表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/288

闇と闇

 闇の衣を纏い、白い髪、光に反射するように紅い瞳が怪しく光っている。二十代後半くらいだろうか、やはり知らない男だった……

「誰だ?」

 アキは再び同じ質問をした。

 男は表情を険しくする。

 男はアキがとぼけて挑発している、とでも思っているのかもしれない。

「何を言って……ああ、そうだった。あの時はお前の姿を借りていたのだったな」

 男は思い出したように言う。

「俺のっ? まさか!? シン、なのか?」

 アキは完全に虚を突かれていた。

 敵がいるかもしれないと思ってここまで来ていたが、気配がなく結晶もなくなっていた為、もうここには誰も残っていないと思っていたのだ。ウィンディは反対側から堂々ときたが、この男は突如ここに現れた。アキもルゥもアルスですら気付いていなかった。しかも現れたのは敵を統率していると思しきシンだった。驚くのも無理はなかった。

「ああ、この姿で会うのははじめてだな。お前に会うつもりなどなかったのだがな」

 シンは興味がないように言い放つ。

 アキはシンが自分に用がないのだと知り幾分か平静を取り戻した。そして、会話の主導権を握るべく口を開いた。

「だったら何しに戻ってきた?」

 アキは結晶のありかを探るチャンスだと思っていた。逃げられる前に何とか聞き出そうと考えていたのだ。

「戻ってきた? ……俺がここにいたことを知っていたような言い草だな」

 シンは興味のなかったアキから聞き逃せない事を聞き怪訝そうな視線を向ける。

「そう言ったつもりなんだがな」

 アキはそういうと、地面のくぼみへと視線を向ける。

 アキはここに結晶があったことも知っていると暗に言っていた。

 シンは表情をさらに険しくする。

 アキは今の優位を崩される前に再びシンの目的を聞く。

「それで? なんでわざわざ戻ってきたんだ? 俺に殺されに来たのか?」

「ふん、お前になど用はないと言っただろう。忘れ物を取りに来ただけだ」

「忘れ物?」

 その忘れ物とやらを先に手に入れれば優位に事が運べるかもしれない。

 アキはこれまでの情報をつなぎ合わせ考える。

 シンは忘れ物を取りに来たと言った。「戻った」ではなくだ。

 シンはここに突如現れた。何の気配も感じさせずいきなりだ。

 ウィンディはここに来れば俺に会えると思っていたようだ。俺がここを知っていると知っていたのか、それとも俺の気配をつけてきたのか、それ以外か。

 ウィンディはアルスの一部が自分の中にもいると言っていた。

 そのすべてを繋げるとどうなる? 共通点は? 

 闇、か? つまりアルス。

 俺の中にもウィンディの中にもアルスはいる。同じアルスを宿す者同士、その存在を感じ取ることができるのかもしれない。アルスの存在をたどってウィンディがここに現れたとするなら、シンにも同じことができるのでは? 闇を纏っているくらいだ、シンの中にアルスがいるのかもしれない。もしそうでなくてもアイズたちの中にはいるだろう。

 突然現れたことから転移魔法で来たのかもしれない。

 シンはアルスの存在をたどり転移魔法でここに来た。しかし俺には用はないと言う。ならば狙いは……

 アキは結論に至り口を開く。

「ウィンディか」

「ほう」

 シンは感心したような小馬鹿にしたような声をもらした。

 ウィンディはシンの狙いが自分なのだと知っていたようで黙っている。知っていたからアキに接触してきたのかもしれない。

 アキはウィンディへと視線を向ける。

「ウィンディ、あんたはシンと行くつもりなのか?」

 ウィンディは呆れたようにアキを見る。

『行くつもりならはじめから行ってるわよ』

「フッ、そりゃそうだ」

 アキは自嘲するように言うと、ウィンディの前に立つ。

「というわけで、ウィンディは渡せねぇな。こっちの取引も途中だし、お引き取り願おうか!」

 アキはシンに向け言い放った。

 ウインディは庇われるとは思っていなかった為、驚いたような表情をしている。

「そう言われて、はいそうですかと引き下がるわけがない。という事はわかっているだろう?」

 シンは歪な笑みを浮かべる。

「ああ、そうだな!」

 アキは右手でダガー、左手で魔剣を抜き構える。

 シンも体から闇を迸らせる。

「お前はもう、ここで死んどけよ!」

 アキはシンに向け駆け出した。

「ふん、お前が死ね!」

 シンは蔑むように言い迎え撃つ。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 アキは右のダガーで左下から逆袈裟で斬り上げる。

