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光輝の夢

 ゴーレムはドラゴンに殴りかかって行く。

 左拳を振り上げ、ドラゴンの顔面、つぶれた右目で死角となる方向から殴りつける。

 ドラゴンは今の視界に慣れていないのか躱す反応を見せないでいる。

ボンッ

 ゴーレムの左肘の辺りから破裂音が鳴り拳に加速が掛かる。

 その音に反応するようにドラゴンが顔を向けるがすでに遅く、加速した拳が顔面に直撃する。

ガツッ

 まだ癒えていないのかつぶれた右目から鮮血が舞う。口からは唾液と共に苦悶の声が漏れる。

Gugya!?

 ゴーレムは右拳を振り上げ、ドラゴンの顎を狙い振り抜く。

ボンっ

 再び右肘辺りから破裂音が鳴り、拳が加速させるとドラゴンの顎を打ち上げる。

ガゴンッ

Gu!?

 その変則的な拳のスピードと死角からの攻撃にタイミングをずらされたドラゴンは躱すことができず、ゴーレムの攻撃は次々とヒットしていく。 


 ドラゴンと巨大ゴーレムが対峙する。

 そのゴーレムの肩には白い衣を纏った麗しい白い女性がその長い髪を風になびかせている。

 そして、女性がドラゴンに手をかざすとゴーレムはドラゴンへと拳を振り上げ、そして振り下ろす。

 それはまるで、魔獣を手なずけた聖女のような幻想的な光景だった。

 兵士たちは夢の中の出来事のようにボーッとそれを眺めていた。


「シルフィやっちゃぇぇぇっ!」

「アーサー君がんばってぇぇっ!」


 怪我の治療を終え動けるようになった冬華と、なんとか体を起こせるようになった麻土香がシルフィとアーサーに声援を送る。

 兵士たちは、あの聖女の名前がシルフィなのだと知り、あのゴーレムがアーサーなのだと理解した。しかし、「君?」と首を傾げている。兵士たちは傷を負い気絶していた為、アーサーがあのゴーレムを作り出したところを見ていなかった。その為、あのゴーレムはシルフィが使役しているものだと勘違いしていた。


「「シルフィ様ぁぁっ!」」


 兵士たちは、ゴーレムを操り自分たちを救ってくれるシルフィを、崇拝する女神を見るようなまなざしで声援を送っている。まるで狂信的な信者が女神に祈りを捧げているような光景だった。

 シルフィを知る指揮官クラスの者たちはその光景を一歩後ずさり引きながら見ていた。

「お、お前たち……」


『何ですかいきなり?』

 兵士たちの奇妙な視線と声援を受け、シルフィはチラリとそちらを見ると顔を顰めていた。しかし、そんな兵士たちのことなど気にしている暇はない。これ以上長引かせない為、目の前のドラゴンの動きを早急に押さえ込まなければならない。

 ゴーレムは再び左拳を振り上げ死角から殴りつけようとする。

 しかし、ドラゴンも学習したのか、死角からの攻撃だと察知し、羽を羽ばたかせると後方に跳び拳を躱した。

 ドラゴンは宙にホバリングしたまま、息を吸い込みブレスを吐き出した。

ゴォォォォォォ

 もちろんゴーレムは外側が鉄で覆われ炎は効かない。ドラゴンの狙いはゴーレムの拳に加速を掛けているシルフィだった。生身のシルフィならばファイアーブレスで焼き殺すことが可能だと考えたのだろう。

 確かにまともにくらえばシルフィとてただでは済まない。ただし、まともにくらえば、である。

 シルフィはブレスを見据えると、手をかざし魔法を放つ。

 風が集まり、渦を巻くように立ち登っていく。そしてシルフィとゴーレムの前に大きな竜巻となり壁となる。ブレスが竜巻に直撃すると竜巻に巻き込まれ炎の竜巻が出来上がる。

 ドラゴンはブレスで竜巻諸共シルフィにとゴーレムにぶつけようとブレスを吐き続ける。

 シルフィも押されまいと竜巻に魔力を注ぎ込み押し返していく。

 しばらくこの力比べが続くものだと誰もが思っていたが、それはすぐに終わった。ドラゴンの息が続かなかったのだ。

 ドラゴンのブレスが止まり、もう一度ブレスを吐こうと息を吸い込んだ時にはすでに炎の竜巻に飲み込まれていた。

Gyaaaaaaaa!

