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総司の誤算

「よし! ソウ君いくよ!」

 冬華は気合を入れて身構えるが、総司からの反応はない。

「……あれ?」

 不思議に思いドラゴンに注意を払いながら総司へと視線を向けると、ボーッと立ち尽くしドラゴンを見つめている姿が目に入った。。

「え? なんで? 何ボーッとしてるの?」

 冬華にはそう見えていた。

 総司は何とか今の状態を伝えようと目で訴えかける。

「うわっ!? ソウ君? 目、血走ってるよ。怖いからやめた方がいいよ」

 伝わらなかった。

 総司はまったく読み取ろうとしない冬華に苛立ちを覚え、下っ腹に力が籠りはじめる。

「そんなに血走った目してたら結衣ちゃんが身の危険を感じて引いちゃうよ? もっと優しく見つめてあげなきゃOKしてくれないよ」

 冬華は尚も総司の目を非難し、何か助言をしてきた。明らかにあれな助言だった。

ブチッ

 何かがキレる音がした。

「ドラゴンの咆哮で体が硬直してたんだよ! そのくらい察しろよ!」

 総司は声を荒げ冬華を怒鳴りつける。そのおかげで硬直が解けたようだ。

「え? ゴ、ゴメン。でもなんで? 私はなんともなかったのに……」

 冬華は本当にわからないようで首を傾げている。

「知るかそんな事! それよりもドラゴンだ」

 総司は剣を抜きドラゴンを見据える。

「え!? 結衣ちゃんたちはいいの?」

 冬華は今だ硬直している結衣たちを見て訊ねる。

 総司は結衣たちをチラリと見て黙考する。魔法で硬直しているのであれば魔法で解くこともできただろう。しかし、今はドラゴンの咆哮で硬直している。魔法ではどうすることもできないだろう。解くには自力で解くほかない。もしくはドラゴンを倒すかだ。あと可能性があるとすれば……

