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ドラゴン襲来

 ローズブルグでは冬華の計画が何とか成功していた。

 冬華たちは、アキの無実を証明し、その際に起こるであろう混乱を収めなければならなかった。

 無実の証明には、敵が味方に成り済ましていたことを告げなければならない。そうすれば当然混乱が起こる。そうなれば敵の思うつぼである。

 冬華の計画と言うのは、混乱を収めるための方法、城内、城下内に潜伏しているかもしれない敵をあぶり出す、もしくは敵は潜んでいないと証明するというものだ。

 当初の冬華計画では、一か所に全員を集め、冬華の浄化の水をぶっかけると言うモノだった。瘴気の影響下にある者や魔物は、浄化の水に触れれば浄化されるか、ダメージを負い正体を隠せなくなるはずだった。しかし、あまりに雑な計画なため却下となり、冬華の計画を改良したモノが決行された。

 無事にとはいかず一悶着あったが、光輝らの活躍で見事事態を収拾し計画は成功することができた。

 後はアキの帰りを待つのみとなっていた。


 修行の合間、食堂に光輝たちは集まっていた。

「ハァ~、五十嵐君なかなか帰ってきませんねぇ」

 汐音はアキの帰りが待ち遠しいのかテーブルに頬杖をつき溜息を吐く。

 それを不審に、というか不安に思った光輝は遠回しに探りを入れる。

「そうだな、アキのヤツ早く帰ってくればいいのにな。サラさんも待ってるって言うのに……」

 汐音は上の空と言った面持ちで応対する。

「そうですねぇ、サラさんも待ってると言うのに、まだ寂しい思いをさせるつもりなのでしょうか」

(も? サラさんもって言ったよな……ということは汐音もそうなのか?)

 光輝は不安が的中してしまったのだと愕然とする。

 汐音はリーフ村へ行ってから様子がおかしい。光輝が話しかけても生返事を返し、ボーッとしていることが多い。何をするにも上の空だった。

 リーフ村でアキの所在を知りアキに会ってきたと聞き、その時に何かあったのではないかと光輝は思っていた。

 つまり汐音は、アキの事が気になっているのではないかということだ。

 そして同じように思っている者がここにも一人。

 サラも同じように思っていた。汐音の言った「も」が引っ掛かり汐音の顔をジッと見ていた。その汐音の表情がその疑念を確信へと変えていた。

 おまけに今現在、カレンがアキと共に行動している。カレンがアキへ好意を寄せていることくらいサラも気付いていた。気付かない方がおかしいと言える。アキに限って大丈夫だとは思うけれど、カレンの思いがけない積極性を見せつけられ、カレンが勝負に出たのだとサラは確信していた。

 だと言うのに、圏外にいると安心していた汐音がこれである。まわりはまさに敵だらだった。冬華の計画ではこの敵はあぶりだせなかったみたいだ。

 サラはライバルを見るようなまなざしで汐音を見据える。

 そしてその様子をニヤニヤしながら見ている者がいた。もちろん冬華だった。

 アキに会ったと聞き、真っ先に結衣に話を聞きにいった冬華は一部始終を一つ残らず、漏らすことなく聞いたいた為、汐音がなぜこんな状態になっているのかも知っていた。

 冬華は汐音をここまで骨抜きにしたルゥに興味を持っていた。

 そして、光輝たちが汐音の様子に動揺を見せる様をほくそ笑みながら見守っていた。

(面白すぎる……ぷぷっ)

 その様子を総司と結衣は冷たい視線で見つめていた。

「(冬華ちゃん、もう教えて上げたら? なんか可哀想だよ)」

 結衣が見ていられなくなり、冬華へ耳打ちする。

「(え~ただの勘違いなんだし、もう少し楽しもうよぉ)」

 冬華はまだ楽しむつもりのようだ。性格の悪さが窺えるというものだ。

「(結衣ちゃんだって、自分から言わないってことは楽しんでるってことでしょ?)」

「(うっ……)」

 結衣は言葉に詰まってしまう。

 そんなつもりはないはずだが、そう言われてみるとそんな気がして来た。自分は総司とうまくいっているのに、目の前では疑心暗鬼が渦巻いている。心のどこかで優越感に浸っているのかもしれない。

 結衣はそうかもしれないと思う心と、そんなはずはないと思う心の狭間で葛藤がはじまっていた。

「う~」

(フッ落ちたな)

