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精霊たち

「グエッ、グエェェェェッ!(パパ、戻れたよぉぉっ!)」

 ルゥは感激したようにアキに突進していった。

ボフッ

「ブッ!? ぐっ!」

 ルゥは学習したのか、アキが吹き飛ばないように衝突の瞬間羽でアキを覆い捕まえていた。

 が、そのおかげでアキは身動きが取れず、ルゥを支えきれずに押し潰されてしまった。

 アキはルゥの羽毛の中からモゾモゾと這い出し声を上げる。

「んぐぅ、ルゥ! 吹き飛びはしなくても押し潰したら意味ないだろう! もう少し勢いを弱めろ!」 

「グエェェェ(パパァァァ)」

 アキの声が聞こえていないのか、ルゥは嬉しそうにアキに頭をすり寄せている。元の姿に戻れたことが嬉しいようだ。

 あの大きなサイズではアキに飛びつくことができなかった為、その反動で今甘えているのだろう。今のサイズでも十分過ぎるほどの衝撃を与えているようだが。

 アキはヤレヤレといった面持ちで、のしかかられながらもルゥの頭を撫でている。なんだかんだ小言を行っても、甘えてくるルゥの事が可愛くて仕方がないのだ。

ドサドサッ

 今の衝撃でルゥの後ろから何かが落ちるような音が響いた。

「いったたたぁ。もう、ルゥちゃんいきなり暴れないでよぉ」

 落ちてきたのはカレンだった。後ろ向きで落下したのか、お尻をさすり文句を言っている。

「ていうか、ルゥちゃん元に戻ってる!? なんで?」

 カレンはルゥを見て戸惑っているようだ。

「いったぁ」

「な、なんだよいきなり」

「はぁ、やっと地上ですか」

 カレン以外に3人ほど落ちてきていた。

 その三人をチラリと見ると汐音はアキに訊ねる。

「どなたですか? この方たちは?」

 汐音はその三人ではなく、すぐ隣で押し潰されているアキへと訊ねた。

「気になるんなら本人たちに聞けばいいだろ」

 アキは汐音にジト目を向け言い放った。

「今私は忙しいんです」

 汐音はアキには目もくれずそう言い放つ。すでに三人の事はどうでもいいようだ。

「そんな事より、ルゥちゃんの身に何があったんですか! ちゃんと話してください!」

 汐音はアキには目もくれず言い放った。その強めの口調とは裏腹にその表情は緩みきっている。

「いやいや、ルゥの事よりそっちの三人の方が重要っぽくね?」

 アキは呆れるように汐音を見上げている。

「ルゥちゃんの方が重要です!」

 汐音はアキには目もくれず、迷いなくそう言い放った。

 もうおわかりだと思うが、汐音はルゥのふわふわボディに抱きつき、久々にその感触を堪能している最中だった。もうルゥにメロメロだった。

 そのため、汐音の体重もアキにのしかかっていた。

「お、重い……」

「グエェェェ(えへへぇ)」

 ルゥはまんざらでもなさそうだ。アキにすり寄り、汐音に抱きつかれている。ルゥにとって至福の時なのかもしれない。

 とはいえ、いつまでもこんなことをしていても仕方がない。

 アキはルゥを撫でてやると、そのふわふわボディを押し退け立ち上がり汐音に告げる。

「その話はあとでしてやるから、しばらくルゥと遊んでやってくれ」

「任せてください!」

 汐音は即答した。

「グエッ!?(パパ!?)」

「俺はあの三人を連れて行かなきゃいけないんだ。お前は汐音に遊んでもらってろ。いいな?」

 アキはルゥを優しく撫でながら言い含めるように言った。

「グエェェェェ(はぁぁぁぁい)」

 ルゥは素直に頷いた。

「よし、いい子だ」

 アキは優しく微笑みかけ、ルゥは惜しむようにアキへと頭をすり寄せる。

 そのやり取りを汐音は不思議そうに眺めていた。

「じゃあ、よろしくな」

