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恋愛脳?

 硬直してしまった面々をアキは訝し気に見ていた。

「あれ? なんだ? どうした? そりゃドラゴン5体は多いけどさっきのドラゴンより小さいヤツだぞ? アイツ相手にみんな無事だったんだし、お前らなら余裕じゃね?」

 アキは光輝たちが5体と聞いてあのデカイドラゴン5体を連想しているのだと思い、その間違いを正し緊張を解そうとした。

 しかし、途中参戦したアキは光輝たちがワイバーンを倒したことを知らない。

「い、イヤ、そうではないのだ空雄、あの巨大なドラゴンが現れる前、小型のワイバーンに襲われ、それを倒したのだが……」

 ロマリオがそう説明するが、その途中興奮したアキが声を上げ説明を遮ってしまう。

「え!? マジで? なんだよ心配して損したぜ。さすが勇者御一行様だなぁおい。やればできるじゃねぇか。ハッハッハッハッハッ……」

 アキは一人陽気に笑い声を上げる。

 ロマリオの説明を遮るという暴挙に嵐三が声を上げた。

「バカもん! 陛下の話を遮るヤツがあるか! 話を最後まで聞け!」

「あっ、と、すいません王様、つい興奮してしまって。俺ドラゴンが5体出てきたとき超ビビッて、早く飛び去れ~って念じてたくらいなんスよぉ。だからスゲェなって……あ、すいません、続きお願いします」

 興奮冷めやらぬ様子で話し続けていたアキは嵐三に睨まれ我に返った。

「う、うむ。それは構わぬが、その倒したワイバーンというのが2体だけなのだ。我が軍と光輝たちとで総力を挙げてようやく倒せたのだ。余裕があるわけではないのだよ」

 ロマリオは興奮するアキにすまなそうに告げた。悪いのは勝手に勘違いし興奮したアキである。ロマリオがすまないと思う必要はなかった。

「そ、そうですか……でも倒せたのなら、残りの3体も倒せるってことでしょ? ポジティブに考えましょうよ。ハッハッハッ……」

 アキ呑気に、前向きに、ポジティブに言った。

 しかし、噂をすれば影とも言う。こんな話をしていていいのだろうか?

(あ、これってドラゴンの出現フラグじゃね?)

 と、アキが考えていると、


Gyaaaaaaa!


 遠くでドラゴンの咆哮が聞こえた。

 例に漏れることなく、お約束が発動した。

(ゲッ! マジで来た!?)

 そして、けたたましく扉が叩かれると、兵士が飛び込んできた。

「報告します! 北の空にドラゴンを発見! 現在厳戒態勢を敷いております」

「結界の方はどうか?」

 報告を聞きアルマが訊ねる。

「現在準備中であります!」

 返答を聞きアルマはロマリオに告げる。

「陛下、私は兵たちの指揮に戻ります」

「うむ、頼んだぞ」

「ハッ、カルマはここに残れ」

「おう、じゃない。了解!」

 アルマに急に呼ばれ、カルマは素で答えてしまった。

 アルマはヤレヤレといった表情を見せ、報告に来た兵を連れ部屋をあとにした。

 兵の報告を聞き、光輝と総司はバルコニーに出て、北の空を見上げていた。

 真っ先に敵の確認をするあたり、戦士としての自覚ができてきているようだ。

 ワイバーンは南から北へと飛んでいる。餌場の確認をし、自分の存在を知らしめるために来たのかもしれない。光輝はそう考え、再びワイバーンが襲ってくるだろうと確信していた。

