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逃走中の無謀な挑戦

 光輝はひたすら逃げ回っていた。

 2体を合流させない為、城の結界を攻撃させない為、他の村に被害を出させない為、光輝は人のいない南へと森の中を突っ切っていく。

しかし相手はワイバーン、空を飛んでくる。時折追い付かれたりもしたが、魔法を放ちやりすごす。

盲目の閃光(Bフラッシュ)!」

 剣の光を瞬間的に増幅し、目をくらませ距離を取る。そして再び逃走をはじめる。ということを繰り返していた。ちなみにBフラッシュのBはブラインドのBだ。

 途中ワイバーンは逃げる光輝に興味が無くなったのか引き返そうとしたりもした。

 光輝は軽く攻撃を加え注意を引き、つかず離れずの距離を保っていた。

 そこで光輝は疑問が沸く。

(僕はなんで逃げているのだろう?)

 それはドラゴン、ワイバーン2体を倒すため、そのうちの1体を引き付けるためだ。逃げているのは一人では倒せないから……そして、汐音に無理はしないと約束したからだ。

(引き付けるのが目的であって逃げるのが目的じゃない。それに……倒せない、のか? アキだったら一人でも倒せるんじゃないか?汐音からアキが魔獣を一人で倒したと聞いた。だったらドラゴンもいけるんじゃないか?)

 光輝はそんなバカげたことを考えていた。

(倒せないまでも、これはいい機会かもしれない。アキみたいに単独行動をできるわけじゃない。一人でどこまでやれるか試すには今しかないんじゃないか? 無理をしなければ約束を破ることにはならないし)

 光輝はそう考え、駆け抜けるスピードを落とし後ろを振り返る。

 後ろでは森が轟轟と燃え広がっていた。

 光輝が逃げ回っている最中、ワイバーンは何度もブレスを吐き森を焼いていたのだ。

(これ以上逃げ回っても森が燃え広がるだけだ。これが目印となり、汐音たちが追って来やすくなるからいいんだけど、これ以上広げるのもどうだろう? 自然破壊はよくないのではないか? 森が減ると生態系に影響が出るかもしれない。そのせいで人々が魔物に襲われるかもしれない)

「うん……自然は大事、だよな」

 光輝はそう戦うための理由をつけていたが、それも意味をなさなくなった。

 目の前に断崖絶壁の山がそびえ立っていた。山はまわりを覆うように、光輝の逃げ場を塞ぐように立っていた。

 無謀な行為への理由付けを必要とせず、期せずしてチャンスが訪れた。

 光輝は足を止める。そして無謀な戦いに手を出そうとしていた。

 光輝は宙をホバリングするワイバーンを見据え剣を構える。

「もう逃げるのはやめだ! 僕の修行に付き合ってもらうぞ」

 光輝は剣に光を纏わせ真聖剣にすると、自らに身体強化の魔法を掛け駆けだし、山の岩壁を掛け登っていき、そのままワイバーンへと跳び上がる。

 そして、逆袈裟切りで剣を振り上げた。

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 空中戦ならばワイバーンが有利、なぜ跳び上がり空中戦など挑んだのだろう? 二の太刀で攻撃し、下りてきたところを必殺の一撃で攻撃するべきだろう。それなのに跳び上がった。

 光輝にはある考えがあったのだ。

 ワイバーンは羽を羽ばたかせ旋回すると、その一振りを躱し、その鋭い爪で斬り裂こうと腕を振り抜く。

 そこに風が吹き抜ける。 

ビュゥゥゥゥゥ

 光輝はローブを広げ、山を吹き上げる上昇気流に乗り上空へと舞い上がっていく。

 ワイバーンの爪は空を斬り、光輝の後を追うように顔を上げる。

 光輝は戦況を優位に運ぶためワイバーンの上をとることに成功した。

 空を飛ぶワイバーンから見れば、人間など地を這いつくばる下等な生き物に見えていたはずだ。そんな人間が自分の上をとるなどとは思っていないだろうと思い、光輝はこの手を使ったのだ。