 アキは汐音の肩をポンと叩いて、その場を離れる。

「え、ええ」

 アキが離れると、後ろから汐音以外の声が聞こえてきた。

「ルゥちゃん久しぶり~」

「これがルゥちゃん? 丸いね」

「グエッ!?(誰!?)」

 どうやら結衣と冬華がルゥを見に来たようだ。

 汐音に任せたことだし大丈夫だろうとアキは汐音たちではない三人の下へとおぼつかない足取りで向かう。


 カレンと三人はすでに体の土埃を払い、立ち上がっていた。

 その三人とは、一人はシドー村の継美(つぐみ)、後の二人は遺跡前でアキに刃を向けた継美の護衛だった。

 アキは三人の下へと着くとすぐさま謝罪した。

「すみません、なんだか荒っぽい着地になってしまったようで」

 三人が落下した原因は着地というより、その後の衝突の振動だったのだが、どちらもルゥがアキへ突っ込んでのモノだから、アキからすればたいした違いではなかった。自分の子の不始末を謝罪するのは親として当然のことなのだから。

「いえ、ルゥちゃんに乗せてもらう時に覚悟はしていましたから大丈夫ですよ」

 継美は気にしていないように言ってくれた。

 しかし、それはつまり、ルゥならばそうなることもあり得ると思っていたということだ。ルゥの行動を見ていれば誰もがそう思うだろう。落ち着きがないと言うか、猪突猛進というか、すべてアキ絡みであるため、アキは否定することもできず、ただ愛想笑いを浮かべ頬を引き攣らせるのみだった。

 そこへ、光輝が声を掛けてきた。

「アキ、その人たちは?」

 アキは振り返り告げる。

「お客さんだ、じいちゃんに取り次いでもらえるか?」

 アキの物言いに光輝は「何言ってんの?」と言いたげに首を傾げる。

「何言ってるんだよ。直接会いに行けばいいだろ?」

 言いたげどころかズバリ言ってのけた。

 アキは困った顔をし視線をまわりへと向ける。

 視線の先にはアキを良く思っていない兵士たちがいた。

「俺が城に入ってもいいのか?」

 光輝は怪訝そうな視線でアキを見据える兵士たちに気付き、声を上げる。

「当たり前だろ! あのドラゴンを倒せたのだってアキのおかげなんだから。あの力だって危険はないんだろ? じゃなきゃアキが使うわけないだろ?」

 光輝はわざとまわりに聞こえるように言い、アキに目くばせする。

 アキは敵ではないと兵士たちに伝えようとしているのだろう。目くばせはそれに話を合わせろと言うことだろう。

 光輝はアキの力についてそこまで信頼を置いているわけではなかった。あまりに異質な力のため簡単には受け入れ難かった。しかし、アキという人間は信頼している。話を聞くためにも城へ、邪魔の入らないところへ連れて行きたかったのだ。

 アキはその配慮に感謝し乗っかることにした。

「ああ、何とか制御できるようになったからな」

 光輝たち、特に兵士たちを安心させるように声を張って聞こえるように言った。

 もちろん嘘である。

 制御しているのはアルスであってアキではない。まだ未知の部分のある力である。そして未知の部分を知るのはアルスの失われた記憶だけだった。何かの拍子に暴走するということも十分にあり得るのだ。

 なので、アキは三人を光輝に預け嵐三と話をさせようと思っていた。無用な騒ぎを起こさないためにアキは城には入らず、どこか外で時間を潰すつもりだったのだ。

 踏み絵計画が成功したことを知らないアキはそう考えていた。

 しかし、先ほどのドラゴンの戦いで、無用な力を使い消耗してしまった為、光輝の申し出は正直嬉しかった。魔物の居るところでは気が休まらない。消耗した体を休めるには、城はうってつけなのだ。監視(光輝たち)がつくだろうが、仕方がない。町の宿屋ではアキを受け入れてはくれないかもしれないから。