 とドラゴン咆哮が上がるが、ドラゴンに炎が効かないのはすでに周知に事実。ダメージを受けてのモノではなく、押し負けたことにプライドが傷ついた怒りの咆哮だった。

 シルフィは炎に包まれてもなお宙にホバリングするドラゴンへ両手をかざすと、魔法を放つ。

 炎の竜巻を強化するのではなく、ドラゴンの上空に別の竜巻を作りだし、ドラゴンへ向け吹き下ろしたのだ。

 ドラゴンはその吹き下ろしの竜巻に背後から叩き落とされる。

 そして地上で待ち構えるゴーレムはうつ伏せで落下してくるドラゴンの腹へその拳を振り上げた。

ゴスッ

Gugya!?

 ドラゴンは腹の中の空気を吐き出し、ブレスが吐けなくなる。

 ゴーレムの打ち上げた拳、ドラゴンの落下速度、ドラゴンの重量が掛け合わさり、ドラゴンへの多大なダメージとなり、動きを止める。

 ここを逃すのは愚か者のすることだ。

 ゴーレムはドラゴンの背後にまわりドラゴンを羽交い絞めにすると、形状を変える。

 ゴーレムの足は地面と同化し、地面から岩や鉄を吸い上げプレート状に変化していく。身動きの取れないドラゴンはそのプレートに塗り込まれるように埋没していく。

 そしてドラゴンの前半身が露出した巨大なドラゴンのプレートが完成する。

 プレートの背後からスーッとアーサーが出てくると、疲れたように項垂れ落下していく。

『アーサー!』

 シルフィはプレートの上から飛び降り、アーサーを抱き留める。

 アーサーの可愛らしい顔に疲労の色が見てとれた。4人の精霊の中で一番魔力が高いとはいえ、これだけ巨大なゴーレムを長時間維持していたのだ魔力の消費が激しかったのだろう。

 シルフィはアーサーを抱きかかえたまま風に乗りプレートの前に出ると、光輝に声を掛ける。

『光輝、今です! 露出した箇所に止めの一撃を!』

「おお!」

 光輝は声を上げると、真聖剣を構え、地面を蹴り駆け出す。そして力強く踏み切り跳び上がると、ドラゴンへ真聖剣を振り下ろした。

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 ドラゴンへ接触する瞬間、瞬間的に魔力を注ぎ込み、真聖剣の威力を上げる。

 そして、光が溢れるとドラゴンの咆哮が響き渡る。


Gyaaaaaaaaaaaaa!


 それはドラゴンの断末魔だと誰もが思った。

 しかし、それは誤りだった。


パキンッ


 ドラゴンへ接触すると同時に真聖剣がまばゆい光に包まれると小気味いい音と共に折れてしまった。

 断末魔だと思われていたドラゴンの咆哮は、大気を震わせ、光輝の剣閃の軌道を微妙にずらしていた。そして、咆哮によりドラゴンは自身の防御力を高めていた。人が気勢を上げ下っ腹に力を籠めるような感じだと思ってもらえればいだろう。それをドラゴンが実行したのだ。一つの咆哮で二つの効果を表し、その二つが合わさった結果、ドラゴンを斬り裂けるはずだった光輝の真聖剣は、軌道をずらされたことで威力を殺され、硬度を増したドラゴンの外皮に阻まれ折れてしまったのだ。

 光輝は地面に降り立つと、折られた真聖剣を見て茫然自失となっていた。

Gyaaaaaaaa!

