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ストーカー疑惑3 晩餐会

 部屋に戻ったアキは思考の海にダイブしていた。

 サラの怒りの理由、ではなく、今後の事である。

 二日寝てたのはまずったよなぁ。折角手掛かりをつかんだってのに二日って……ありえねぇだろ。

 アキは夢うつつで見た洞窟の事を考えていた。

 あそこに行けば何かしらの情報があるだろうと考えていたのだが、いかんせん寝すぎた。二日もあれば移動してしまっているかもしれない。一応確認には行くけれど、もうあそこには何も残っていないかもしれない。結晶だけでも確保しておきたかったのに……

 次にアキは封印について考える。

 4戦士は揃った、精霊もいる、待望の勇者様もいる、力をつける必要はあるけれどそれは時間とあいつらのやる気で解決できるだろう。

 後は封印の仕方だけなんだけど……今までの封印には精霊自体を必要としたはずだ、ウィンディたちの出現や、文献からそうだと推測できる。でもシルフィたちを犠牲になんてできない。だからといって他の精霊を見つけて犠牲にもできない。他の封印の方法を探すか、やっぱり倒すしかないよなぁ。その為にじいちゃんは光輝を鍛えてたわけだし。封印の仕方じゃなく、倒し方を探すべきだろうな。いや、光輝を鍛えていたってことはもう倒し方は判明してるってことじゃね? だったら後はアルスの居場所を突き止めるだけか。……って俺の中にいんじゃん! いやいや、俺の中のヤツはアルスの一部だって言ってたな、本体を探す必要があるか。今度アルスのヤツに聞いてみるか。って、お前を倒すからお前の本体の居場所教えてくれって言って教えてくれるわけねぇよな。はぁ、やっぱりまずはあそこを探ってみるしかないか。あとはあの人か……

 考え込んでいるといつの間にかいい時間になっていた。

 アキはバルコニーに出て沈みゆく夕日へと視線を向ける。

「あ~、めんどくせぇなぁ。なんでこんなことになったんだろ? 主人公になりたかったのに俺超脇役じゃん。ヒロインのサラはなんか怒ったままだし、まわりはリア充ばっかだし、なにこの格差」

 アキは一人勘違いの入った愚痴をこぼした。

「(はぁ、愚痴ってても仕方ねぇし早いうちに確認に行くか)」

 アキは夕日が沈み闇が世界を覆うのを確認すると、準備に取り掛かろうとバルコニーから部屋に入る。


コンコンコン


 すると扉をノックする音が響いた。

「はいは~い!」

 アキが返事をすると扉が開かれ冬華が中に入ってきた。

「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ~」

「は? なんの?」

 アキはなんのことかわからず首を傾げていた。

「え? 出席するんでしょ? 晩餐会」

「あ……」

「はぁ、忘れてたんだね」

 冬華は呆れて溜息を吐いた。

「サラさんをエスコートするんじゃなかったの?」

「おう、するぞ。もちろんだ。よく声を掛けてくれた。さすが俺の妹だ」

「でしょでしょ! もっと褒めていいんだよ」

 もっと褒め称えよとばかりに両手を広げる冬華。

「はいはい、偉い偉い、偉い子だねぇ冬華ちゃんは」

「雑!? 雑過ぎる! もっとこう頭撫でるとか、ハグするとかあるでしょ?」

「はいはい、偉い偉い」

 アキは冬華の頭をポンポンと叩いた。

「む~なんか違う……」

 不服をそうに頬を膨らませている冬華を置いてアキは身だしなみを整える為、姿見に自分の姿を映す。

「ふむ、今日も安定の平凡さだな。さすが俺」

 アキは姿見に向かいイケメン風にポーズをとる。その後ろで顔を顰めてアキを見る冬華が映り込んでいた。

 そして異変に気付いたアキは声を上げた。

「ん? なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」

 アキの後ろでその声にビクッとしている冬華が映り込んでいた。

 アキの黒髪が灰色になり、黒かった瞳は紅くなっていたのだ。

「平凡さのかけらもねぇじゃん。誰だよこれ」

 アキはさっきとは真逆の事を呟いていた。

「え? 今頃気が付いたの!? マジで?」

 冬華は今まで気付いていなかった鈍感さに驚愕していた。

「はぁ、自分に無頓着過ぎるでしょ。マリアさんの話だと瘴気に侵食された影響じゃないかってさ。そのうち戻るんじゃないかって言ってたよ」

 冬華は完全に呆れていた。

「なんだ、元に戻るならいいか。焦らせるなよなぁ、こいつめ」

 アキは鏡に映る自分の額にデコピンをお見舞いした。

 安心したアキはサラをエスコートする約束を果たすためサラの部屋へ迎えにむかった。もちろん場所は把握している。サラファンクラブの面々と共にサラを見守っていたのは伊達ではない。


