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未知の魔物

 西側に移動したカレンたちはアキが行動を起こすのを今か今かと待っていた。

「アキさん遅いですね、大丈夫でしょうか?」

 エリーゼは心配そうにカレンに訊ねる。

「ええ、大丈夫大丈夫。アキだから平気ですよ」

 カレンはなんの説得力もない事を口にした。

「でも、結構待ってるけどなにも起こらないぜ?」

 エルロンも訝し気に見ている。

(どうしてそこまで心配しているのだろう?)

 疑う余地のないアキの力は見ているはずなのに、それでも心配をしている二人をカレンは不思議に思い訊ねた。

「ん~アキの戦ってるとこ見てましたよね? だったら心配ないってわかると思うんですけど、何か気掛かりな事でもあるんですか?」

 エリーゼは躊躇するようにカレンをチラチラ見るとおずおずと口を開いた。

「その、アキさんがお強いことは間近で見ましたからわかっています。しかし……」

「ここにいないんだよ」

 エルロンが先走り口を挟む。自分の口から言いたいのだろう。

「何がいないの?」

 カレンはエルロンに訊ねる。

 エルロンは胸を張りなぜか自慢げに話す。

「遺跡から現れた魔物の中に1体でっかいヤツがいたんだけど、でもそいつ今この場には見当たらないんだよ。きっとどこかに隠れてるはずさ。オイラの怪我はそいつにやられたんだぜ。あの兄ちゃんがどのくらい強いのかは知らないけど、きっとあいつには敵わないぜ」

 アキの戦っているところを見ていなかった為か、エルロンはアキではその未知の魔物は倒せないと言っている。エリーゼは何も言わないが、否定をしないところを見るとどうやら同じ意見のようだ。