 総司はワイバーンがまだ襲って来ていないことを知り、結衣が無事と安堵していた。

 総司は戦士の自覚に目覚めたのではなく、結衣の身を案じていただけだった。

 その場で気配を探り、バルコニーには出なかったアキが嵐三に訊ねる。

「じいちゃん、ドラゴンってどんなとこに住み着くもんなの?」

 アキと同じようにその場で外の気配に気を配っていた嵐三は、不意に訊ねられ言葉に詰まる。

「ん? あ、そ、そうじゃのう……」

 嵐三は記憶をたどり、ドラゴンの習性を思い出す。

「近くに餌場があり、遠くを見渡せる高い所、じゃろうかのう」

 嵐三の返答にアキはピクリと反応する。

 アキの頭の中で二か所ほど候補が浮かんでいた。

 一つは自信はないが、もう一つは嵐三の言ったポイントに合致していた。

 早めに確認した方がいいだろうと思い、アキは執務室を出て行こうとする。

 すると、手を掴まれ引き止められた。

「どこへ行くんですか?」

 サラが心配そうな表情で訊ねてくる。先ほどの嫉妬の炎は綺麗さっぱり消えていた。

「え? え~っと、トイレ?」

 アキは誤魔化した。

「嘘です!」

 サラはジト目を向け言い切った。 

 疑いようもなくバレバレだった。

 嵐三の返答のあとに動けば、それが嘘だと言うことぐらいすぐにわかってしまう。動くならしばらく待ってからにするべきだったのだ。

 アキはせっかちな自分の性格を呪った。

「空雄、何か心当たりがあるんじゃな?」

 嵐三は睨みを利かせて訊ねた。

「う、あるっちゃある、かな……」

 アキは曖昧に答えた。自信があるわけではなかったが、頭に浮かんでしまった以上は確認しないわけにはいかない。後で後悔したくないのだ。

「だったら、一人で行くでない!」

「え~……」

 嵐三に咎められ、アキは嫌そうな声を漏らす。

「なぜお前は一人で行動したがるんじゃ? もう問題はないのじゃろう?」

 マーサが訊ねる。その言いようはアキの瘴気のことを差しているようだ。

(気付いてたのか? てことは、じいちゃんもか……このジジババめ)

 アキは心の中で悪態をつけると告げる。

「確認しに行くだけだし、その隙にここが襲われるかもしれないだろ? その時に戦力不足で壊滅なんてことになったら困るし。それに一人の方が小回りが利いて逃げやすいだろ?」

 すると思わぬところから反論が出た。

「アキ、逃げるって言って逃げたことないよね」

 カレンがボソリと呟いた。

 その呟きにアキは反論する。

「逃げようとしたことはあっただろ!」

「でも、結局逃げなかったよね?」

「ぐっ……」

 二人はリオル村でのことを言っていた。あの時が唯一逃げようとした場面だった。見捨てられずに踏みとどまったのだが、あそこで逃げていれば、アキを取り巻く環境も違っていたかもしれない。悪い意味でである。それこそ逃げ回る人生になっていただろう。

 アキが押し黙っていると、手を強く握られていることに気付く。

 サラはアキの手を強く握り、アキの目をまっすぐに見つめて告げる。

「わたしはアキと一緒に行きますから!」

 アキは返す言葉に困ってしまった。もう二度と置いて行かないと約束しておいて、すぐさま約束を破ったのだ。事情があったとはいえ、心は痛んでいた。だから、もう一度約束を破ることはアキにはできなかった。それでもドラゴンがいるかもしれないところへ、サラを連れて行くのに抵抗があった。

 アキが返答に困っていると、嵐三が口を挟む。

「少人数でなら問題なかろう? 空雄とサラちゃん、あともう一人くらい連れて行け」

 嵐三もなんだかんだで、アキを一人で行かせることは心配なのだ。

 さすがにそこまで心配されてはアキも断ることはできなかった。二人増えるくらいなら逃げるにも問題はないだろう。城の戦力も然りだ。

 アキは渋々ではあるが納得した。

「わかったよ……サラ、もしドラゴンと遭遇したら、俺の言うことは絶対に守れ。いいな?」

 アキは真剣な表情でサラに告げる。その表情からはサラを心配する気持ちが現れていた。

 サラはアキが本当に心配してくれているのだと感じ、嬉しく思っていた。

 そしてその凛々しい表情に心を奪われていた。

「サラ? 聞いてる?」

 返事をしないサラにアキは不安を覚えた。

「はい、もちろんです。アキの言葉は絶対です」

 サラは目をトロンとさせ、心ここにあらずといった感じだった。

「絶対って、そこまでは言ってないんだけど……」

 アキはなんだか洗脳している気分になっていた。

 アキは一つ咳ばらいをし、気を取り直して確認する。

「コホン……で、あと一人だけど、連れて行く人選は俺がしてもいいよな?」

「ああ、構わんよ」

 嵐三が了承すると、アキはニヤリと笑う。

 二人の話を聞き、カレンと麻土香は自分を指名してもらおうと、「コホンコホン」とか、「んうん」とか、咳払いや喉を鳴らし、自分の存在をアピールしはじめる。

 そしてその涙ぐましい努力をする姉麻土香を援護するように、風音は麻土香の陰から「あ、あ~」と声の調子を確かめるふりをし注意を引こうとする。

 しかし、アキはそれを心配そうに見るだけだった。

(風邪流行ってんのかな?)

 3人の努力は報われなかった。

「ただしじゃ! 出発は少し休んでからじゃ。そんな体では(ろく)に戦えんじゃろ」

 嵐三は見抜いているのかそう言い切った。

 外見的にはサラの回復魔法で治っているが、中身の消耗が激しかった。少しずつではあるが回復はしている。しかし、まだ全快には程遠かった。

 アキはすぐにでも出発したかったが、行って役に立たなければ意味がないと思いとどまり、少し休むことにした。

「わかった。準備もあるし、少し休むよ」

「それで、どこへ向くつもりなんじゃ? 行き先がわからんと嵐三のヤツが鬱陶しいんじゃ」

 マーサは煙たがるように嵐三をチラリと見る。

「え? 何それ? どういうこと?」

 アキは意味がわからず訊ねた。

「アキの身を案じて、しつこいくらいにどこ行ったんじゃろう? 無事じゃろうか? と、うるさいんじゃよ」

「うわ~」

 マーサの話を聞きアキは引いていた。心配してくれるのは嬉しいがその状況は知りたくはなかった。

「余計なことを言うでないわ!」

 嵐三は孫を心配するジジバカっぷりを暴露され、顔を赤くし声を上げる。

「うるさい! 聞いてやってるんじゃから感謝せい! どうせ、おぬしの事じゃから、「ワシは空雄の事を信じておる」とか格好つけて、行き先を聞けないじゃろうが! 後で後悔してブツブツ言われるワシの身にもなってみろ! 鬱陶しくてかなわん!」