「そうだな……冬華、水をぶっかけてみてくれ。それで硬直が解けるんじゃないか?」

 総司は悩んだ末、効果がありそうな方法を言う。水を掛けたくらいで硬直が解けるかは疑問だったが、冬華の水ならば効果があるかもしれないと思っていた。

 頬を引っ叩くと言う選択肢もあるが、女性に手を上げるのは気が引けるためその方法を推奨した。

「オッケー」

 冬華はニヤリと笑い実行にうつした。

 ホースを人に向け水を放水するのは普段ならば怒られる。しかし今、それが解禁され冬華は歓喜で打ち震えていた。これでワイバーンがいなければ思う存分堪能できただあろう。

 冬華がにじり寄ると、汐音の顔は引き攣った表情になる。きっと冬華の顔が悪魔のように見えていたのだあろう。

 冬華は水の剣を構え狙いを定めると勢いよく放水した。

ブシャァァッ

「ぶっ!?」

「おぶっおぶぶっ」

「キャァァァァッ!」 

 汐音、結衣、サラの順に浄化の水をぶっかけた。

 汐音は、最初ということもあり水圧調整がわからず、強めに掛けてしまいその衝撃で後ろに吹き飛んでしまった。

 結衣は、水圧を調整したため、弱くなりアーチを描くように顔に掛かり息ができなく苦しそうにしていた。

 サラは、再び水圧調整しベストな威力を出せたが、狙いを外し、胸に直撃。ポロリしていた。

「あはははははっ……」

 冬華は三人のリアクションに堪えきれず笑い出した。

「「「冬華ちゃん!!」」」

 三人は口をそろえて冬華を非難する。

「何笑ってるんだ? こんな時に……」

 総司はドラゴンに注意を払っていた為、冬華が何をしたのか見ていなかった。

 総司が振り向いた時には、お尻をさする汐音、ゲホゲホとむせ返る結衣、胸を押さえているサラ、水浸しの三人が目に入った。

 特におかしなところはない、強いて言うなら冬華を睨んでいることだが……

 総司は意味がわからずすぐに視線を戻す。結界の外でこちらを見据えているドラゴンを見据え返す。

「動けるようになったんなら行くぞ!」

 総司はそう声を掛けると、剣に炎を纏わせドラゴンに挑みかかって行く。

「おぉぉぉぉっ!」

「あ、待ってよ!」

 冬華も総司の後に続いて行く。

 女性三人は怒りを堪え各々準備に入る。

 汐音は矢をつがえ、サラは魔法の準備をし、結衣はいつでも防御壁を出せるようにスタンバっている。

「そのドラゴン、ワイバーンです。炎を吐いてくるかもしれませんので気を付けてください!」

 汐音がゲームの知識なのか、書物で得た知識なのか警告をしてくる。

「だったら先に蒲焼きにしてやる!」

 総司は炎の剣を逆袈裟で斬り上げ空中のワイバーンへ炎を飛ばす。

 しかしワイバーンは羽を羽ばたかせ炎を避ける。

「チッ!」

 総司は舌打ちをし第二射を放とうとする。

 そこへ冬華が声を上げる。

「跳んでるヤツを相手にするときはまず叩き落とさなきゃ!」

 冬華は天へと手をかざす。

雨の槍(レインスピアー)!」

 冬華の声が天に響くと、雨水でできた槍がワイバーンに向け降り注いできた。

ドドドドドドドッ

バシャバシャシャバシャ……

 雨の槍はワイバーンの外皮を貫くことはできず弾かれ水へと返っていたが、激突の衝撃で少しずつ下へと引きずり下ろしていた。

 下では総司と冬華がそれぞれ炎の剣、水の剣を手に待ち構えていた。

 ワイバーンが地表の近くまで下がってくるのと同時に、総司と冬華は両サイドから挟み込むように剣を振りぬいた。

 総司は横薙ぎに、冬華は横薙ぎ+袈裟切りで振りぬく。

「おぉぉぉぉっ!」

「はぁぁぁぁっ!」

 ドンピシャのタイミングで加えられた同時攻撃は、衝撃を逃がすことができず直にワイバーンの体にダメージを与えた。しかし、切り裂くことはできず、打撃のようなダメージを与えていた。

 そして、二人にもダメージが返って来ていた。

「くっ、硬い!」

「硬すぎっ!」

 二人の腕に痺れが残る。

 ワイバーンは人間程度の相手に打撃を加えられ、逆鱗とまではいかないが怒りを露わにし咆哮を上げる。

Gyaaaaaaaa!

 再び動きを封じようとしてきたのだ。

 そして、そこを突き、尻尾で総司たちを振り払おうとする。

 しかし、冬華にはなぜかまた効かなかった。それどころか、今度は総司も効いていないようでワイバーンのしっぽの薙ぎ払いを綺麗に躱していた。

 総司は慣れてきたのかと思い、結衣たちの様子を窺った。

 結衣たちはかろうじて動けているようだ。やはり慣れだと確信し、咆哮を気にすることなく、再び踏み込んでいく。

 しかし、腕は痺れたままで、まともに剣を振るうことはできない。

 総司は片手をかざし、魔法を放つ。

火の束縛(ファイアーバインド)!」

 ワイバーンが再び跳び上がらないように拘束しようとする。

 炎が迫ると、ワイバーンは炎から逃れるように羽を羽ばたかせ上空に逃げようとする。

 しかし、ギリギリのところで、炎はワイバーンの尻尾を捉える。

 炎は尻尾をたどり胴体へと上っていき両腕を、そして羽を押さえ込もうとする。

 ワイバーンも抵抗を見せてくる。火の束縛を力で引き裂こうとする。

「ぐっ!? うおぉぉぉぉっ!」

 総司は火力を上げ、引き裂かれないように踏ん張る。そして声を上げた。

「サラさん! 風でヤツを覆ってください!」

「は、はい!」

 サラはよくわからないが総司には何か考えがあるのだと思い、指示通りに風の魔法を放つ。

「風よ、暴風よ、かの者を覆い尽くせ!」

 サラのかざした手から暴風が巻き起こりワイバーンへと迫る。

 総司のその言葉で何を考えているのか察した冬華は、その時のために準備はじめていた。

 サラの放った暴風が炎に捕らわれるワイバーンを包み込むと、炎の竜巻となりワイバーンを焼き尽くしていく。

 そして総司は冬華へと声を飛ばす。

「冬華!」

「オッケー、準備はできてるよ!」 

 総司が指示する前に冬華の頭上には巨大な水の塊が出来上がっていた。

「吹っ飛べぇ!」

 冬華は両手を振り下ろし、巨大な水の塊を、炎の竜巻に放った。

 水の塊が炎の竜巻に激突すると、水が一気に蒸発し体積が膨張し、そして弾けた。

「伏せろぉぉぉぉ……」


ドッガァァァァァァァァン


 総司の声は爆発音に掻き消されていた。

 総司は以前アキが使った水蒸気爆発を再現していた。剣で斬り裂けない以上、魔法でなんとかするほかなかった。しかし、総司一人でそれほどの火力を出せる魔法はなかった為、この手を使ったのだ。

