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報告と確認

「ねぇ、アキ。今の大きいのって鳥、だよね?」

 小屋に入るなり結衣が疑問を投げかけてきた。

「ん? ああ、見えないだろうけどグリゴールの子だぞ。ルゥって言うんだ、仲良くしてやってくれ」

 アキは当然のことのように答える。

「……そっかぁ、あれがそうなんだ……」

 結衣は頷くと、外を振り返り何か言い難そうに口ごもる。

「なんだ? ハッキリ言えよ、らしくねぇぞ」

 アキに促され結衣は口を開く。

「う、うん。あの、グリゴール? なんか、その~印象が違ったから。もっと獰猛な感じだと思ってた」

 結衣は言葉を選びながらそう言った。

「そうですね、子供を攫って食べるようには見えません。不格好で飛べるようにも見えませんし」

 汐音はルゥに聞かれていないのをいいことに遠慮なくモノを言う。

 結衣もそう思っていたのだろう、気を使って言葉を選んだようだ。

「それルゥには言うなよ。結構傷つくみたいだから」

 アキは自分が言ってショックを受けていたルゥを思い出していた。

「まあ、あいつ雑食らしいし、その気になれば人も喰うんじゃねぇか? ちゃんと躾けるけど」

 アキの言葉に、本当に躾けられるのかと心配になる汐音だった。食に関しては自分の身も危険になるため大丈夫だろうけれど、他の面でアキの悪い所が似ないかと不安だった。

「だいぶアキに懐いてるみたいだったしな」

 総司は納得したように言う。躾とやらも今のところは順調にいっていると思っているようだ。実際にはまだ何もしていないのだが。

「あいつ人懐っこいからな、村の子供たちともすっかり仲良しだぞ」

 アキは自分の子供の様に優し気に言う。

「アキ、なんだかお父さんみたい」

 カレンが率直な感想を言った。

「……」

 アキは表情を曇らせる。

「あれ? わたし何か変なこと言った?」

 アキの変化にカレンは戸惑いを見せる。

「いや……あいつが俺を親だと思ってるだけだから」

 アキは寂し気に言うと椅子に腰かける。

 総司たちも各々椅子に腰かけると、汐音がポツリと呟く。

「刷り込みですか」

「ああ、あいつの親は俺が殺した。あいつは卵から孵って最初に見た俺を親だと思ってるんだ。そんなあいつを俺は殺そうとしたんだ。シェリーに止められなかったらそうしてたかもしれない」

 アキは過去の自分を責めるように言う。

「そうですか……」

 汐音はそれも仕方がないと思っていた。害獣である以上は退治しなければならない。

 アキの顔を見て結衣は告げる。

「嘘、それは嘘だよ。シャリーちゃんが言ってたよ。殺すチャンスはいくらでもあったのにアキはそれをしなかったって。辛そうな顔をしてたって。だからシェリーちゃんは止めたんだよ」