「なんじゃと! 可愛い孫を心配して何が悪いんじゃ!」

「だったら、行き先くらい聞けばよかろう!」

 ジジババで口喧嘩をはじめてしまった。

 やっぱり仲いいんだな。昔もこんな感じだったんだろうか?

 とアキが考えていると、騒ぎを聞きバルコニーから戻ってきた光輝たちが、その光景を目撃してしまった。そして、その視線が生暖かい物へと変わっていく。どこからどう見ても痴話喧嘩だったからだ。しかもいい年のジジババである。

 喧嘩の内容が自分の事であるため、アキは恥ずかしくなり、さっさと行き先を言うことにした。

「ああもう、リーフ村だよ! グリゴールの巣があったとこが怪しいと思ったの!」

 しかし、二人の喧嘩は収まらない。

「そもそもおぬしは昔から無駄に格好つけようとしよって……」

「お前こそいい子ぶっておったじゃろうが……」

 喧嘩の内容が過去の話へとスライドさせていた。

 二人の過去に興味はあったが、身内の痴話喧嘩に恥ずかしさが勝り、居た堪れなくなったアキは退室しようとする。

 が、継美たちの姿が目に入り、話がまだ途中だったことを思い出した。

「あ、王様。継美さんたちの話を聞いて、前向きに検討してあげてください。その為に俺は継美さんたちを連れて来たんですから。それに、その話がなくても俺は行くつもりですから」

 アキは念を押すように言う。

「うむ、わかった」

 ロマリオはすでに察していたように頷いた。

 嵐三も口喧嘩をしていてもしっかり聞いていたらしく、チラリとアキを見て頷いていた。

 継美は口添えをしてくれたことに感謝するようにペコリとアキに頭を下げていた。

 アキはニッコリと微笑みかけ、

「それじゃ俺はここで失礼しますね」

 部屋を出て行こうとする。

「アキ? どこに行くんだ?」

 光輝が呼び止めた。バルコニーに出ていた光輝はそれまでの話を知らず、話の途中で出て行くアキを怪訝そうに見ていた。

「ん? 部屋に戻って少し休む。俺の体は休息を求めてるんだよ。お前たちはちゃんと話聞いとけよ。じゃあなぁ」

 と言って、アキは手をプラプラ振り執務室を出て行った。

 サラはペコリと一礼し、アキの後に続き出て行った。

 その光景をジッと見つめる者がいた。

 ローザだった。

 ローザはロマリオの手前大人しく控えていたが、アキをジッと見つめ、その言動に一喜一憂していた。嬉しそうだったり、うっとりしたり、心配したり、嫉妬したり、嫉妬したり、嫉妬したりしていた。最終的にローザはサラをロックオンし、敵とみなしていた。

「(空雄様。わたくし、サラさんには負けませんわ!)」

 ローザは一人意気込んでいる。

 ローザの頭の中は恋愛脳に支配されていた。

 そして、カレンは見てしまった。

 サラとローザの視線が交差し、火花を散らすところを。

(あの間に割って入れるのかな? わたし自信ない……)

 カレンは自信を失いつつあった。

 麻土香は風音に慰められている。

「姉ちゃん頑張れ。まだチャンスはあるよ」

「ん~そうかなぁ……」

 麻土香も自信を失っていた。

 そしてもう一人、マリアは話を聞く傍ら、サラを見つめていた。

(サラ、頑張るのよ。お母さんはあなたの味方よ)

 シリアスな話をしている最中、裏側、心の内では一体何が繰り広げられていたのだろう?



「っ!?」

 アキはなんだか強い思念を感じ身震いした。

「アキ? 寒いんですか?」

 アキの異変にサラは心配そうにのぞき込んだ。

「いや、なんだか急に悪寒が……」

 サラはアキの腕に自らの腕を絡ませ、アキを見上げて告げる。

「こうすれば悪寒なんて消えてなくなりますよ」

 その上目使いから覗く潤んだ瞳にアキはやられてしまった。

 そして、腕を包む温かく柔らかな感触に脳がとろけそうになり、悪寒などすっかり消えてなくなっていた。


(ローザ様、アキは渡しません!)

 サラの頭の中もまた恋愛脳に支配されていた。


残りの一人は誰になるのでしょう?

想像はつきますよね。

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