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もう一人? ルゥの戦い2

 アキたちは森と川に挟まれた街道を進んでいた。この川沿いの街道を進んでいけばリーフ村にたどり着く。

 少し休むと言ってしまった手前、約束通り休んでいたら日が陰ってしまった。夜の街道にサラを連れて行くことは出来ず、結局翌早朝の出発となった。

 サラは平気だと言ったが、さすがにそれは頷けない。守り切る自信はあったが、万が一ということもある。前回のリーフ村への道中で、アキは魔物に囲まれ力を暴走させている。ドラゴンが気にはなるが、用心して翌朝に出発することにしたのだ。

「ん~、いい天気でよかったですねぇ」

 サラは伸びをし朝の新鮮な空気を吸い込むと、清々しい笑顔を向けて告げる。

 見事な胸が強調されアキは凝視してしまう。

(うん、とっても絶景)

 確かにサラの言う通り、いい天気だ。澄み渡る空はどこまでも薄緑に染まり、ちらほらと見える雲は風に乗り緩やかに流れてくる。

 空気は新鮮で濁りはなく、吸い込むと肺が洗浄されるようだ。

 つまり、進行方向の空には煙が立ち登っている様子はなく、流れてくる空気には血の匂いも煙臭も混じっていないということだ。

 アキはそれを魔力で五感を研ぎ澄まし感じ取っていた。

 出発が遅れ心配だったが、とりあえず進行方向で血生臭いことは起きていないと推測し、アキは胸を撫で下ろした。

「ホントに良かった」

 アキは心の底から呟いた。

「グエ、グエェェェ(パパ、気持ちいいねぇ)」

 ルゥは早起きな鳥なだけに朝早くからテンション高く軽快に駆けまわっている。

「お前は朝から元気だな」

 そのテンションに()てられ、アキはテンション低めに言う。

「グエ、グエェェェ(うん、朝のお散歩大好き)」

 ルゥはとても楽しそうだ。

「そうか、散歩大好きか……」

 しかし、これは散歩ではない。これからドラゴンがいるかもしれないところへ調査に行くところである。そんな散歩気分では困る。命に関わてしまう。

(これは渇が必要だな)

 アキはそう思いルゥを呼び寄せる。

「ルゥ! ちょっと来い!」

「グエェェ(はぁい)」

 ルゥはトコトコやってくる。尻尾をフリフリし、とても愛らしい。

「グエェェェェ(なぁに? パパ)」

「うむ。ルゥよ、俺はお前に言ったな。お前をビシバシ鍛えて強くしてやると」

 アキは威厳がある風に話しはじめる。

「グエッ(うん)」

 ルゥは頷く。

「今からお前に試練を与える!」

「グ、グエッ!?(し、試練!?)」

 ルゥは一歩後ずさり身構える。

「いいか、ルゥ。これから村に着くまで、現れた魔物はお前が倒すんだ」

「グ、グエェッ!?(ル、ルゥが!?)」

 ルゥは驚愕の声を漏らす。

「大丈夫だ。俺を守ろうとバフォメットと戦っただろ?」

「グエェェ(でも……)」

 ルゥは俯いてしまう。自信がないのだろう。

「安心しろ、慣れるまでは俺が指示するし、援護もする。お前ならできるさ」

 アキは俯くルゥの頭を撫で、奮起させる。

 ルゥはしばらく考え込むと、顔を上げる。

「グエッ、グエェェェ(うん、ルゥやってみる)」

「よく言った、それでこそ俺の子だ」

 アキはルゥをハグし体を撫でてやる。

「グエッ、グエェェェ!(ルゥ、パパみたいに強くなる!)」

 ルゥはやる気をみなぎらせる。

「おう、頑張れ!」

 アキはエールを送る。我が子がやる気を出して嬉しくない親はいない。アキはルゥを最強のグリゴールに育てると心に誓った。

「フフッ、本当に言葉がわかるんですね。ルゥちゃん、わたしも応援してますからね」

 サラはルゥの頭から首へかけ優しく撫でる。

 ルゥは気持ちよさそうに頭を摺り寄せる。

「グエェェ、グエェェェェ(パパ、このお姉ちゃんいい匂いがするよ)」

「おう、そうだな」

 ルゥはサラの体に頭を摺り寄せる。

「うふふっ、ルゥちゃんくすぐったいですよ」

 サラはルゥの羽毛がくすぐったいようだ。

「グエェェ、グエェェェェ(パパ、このお姉ちゃん柔らかくて気持ちいいよ)」

 ルゥは頭を摺り寄せ、サラの胸をプニプニしている。

「お、おう、そうだな」

 アキは頬を引き攣らせる。

「フフッ、アキ、ルゥちゃんはなんて言ってるんですか?」

 サラはこのタイミングで聞いて来た。

 アキは動揺し目を泳がせる。

「え!? ……えっと……そ、そう、お姉ちゃん優しいって……」

 アキは明後日の方向を向いて嘘を言った。

「本当ですか? それは嬉しですね。ルゥちゃんは良い子ですね」

 サラはそういうとルゥをハグする。

「グエェグエェ(わぁわぁ)」

 ルゥはなんだか感動している。

 子は親の背を見て育つとは言うが……

(ホントの事なんか言えない。……ルゥよ、なぜそんなとこまで俺に似た)