 今のアキも辛そうな顔をしていた。

 結衣は、アキがこんな顔をして葛藤していたのだろうと思うと心が痛くなった。

「シェリーがそんなこと言ってたのか。シェリーのおかげで殺さずに済んだんだ、俺はホッとしてる。ルゥはいい子だからな」

 アキは目を閉じ微笑んでいる。

「フフッ、そのようですね。不格好ですけど」

 汐音は不格好なのが気になって仕方がないようだ。

「不格好不格好言うなよな! あれはあれで可愛いだろうが!」

 アキは親バカ発言をする。

「確かに愛嬌はあるよな」

 総司は以前アキが言ったのと同じことを言う。

「うん、あたしも可愛いと思うけど」

 結衣も同意する。

「そうですね、あのふわふわ感は抱きしめたいですよね」

 カレンはふわふわの丸っこさが気に入ったようだ。

「まあ、そこは否定しませんけどね」

 汐音は素直じゃない言い方をする。

「お前だってホントはルゥのふわふわボディが気になってんだろ? 一度抱きついてみろ、癖になるぞ。シェリーなんていつも抱きついてたくらいだぞ」

 アキはルゥのふわふわボディを推した。

「う……」

 汐音は言葉に詰まっている。どうやら興味はあるようだが、それを口にするのは躊躇(ためら)われたようだ。汐音は感情と理性の狭間で葛藤していた。

 後でけしかけてやろうと企むアキだった。

「さて、ルゥの話はこのくらいでいいだろ。お前たちの話を聞かせろよ」

 アキは表情を変え、真面目モードで話しを促した。

「そ、そうですね。コホン、では私から話しましょう」

 汐音は調子を取り戻すように咳ばらいをすると話はじめた。

 話によると、リーフ村から救援要請を受けてやってきた際に偶然アキの行方を知りここにきたようだ。それだけ聞くと話などないように思える。

 しかし、話は二つあるようだ。報告と確認。この二つである。

 報告の方は城での一件、アキが戻って来られるように、ある計画が進行中とのことだ。その計画が成功すればアキは晴れて城に戻ることができるそうだ。

「ふ~ん、まあ、頑張ってくれ」

 アキは興味がないように手をヒラヒラさせ気のない返事をする。

「なんですかそのどうでもいいような態度は? 五十嵐君の為に頑張っていると言うのに」

 もっと喜ぶと思っていた汐音は予想外な反応をするアキに不満の色を見せる。

「ああ、うん。ありがとな」

 それでもアキは心の籠らない礼を言う。

 そんなアキに汐音は苛立ちを露わにする。

「ちょっと!? 五十嵐君!」

「汐音、少し落ち着けって」

 食って掛かろうとする汐音を総司が止め、アキに訊ねる。

「アキ、どうしたんだ? 城に戻りたくないのか?」

 アキは腕を組み考え込むと、ポツリとつぶやく。

「ん~別に戻んなくてもいいかなぁって」

「どうしてだ? サラさんだって待ってるんだぞ?」

 総司はアキが一番気にしているだろうところを突いた。

「それを言われると痛いんだけどさ。城だといろいろしがらみが付き纏うだろ? 自由に動けなくなるのも鬱陶しいし。別に城を拠点にする必要もないんだよなぁ。(しばらく帰れないかもだし)」

 最後の部分は声が小さくて総司たちには聞こえていなかった。

「じゃあ、ここを拠点にして帰らないつもりなのか?」

「ん? まあそうだな。用事があれば戻るけど、そんな感じだ」

 アキは軽く言い放つ。

「そんな感じってお前……」

「また一人で行っちゃうってこと? あたしたちがこんなに心配してるのになんで?」

 勝手なことを言っているアキに黙っていられなくなった結衣が口を挟んだ。

「心配って、ルゥもいるし一人じゃないから大丈夫だって」

 アキはまたしても軽く言う。自分の中にアルスやウィンディがいるとはさすがに言えなかった。

「大丈夫に見えないから言ってるんじゃない!」

 結衣はアキの頭を指差し声を荒げる。魔物よりも瘴気の侵食の方を心配していたのだ。

 これが二つ目の話、総司たちが確認したかったことだった。

 見た目が見た目なだけに、どうしようもなく誤魔化すことはできなかった。

「瘴気の侵食、進んでるんだろ?」

 総司が訊ねる。

 アキは頭に手を乗せ溜息を吐く。

「はぁ、これか? そうだな、城に戻らない理由の一つではあるな」

「どういうことです?」

 気持ちが落ち着いたのか、汐音は城に戻らない理由が気になり訊ねた。

「えっとな、俺の中にはまだ瘴気が残ってる。んで、人の負の感情に反応して瘴気が増幅しちまうんだ。だからこの間のつるし上げは正直ヤバかったわけよ」

 アキは深刻な話を軽く言った。そう思わせたくなかったのだろう。危険人物と思われたくなかったのだ。

「でしたら冬華ちゃんにしっかり浄化してもらいましょう」

「なんだったら俺が浄化するぞ?」

 総司は手から炎を(ほとばし)らせる。

「浄化さえしてしまえば帰らない理由が一つ消えるでしょ?」

 汐音は理由を一つずつ潰していく方向で話を進めるようだ。

「アホか! 総司に浄化させるって、俺を焼き殺すつもりか!?」

 アキは冗談じゃないと、声を荒げる。

「お前なら平気だろ?」

 総司は本気で言っているようだ。

「平気なわけねぇだろ! バカなの? お前!」

 アキは総司の頭を指でつついて声を上げた。

「確かに焼くのは可愛そうですね、やはり冬華ちゃんに……」

 汐音の中では冬華に浄化してもらうことが決定していた。

 アキは内心焦っていた。

 もし浄化したらアルスとウィンディはどうなるのだろうか? と。

 ウィンディは普通の風の精霊に戻れるから喜ぶかもしれないが、アルスは浄化されて消滅とかしたら寝覚めが悪すぎる。何とか誤魔化そうとアキは頭を巡らせる。

「えっと、そう! あれだ! 瘴気が俺の力と結びついて浄化すると俺の力も削られるんだよ。うん、だから少しずつ処理していくしかないんだよなぁ。ホント参ったよ。だから浄化はなしで頼む」

 アキは掌を前に出し止めるジェスチャーを見せお願いした。

「ですが、それではすぐに戻れないじゃないですか」

 汐音はどうしてもアキを連れ戻したいようだ。

 その態度がアキには不自然に見えた。以前ならアキに関わろうとはしなかったはずだ。学校での話ではあるが。

 腑に落ちないアキは訊ねてみることにした。

「なんで、そんなに俺を戻したがるんだ? 人手は足りてるだろう?」

「人手とかの話じゃないでしょ! 心配だからに決まってるじゃん!」

 何もわかっていないアキに腹を立てた結衣が声を上げた。

 結衣の剣幕にアキはたじろいだ。

「お、おう、そうか。それはすまん。でもなぁ、汐音は過剰に俺を戻そうとしてるように見えるんだけど? ……はっ!? まさか俺に惚れたのか!? なるほど、それなら納得」