 冬華はこれで邪魔者はいなくなったと思い、心ゆくまで目の前の愛憎劇を楽しもうとする。

 その様子を黙って見ていた総司は、溜息を吐くと一言呟いた。

「ハァ、ルゥのヤツはちゃんとアキと合流できたかな」

 上の空でボーッとしていた汐音が、総司の言葉に過剰に反応する。

「きっと大丈夫です! ルゥちゃんは賢い子ですから! 今頃五十嵐君をサポートして頑張っているでしょう」

 その変わりように光輝とサラはビクッとし、汐音の顔を凝視する。

「あ~もう! なんで言っちゃうの~」

 冬華がつまらなそうに総司に文句を言う。

「俺はルゥの心配をしただけだが?」

 総司はしれっと答える。

 確かにそうだった。汐音がアキではなくルゥ(のふわふわボディ)にメロメロになったとは言っていない。

 冬華は墓穴を掘っていた。

 冬華の口にした文句がすべてを知っているのだと物語っていた。

 光輝とサラは冬華をジッと見て告げる。

「冬華ちゃん! どういうことだ?」

「何か知ってるんですね!」

 光輝とサラは汐音に直接聞くのではなく冬華に詰め寄った。

「え~私? 勘違いしてたの二人じゃん」

 冬華は責任転嫁する。

「知ってて黙ってたのは冬華だろ?」

 総司がボソリと呟いた。

「う、裏切り者ぉぉぉぉっ!」

 冬華はあたかも総司が冬華と同じ側にいたようなことを言う。そんなことは一時もなかったというのに。

「どういうことだ?」

「どういうことですか?」

 冬華は二人に詰め寄られ、渋々事の顛末を説明する羽目となった。

 もちろん説明の後にしっかりとお叱り受けていた。

「ん?」

 その光景を汐音は首を傾げつつ眺めていた。


 食堂の一角では、そんな賑やかな光景が繰り広げられ、別の一角では、静かなひと時が過ごされていた。


 嵐三とマーサは静かに茶を啜っていた。

「麻土香ちゃんと風音君の様子はどうじゃ?」

 嵐三は二人の修行の状況を訊ねる。

「ふむ、今はマリアが見てくれておる。麻土香は元々魔法を使えておったから問題ない。風音の方は基礎からじゃが、素質は十分にある。直に魔法を使いこなせるじゃろう。とはいえ、あの二人は剣が使えぬ、完全に魔法士タイプじゃな。魔法士として育てるとなると……」

 マーサは二人の分析結果と方向性について告げていく。

 一通り聞き終えると、嵐三は本題を口にした。

「で、力の方はどうじゃ? 目覚めそうかのう?」

 一番知りたいのはこのことだった。

「あの二人は、お互いがお互いの事を自分が守らなければならないと強く思っておる。目覚めるのもそう遠くはないじゃろう」

 力の発現には何かを守るという強い感情が必要ではないかと、冬華や総司の例で推測されていた。

「それよりも光輝じゃ。あやつはどうなのじゃ?」

 マーサは光輝をチラリと見て訊ねた。

 嵐三は優し気な視線を光輝に向け告げる。

「うむ、まあ順調じゃ。空雄のヤツの助言のおかげで一度技を成功させておったようじゃ。それを元に技を再現しようと奮闘しとるよ」

 それを聞きマーサはホッとした表情をする。

「光輝はどうもそういう魂からの強い感情というものが希薄に感じられた。あやつの行動には義務感や責任感が強く表れておって、そこに自分の感情が感じられんかったのじゃ。そこを心配しておったのじゃが、順調なら安心したわい。ことこれに関してはアキの方が才能がありそうじゃからのう。まあ、単純とも言えるがの、ふふっ」

 マーサはここにはいないアキを想い含み笑いを漏らした。

「……光輝はあれでもましになった方じゃ。昔はもっと感情が希薄じゃったからな。空雄のおかげであそこまでになれたのじゃ」

 嵐三はどこか寂し気な表情をする。

 マーサは嵐三の様子を見て訝し気な視線を向ける。

「嵐三、おぬし何を……」

 感情が希薄だった光輝が孫のアキのおかげでいい方向に進んだのなら喜ぶべきところだと言うのに、嵐三はとても喜んでいるようには見えなかった。

「空雄のおかげなのじゃ。空雄が光輝を気にかけてくれたおかげで光輝は心を開けるようになり、普通に生活できるようになった……そう、空雄のおかげなのじゃ。そして、その結果が……」

 嵐三は何かを言いかけ口を噤んだ。懺悔でもするかのような憂いの表情をしている。

 マーサの視線が鋭さを増す。

「嵐三、あの二人、何かあるのか?」

 マーサはアキと光輝の話をする際の嵐三の様子から何かあるのではないかと感じていた。

「……」

 嵐三は目を瞑り黙り込む。そしてしばらくすると口を開いた。

「……あ」


Gyaaaaaaaa!


 その時、嵐三の言葉を遮るように、けたたましい恐怖を植え付けるような咆哮が響き渡った。


 騒然となる食堂に駆け込んできた兵士が動揺を隠しきれない様子で告げた。

「た、大変だ! ド、ドラゴンが、ドラゴンが現れた!」

 食堂内に激震が走る。

 こちらの世界に来て今まで遭遇していなかった、本当にいるのかと疑っていた空想上の生き物、ドラゴンが現れたのだから衝撃も大きい。

 光輝たちはすぐさま外へと駆け出して行く。


 外へ出ると、空がチカチカしているのに気付く。

「なんだ?」

 光輝は空を見上げ疑問を呟いた。

「結界が攻撃を受けているようです。このままでは破壊される恐れがあります」

 サラが結界の様子を確認し説明する。

「では、まだ中には入られていないということですね?」

 汐音が確認する。

「はい」

 サラの返事を聞き、光輝たちは結界を攻撃しているであろうドラゴンの下へと向かった。

 城へと避難していく人々の間を縫い、人々とは逆行するように駆けていく。

 町の東、またしてもここ東門に行きついた。形式上東門となっているが、実際には地形の関係上ローズブルグは少し斜めに造られており、東門は北東の位置にあった。まさに鬼門の方角だった。

