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可憐?

 胸当てにヒラヒラミニスカートにローブといった出で立ちのちびっ子は服に着いた砂埃を払いながら向き直る。

「じゃあ、改めて、助けてくれてありがと。わたしカレン、ヨロシク!」

 礼と自己紹介のあとに敬礼ポーズをキメるカレン。

「俺は空雄(あきお)、アキでいいから」

 俺は思わず名乗ってしまった。日本人ってホント律儀。

「わかったよ、アキ」

 呼び捨てかよ……別にいいけど。

「で、なんで一人で走り込みしてたんだ?」

「な、好きで走ってたわけじゃないわよ!」

「いや、それは知ってるけど」

「……」

 睨まれてしまった。

「で、なんでカレンみたいな小さい子が一人でこんなとこにいるんだ? 親は?」

 カレンは顔を真っ赤にして怒り出した。

「どこが小さいって!? 小さくないし!」

「イヤ、どこってどこもかしこもだけど」

 俺はカレンの体を観察する。 

 背も140あるかないかぐらいじゃね? 胸も残念な感じだが需要はあるから大丈夫だぞ。

 カレンは俺の目線に気付いたのか胸をおさえながら言う。

「ま、まだまだこれからおっきくなるし! わたしまだ16だからこれから成長するし!」

「は? 16!? 嘘だろ? 1個しか違わねぇじゃん10歳くらいかと思った」

 俺は驚きのあまり思ったままを口にした。

「じゅっ10歳!? ちょっと若く見えるだけでわたし大人なんだから!!」

 カレンはフーフーと鼻息荒く怒っている。

「お、おう、そうかすまん」

 俺は口が滑ったと思い謝った。余計な一言のお返しのつもりで始めた話題だったんだが……失敗した。

 てか、そもそも16って大人か?


 俺はカレンが落ち着いたのを見計らって声を掛ける。

「落ち着いたか?」

「あんたが言わないでよ!」

 まだ怒ってるなぁ……ま、いいかもう2度と会うこともないだろうし、先を急ぐか。

「じゃあ、俺行くわ」

 と言って手を上げて立ち去ろうとする俺。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

 カレンは俺の前に立ちはだかり両手を広げ通せんぼする。

「ん? なに?」

「まだ話の途中だったでしょ!」

 カレンは興奮気味に言うが、たいした話はしてなかったような。俺は失敗した話題をなかったことにした。

「そうだっけ?」

「そうだよ! なんでわたしが一人でここにいるのか? って聞いてたでしょ!」

「社交辞令で聞いたけど、言いたくないみたいだったしいいよ」

「言いたくないなんて言ってないでしょ!」

「言いたいのかよ」

 なんでそんなに必死なんだ?

「ぐ……聞いてください」

 カレンは歯を食いしばり断腸の思いで頼む。

(そんな顔してまで頼むなよ。そこまで聞いてもらいたいのかよ。)

 仕方ないから聞くだけ聞いてあげよう。

「……じゃあ、どうぞ」

 カレンは一つ咳払いすると話し出す。

「コホン、わたしは南にあるリーフ村まで薬草の買い出しに行ってたんだけど、今はその帰りなの」

「へ~それはお疲れさま」

 

「……」


 俺は素直な感想を述べただけなのだけれど、カレンは口を開けて唖然としている。

「え、それだけ?」

(もっと聞いてほしいってことかな?)

 俺は仕方がないから訊ねてあげた。

「え? ああ……えっと、なんでカレンが一人で?」

 カレンは気を取り直して続ける。

「うん、わたしこの先のリオル村で薬師(くすし)やってるんだ。で、在庫が少なくなってきたから買い出しにね。でね、行きはキャラバン隊と一緒させてもらったんだけど、帰りはちょうど北に向かう人がいなくて仕方なく一人で来たの。魔物が出ても逃げればなんとかなるかなぁって」

(キャラバン隊ってサラさんがお世話になった?)