 アキは納得したように言うと一人で頷いている。

 そして、それに過剰に反応した者がいた。

「そ、そうなんですか!?」

 カレンが焦るように汐音を見る。昨晩恋バナで盛り上がり、それはないとわかっていたにも関わらず食いついていた。

「それはあり得ませんから」

 汐音は冷静に否定する。

「ッハハ、だよな。じゃあなんで?」

 アキの表情は真剣なものだった。「嘘は言うな」アキの目はそう告げていた。

 汐音はその目に見据えられ口ごもると、おずおずと口を開く。

「え、と……光輝の、ためです。光輝には五十嵐君が必要なんです」

 アキは引いていた。

「お、俺にそっちの趣味はないぞ!?」

 アキは自らの体を抱きしめ後ずさる。

 それを聞いて総司と結衣も引いていた。カレンだけは意味がわからないようで首を傾げていた。

「違うわよ! バカな事言わないでよ! 光輝だってそんな趣味ないわよ!」

 汐音は顔を真っ赤にして否定する。動揺の為か言葉遣いが崩れていた。

 そしてとつとつと語り出す。

「五十嵐君が死んだとき、光輝がどうなっていたかあなたは知らないでしょう?」

「ああ、死んでたからな」

 ふざけた返しだったが、アキはいたって真面目に返していた。それは二人の表情が物語っている。

「光輝、廃人みたいに空っぽになっていたんです」

「……」

「冬華ちゃんからも距離を置かれ、放っておいたらそのまま死んでしまうんじゃないかって。五十嵐君の存在は光輝にとって支えなんです。五十嵐君がいるから光輝は頑張れる、強く生きられるんです」

「……それはどうかな?」

 アキは汐音の言葉を否定する。

「え?」

「俺が戻ったとき光輝は立ち直ってた。なぜだ?」

「そ、それは……」

 汐音は答えられないでいる。

「汐音が側にいてくれたからだ。確かに光輝は俺を支えとしていたかもしれない。でも今は違うだろ。お前がいたから立ち直れた、お前がいたから強くなれた。今の光輝はお前を守るために強くなってんだよ。んなもん見てればわかるだろう」

 汐音は放心したようにボーッとしている。

「だから今のあいつに俺は必要ない。お前がいればそれでいいんだよ」

「……」

 アキは放心したままの、聞いているのかわからない汐音へデコピンをくらわす。

バチンッ

「いったぁぁぁぁぁっ!? 何するのよ!」

 汐音は額に手をあて声を上げる。

「ボーッとしてやがるからだ。折角いい事言ってやってんのに、お前が聞いてないんじゃ俺がただのハズイヤツだろうが!」

 アキは顔を赤くし物申す。

「ったく、だから前にも言ったかもしんないけど、お前は自信を持っていい。光輝に必要なのはお前なんだから」

 アキの言葉を聞き汐音はぽろぽろと涙を流した。

 額が痛かったからではない。汐音はどこかでアキにはかなわないと思っていた。光輝の中をアキの存在が多くを占めていると気付いてしまったから。だから何としてもアキを光輝の下へ戻してあげようと思っていたのだ。

 しかし、そのアキに光輝には汐音がいればそれでいいと、光輝には汐音が必要だと、今の汐音が一番欲しかった言葉を言われ嬉しさで涙があふれたのだ。ただ、それを光輝の口からではなくアキの口から言われたことが残念でならなかった。

 汐音は、なぜかアキの言葉は真実だと当然の事のように感じてしまっていた。時折そう感じているときがあり不思議に思っていた。

 アキは戸惑う。なぜこうも女の子を泣かしてしまうのかと。

「あ~アキまた女の子泣かした~」

 結衣が非難めいたことを言う。

「お、俺が悪いのか!?」

「他に誰がいるのよ!」

「アキって、人には女の子泣かすなとか言うけど、自分はしょっちゅう泣かしてるよな」

「グハッ!? 人が気にしてることを……」

 アキは四ノ宮兄妹から致命的なダメージをくらった。

 その3人のやり取りを見て汐音は涙を流しながら笑っていた。

「フフフッ」

 アキが良い話をしたことでうやむやになっていたが、アキを一人で行かせることを良しとしない者が密かにある決意をしていた。

 カレンは項垂れるアキへと訊ねる。

「結局アキは城へは戻らないんだね?」

 アキはいきなり訊ねられ返事に窮してしまう。

「え? あ、おう。でも、必要なら戻るぞ」

「そう……じゃあそれまでわたしが一緒に行くから」

「「はぁ!?」」

「「えっ!?」」

 カレンの爆弾発言にアキたちは驚きの声を上げた。


話が停滞している気がする。もう少しで動き出しますのでご容赦を。

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