 アキはルゥの育成に失敗したと項垂れた。



「…………なんでこうなった」

 カルマは目の前の現状についていけていなかった。

 早朝アルマに叩き起こされたかと思うと、いきなりアキに同行しリーフ村へ行けと告げられた。

 どうやらアキが指名したらしい。

 しかし、カルマはなぜ自分が指名されたのかサッパリわからなかった。

 特に仲が良いわけではない。というか、まったく話したことがない。アキがアギトと名乗っていた時、斬り合っている最中に少し言葉を交わした程度だ。後はライアーと名乗っていた時に少し。アキとしては皆無と言っていい。

 理由を聞こうにも、はじめに挨拶を交わして以降話ができていない。

 常にアキの両隣をサラとルゥが固めている。

 サラと仲睦まじく話していて、時折ルゥが駆け回るが、カルマが近づこうとするとアキの隣を取られたくないのか、すぐに戻ってきて何やら話しはじめる。

(ていうかあの鳥と会話してんのか? マジ頭大丈夫か?)

 カルマはアキがルゥと話せることを知らず、アキの頭を心配する。アキと会話ができていないのだから知る術がないのだ。

 魔物が出たら連携して戦うことになる。自然と話すことができるだろう。

 カルマは何とか話をしようと魔物の出現を待ち、タイミングを見計らっている。

 話をするために魔物を待つというのも変な話ではあるが……


 しばらく進むと、奴等が現れた。

グルルルルル……

 ヘルハウンドAが現れた。

 ヘルハウンドBが現れた。

 ヘルハウンドCが現れた。

 イライムが現れた。

 待望の魔物の群れが現れた。

 カルマはチャンスと思い、喜び勇んで前に出ようとする。

 すると、

「ルゥ! 出番だ、魔物が出たぞ!」

「グ、グエッ(う、うん)」

 アキに促され、ルゥはビクビクと前に出る。

「ルゥちゃん! 頑張って!」

 サラが胸の前に拳を握り込み声援を送る。

「グ、グエッ(う、うん)」

「よし、行け!」

「ぐ、グエェェェッ!(う、うわぁぁぁぁっ!)」

 ルゥは羽をパタパタさせ駆け出して行く。

 緊張の為か、恐怖の為か、朝のような軽快さがない。

「あ……」

 完全に出遅れたカルマは成す術もなく、ただ見守るしかなかった。

 ルゥの巨体が闇雲に突っ込んでいくと、魔物たちは驚いたように四方に飛び退き距離をとる。

 しかし、ルゥのぎこちない動きを見て戦いは素人だと確信したのか、魔物たちは目で合図を交わし獲物を狩るが如く、ルゥを包囲しはじめる。

「グ、グエッ?(な、なに?)」

 ルゥは戸惑うように頭をキョロキョロさせる。

「グエ、グエェェェェ!?(パパ、どうしたらいいの!?)」

 ルゥは怯えきっていた。

 そんなルゥにめがけ、イライムが粘液を飛ばしてくる。

「グエッ!?(うわっ!?)」

 ルゥは慌ててそれを避ける。

 しかし、それを見越していたのかルゥが避けた先へヘルハウンド共が一斉に飛び掛かってきた。

「グエェェェェェッ!?(うわぁぁぁぁぁっ!?)」

 ルゥは恐怖で思考が停止してしまう。

 そこへ、アキが声を掛ける。

「ルゥ! 上に跳べ!」

「グエッ(パパッ)」

 ルゥは条件反射のようにアキの声に反応し、真上にジャンプするとヘルハウンド共の攻撃を躱す。

 そして、アキがジェスチャー付きで叫ぶ。

「ルゥ、真下に突風だ!」

 アキは両腕をバタバタ振って見せる。

「グエッ!(うん!)」

 ルゥは羽を羽ばたかせ風を巻き起こす。

 そして、その風を真下、飛び掛かってきていたヘルハウンド共に向け吹きつけた。

ビュゥゥゥゥ……

 ヘルハウンド共はルゥの巻き起こした突風に吹き飛ばされ、地面に体を打ちつける。

ギャウンギャウン

 アキは、吹き飛ばされ孤立した一体のヘルハウンドを指差し叫ぶ。

「ルゥ! 切り裂き攻撃!」

 調子に乗り始めたアキは、まるで某ゲームのトレーナーのようだった。

「グエェェェッ!(はいパパ!)」

 ルゥは着地と同時に駆け寄り、その鋭い爪に体重を乗せ、一気に切り裂いた。

「グエェェェッ!(はぁぁぁぁっ!)」

ザシュッ

ギャウッ

 ヘルハウンドAは首を切り裂かれ絶命する。

 起き上がったヘルハウンドB、Cは仲間を()られ、怒りを露わにする。

 そして、ルゥに向け突進し飛び掛かってくる。

 アキはすぐさま指示を出す。

「ルゥ、横に飛び退け」

「グエッ!(うん!)」

 ルゥが飛び退くと、アキは一体を指差し叫ぶ。

「蹴り飛ばせ!」

「グエェェェッ!(たあぁぁぁっ!)」

ドスッ