「それで走ってたのか」

「うん」

「……」

 俺が無言で返したことに焦ったのかカレンは矢継ぎ早に要件を言う。

「で、でね、もしアキが北に向かうんだったら一緒に行きたいなぁ? って……ダメかな?」

 カレンは両手を合わせて上目遣いで言う。意外とかわいかったからオーケー! だけど……

「護衛をしてくれと?」

「うん! おねがいします!」

 カレンは勢いよく頭を下げる。頭を下げられてもなぁ……

 やっぱり言っておいた方がいいよね。

「あのさ、俺、戦闘素人だぞ」

「え?」

 カレンはハトが豆鉄砲をくらったような顔で口を開けている。

「素人、ビギナー、初心者、ザッコザコのよっわ弱~」

「ウソ?」

「ホント、剣を握ったのもまだ数日だし戦闘もこれで1、2、3、4回目? だから護衛の仕方なんてわかんねぇぞ」

「あんなに強いのに?」

 カレンは俺が嘘でも言っているかのようになかなか信じてくれない。

「いや、強くないからね」

「う~~でも一人でいるより安全だと思うから、おねがい!」

 食い下がるねぇ。それだけ心細かったんだろうけど、要は俺を盾にしようとしてんだよなぁこの子……まぁ一人も退屈だし旅は道ずれって言うし、いざとなったら道ずれにしよう。……ウソウソしないからね。

「まぁ、確認しただけだからいいけど期待はするなよ」

「うん!」

 カレンは満面の笑みで返事をする。 

 話は終わったし……なんだっけ……?

 しばし考える俺……そして重要なことを思い出す。

「そうだ飯!!」

「キャッ!?」

 いきなり叫んだ俺にびっくりしているカレンは置いといて、さて飯どうしようか……川沿いだしやっぱり魚? ん~!?

 俺はあるモノに目が止まり考え込む。

 俺の視線の先を怪訝そうに見るカレンがおそるおそる訊ねてきた。

「アキ? どうしたの?」

 俺は視線を外さずカレンに訊ねる。

「なあ……あれって食えるの? 薬師ならあれに毒とかあるかわかんない?」

「え!? あれ食べる気なの?」

 カレンは驚き顔が引き攣っている。

「いや、どうなのかなって……で、どうなの?」

「毒はなかったと思うけど、焼くだけだとあんまりおいしくないと思うよ」

「ふ~ん、じゃあやめとくか」

 俺は諦めて戦利品だけゲットすることにした。言うまでもないが、「あれ」とは魚人のことである。

「やっぱり食べる気だったんじゃない!?」

 カレンは顔を顰め二歩後ずさる。俺はドン引きされてしまった。

 お? 誰かに引かれるって久しくなかったからなんだか懐かしく感じるぞ。


 よし、魚獲るか。

 戦利品を採取し終えた俺はおもむろに大きめの石を持ち上げ川に向かって投げた。

ドッパーーーーン

 水しぶきをあげ、そして雨が降る。そして魚が獲れる~

 一部始終を黙って見ていたカレンがびっくりして尻餅をついていた。当然だよね間欠泉みたくなったんだし。俺は魚を拾い上げながらカレンを見ていた。……ゴメン嘘ついた。パンツ見てました。これは秘密ね。

 俺はパンツのお礼を、ではなく訊ねた。

「カレンも食うか?」

「え? くれるの?」

「うん、結構獲れたし。火つけてくれたらあげる」

「任せて」

 カレンは立ち上がりブイサインをしながら駆け寄ってきた。ブイサインってこっちでもやるんだ?

 俺たちは森で枝を拾ってきて、河原でカレンの魔法で火を点けてもらい魚を焼きはじめる。

 焼けるまで暇だから話でもして時間つぶそうとカレンに話しかける。

「なあ、リオル村ってあとどのくらいで着くんだ?」

「ん~日が沈むまでには着くよ」

「ふ~ん」

 やっぱり距離では教えてくれないんだな。

 俺は話題を変える。

「薬師って薬剤師……あ~薬調合したり売ったりするの?」

「うん、いろいろな薬草を混ぜ合わせて傷薬だったり解毒薬だったりを作って売ったり、たまに治療したりね」

 カレンは自分の仕事に誇りを持っているようで眩しいほどにキラキラした顔で話す。

「治療もするんだ?」

「人手が足りなかったりしたときとかにね」

「へ~すごいな」

 俺は素直に褒めた。

「へっへーーん、そうでしょう」

 最初の誇らしげに話していたのには感心してたのに、最後のドヤ顔で台無しだ。褒めて損した!