 後は上空から波状攻撃を仕掛けワイバーンを叩き落とすのみ。

 光輝は連続の二の太刀を放とうと剣に光を纏わせ眼下へと視線を向けた。向けてしまった……

 ここである重要な事に気付く……

「た、高い!?」

 光輝は高所恐怖症だった。

 アキに負けじと一人でワイバーンを倒すことばかり考え、そのことを忘れていた。自分が跳び上がれる程度までならば平気だったが、今は上昇気流に乗り、未知の領域にまで羽ばたいている。

 光輝の体は硬直していた。

 このままでは狙い撃ちにされてしまう。などと考える余裕すらなかった。すでに目を瞑り下を見ていなかった。

 しかし、こんな隙だらけな光輝だというのにワイバーンは攻撃を仕掛けてこない。そんな疑問すら光輝は抱いていなかったが、真相を言えば、日の光の逆光でワイバーンの目も眩み、光輝が目を瞑っていることに気付けなかったのだ。

 そして、光輝の体は落下をはじめる。

 上昇気流を受けていた為、目を瞑る光輝には上昇しているのか落下しているのかもわからなかった。

 もちろん落下している。このまま受け身も取らず地面に激突すれば致命的なダメージを負い、ワイバーンのエサになることは間違いない。

 そして光輝は成す術なく墜落した。

「ぐふっ!?」

 光輝は全身に伝わる衝撃とゴツゴツとした感触に地面に落下したのだと安心した。

「いってぇ……」

 全身に痛みはあるが、あの高さから落ちたにしてはダメージはそれほど酷くはないようだ。きっと身体強化の魔法のおかげだろうと推測し、光輝は目を開いた。

「……っ!?」

 しかし、目の前に広がるのはどこまでも広がる青い空と、緑の森、煙の立ち昇る一本の道、その先に城が見えた。

 ここは空の上だった。

 きっと山の中腹当たりに落ちたのだと光輝は思った。

Gyaaaaaaaa!

 ワイバーンの咆哮が間近で聞こえた。

 光輝はワイバーンを探し辺りを見渡す。

 そこで気付いた。視界に広がる違和感に……光輝は座り込んでいるのにも拘わらず、景色だけが動き通り過ぎていく。

(まさか山が動いているのか?)

 などと光輝は現実逃避気味に思考が崩壊していた。

 なにせ空の上だと認識したうえでそれを否定しているのだ。恐怖のあまり完全に崩壊していると言っていいだろう。

 すると、天地が逆転する。

 光輝は落ちないように地面にしがみ付く。丁度いいところに一直線に出っ張りがあった。まるで背びれのような……

 咆哮が間近で聞こえ、ゴツゴツとした地面、背びれのような出っ張り……そこでようやく気付く、ここがワイバーンの背の上だと言うことに。 

「なっ……うわっ!?」

 ワイバーンは背に感じる違和感を振り払おうと体を回転させ、宙返りをする。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 光輝の目には世界がグルグル回っているように見えた。

 それでも光輝は手を放さない。いや、放せない。高所による恐怖が、背びれにしがみつく腕に力をあたえていた。しかし、それも長くはもたなかった。

 ワイバーンが高速で回転しはじめたのだ。その遠心力で光輝の体は外へ弾かれそうになり、手の握力のみで背びれにつかまっていた。しかし手汗で滑りついに光輝の体は大空に投げ出されてしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 上空からの落下に、迫り来る大地に、光輝は耐えられず気絶しそうになる。

 そこへ、一陣の風が吹いた。

 風は光輝を雑に受け止め、辿々(たどたど)しく地上へと下ろしていく。

 地上につくと光輝は震える体を起こすことができなかった。

「ふうっ、こんな感じ?」

「ええ、上手にできてましたよ」

 頭上から話し声が聞こえてくる。

 光輝は力なく顔を上げると、風音とマリアが光輝を見下ろしていた。

「光輝兄ちゃんスゲェな。ドラゴンの背中に乗れるなんて普通じゃないぜ!」

 風音はそんなことを言う。

 果たして褒められているのか、イカれたヤツだとバカにされているのか微妙なニュアンスだった。

 風音の目は爛々と輝いていることから前者のようだ。

「風音、何言ってるの? 今のは本気でビビってたじゃない。すごい事なんて何もないわよ」

 横を見ると、麻土香が呆れたような顔で光輝を見下ろしていた。

「え~、そうなの?」

 風音の目から輝きが失われ、ガッカリしているようだ。ドラゴンの背中に乗りたかったのだろうか?

