決断
小屋に戻り、久々のサラさんのおいしい昼食を食べた俺たちは、サラさんからの調査結果と見聞きしてきた情報を聞かせてもらった。
(内容については割愛させてもらう。気になる人は前の方の話を読んでね! なにを言ってるんだ? 俺は……)
そして、サラさんが廃墟の一室で回収してきたビリビリに破れた衣服を手渡された。
「これは……」
胸のところに名前が刺繍してある。
地域によっては名札であったりするが、俺たちの学校では刺繍を採用している。
四ノ宮結衣
持つ手が震える……視野が狭くなる……
「ハァ、ハッ、ハッハ、ハァ……」
動悸が激しくなり呼吸が乱れる、頭の中がグチャグチャだ。
「ウソだよ、こんなの、ありえねぇよ、バカげてる、ふざけんな!」
「アキさん……」
心配そうに俺を見つめるサラさんの肩を掴んで問いただす。
「冗談だろ? ウソだよな! ウソだと言ってくれよ!!」
「……」
サラさんは悲愴な表情を浮かべ、無言で返す……
「結衣が? そんな、え?なんで……総司は? あいつがついててなんで」
「落ち着かんか、バ……も……」
「アキさ……わた……」
床にへたり込んだ俺の目には何も見えていなかった。何も聞こえなくなっていた。
「なんで? なんでこーなった? どこで間違った? なんで結衣だけ? なんで総司だけ? ……なんで俺だけ助かった?」
「どこで? いつ? あの時か? あそこで角を曲がったから? なんで曲がった?」
「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?……」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
心と思考のバランスが崩れ、俺は意識を失った。。。
「アキさん!!」
サラはアキを抱きとめるとその体を支える。
「気を失ったようじゃな。部屋で寝かせておやり」
「はい」
サラはアキを部屋に連れて行きベッドに寝かせて、布団を掛ける。
サラはアキの頬に手を当てる。
「アキさん……」
サラはアキに何もしてあげられない自分の不甲斐なさに悔しさを覚え下唇を噛みしめる。そして、祈るようにアキの手を握りしめアキの側に寄りそう。
……闇
……石造りの壁
……石造りの建物?
……誰かいる
……結衣? 結衣ーー!!
呼んでも無反応だ。聞こえていないのか? ……鏡に向かって何か話してる?
「……わからないよ、牢獄みたいだけど……」
結衣頭おかしくなったのか?
鏡に何が? ……!? 鏡の向こうに包帯まみれの白い髪、人? コワッ!?
碧い瞳、この目どこかで……
……闇
……同じ建物?
……誰かいる
……三人?
結衣と……白い女と黒い女
白い女は背筋の凍るような笑みを浮かべている
黒い女は無表情なのに、涙を流している?
結衣が泣きながら鏡に向かって叫んでいる
「殺しちゃダメ! 総司! 戻れなくなっちゃう!」
総司がどうしたんだ!?
……闇
……また同じ三人
白い女は美人なのに怖い……これにつきる
黒い女も美人なのに無表情……もったいない
結衣はまた叫んでる
「ダメ! 総司! あたしはここにいるよ! 騙されないで!!」
総司が騙される?
……闇
結衣が一人鏡の前にいる。
ん? 驚いてる? ……なんだ? 泣いてるのか?
結衣は涙を流しながら笑顔で言う
「うん、待ってる。二人が来てくれるのをあたし待ってるから……」
二人? 俺と総司か?
……闇
……またまた三人
黒い女はいつものように無表情……じゃない!? 苦悶の表情?
結衣は鏡を見て祈るようにしている
「お願いお願い、総司を助けて……」
「無駄だ小娘、あの小僧はもう堕ちておる。アハハハハハハハハハハ」
白い女は嗤う
……総司を助ける……
あ!? 思い出した……あの怖い夢
そーだ、助けないと……総司を
……って、これ夢、だよな? 場面がポンポン変わるし……
でも……なんか……
結衣は言ってた……
「待ってるから……」
女の子泣かせるのはイヤだな……
だったら、行かなきゃな……
目を覚ました俺の目の前に……また女神がいた。
「今度こそ死んだ?」
「死んでません」
女神は笑顔で言った。その頬には涙が流れていた。もちろん、女神はサラさんだった。
夢のおかげか、女神様のおかげか幾分か落ち着くことができた。
どのくらい寝てたんだろ? 窓から外を見ると日が傾きかけている。数時間か、まさか丸一日!? ……腹の減り具合からしても数時間くらいだとは思うけれど……
「おはようございます、俺どのくらい寝てました?」
「おはようございます、数時間ですよ」
サラさんは涙を拭いながら答えてくれた。
女の子泣かすのイヤとか言って、サラさんを泣かせてばかりだな。俺は自嘲しながら起き上がるとサラさんに手を握られていた。いつもならすぐ離してくれるのにどうしたんだろ?