 しかし、あまりに近距離での爆発だった為、総司は完全に巻きこまれていた。

 アキならば回避できていただろうが、総司にはそれができるだけの瞬発力を持っていなかった。

 炎で相殺することも、火の束縛を放っていた為できずにいた。

 総司は成す術なく爆風に晒されていた。

 そのはずだった。

 しかし、いくら経っても総司に爆風は届かなかった。

 総司は不思議に思い頭を上げ、振り向いた。

「っ!? 結衣!」

 そこには爆風を防御壁で防ぐ結衣の後ろ姿があった。

 総司の指示、冬華の準備を見て、汐音は総司が何を狙っているのか察し、結衣にそれを告げていたのだ。

 そして爆発の瞬間、結衣は総司の前に出て防御壁を張っていたのだ。

「大丈夫! 総司はあたしが守るから!」

 結衣は防御壁に集中したまま宣言した。

 ちなみに汐音はサラの張ったマジックシールドで守られ、冬華は結衣の防御壁の中に逃げ込んでいた。

「ワオ、結衣ちゃんカッコイイ~」

 結衣の宣言を聞いた冬華はチャチャを入れる。  

 防御壁に集中している結衣は冬華のチャチャを聞き流していた。

 うまい具合に爆発させられたことで余裕が産まれたのだろう。代わりに総司が照れたような顔をしている。

 なぜ総司が照れていたのだろう? 冬華は小首を傾げていた。


 爆風が止むと、そこにワイバーンの姿はなかった。

 爆風で消し飛んでしまったのだろうか? 総司は安易にそんなことを考え油断していた。


Gyuaaaaaa!


 頭上からワイバーンの咆哮が響き渡り、見上げると上空からワイバーンが急降下してきていた。

 先ほどの水蒸気爆発、アキの時と今回とでは決定的な違いがあった。風の魔法だ。アキの時、シルフィは風の檻で完全に出口を塞いでいた。しかし今回は檻ではなく竜巻だった。その為、上方に逃げ道が残されていた。

 ワイバーンは上空に逃げ爆発を逃れていたのだ。

 明らかに総司の誤算だった。まさかアキがそこまで計算してあの方法を使っていたとは思っていなかったのだ。ただの思い付きの代物だと思っていた。

 ワイバーンは急降下し、その勢いのまま地表ギリギリで急上昇しすれ違いざまにその尻尾をムチのようにしならせ、総司たちに攻撃を仕掛けてきた。

「っ!?」

ドゴッ

ピキッ

 尻尾の一撃は結衣の防御壁で防ぐことはできた。しかし、その破壊力で防御壁に亀裂が入る。

「つ、次は受けきれないよ!?」

 結衣が悲痛な声を上げる。

「っ!? わかった!」

 守るべき結衣に守られてばかりはいられない総司は、結衣の前に立ち炎の剣を構える。

 ワイバーンはジェットコースターのように上空でクルッと宙返りすると、再び急降下してくる。落下のスピードを上乗せし、加速度的に速度は増していく。

(どうする? どうしたらいい?)

 総司が迷っている間にもワイバーンは迫ってくる。

「総司!?」

 結衣が声を上げる。


幻影の靄(ミラージュミスト)!」


 突如背後から声が上がると、空気中の水蒸気が凝結し視界いっぱいに(もや)が立ち込めた。

 先ほどの水蒸気爆発の影響もあり、かなり濃い靄になっていた。

 ワイバーンは視界を奪われ急降下を停止する。

 そして、羽を羽ばたかせホバリングしていると、ワイバーンの目の前に突如総司たちの影が現れた。

 ワイバーンは総司たちの影に狙いを付け攻撃をはじめる。

 靄の中でワイバーンの暴れる音と、咆哮が聞こえてくる。

「しばらくはもつと思うから、今のうちに立て直そう!」

 冬華が結衣の手を引きそう告げる。

 だうやら今のは冬華の幻影を見せる魔法のようだ。

 総司は冬華の後に続き、暴れるまわるワイバーンから距離を取った。

 とりあえずは、危機は免れた。しかしいつまでも幻影を攻撃し続けているわけがない。何とか倒す方法を考えなければ。

 総司は冒険の序盤でいきなり魔王にでくわし、逃げかえる勇者の気分になっていた。


光輝は無事だろうか?

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