 しかし何の手ごたえもなくすり抜ける。

「そんな攻撃は効かないともう忘れたのか?」

 シンは小バカにしたように言う。

「……覚えてるっての!」

 本当は忘れていた。見た目が人間だからどうしても勘違いしがちになってしまう。そこがアキの甘さだった。

 シンは闇からムチのような触手を出し、目の前のアキへと振り抜く。

 アキは左の魔剣で斬り払う。

 しかし、触手は斬った先からまた伸びていき再びアキを攻撃する。

 アキはダガーで斬り払い、魔剣でシンを突く。

 やはり、手応えはない。魔剣といえども何も発動していなければ効果はないようだ。

「ふん、無駄だと何度言えばわかるんだ?」

 シンは憐れむように言い、さらに触手を増やし全方位からアキを襲う。

「くっ!?」

 アキは感知能力に魔力を割くと、触手の動きを追い二刀でその猛攻を防ぐ。

「ハハハハハッ、防ぐだけでは俺を殺すことなどできんぞ!」

 シンはアキを休ませることなく攻撃し続ける。

 アキは剣速を上げ手数を増やすと、ダガーをシンの顔めがけ投擲する。

 当然効きはしないことはわかっていた。一瞬でも怯んでくれればそれでよかったのだ。

 しかし、シンは条件反射的に避けていた。

 その一瞬攻撃は止み、アキは魔剣に手をかざし声を上げる。

「風よ!」

 アキはサラのように風の魔法を発動した。

「っ!?」

 シンはアキに魔法はないと油断していたのか反応が遅れていた。

 いや、そうではなかった。

 シンは呆気に取られていたようだ。

 アキが魔剣で放ったのは、風の魔法ではなく水の魔法だったからだ。

 さすがにアキも呆気に取られていた。そして顔を赤らめる。

「あ、あの店主適当に鑑定しやがって! 超はずいじゃねぇか!」

 張り切って「風よ!」とか言いながら水が出る。それが効いているのならフェイントだと言い張れるが、効いていないとなればただ間違えただけの恥ずかしい人になってしまう。

 もちろん今のは魔剣で放っただけのただの水の魔法、効くわけもなくシンの体を通過していた。

 アキはただの恥ずかしい人になっていた。

「ハハハハハッ! 何かと思えば大道芸とは笑わせてくれる」

 シンは蔑みでも嘲りでもなく、本当に笑っていた。アキにはそれが一番堪えた。

「う、うるせぇ、笑うな!」

 ウィンディは声に出さないように肩を震わせている。

 アキの顔はますます赤くなる。

 ひとしきり笑うと、シンは表情を引き締め告げる。

「久しぶりに笑わせてもらった。その礼に一思いに殺してやろう」

 シンは全身から闇を噴き出していく。

「!?」

 アキは魔剣を前にし身構える。

 シンはアキを見据え声を上げる。

「喰い尽くせ! 闇の口(ダークイーター)!」

 シンを覆う闇は生き物のように蠢くと口を広げるようにパックリと開きアキに喰らいつこうとする。

「なっ!?」

 アキはバックステップで躱すが、ダークイーターはアキを追尾してくる。

「くっ!?」

 アキは壁に追いやられサイドに逃げようとする。

 しかし、両サイドは触手が行く手を阻む。

「チッ!」

 アキが触手を斬り払っている間に、ダークイーターはアキを覆うほどに大口を開け迫っていた。

ビュゥゥゥッ

 そこへ黒い風が吹いた。

 ダークイーターは黒い風の障壁に阻まれ弾き返された。

『させない!』

 ウィンディは黒い風を巻き起こしアキを守ろうとする。

「なにやってんだ! ていうかなんでまだいるんだよ!」

 狙われているのはウィンディなのだから、シンを抑えているうちにここを離れるだろうとアキは思っていた。

『なぜかしら? あなたが私を庇ってくれたから、かしらね』

 ウィンディは魔力を高め、ダークイーターを押し戻そうとする。

「フフッ、ウィンディ、お前の方から来てくれるとは……好都合だ」

 シンはニヤリと笑うと、触手に闇を流し込む。

 その触手は太く強固になると、真っ直ぐにウィンディを捕らえようと迫る。

 闇の触手は風に削られながらもを障壁を突破し、ウィンディへと迫る。

『っ!?』

「させるかよ!」

 アキは魔剣で闇の触手と斬り結び、その進行を食い止める。

 しかし、

『キャアッ!?』

 背後からウィンディの悲鳴が響いた。

 振り返ると、別の闇の触手がウィンディを捕らえていた。

 そして、その闇の触手はウィンディから何かを吸い上げるように脈動する。