「サラさん? もう大丈夫ですから」
そう言ってもサラさんは首を振って離してくれない。
「アキさん、わたしはアキさんの側にいます。力にもなります。だから、一人で背負い込まないでください。お願いですから、いなくならないでください」
サラさんは強く手を握りしめながら懇願する。
(いなくならないで、か……)
感受性が強いのか、何かを感じ取っているのかな?
「目覚めたようじゃな。それで、どうするのじゃ?」
ばあちゃんが部屋に入ってきて訪ねてくる。ホントに見透かしたように言ってくるなぁ。
「行くよ、気になることもあるし」
「そうか」
ばあちゃんはそれだけ言う。
サラさんはさらに強く手を握りしめて言う。
「それなら、わたしも」
「サラ! おぬしは城に戻らねばならんじゃろ!」
「!?」
ばあちゃんの言葉に下唇を噛みしめ苦渋の表情を見せる。
「大丈夫ですよ。二人を連れて戻ってくるだけですから」
俺は優しくサラさんの手に触れて言うが、サラさんはなかなか「うん」と言ってくれない。
「そんなに簡単なことじゃないんですよ!」
「わかってます。それでもです。大丈夫、俺逃げ足だけは速いですから。必ず戻ってきますよ」
なんの根拠もないのだけれど、こう言うしかない。
「ね……」
「……」
サラさんはまだ納得はしていないようだが、これ以上続けたら押し負けそうだ。
「あの~腹減りません?」
と、俺は空気を読まない提案をすることにした。
夕食後、俺は明日の朝発つことを告げた。
サラさんはすごく心配していたが(ぶっちゃけ反対されてるが)、俺がおぼつかない慣れない手つきで旅の準備をしていると、見かねて必要なものを最低限準備してくれた。本当にいい奥さんになるよ。
明日に備えて早めに寝ることにし、俺は自室で横になり眠る。
……闇
……階段を上る
……声が聞こえる、男女の声
……広い部屋に男女がいる
「……」
女が何かを言った……男が剣を抜いて近づいて切り掛かってくる!
「おい! どーしたんだ!? 俺だ! アキだよ!」
なおも切り付けてくる
「ちょっ!?」
ギュィン、キン、キン……剣戟が鳴り響く
何かに気を取られた瞬間……
男の剣が体を切り裂き、鮮血が飛ぶ……
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
サラは暗闇の中、悲鳴とともに目覚める。
「ハァハァハァ……」
体中汗でグッショリしていて気持ちが悪い。それよりも夢の内容だ。
サラは今見た夢を思い出し戦慄する。
(アキさんが、死んじゃう!)
これはいつもの夢じゃない……現実感が強い。これから起こることだと感じられる。
これは予知夢だ。
悲鳴が聞こえ、俺とばあちゃんはサラさんの部屋の前に駆け付ける。
ドンドンッ
「サラさん入りますよ!」
俺は扉を開け中に入る。
サラさんは汗びっしょりで放心していた。
「サラ! どうしたんじゃ?」
ばあちゃんがサラさんになにがあったのか観察しながら問いかける。
「おばあちゃん……アキさん!?」
サラさんは目を泳がせてまわりを見て、俺と目が合うと飛び起きて俺に抱きついてきた。
「へ!? さ、サラさん?」
汗で濡れてる薄い布地の服で抱きつかれたら……あ、当たってます!? ってか、や、柔らかい……
と俺が硬直していると、嗚咽が聞こえてきた。
「ヒック……アキさん」
泣いていた。小さな肩を震わせながら俺の胸に顔を押し当て泣いている。安心させるように落ち着かせるように、俺は優しく抱きしめ頭を撫でる。
「サラさん? 何があったんですか?」
「……ヒック……夢を、見ました」
サラさんはとつとつと答えてくれた。
「夢?」
「まさか予知夢か!?」
ばあちゃんが驚いて言う。イヤ、俺も驚くよ! 予知夢だよ!