「光輝さん、なぜあのような事に?」

 マリアは光輝がなぜワイバーンの背に乗るようなことになったのかを訊ねた。

 光輝は頬を引き攣らせながら逡巡し、渋々答える。

「ヤツの上をとろうと思ったんです。まさか自分の上をとりに来るとは思っていないでしょうから油断があると思って……」

 それを聞いた麻土香は驚いたような顔をし、感心したような声を漏らした。

「へ~」

「でも光輝さん、高所恐怖症じゃなかったですか? 克服できたんですね」

「……いえ」

 それを聞いた麻土香は驚いたような顔をし、飽きれたような声を漏らした。

「へ~」

「光輝兄ちゃんって抜けてるよな」

 風音がボソリと呟く。最初のキラキラしていた瞳はそこにはなかった。

「なんでこんな抜けてる人が勇者様なんだろうねぇ」

 麻土香がガッカリしたように言う。

「まあ、その呼び名が私から離れたのはよかったけど」

 麻土香はホッとしたように言う。

「それはアキが言ってるだけだろ? 僕にそんなつもりはない。僕は僕のやるべきことをするだけだ」

 光輝は勇者を否定し、そう告げる。

「そもそも、それはアキがなるべきだったんだ……僕にそんな度量はないよ」

 光輝は自分を卑下するようなことを言う。

 麻土香は呆れたように光輝を見下ろす。

「光輝君はさ、頼りないなりに少しはましになってきたと思ってたんだけど、アキが戻ってきたら途端にダメになるよね。だからアキはここに戻ろうとしないんじゃないの?」

 麻土香は腑抜けていた光輝のイメージが強く残っている。先のモルガナとの戦いで見せた勇ましい姿を見て多少好印象を受けたが、またしても自分を卑下する体たらくを見せられた。辛口評価になるのもうなずけるというものだ。

 光輝は答えることができない。

「今も、あんな無謀なことして、アキの真似しても仕方ないでしょう。アキを目標にしても、アキにはなれないんだよ? 光輝君は光輝君として力を振るえばいいんだよ。みんなはアキじゃなく光輝君について来てるんだから……私は違うけどね」

 麻土香はいいことを言おうとして、最後に言わなくていいことを口にした。

 そう、麻土香は光輝のためにここにいるのではない、そもそもそんなに面識があるわけでもない。姉弟である風音の為、仲良くなった冬華の為、そして惚れてしまったアキの為だ。

 それを知っている光輝はその正直すぎる言葉に笑いが漏れた。

「フフッ、アハハハ……」

 あんたがどうあがこうがアキにはなれない、私の惚れた男にはなれないのよ! 私がついて行くのはアキだけなの! と言っているように聞こえたのだ。

「な、何笑ってるのよ!」

 麻土香は笑われたことに不満を漏らす。

「いや、麻土香さんの言う通りだと思ってね」

「とにかく、アキに戻ってきてほしかったらキミがしっかりしなくちゃダメなの! 私たちも協力するから頑張んなさい!」

 要するに、早くアキに帰ってきてもらいたいから協力は惜しまないということだ。

 光輝は笑いを堪えながら口を開く。

「じゃあ、僕は僕らしくみんなの力を借りて力を振るうことにするか。差し当たってはあのワイバーンから仕留めていこう」

 光輝の体の震えはすでに消え、闘志は先ほどよりも高まっている。

 光輝は立ち上がりワイバーンを見据え声を上げる。

「みんな僕に力を貸してくれ!」

「はい!」

「お———!」

「まあ、ああ言った手前仕方ないよね。そのために来たんだし」

 マリアと風音はやる気のある返事をし、麻土香は渋々頷いた。


光輝よ、お前はどこへ向かう……

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