「俺の感心を返せ!」

「え?」

 カレンは意味がわからないとばかりに顔を顰める。


 そろそろよさげじゃね? いい感じの匂いが漂ってきて食欲をそそる。俺はよく焼けた魚をカレンに手渡す。

「ほら」

「ありがと……ねぇ、アキはどこに向かってるの?」

 カレンは焼き魚を受け取ると訊ねてきた。

 食べながら話すのはお行儀が悪いですよ! お母さんに怒られなかったかな? でも俺は話す。

「ん~、とりあえずリオル村」

「とりあえずなんだ? じゃあ、その後は?」

「ん? 教会跡に行って……で北かな」

「……目的地は決まってないんだ?」

「行ってみないとわかんねぇから」

「ふ~ん……何しに?」

「友達を探しに」

「ふ~ん……ねぇ」

 どうでもいいけど質問多いな! しかもチラチラ俺の様子窺いながら聞いてくるし。興味深々の今頃の女子か! あ、今頃の女子だった。

「ん?」

 カレンは意を決したように口を開く。

「その、黒髪の化け物って……アキのこと?」

(あ~そういうことか)

 俺は納得して聞き返す。

「なんだ、本題はそれか?」

「え!? あ、ううん、違うの、教会跡って聞いて村での噂思い出して……」

 カレンは焦っておどおどと言い繕おうとする。

(ちょっと怯えてないかい? 気のせいかな?)

「まあいいけど。答えはノー、いいえだ」

「あはは、だよね」

 カレンは安心したのか緊張がほぐれて笑顔になる。

 ふむ、こりゃビビッてたな。これで俺がその化け物だったらどうするつもりだったんだろうねぇ。

 カレンは急に饒舌になる。

「アキ化け物って感じしないもんね!」

「弱いって言いたいんだな、そうなんだな? 間違ってはないけど納得いかんぞ」

「そうじゃないよ! なんて言うか、噂ほど怖くない? みたいな」

「まぁ、俺は怖くないわなぁ」

「でも、違うならなんでアキがその噂知ってるの?」

「ん? 知り合いに聞いたからだけど」

「ふ~ん」

「……」

 俺は悪戯心に火が付いた。

「……その黒髪の化け物……俺の友達なんだ」

 俺は俯き声のトーンを下げて言う。

「え!?」

 カレンは驚きで硬直する。

(ププッ、あからさまに強張ってるよ~からかいがいのあるヤツだ)

「あはははっ、それを確認しに行くんだけど……ちびった?」

 俺がそういうとカレンは顔を真っ赤にし声を大にして否定する。

「なっ!? ちびってないし!」

「そうかー? えっ!? ってなってカッチーーンって固まってたじゃん」

「そんなことないし! 固まってないし!」

「ふ~ん、ま、そういうことにしといてやるか」

「なによその上からもの言う態度! ……ムカツクし」

 カレンは腕組みをしてむくれる。

「はいはい」

 黒髪の化け物が総司であることはほぼ間違いないと思うんだけど……


 お行儀悪く喋りながら食ってたおかげで、いつの間にか食い終わってた。てか、味覚えてないぞ。損した気分だ。女の子とお喋りしながら食事できるならそれもよし!

 なんかだいぶ時間ロスしたかも、ちょっと急ぐか。

 俺はカレンに声を掛け立ち上がる。

「食い終わったし行くか」

「うん」

 カレンが立ち上がるのを待って……俺は走り出す。

「じゃあ、ダッシュな!」

「え!? なんで走るのよ!」

「その方が早く着くだろ」

「ちょっと、待ってよーーー」

 カレンも俺に続いて走り出す。もちろんゆっくり走ってるからすぐに追いついて来たけどね。文句を言いつつ走るなんて、いい子だね。違うか、ただ一人置いていかれるのが怖いだけか? 走ってくれるならどっちでもいいけどね。


・・・・・・


 一時間もしないうちに俺は腹を押さえて地べたに座り込む。

「横っ腹いて~食ってすぐ走るもんじゃないなぁ」

 カレンも同じく座り込み腹を押さえて苦しそうにしている。

「ハァハァ、う~お腹が……食べてすぐ走らせるなんてバカじゃないの!? ……ぐはっ」

 俺はカレンに罵倒されてしまった。

 結局途中で腹痛休憩をとってしまい、村に着いたのは夕暮れ時だった。要するにカレンの言った予定より少しだけ早く着いただけという残念な結果になった。

 走らなきゃよかったよ……


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