」

 死体の確認はするつもりはなかったのに、思いっきり見ちまった。死体というか食い残しが落ちてた。たぶん野犬、じゃなくて魔物ヘルハウンド辺りが食い散らかしたんだろうけど、もうバラバラでどこがどの部分だかわからない状態で、細切れというか挽き肉というか、そんな感じで、もともと何人いたのかもわからなくなってた。うッ、思い出しゲロが……

 とにかく入らないことには……俺は一度深呼吸して再度中に歩み入る。

 ……死肉に混じって武器やら防具やらが血みどろになって落ちている。数からして十人くらいか? 今となってはどうでもいい人数だけど、これを一人で殺ったのか? 

 奥の部屋、壁が外側に丸く迫り出している。聞いた通りか……もう一度深呼吸して部屋に入る。こっちも同じく聞いた通り、ベッドを中心に球状に部屋が変形して壁には血の跡、肉片がこびりついている。

「……ふ~さてと、確認だな……」

 俺はベッドとそのまわりを確認する。


「……フフフッハハハッ……ハァ」


 俺は緊張が解けベッドにドカッと腰掛ける。

 一つ不安が解消されたかな。ここでの、だけど……

 俺の記憶が正しければ、こっちに飛ばされる前結衣は確かに……処女だった! バージンだ! これは本人に聞いたから間違いない。もちろんその際には全力で殴られたが……

 そしてこのベッド……お世辞にも綺麗とは言えないけれど血が付いていない。サラさんから聞いた話とここでの結果から考えて、おそらく結衣はまだ大丈夫だ。まだ処女だ。この後どうなったのかはわからないがたぶん大丈夫、勘だけど……そんな気がする。あの件もあるし…… 

 あとは総司か……

 俺は窓に目を向ける。窓の縁、確かに血がついている。外に続いていてやっぱり北に向かってるっぽいな。雨降ってなくてよかった~痕跡消えるとこだったじゃん! 北か……地図から見てまっすぐ行くと山間を通ることになるのか。ていうか、このまま北に行ったらレイクブルグ城に着くな。

 最短でまっすぐ行くか、山を迂回していくか……ここは安全に迂回だな、死んだら助けたくても助けられないし。


「さてと……ん?」


 この部屋いろいろあるな……行商人から奪ったものだろうけど、部屋の隅に剣?いやこれダガーじゃね? あと普通のナイフがたくさんに煙玉、あとはベルトに干し肉……これ一緒に置いてたら間違えるんじゃね? それともベルトも食うつもりだったのか? 野盗って雑食かよ?

 よし、貧乏冒険家の俺が有効活用しよう! ダガーを二本背中に腰の後ろからすぐ抜けるように装備して、ベルトをナイフ用のホルダーに改造してナイフをいくつか差して……うん完璧! あとの残りは布の袋に入れて持って行って売っちまおう!

 よーし! って結構時間たったなぁ……一旦リオル村に戻るか。山を迂回するにしてもどのくらいかかるかわかんないし、女将さんかカレンに聞いてみるか。

 そうと決まれば急いで戻ろう。結界の張り替えギリで見れるかもしれないし。



 俺はリオル村を目視できるところまで戻ってきた。

 魔物はなるべくスルーして(逃げて)きたから行きよりも早く村に戻ることができた。できたのだが……村の様子がおかしい。結界の張り替え中だからではないよね? なんか土煙が立ち上ってるような。イヤな予感しかしないんだけど。とにかく急ごう!


「キャーーーーー」

「助けてくれーー」

「早く逃げろーーー!」


 村に入ると村人たちの悲鳴らや怒声やらが耳に入ってきた。近くを通る逃げてきた村人をひっつかまえた。

「おい! 何があった?」

「魔物だ! 魔物が入ってきやがった!」

 村人はそれだけ言うと俺の腕を振り切って逃げて行ってしまった。

 他にも村を出る者、頑丈そうな家に逃げ込む者がいた。ゲームで言うところのイベント発生かよ! と1人ごちながら騒ぎの先、西の入り口へ向かおうとしたとき俺は腕を引っ張られ足を止めた。

「アキ!」

「いででででっ」

 思いのほか強く引っ張られたが相手はカレンだった。顔面蒼白と言った感じでずいぶんと余裕がなさそうだ。

「助けて! 母さんと先生が! 早く来て!」

 カレンはそれだけ行うと俺の腕を引いて走り出した。

「助けてってなんだ? 何があったんだ!?」

「母さんたちが取り残されてるの!」

 俺は走りながら聞いているが、焦っているらしく話がサッパリわからん!