 ドラゴンは再び咆哮を上げると、アーサーの作り出した拘束のプレートを力任せに破壊し外へと出てくる。

 そして、その尻尾を振り回し、茫然と佇んでいる光輝を薙ぎ払った。

ドスッ

「ぐふっ!?」

「光輝ぃぃぃぃぃぃっ!」

 吹き飛ばされる光輝を目の当たりにし、汐音が悲鳴を上げる。

 光輝の体は東門に激突し、門を破壊するとそのまま結界の中にまで飛ばされた。

 光輝は放り投げられた人形のように力なく地を転がり、気を失ってしまったのかピクリとも動かなかった。

「光輝! 光輝!」

 汐音は光輝に駆け寄ると、回復魔法を掛け光輝の名を呼び続けた。

 ドラゴンは自分の命を奪おうとした光輝に止めを刺すべく、光輝追い結界に近づいて行く。

 そして、結界にぶつかると、不快感をあらわにするように鋭い爪で結界を斬り付ける。

ガガガガガガッ

ガガガガガガッ

 左右の爪で斬り裂くと、体を回転させ尻尾を打ちつける。

ズドンッ

ピキッ

 ドラゴンの重い一撃を受け、結界に亀裂が走る。

 ドラゴンはその亀裂を目を細めて見ると再び体を回転させ尻尾を打ちつけた。

ズドンッ

ピキピキッ

 結界の亀裂が拡がっていく。これ以上ドラゴンの攻撃を受け続ければいずれ破壊されるのは火を見るより明らかだった。

 ドラゴンは尚も尻尾を振り回す。

 シルフィは結界の内側で魔力を回復しているミュウへアーサーを預けると、飛び出していく。

『おねぇさま! お一人では危険です!』

 ミュウがシルフィを引き止める。

『誰かがヤツを止めなければ、アキの帰る場所が無くなってしまうでしょう!』

 シルフィはそう言うと、尻尾を振り回すドラゴンに向け手をかざし魔法を放つ。

『はぁぁぁぁぁっ!』

 巨大な竜巻が巻き起こり、ドラゴンを覆いつくしていく。

 ドラゴンは竜巻の中に閉じ込められ、風の奔流に囚われ身動きがとれなくなった。

『今のうちに光輝を叩き起こしてください!』

 シルフィは汐音に向け声を上げる。

「光輝! 光輝! 目を覚ましてください! 光輝!」

 汐音の悲痛な声が響き渡っていく。

 光輝は夢を見ていた。

 幼いころの夢。

 まだアキが道場に来ていたころの夢……


スパッ


 竹入り畳表は斜めに綺麗な切り口を付け真っ二つになる。

 嵐三は険しい表情のまま納刀し、振り返る。 

「どうじゃ? わし格好いいじゃろ?」

 嵐三はドヤ顔で言う。

 嵐三は居合い斬りを見せてくれていた。

 どうしてそういう流れになったのだろう?

「おじいちゃんすご~い、カッコイイ」

 冬華は目を爛々と輝かせ憧れるようなまなざしを向ける。

「ふんっ、そんなのオレにだってできる! 楽勝だっての」

 アキは嵐三に対抗するように言い放った。冬華の憧れの視線が嵐三に向けられたが悔しいのだろうか?