「だったら大丈夫だな。ほら行こう。皆さんもどうぞ」

 光輝の言葉を聞き、まわりの視線も幾分か和らいだ気もするが、すぐには効果は出ないだろう。心に根付いた恐怖や疑念はすぐには拭えないモノだ。

 それはアキも理解している。長居するつもりもないので、しばらくの我慢だと思い、気にするのを止めた。

 逆に、その負の感情を受けてアキの中の瘴気が増殖してくれれば力を蓄えることができ、お得じゃないか? と、まあ溜まればラッキーくらいには考えていた。

 とりあえずは、光輝の後ろ盾があれば、このまま城には入れるだろう。ちゃっちゃと話を済ませて体を休めよう。

 アキはそう考え足を一歩踏み出した。

 すると、アキの前に立ち塞がる者がいた。

 ……言い方がまずかった。言いなおそう。

 アキの前に思い詰めた表情の女性が歩み出てきた。

 サラだった。

 サラはアキの瞳を潤んだ瞳で見つめて告げる。

「アキ……アキの言う通り待ってたよ。おかえりなさい」

 サラはそういうと、まわりの目を気にすることなくアキに抱きついた。もう離さない、もう二度と離れない。だから放さないで。そんな気持ちが伝わってくるようだった。

 しかし、アキはそんなことを言っただろうか?

(じいちゃんにそんな様な事言ったような気もするけど……それの事かな?)

 アキはサラの柔らかな体を受けとめ、帰って来たのだと感じ優しく抱きしめた。

「ただいま、サラ」

 帰ったつもりはなかったのだが、思わず口をついて出てしまった。

 それほど破壊力のある、サラのぬくもりだった。

(あれ?)

 アキは今の情景に既視感を感じていた。以前どこかで見たようなそんな感じを抱いていた。

 しかし、そんな既視感もサラのぬくもりに溶け込みすぐに消えてしまった。

(ま、いっか)

 サラの行動は光輝の配慮を後押しするものだった。

 城で絶大な人気を誇るサラが熱い抱擁と共に迎え入れたのだ、文句を言えるものなど誰もいなかった。

 そもそも、アキが飛び出して行き、それにサラがついて行かなかったことが疑念を誇張することとなっていたのだ。

 二人の関係性を再確認するために時間と距離をとったのだが、そんなことは兵士たちにはあずかり知らぬ事。サラがついて行かなかったことにより、あの兵士、サラファンクラブ副会長の言っていたことが本当なのだと誤認されることとなったのだ。踏み絵効果で、それが払拭されたかに見えたが、今回のアキの戦い振りで再燃してしまったのだ。それを今のサラの行動で誤解を解いたのだ。アキの力に対する恐怖や、サラとの関係に対する多少の妬み嫉みはあるけれど、アキと言う人間が敵ではないということはわかってもらえただろう。

 アキはサラに寄り添われながら、正確にはサラに肩を借りながら、光輝の先導で城へ向かいはじめる。

 継美たちもそれに付いて来ている。

 総司、麻土香、風音もアキの横に付いて来ているが、麻土香が冬華たちの下に行っていないのが疑問だった。ハブられているのか? と疑ってしまうが、冬華がいることだしそんなことはないはずだ。ただ風音の側にいるためだろう。他の三人娘、汐音、結衣、冬華はルゥと遊んでいるようで付いて来ていない。

 ルゥも三人娘に囲まれデレデレして喜んでいるようだからまあ良しとしよう。

 ルゥの事を頼んだ手前アキは何も言うつもりはないようだ。

 そこでアキはふと気づく。

(あれ? ウィンディのヤツの姿が見えない。俺の中に帰ってきた形跡もないし……そういえばシルフィの姿も見えないな。精霊同士親交を深めてんのかな?)