 ヘルハウンドBは蹴り飛ばされ、街道沿いに立ち並ぶ木に体を打ちつける。

ギャウン

 アキは、着地し振り返ろうとするヘルハウンドCを指差し叫ぶ。

「連続突き!」

「グエェェェェェェェェェッ!(うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!)」

 ルゥはヘッドバンギング突きを放つ。その鋭い嘴が次々とヘルハウンドCの体を貫いて行く。

ギャウンギャウンギャフッ

 ヘルハウンドCはハチの巣になり絶命する。

 しかし、ルゥも致命的なダメージを負った。

 頭を猛烈な勢いで振った為、クラクラしてしまった。

 ルゥは酔っ払いのように千鳥足になってしまった。

(あれは鍛えないと使えないな)

 アキがそう考えていると、イライムがルゥの背後に忍び寄り粘液を飛ばしてきた。

ビュッ

 ルゥはクラクラし、気付いていない。


 カルマはルゥを救いに飛び出そうとする。


 が、アキが先に動いていた。

 アキはルゥの背後にむけ手を振り伸ばす。

 すると、粘液は見えない壁(アキの気の障壁)に当たり、地面に伝い落ちていく。

 そしてアキは伸ばした手をイライムに向け振るった。

グチャ

 イライムは見えない何か(アキの気の障壁)に押し潰され、(コア)を破壊されると形状を維持できなくなり崩れ落ちた。

 木に打ちつけられたヘルハウンドBがヨロヨロと立ち上がる。仕留めきれていなかったようだ。

 ヘルハウンドBは憎悪をルゥへと向ける。

 ルゥはまだフラ付いていて、まだ戦えそうもない。

 アキは懐に手を差し込み、ナイフを掴むと投擲する。

ヒュンッ

トスッ

ギャウッ

 ナイフはヘルハウンドBのこみかみに刺さり、動きを止め倒れ落ちた。

 そこでようやくルゥのふらつきが収まる。

 そして戦いが終わっていることに気付いた。

 ルゥはアキの下へ駆け寄ると嬉しそうに鳴く。

「グエ、グエェェェェェッ!(パパ、ルゥやったよぉぉっ!)」

 ルゥは羽を広げアキに抱きつくようにすり寄る。

 どうやら、姿が見えなくなったイライムは逃げだし、すべて自分が倒したと思っているようだ。

 しかし、ルゥの頑張りを評価し、アキはそこには触れずにいた。

「ああ、よく頑張ったな。偉いぞぉ」

 アキはそういうとハグし、体を撫でてやる。

「グエェ、グエグエグエェェェェ(えへへ、これからはルゥがパパを守ってあげるね)」 

 自身は持てたようだ。しかし、過信はよくない。はじめに言い含めておかなければならない。

 アキはルゥに告げる。

「ルゥ、自信を持つのは良いけど、過信は禁物だ。俺はお前に自分の身を自分で守れるように強くなってほしいだけなんだ。だから俺を守ろうとして無理はするな。俺はお前に傷ついてほしくないんだ」

「グエェェェ(でもぉぉぉ)」

 ルゥはシュンとしてしまう。

 アキはルゥを優しく抱きしめて言う。

「でもな、その気持ちはすごく嬉しい、ありがとな」

「グエェ(パパぁ)」

 ルゥはアキに頭をすり寄せる。

 ルゥはアキに心配されるだけでなく、アキの力になれるようもっと強くなろうと心に誓った。このぬくもりをいつまでも感じていられるように。

 ルゥにすり寄られ、アキは気付いた、ルゥが血生臭いことに。

「ルゥ? ちょっと顔が汚れてるから川で洗って来い」

 アキはルゥが傷つかないように優しく言った。

 ルゥの顔はヘルハウンドCを(つつ)いた際に、返り血やら、(えぐ)れた肉やらがこびりついていた。

「グエェェェェ(はぁぁぁい)」

 ルゥは羽をパタつかせ駆けて行き、元気よく川に飛び込んだ。

 そしてバチャバチャと暴れ血肉を洗い流していく。

 アキはそんなルゥを微笑まし気に見ていた。

 サラはそっとアキの横に寄り添い呟く。

「優しいですね」

 サラは戦いの一部始終を見ていた。指示と援護をすると言っていたはずのアキが、ルゥを心配し魔物の半分を始末したところをバッチリ見ていた。

「甘いだけだよ」

 アキは苦笑する。

「ふふっ、そうですね」

 サラはそんなアキにも魅力を感じ、アキの腕に自らの腕を絡ませ体を寄せる。

 二人は我が子を見るようなまなざしでルゥを見つめていた。


 戦いに参戦するチャンスを2度も逃したカルマは茫然とその光景を蚊帳の外から眺めていた。

「…………だからなんでこうなった!?」

 カルマは心の底から叫んでいた。


ルゥ、頑張れ。そして、カルマ空気。

……なぜカルマ!?

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