「ハッハッハッ、空雄もやってみるか? 真剣じゃから気を付けるのじゃぞ」

 嵐三はそういうと、居合い斬りをレクチャーしていく。細かな注意事項は嵐三が見本を見せびらかす際に入念に聞かされていた為、アキはうんざりしていた。

 そしてレクチャーが終わると、アキは真剣を片手に竹入り畳表の前に立つ。

「お兄ちゃん頑張ってぇぇっ!」

 冬華が両手を口に添え声援を送る。

「おう!」

 アキは片手を上げそれに応える。冬華の前で格好悪いところは見せられないのだろう、その表情は真剣そのものだった。

 アキは竹入り畳表に向き合い構えをとる。

 左足を前にやや前傾姿勢、右手に真剣を持ち、左手を柄へと添える。

 そして、竹入り畳表を見据えると、

「イヤァッ!」

 気勢と共に刀を抜き振り抜いた。


ザスッ


「っ!?」

 アキは刀を振り抜いたまま硬直する。腕が痺れているようだ。

 アキの振り抜いた刀は、竹入り畳表の竹の部分で止まっていた。その衝撃でアキの手は痺れてしまったようだ。

「ハッハッハッ、空雄にはまだ無理だったようじゃな」

 嵐三は可愛い孫を見て楽し気に笑っている。

「う、うるせぇ! じいちゃんもう一回だ!」

 アキはもう一度挑むが、結果は同じだった。

「むむむ……これ、竹じゃなくて鉄が入ってんじゃねぇの?」

 アキは竹入り畳表にいちゃもんをつける。

「そんな事したら刀が刃こぼれしてしまうじゃろうが」

 嵐三が否定するもアキは納得できないようだ。

「私もやりた~い」

 冬華が無邪気にそんな事を言う。

「ん~冬華はまだ小さいからのう。もう少し大きくなってからじゃな」

 嵐三に止められ冬華は不満そうだ。

「え~、つまんな~い……じゃあ、コウちゃんやってみてよ」

「俺にできないのに光輝ができるわけないだろ」

 冬華が光輝に期待に満ちた視線を向けたことが気に入らないのかアキは否定の声を上げた。

「まあまあ、どうじゃ光輝もやってみるかの?」

 嵐三に訊ねられ光輝はコクリと頷く。

 そんな光輝にアキはやめさせたいのか止めようとする。

「え? ホントにやるの? マジで? やめた方がいいと思うけどなぁ」

 光輝はそんなアキを首を傾げ見つめ、真剣を受け取ると竹入り畳表の前に立つ。

「思い直すなら今の内だぞ~」

「お兄ちゃんうるさい!」

 アキがチャチャを入れるが、冬華に怒鳴られシュンとし大人しくなる。

 光輝は竹入り畳表を見据え構える。

 右足を前にやや前傾姿勢、左手に刀を持ち、右手を柄に添える。

 そして、無言のまま、刀を抜き振り抜いた。


スパっ


 刀は左下から入り、右上に向け振り抜かれ、竹入り畳表は斜めの綺麗な切り口つけ真っ二つになった。

 光輝は無言のまま納刀し、礼をする。

「そこはつまらぬものを斬ってしまった、だろう!」

 アキはすかさず突っ込みを入れる。

 そうだ、これが切っ掛けだった。アニメを見ていて、その中のキャラクターが居合い斬りの達人で、自分もやってみたいとアキが言い出したのだった。アキはできなかったが……

「コウちゃんすご~い」

「ハッハッハッ、さすがじゃな光輝。お前の剣は型を忠実に再現しておるから剣閃にブレがない。じゃからできたのじゃ。空雄も光輝を見習って体に型を覚え込ませるのじゃぞ。そうすればお前にもできるようになる」

 嵐三はアキに言い聞かせるように言うと、アキはそれに反発するように言い放つ。

「ふんっ、俺は二刀流を極めるんだからそんなの必要ねぇよ!」

 アキは道場を飛び出して行った。

「待ってよ、お兄ちゃん!」

 冬華はアキの後を追いかけて行く。

「やれやれ、困ったもんじゃ」

 嵐三はそう言うが顔は緩んだままだ、孫の事が大好きなのだろう。

 光輝は刀を嵐三に渡すと、トコトコとアキたちを追いかけて行った。

 どうしてこんな夢を見たのだろう?


昔の光輝はアーサーみたいに、無口な子だったようです。

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