「……うん」
「どんな夢じゃった?」
「……お城だと思う。そこに……二人の男女が……」
俺を置いてけぼりにして話を進めていく……ってか二人!? 聞き逃せない単語が出てきた。
「二人おったのじゃな?」
「……うん」
二人がいた……俺は息をのみ次の言葉を待つ。夢だとわかっていても期待してしまう。希望を持ってしまう。
「それで、何があったのじゃ?」
「……」
サラさんは口を噤んで答えてくれない。ばあちゃんが促す。
「サラ?」
「……ヒック……あ、アキさんが……」
俺の胸の中でサラさんの体が強張り、俺を掴むサラさんの手に力がこもる。
「……ヒック……じゃう、ヒック……アキさんが、死んじゃう……ヒック……」
俺が死んじゃう? 信じちゃうじゃなく? あまりの内容に思考が一瞬おかしくなった。
ばあちゃんは何か考えているようだけど、聞かずにはいられない。
「死んじゃうって、ただの夢ですよね?」
「……ヒック、ヒック……」
「……」
イヤ、無言はやめてよ。
「あの……」
俺が口を開こうとすると、ばあちゃんが話し出した。
「わしらの家系はな、未来視の血統なのじゃ」
「未来視?」
「未来に起こることを予見するのじゃ。今回の災厄を予見したのは城で予見士をしておるサラの母なのじゃ。もちろんサラも例外ではなく、その血を受け継いでおる。サラの場合は予知夢として見るのじゃがな」
「じゃあ、俺が死ぬって言うのも?」
「ああ残念ながらのう」
ばあちゃんは険しい表情で肯定する。
俺は疑いつつ訊ねた。
「……それって、そんなに当たるものなんですか?」
「サラの能力はわしやこの子の母よりも強いようで、まわりの者にも影響を与えるのじゃ。サラが小さいころ一緒に寝ていたらわしも予知夢を見てしまってのう。それがわしらの予見と一致したのじゃ。じゃから、確率はかなり高い」
「そうですか……」
衝撃的な話の連続だったけれど、だとしたら二人が無事の確立も高いってことだよな。
それに、ばあちゃんの言ってた同じ夢を見たって、ばあちゃんだから見られたのか? もし能力のない者でも見れるとしたら?……俺があの夢を見たとき、サラさんは側にいて俺に触れていた。サラさんの力が俺に及んだとしたら?
俺が思考の渦にのまれていると、サラさんがこちらを見て言う。
「行かないでください。行かなければきっと予知夢は外れます。だから!」
サラさんは涙を流し懇願する。
「……そっか……未来は自分の行動次第で変えることができる。ありきたりな言葉だけど、俺はそう信じたい。ごめん、それでも行くよ」
なんか、俺らしくないくっさいセリフを言ったような。なんかむずがゆい。
「そんな……」
「それに、サラさんの予知夢のおかげで気になってたことに希望が見えてきたから、確認しないとね」
サラさんが俺を見上げてその震える唇を開く。
「そんなに大切なんですか? そのお二人のことが!」
「友達だから。向こうはどう思ってるかわかんないけどね。ハハッ」
「そう、ですよね」
サラさんは下唇は噛みうつむいてしまった。
「もう遅い、そろそろ寝た方がよい」
ばあちゃんが話の打ち切りを提案する。
「そうですね、サラさん?」
サラさんは俺を離してくれない。俺はばあちゃんに助けを求めアイコンタクトを送る……
「じゃワシは先に休むから、サラのこと頼んだよ」
スルーされた!?
「えっ、ちょっ!?」
俺たちは取り残されてしまった。信頼されているのは素直にうれしいんだけど、信頼されすぎても困る。さっきのサラさんもヤバかったのに、思わず「行きません」って言いそうになったよ。今もお胸様が当たってるんだよ~理性よがんばれ! あとひと踏ん張りだ!
「サラさん?」
「もう少しだけ……一緒にいてください」
「ん、いいよ」
俺の胸に頬をつけたまま言うサラさんに俺は優しく答える。
立っているのも変なんで、とりあえずベッドに腰掛けサラさんを隣に座らせる。……お胸様が離れて少し残念。それでもまだ俺に寄り添っているんだけど、俺が肩に腕を回す形で……要するにサラさんは俺の腕の中。
サラさんは頬を俺の胸につけて離さない。心音を聞いて俺が生きていることを感じているように見える。っていうか、たぶん俺の心臓早鐘を打つように早いんですけど、聞かれるの恥ずかしいんですけど! こんな状況あっちの世界ではありえなかったよ! やっぱりこれも夢? ありうる! こんな可愛くて綺麗な子が俺の腕の中で寄り添ってるなんてありえないでしょ! じゃあどこから夢? ん~~~全部か!
と頭の中が支離滅裂になっていると
「アキさん……フフッ、鼓動がすごいです」
笑われてしまった。
「それは生きてるからね」
「フフッ、そうですね」
「それに、サラさんとこんなに密着してたら緊張するよ」
「……わたしもです」
「アキさん、必ず戻ってきてくださいね」
「うん」
「必ず、わたしのもとに戻ってきてくださいね。約束ですよ」
「……うん、約束」
俺はサラさんが眠るまで待って部屋に戻った。
いつもはしっかりして大人っぽいのに、寝顔は少し幼く見えた。そんなサラさんを見ていると愛おしく思えてくる。サラさんには笑顔でいてほしいな。悲しませないためにも必ず戻ってこよう! 約束を守るために。そう誓う俺であった……
あれ? これって、死亡フラグ回収してない?
若干強引な感じが・・・