「落ち着け!」

「急がないと母さんたちが」

 俺は強引にカレンを止め落ち着くように言うが焦りは募るばかりのようだ。俺のことも見えていないようだし。俺は両手でカレンの顔を挟んで俺に向ける。

「カレン! 俺を見ろ!」

「!?……アキ」

「落ち着いて何があったか言え」

 幾分か落ち着きを取り戻したカレンだが、それでもまくし立てるように言う。

「最後の魔石を設置しようとしてる時に魔物が襲撃してきたの! それで門に上ってた人たちがケガして、母さんと先生が治療しに近づいたら魔物に囲まれちゃったの!」

(それってもうダメなんじゃ……)

「それで先生が咄嗟に魔石で自分たちのまわりに結界を張ったの! でも先生の魔力が尽きちゃったら結界も消えちゃう! だから急がないと!」

 言い終わるとカレンは再び走り出す。俺も後に続いて走り出す。

「戦えるヤツはいないのか!」

「ケガした人たちがそうなの! あとは他の住民の避難の護衛に行っちゃったの」

「クソッ」

 なんだよそれ、戦えるヤツが少なすぎだろ! 見張りとか立ててなかったのかよ! 俺が頭の中で叫んでいると魔物の群れに襲われている人たちが見えた。魔物はすでに村の中に入り込んでいた。

 固まっている人たちは……あれが結界か? 魔物たちが攻撃するたびに半球状の透明な壁みたいなものがチカチカ見える。先生らしき男性は攻撃に耐えるように魔石を抱え結界の維持に専念している。怪我人の治療は隣の女性がしているようだ。

 魔物は魚人で構成されていて数は……14いや15か、うち一体はほかのに比べてデカくて人型に近い……これは……

「母さん!」

「カレン!? なぜ戻ってきたの! 逃げなさい!」

「いや! 母さんを置いてなんていけない! すぐ助けるから!」

「ダメよ! お願いその子を連れて逃げて!」

 俺に向かって叫んでいる。あれがカレンのお母さんか。助けてあげたいけど……

 カレンは俺の方に向き直ると頼み込む。

「アキ! お願い助けて!」

「カレン、あの数は俺には無理だ」

「なんで!? アキだったら助けられるでしょ!」

「言っただろ! 俺は強くなんかないって! 死体が一つ増えるだけだ」

「そんなぁ、お願い! お願いだから!」

「ダメだ! 逃げるぞ!」

 俺はカレンの腕を引いて反対方向へ駆け出そうとする。しかしカレンは動かない。

「……お願いよ、助けてくれたらわたしなんでもするから! アキぃ!」

 カレンは俺の腕にしがみつき涙を流して懇願する。足をガクガクと震わせながら……

 俺は見ていられなくなり目をつむり首を横に振った……

 カレンは目を見開き力なく俺の腕を離した。そして、カレンは魔物の群れに向かって歩き出す……

「ヒック、ヒック……ほ、ほのおよ!」

 カレンは震える声で魔法を発動し、そして咆哮した。

「わあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー」

 魔物に向かって連続で炎が飛んでいく、一番手前にいた魚人に直撃した。

 しかしほとんど効果はなかった。魔法使いとして修練した魔法なら致命傷を与えられたかもしれないが、薬師であるカレンの火炎魔法では皮膚を焦がす程度しかダメージを与えられていなかった。

 直撃をくらった魚人がカレンの方に頭を向ける。そしてビチビチッとカレンに近づき、恐怖で動けなくなったカレンを尾ヒレでなぎ倒す。

バチッ!

「グフッ……」

 カレンは勢いよく吹っ飛ばされた。

「カレン!!!」

 カレンの母親の悲痛な叫びがとぶ。

 カレンは涙を流しながら起き上がろうとする。口から血を流しその顔には絶望に歪んだ表情が見える。

 魚人はなおもカレンに近づく、今度は三体が囲い込もうと……ビチビチッと……

「ヒック、ヒック……母さん、母さん……」

 カレンは涙に濡れた瞳で母親を見て呼び続ける。


 ……ダメだ……もう、無理だ……


 三体の魚人が一斉にカレンに襲い掛かろうとした。

 カレンは放心し硬直する。

「っ!?」

「カレン!!!」

 カレンの母親の叫びと同時に三匹の魚人は横薙ぎに切り払われた……


「……え?」


 カレンは放心したまま顔をあげる。

「……クソックソッ」

 俺は薙ぎ払った三体を踏みつけた後、カレンに近づいて左手をかざす……カレンの顔が淡い光が包み傷を癒していく。

 その間カレンはボーーッと赤くなった瞳で俺の顔を見ていた。

 カレンは放心した顔のまま訪ねる。

「……なんで?」

「知るか! バカ!」

「ヒッグヒッグ……ゥエッェェェェェェン」

 カレンは俺の腕に縋り付いて泣き出した。この状況でここで泣くなよ。

 俺は泣いてるカレンを立たせると、一言言ってやった。

「離れてろ! あと……死んだら一生恨んでやるからな!」

 とびきり後ろ向きな一言を……


「ヒック……うん」

 カレンはそう答えると建物の陰に隠れた。


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