「そ、そんなに強いんだ? なんだかヤバそうだね」

 カレンは二人の語りに気圧され、その未知の魔物を過大に想像して顔を引き攣らせる。

「だろ? だから心配なんだよ。ひょっとしたら今頃あの兄ちゃん……」

 自分の語りにカレンが期待以上の反応を見せてくれた為、気をよくしたエルロンはさらに脅かすようなことを言った。

「こら、ロン! 調子に乗らないの! そんな縁起でもない事言わないで!」

 不謹慎な事を言うエルロンにさすがに黙っていられなくなったエリーゼが叱りつける。

「悪かったよ。ちょっと言い過ぎたけど、でも心配は心配だろ?」

 エルロンは悪乗りが過ぎたことを自覚していた。しかし本当に心配はいているようだった。

「それはそうだけど……」

 エリーゼも心配で口ごもる。

 カレンはとうとう心配になり、アキのいる方へ顔を向けた。

「あれ?」

 カレンは魔物がザワついていることに気付いた。

 指揮官らしき魔物が下っ端魔物に指示を出している。下っ端は指示されたところ、アキのいるところへと向かって行った。

「アキ、何してるの? 魔物がそっちに向ってるのに……」

 カレンがアキの心配をしていると、さらに動きが出たようだ。

 ようやくアキが動き出したのだと思いタイミングを間違えないように二人に声を掛ける。

「二人とも、いつでも走り出せるようにしておいてください」

「は、はい」

「う、うん」

 二人の顔に緊張の色がにじみ出ていた。

 カレンはその時を待つ。そして、


「グエェェェェェェッ!」


 聞き覚えのある声が聞こえたと思うと、巨大な丸っこい鳥が路地から躍り出てきた。

 カレンは絶句し硬直する。

「な、なんだあれ!? あんな魔物見たことないよ!」

 エルロンが声を上げた。

「な、な、なんでルゥちゃんがここにいるのよ!」

 カレンは驚きのあまりエルロンの上を行く大きな声を上げてしまった。

 その結果、近くにいた魔物に存在がバレてしまった。

「グオォォォォ」

 魔物が雄叫びを上げて近づいてくる。

「ねぇちゃん声デカイよ!」

 自分の声の大きさを棚に上げてエルロンはカレンを非難する。

「ごめ~ん」

 カレンたちは意を決して駆け出した。



 アキは前に出て、邪魔なゴブリンを蹴り飛ばし、ルゥの走り抜ける進路を空ける。

 ルゥは駆け出すと、指示通り魔物の注意を逸らすようにまわりをグルグルと駆けまわっていく。

「グエェェェェェェッ!」

 魔物共はルゥに翻弄され陣形を崩していく。陣形を取っていたのかは不明だったが、確実に連携は取れていないように見える。

 ルゥは調子に乗ってドヤ顔でアピールする。

「グエッグエッ」

「はいはい、いい感じだぞ! その調子で撹乱しまくれ~」

「グエッ!」

 アキはルゥが駆けまわり混乱している魔物を1体1体確実にダガーで仕留めていく。

 そして、カレンたちがちゃんと結界へと向かっているか視線を向け確認する。

「な!? 何やってんだあいつら……」

 カレンたちはバッチリ魔物に見つかり後を追われていた。

「チッ、予定通りにはいかねぇか」

 アキは魔物を踏み台にしジャンプすると、カレンたちの後を追うゴブリンとバフォメットへめがけ、ナイフと苦無を投擲する。

「おぉぉぉぉぉらっ!」

ヒュヒュンッ

トスッ

バキンッ

 ナイフはゴブリンの足に突き刺さりゴブリンはその場に前のめりに倒れ込んだ。

 苦無はバフォメットの角を折ると、そのまま、頭部に少しだけ突き刺さった。角に当たったことで威力が落ちたのだろう。

 アキはナイフを二本取り出し、再び投擲する。

 1本はうつ伏せに倒れているゴブリンの心臓を射抜き、もう1本はバフォメットに刺さった苦無の柄に当て、奥に押し込もうとした。

 しかし、やはりと言うか硬すぎて通らなかった。その反動でナイフはひしゃげ使い物にならなくなった。

 それでも、一瞬注意を引く事に成功し、カレンたちはバフォメットから距離を取ることができた。

「そのまま、結界まで突っ走れ!」

 アキは落下する中そう叫ぶと、次の標的に狙いをつける。

 落下地点でゴブリンが斧を振りかざし待ち構えていた。

 アキがゴブリンの間合いに落下してくると、ゴブリンはその斧を振り下ろした。

 アキはその斧の刃の側面を掌で打ち逸らすと、体をひねりゴブリンを蹴り、その反動で距離を取った。

 東側にいた魔物も中央に寄って来ている。これ以上はルゥが捕まりかねない。

 アキはルゥに叫ぶ。

「ルゥ! お前も結界内に入れ!」

「グエェェ!」

 ルゥは首を振り拒否する。

「ルゥ! 約束忘れたのか! いいから行け! お前がいたら俺が逃げられないだろう!」

「グ、グエッ」

 ルゥはアキの邪魔になることを嫌い、渋々頷くと魔物の隙間を縫うようにして結界へと向かう。

 その頃にはカレンたちは結界内に避難できていた。

(よし、ルゥが非難したら俺も一旦結界内に逃げ込むか)

 アキはそう決めると、それまでに1体でも減らしておこうと周囲へと意識を集中する。

 残りの魔物は、一本角の折れた片角のバフォメットが1体、無傷のバフォメットが1体、ゴブリンが6体、後はこの不穏な気配、ずっとこの一帯を覆ている気配、どこにいるのかはわからないが目の前の魔物たちより格上なのは間違いなかった。

(とにかく、今は魔物の数を減らし、結界内に逃げ込む事だけを考えよう)

 と考えている間にアキは4体のゴブリンに囲まれていた。

 アキは背後にいる最初に蹴り飛ばしたゴブリンに狙いを定め、後方へバックステップで踏み込むとゴブリンの腹へ肘を入れる。まさか背を向けたまま接近してくるとは思っていなかったゴブリンは、防御することができず、腹に肘が吸い込まれて行くところを成す術もなく見送っていた。

「グアッ!?」

 腹を押さえ前のめりになるゴブリンの首をアキはダガーで斬り上げ刎ねる。

 そして、首のなくなったゴブリンの腕を掴むとそのまま振り回し、囲んでいた残りの3体へ投げ飛ばした。

 両サイドのゴブリンは上体をのけ反らすことで躱したが、真ん中のゴブリンは躱すことができずゴブリンの死骸を受けとめ背後に倒れることとなる。

 アキは倒れたゴブリンへ向け駆け出す。

 ダガーを鞘に納め、両手にナイフを取りすれ違いざまに上体をのけ反らせいい的となっている両サイドのゴブリンの心臓を狙い投擲する。

「フッ!」

 ヒュヒュン

 ドスドスッ

 心臓にナイフの刺さったゴブリン2体はのけ反ったまま背後に倒れ込む。

 すると、

「グエェェェェェェッ」

 結界内からルゥの叫び声が聞こえてきた。

 見ると結界内でカレンたちと合流できたようだ。

 そして避難している他の住民の野次馬が集まって来ていた。

 アキはゴブリンの死骸を抱きとめているゴブリンを飛び越えるのと同時にナイフをそのゴブリンの頭部に投げつけ走り抜ける。残念ながらそのナイフはゴブリンの死骸を盾にされ防がれていた。