 などとアキは呑気な事を考えていた。


 姿を消し、上空でその光景を見ている者たちがいる。

『ふふっ、どうやらアキは受け入れてもらえたようですね。安心しました』

 ウィンディは微笑みを浮かべている。

 アキからウィンディへ視線を向けシルフィが告げる。

『なぜあなたがアキと共にいるのです?』

『なぜって、アキの事が好きだからですよ』

 ウィンディは特に考える素振りも見せず、そう言い切った。

『そんなわけないでしょう! まだ会って間もないと言うのに! それにあなたは彼らと仲間だったのでしょう? 信じられるはずがないでしょう』

 ミュウはウィンディに食って掛かる。シルフィの恋敵? を自分の敵だと認識したようだ。

 彼らというのはアイズたちのことだと言うのは言うまでもない。

『アキを好きになるのに時間なんて関係ないでしょ?』

 ウィンディは「わかっているでしょ?」と言うように問いかけた。

『まあ、そうだな』

 フラムがいつになく真面目に返した。ポージングもなしにだ。

 アーサーもそれには同意のようでコクコクと頷いている。

『あなたたちはどちらの味方なんですか!』

 ミュウが憤るように声を荒げる。

『だってよぉ、それに関しちゃお前だってわかってるだろ? それが愚問だってことはくらい』

『そ、それは……』

 ミュウはフラムに言い含められてしまった。

 ミュウはアキに小言を言ってはいるが嫌いと言うわけではない。好意を持って小言を言っていた。嫌いならば完全無視を決め込むだろう。

『でしょう? それに彼らとは仲間というわけではありませんしね。私からしたらあなた方の方が不思議です。違う属性の精霊が仲良くいるなど信じられませんね』

 ウィンディの物言いに、ミュウは自分たちの関係性を否定されたようで怒りを露わにする。

『私たちは産まれた時よりずっと一緒に暮らして来ました人間で言うところの家族なのです! 仲が良くて当たり前です!』

『家族ですか……よくわかりませんね』

 ウィンディはその一言で切り捨てた。

『なっ……』

 ミュウが言い返そうとすると、シルフィが止めに入った。

『ミュウ、そこまでにしなさい』

『し、しかし、お姉様!』

 食い下がるミュウを抑え、シルフィはウィンディを見据え言い放つ。

『あなたがどういうつもりでアキに近づいたのかは知りません。しかし、アキに危害を加えるつもりなら許すことは出来ません。そのことは覚えておいてください』

 シルフィのまわりに風が渦巻きウィンディを威嚇する。

『フフッ、怖い子ね。覚えておくわ。……でも、私よりも警戒しないといけないことがあるんじゃないの?』

 ウィンディは視線を下へ向けると、目を伏せた。

『今のあなたたちが警戒してもどうすることもできないでしょうけどね』

 ウィンディは挑発するように笑みを浮かべ言い放った。

『それは……』

 シルフィたちは言い返すことができず、下唇を噛みしめ黙り込んだ。

『もしもの時、止められる力をつけなさい。その方法はわかっているでしょう?』

 ウィンディは表情から笑みを消していた。

『執着を捨て、覚悟を決めなさい。本当に守りたいのなら』

 ウィンディはシルフィの目を真っ直ぐに見据えそう告げた。

『……ウィンディ、あなたは一体……』

 助言を言うようなウィンディにシルフィの抱く疑念はより強くなった。

 敵ならば助言をするわけがない。しかし、明らかに何かを隠し味方とも思えない。アキに近づいた目的もわからない。アキの為に行動していると言われればそう見えなくもない。しかし、そんな簡単なものとも思えない。

 シルフィにはウィンディの行動の意味がサッパリ分からなかった。

『フフッ、知りたければ力をつけなさい。そうしたら教えてあげてもいいわよ』

 ウィンディは明らかに教える気のない、悪戯っ子のような笑顔を見せた。

『じゃあね』

 ウィンディは話はここまでと一方的に打ち切り、アキの下へと帰って行った。

『お姉様……』

 ウィンディを見送るシルフィを心配しミュウが呼びかけるが、シルフィは黙ったままだった。

 シルフィは寂しそうな瞳でアキを見つめている。

 ミュウは心配そうにシルフィを見つめ、アーサーはミュウの水のローブを掴み俯いている。

 フラムは明後日の方向を向き胸筋をピクピクさせている。

 4人は各々思うところがあるのか、黙ったまま佇んでいた。


ウィンディは本当になんでアキの下へ来たんでしょうね?

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