『くっ……』

 ウィンディは力が抜けていくように膝をつき、黒い風の障壁は霧散していく。

 アキはウィンディを捕らえる闇の触手を斬り落とそうと駆け寄り剣を振り下ろそうとする。

 しかし、アキの腕は先ほど抑えていた闇の触手に掴まれ妨害された。そして拘束されたアキへダークイーターが大口を開け迫ってくる。

 闇の触手はその口の中へとアキを放り込んだ。

「うわぁぁぁっ!?」

 食われると思った瞬間、

「グエェェェェェェッ!」

ドスッ 

「っ!?」

 アキはルゥの体当たりを受け弾き飛ばされた。そのおかげでダークイーターから逃れることができたが、その代わりにルゥがダークイーターに飲み込まれてしまった。

 口が閉じられる瞬間、ルゥと目が合った。

「グエェェェェ……」

 ルゥはアキを助けられたことにホッとしているようだった。

 ルゥが食われる。そう思った時、アキの中で絶望と憎悪が増幅し弾けた。

『(ダメ! 空雄! 落ち着いて!)』

 アルスが呼びかけるが、アキにその声は届かなかった。

「うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 アキが咆哮すると、体から黒い気が放出された。

「なんだ、あれは……」

 シンは目を見開き、変貌するアキを見つめていた。

 アキは体を黒い気で覆い、ダークイーターの口へ両手を突っ込んだ。

「ぐぅっ!」

 そして、渾身の力を籠めこじ開ける。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 口が開かれるとルゥが顔をのぞかせた。

「グ、グエッ?」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 アキは憎しみをぶつけるようにダークイーターの口を引き裂いた。

 そして、両手に握る上顎と下顎を握りつぶすと、黒い気の中に吸収されていく。

『ア、キ?』

 ウィンディの声に反応するようにアキはウィンディを捕らえる闇の触手を掴み引きちぎる。

ブチっ

 そして、自身に向けられる敵意に視線を向ける。

「っ!?」

 シンはアキに見据えられ、闇を放出し身構える。

「この男に何が起こった?」

 シンの呟きに応える者はいなかった。

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 アキは体から黒い気を放出し球状の障壁を展開すると、そのままシンへと突進する。

 その一切の手加減のない突進はシンに回避の時間を与えず、障壁で弾き押すと壁との間に挟み押し潰した。

ズガガンッ

「グフッ!?」

 しかし、ダメージは正面からのアキの体当たりの分だけで、シンは壁をすり抜け別の壁からスーッと現れる。

「この力は……」

 シンは何かに気付いたようにニヤリと嗤う。

 シンの敵意に反応し、アキは再び攻撃を仕掛けようとシンへと手をかざす。次は逃げられないように気で覆い潰そうとしていた。

「ぐぅぅぅぅぅぅぅあっ!」

 アキが黒い気をシンへ向け放つと、シンは影の中へと体を沈ませていく。

「必要なものは手に入れた。また会おう、お前の自我が保たれていればだがな」

 シンはそう言葉を残し、影に消えていった。

 敵意が存在しなくなり、アキは脱力したように崩れ落ちた。

「グエェェェェェェッ!」

『アキ!』

 ルゥとウィンディがアキへヨロヨロと近寄っていく。

「グエッ! グエッ!」

『どきなさい! 回復するから!』

 ウィンディはルゥ押し退けアキを抱き起す。

『アキ! 目を覚まして!』

『(空雄! 空雄!)』

 アキは薄れゆく意識の中呼びかけてくる声を聞いていた。

『(しっかりして空雄!)』

「(しっかりってなんだよ? 俺がしっかりしてねぇみてぇじゃねぇか)」

「グエェェェェ……」

「(ルゥ、そんな悲しそうな声出すなよ。俺が死ぬみてぇじゃねぇか)」

『お願いだから、受け入れて』 

「(受け入れるって、もう受け入れただろ? 何言ってんのお前……)」

『(空雄! 空雄ぉぉぉぉっ!)』

「グエェェェェェェッ!?」

 アキは騒がしい中、意識を失った。


ルゥ、いい子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