 そのまま結界内に逃げ込もうとすると、先回りするようにバフォメットが立ちふさがり魔法を放ってきた。

ボフォォォォ

 放たれた魔法はアキの足を狙ったもので地を這うように迫ってきた。

 アキは炎をジャンプで躱すと、そこを狙い澄ましたかのようにゴブリンの斧が振りぬかれた。

 アキは咄嗟に両手でダガーを抜きガードする。

ギュイン

 アキはその勢いに押され、後方に吹き飛ばされた。

「ぐっ!?」

ズザザザザザッ

 アキは何とか地に足を着き勢いを殺す。

 またスタート地点に逆戻りしていた。

「チッ!?」

 アキは舌打ちをすると周囲を見る。

「っ!?」

 すでに真横に踏み込んでいた角の折れたバフォメットが手に持つ大剣を振り下ろす。

「くっ!?」

 アキは背筋をピンと伸ばすことで、大剣を背後に躱す。

 バフォメットはその伸びきったアキへと手をかざすと、炎を放った。

 体が伸びきっていたアキは避ける予備動作をすることができず、モロにその炎の直撃を受けてしまった。

ボフォォォォ

「アキィィィィィ!?」

「グエェェェェッ!?」

 カレンとルゥは見事なハモリを見せた。

 アキはそのハモリに気付くことなく炎に巻かれていた。

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

 アキは炎を消そうと地をゴロゴロと転がる。

 生きているアキを魔物共が見逃すはずもなく、転がるアキへと斧やら大剣やらを振り下ろしていく。

 アキはそれが見えているのか、ゴロゴロと転がることでなんとか回避し続けていた。

 アキは今の状況に既視感のようなものを感じていた。リオル村でも魚人相手に同じようなことがあった。魔物のレベルあ上がっているようだけれど。

(懐かし……)

 アキはそんな悠長なことを考えていると、消えかかっていた炎にさらに火をくべるため、バフォメットが魔法を放とうとしているのを目の端で捉えた。

 アキは転がる回転力を利用し、ダガーを振りぬく。

 ゴブリンの1体の足を斬り裂き、倒れ込んでくるところを、ブレイクダンスでも踊るように回転し逆立ち状態になると、そのゴブリンの頭部へ連続の回転蹴りを打ち込み蹴り飛ばす。

 放たれた炎は蹴り飛ばされたゴブリンに直撃し燃え上がっていく。

「グギャァァァァッ」

 ゴブリンの叫び声をBGMにアキはダンスを続ける。

 地につけた両手で踏ん張り回転蹴りを続け、魔物たちの武器を持つ腕を蹴り上げていく。

 仲良く万歳していい的が出来上がったところで、逆立ち腕立ての要領で跳ね上がり、ナイフを投げつけようと懐へ手を突っ込む。

「っ!?」

 両手で懐を弄るがナイフはなかった。ホルダーに差さっていたナイフはすべて投げ尽くしていた。手作りナイフホルダーには6本しか差さっていなかった。先ほど地べたに倒れているゴブリンに投げつけたのが最後の1本だった。

 今手持ちであるのは、ダガー2本、サバイバルナイフ1本、苦無が1本だった。苦無が1本足りないのは気付いていたが買い足そうにも売り切れていたのだ、そして大量買いしたナイフは収納箱の中だった。

 ホルダーの改良を検討しなければ。そんなことを考えながら両手で着地すると、再び跳び上がる。

 今度は魔物でできた人垣ならぬ魔垣を飛び越えるためだ。

 そこへ声が掛けられる。

「アキ! なんで本気出さないのよ! あの妙ちくりんな力はどうしたの!」

 カレンの言う妙ちくりんな力とは気の事だろう。

 瘴気がまだ体内に残っていることは話したが、もちろん詳しくは話していない。正直、今気を使うのは非常にまずかった。ウィンディが抑えてくれるとしても、今ここを覆う不穏な気配、これがなかなかの敵意に満ちていたのだ。おまけにまわりを魔物に囲まれ敵意の真っただ中にいる。おいそれと気を使うことはできなかった。

「うっせい! 俺は今、自分の可能性と戦ってんだよ!」

 アキはカッコイイことを言って誤魔化した。

「な、なにカッコイイこと言ってんのよ……」

 カレンはまんざらでもなさそうだ。

「グエェェェェ……」

 ルゥは憧れの眼差しを向けている。本当に言葉がわかってるのではないだろうか。

 気を使わない理由をでっち上げたはいいが、何とかここを切り抜け結界内に逃げ込まなければ。

 アキは落下しながら逃げ込む経路を探していく。

 その間にもバフォメットはアキに向け手をかざし魔法を放とうとしていた。

「チッ!?」

 アキは舌打ちをすると、ダガーを投擲しようと振りかぶる。

 すると、バフォメット2体は何かに気付いたようにゴブリン共を残し、距離を取った。

「なんだ? ……!?」

 アキはそれに気づいた。

 辺りを覆っていた不穏な気配が一か所に集まり、巨大な力の塊へと変わっていた。

 アキはその気配をたどり見上げた。

 はるか上空に黒い渦が巻き起こっていた。その奥には、アキを見据え真っ直ぐに手をかざしている魔物がいた。

 目が合った瞬間、その手から黒く重たいものが放たれた。


 無音


 音もなく目の前に暗闇が拡がっていくとアキを直撃する。そしてアキは地面に叩きつけられる。

「グハッ!?」

ズガガッ

 地面が抉れる音だけが耳に響き、アキは地面と暗闇に挟まれ押し潰されていく。

「ふぐぅぅぅぅぅっ!?」

 闇が拡がって行く中、近くにいたゴブリン共の耳障りな断末魔の声や死を告げる音が聞こえてきた。

「グギャァァァァッ」

グチャッ

「グガッ」

ブチャッ

 ミンチになっていることが見なくてもわかる嫌な音だった。

 アキは意識を何とか保ちながら闇の中に浮かぶ魔物を視界に収めた。

 その冷たい目に見据えられ、アキは意識を失った。


アキが弱くなった気がしますねぇ。

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