 ドラゴンは東門の上空から結界を破壊しようと攻撃を仕掛けていた。

 数は2、目測で10メートルくらいだろうか。鋭い爪で結界を切り裂こうとしている。

「ホントにドラゴンだねぇ」

 結界の中ということもあり、冬華は素直な感想を呑気に呟いていた。

「何を呑気な事を言っているんですか! あれを倒さなければ結界を破壊されて町の人たちに被害が出るんですよ!」

 通常モードに復帰した汐音が声を荒げる。

「う、うん。そうだけど、あれ……ホントに私たちで倒せるの? 魔物ならともかくドラゴンだよ?」

 冬華にしてはまともなことを言っている。普通に考えればこの人数で挑むのは自殺行為に等しい。数を揃えたとしても倒せるかどうか怪しい所である。

 それでもやらなければこちらがやられてしまう。確実に1体づつ倒していくしかない。

 光輝はアキを見習いすぐさま決断する。

「僕が1体を引き付けておくからその間に全員でもう一体の相手をしてくれ、直に兵士たちも来てくれるはずだ。そうしたら協力して確実に倒してくれ。その後もう一体を全員で倒す」

 光輝の作戦に汐音が物申す。

「それでは光輝が危険ではありませんか! 五十嵐君のようなことはしないでください!」

「うっ……」

 ズバリ言われ、光輝は言葉に詰まったが、すぐさま切り替えて告げる。

「だ、大丈夫! こちらから仕掛けるようなことはしない。注意を引きつけて逃げ続けるだけだから何とかなる」

 確かに挑まず逃げ続けるのであれば、時間を稼げるかもしれない。しかし、それでも危険であることに変わりはない。

 汐音は何とか考え直させようと声を上げる。

「し、しかし!」

 そこへ冬華が口を挟む。

「汐音ちゃん、コウちゃんが心配なのはわかるけど、ここで押し問答してても結界が破壊されちゃうだけだよ。全員で速攻で一匹倒しちゃえばいいんだからさ」

「そうだな、俺たちならすぐに倒せるだろう」

 総司が冬華に賛同する。

「総司がそういうならそうなのかな?」

 結衣は不安げな表情で総司の腕を掴みながら言う。

 サラはさすがに楽観視できなかったが、ここで話を長引かせるのも愚行と思い口を噤んでいた。

「わ、わかりました。でも、くれぐれも無理はしないでくださいね」

 汐音は光輝の手をギュッと握り告げる。

 光輝は汐音の強く握る手を気持ちを受け取るように握り返し頷く。

「ああ、みんなが来てくれるまで引き付けておく」

 光輝はついさっきまで汐音とアキのことを勘ぐっていたとは思えない良い笑顔を見せると、1体のドラゴンへ向け駆けていく。

 光輝は剣を抜き真聖剣にすると、ドラゴンへ向け二ノ太刀を打ち込む。

「おぉぉぉぉっ!」

ヒュンッ

ザシュッ

 剣閃はドラゴンの肩口に当たり弾け消えた。

Guruuuuuuu……

 ドラゴンは結界への攻撃を止め光輝へと顔を向ける。

「来い! お前の相手は僕がする!」

 光輝は格好良く啖呵を切ると、踵を返し、駆けだす。

 その光輝の背を見てドラゴンは、


Gyaaaaaaaa!


 咆哮を上げ威圧する。

 光輝はその威圧を背に受け、体が硬直し前のめりに転倒する。

「ぐむっ!?」

 したたかに顔面を打ちつけたことで運よく硬直が解け、光輝は再び駆け出して行った。

 ドラゴンは咆哮が効かなかったのだと思い、傷つけられたプライドを回復するため光輝を始末しようと後を追いはじめる。

 そしてもう1体もその後に続こうとする。

 先ほどの咆哮で総司たちも硬直しているなか、どういうわけか冬華だけは威圧の効力を受けていなかった。

 冬華は二刀を水の剣に変え、高出力の水圧で水の刃を伸ばしドラゴンを斬り付けた。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ザシュッ

バチャンッ

 水の刃はドラゴンの背に直撃し、衝撃で砕け散り水へと返った。

 背に水を打ち掛けられドラゴンは振り返る。

Gruuuuuuu……

 冬華は水の剣をドラゴンへ向け、啖呵を切る。

「あんたの相手は私たちよ! よそ見してると殺しちゃうよ! ていうか殺すけどね!」

 ドラゴンは冬華たちを見据え敵と断定した。

(ちょっと待て! こっちはまだ体動かないんだけど!)

 総司たちは体が硬直する中、心の中でそう叫んでいた。


踏み絵の件を細かく書こうと思っていたんですが、今更感があり断念しました。

後から書くかもしれませんが……

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