コンコン


「……」

 ノックをしても反応がない。

「いないんじゃない?」

「なんでお前がいんの?」

 ちゃっかりと冬華が付いて来ていた。

「別にいいじゃん、行くとこ同じなんだし」

 確かにそうなのだが、何か釈然としないアキだった。

「カルマだっけ? あいつと行けばいいだろ?」

「カルマ~今忙しいんだって。レオルグさんが戦死したってことになってるから、アルマに仕事まわされたって愚痴ってた」

 冬華はつまらなそうに口を尖らせている。

 こういうところはまだまだ子供だと思えて微笑ましい。

「そうか、戦死か……」

 確かに戦死だけれど、だいぶ前の話だ。実は敵が成り済ましていたと知れ渡れば、まだ敵が潜んでいるかもしれないと疑心暗鬼になり、混乱の引き金になりかねない。だから関係者以外には知らせず、上層部で情報を止めているのだろう。

 アキは納得し、そのしわ寄せをくらったカルマに同情した。

「やっぱりいないみたいだね。どこにいるんだろ?」

 扉に耳を付け、中の音に耳を澄ませていた冬華が呟いた。

 アキは少し考え、結衣がサラを連れて行ったことは思い出した。

「あ、結衣のとこかもしんない」

 アキは冬華を引き攣れ結衣の部屋へと向かった。

 予想通りサラはいたが、準備があるとかで先に行ってくれと言われた。

 アキは結局冬華と向かうことになった。

「フンフンフフンッフンッ」

 冬華はニッコニコの上機嫌で何の歌かわからない鼻歌を歌いあげながら歩いていた。

(相変わらず何の歌かわかんねぇな。昔もこんなだったな。遊びからの帰り道、冬華はよく俺の服の裾を掴んでた。服が伸びるからと手を差し出すと喜んで掴んできたっけ。んで上機嫌でよくわかんねぇ鼻歌歌ってたな)

 さすがにこの年で服の裾は掴まないし、手も繋ごうとはしてこない。ベッドには潜り込んでくるけれど……

 アキは小さかった頃を懐かしみ、その鼻歌を聞きながら会場入りした。


 会場に入るなり声を掛けられた。

「冬華ちゃん!」

「冬華さん!」

「はいよ~!」

 声を掛けられたのはアキではなく冬華だった。

 ローブを纏った術士やまだ幼さの残る門兵(たしか門にいたはず)、アキの知らない者たちが冬華に群がって来ていた。意外と、ではないがやはりここでも人気者のようだ。

 おかげでアキは蚊帳の外だった。

「チッ、ここにもリア充が……」

 アキは舌打ちをすると、目の前の集団から離れ会場の様子を窺った。

 光輝たちはロマリオやローザ、お偉方が集まっている辺りに総司と共にいる。まわりの軽装の兵らしきものたちと会話をしていることから護衛も兼ねているのだろう。

(招かれたんじゃなかったのか? どうせ勝手にやってるんだろうけど)

 汐音は光輝の比較的近くにいたが、まわりを女性士官や女性術士に囲まれていた。こっちの世界でも女性人気が高いようだ。

(羨ましくなんかないんだからね!)

 会場の中央でガタイのいいおっさんたちとフードファイトをしているバカな子供がいる。しかもトップ争いしているようでかなり白熱している。その子供のまわりで心配そうに見る麻土香と呆れているカレンが

いる。やはりあの子供は風音のようだ。

(なにやってんだあいつは……)

「っ!?」

 アキは背中に冷たいものが走り周囲を見回す。

(あれ? 今何か……ま、いっか)

 アキは再び会場の様子へと視線を向ける。

 嵐三はマーサと脇の方で酒をチビチビやっている。昔の話でもして若かりし頃を思い出しているんだろう。

(あそこには近づかないでおこう、説教されそうだからな)

 モルガナ改め、モニカはロマリオの近く、目立たないところで静かにしている。気を遣ってマリアが話しかけているようだ。

(操られてたことを気にしてんのかな? 気にすることないと思うけど)

 冬華は今も人垣に囲まれている。随分と楽しそうだ。こっちでできた友達なのだろう。

(リア充め、ホントに俺の妹なのか!?)

 結衣とサラはまだ来ていない。

(会場内を見てる間に来ると思ったんだけど来ないな……なんか俺の居場所がない気がする……)

 そもそもここにアキの知り合いはほとんどいない。話せる相手など数える程しかいない。数少ない話せる相手もそれぞれの時間を過ごしていた。

 アキは寂しそうに隅へ行き、適当に取ってきた食べ物に口をつける。

「(サラと仲直りするために来たのにサラがいないんじゃ意味ねぇな……まあ、腹ごしらえはできるけど)」

 アキは他にすることもなく、ただ黙々と腹を満たしていった。


 そのアキの様子を人ごみに紛れ観察する者たちがいた。

 サラと結衣だった。

 結衣はアキとサラの事が心配で、サラを拉致した後話を聞いていたのだ。

 サラは別に怒っているのではなく、アキを深く理解するためにアキを観察しているだけなのだという。

 結衣はサラがそれだけアキの事を思っているのだと思い、結衣の知り得るアキ情報を話してあげた。

 その時のサラの様子は嬉しそうであり、楽しそうに笑っていた。アキの話しとなると大抵恥ずかしいエピソードになるからだ。しかし、時折サラの瞳に闇が宿ることがある。アキが他の女子に告白した話の時だ。明らかに眼光が鋭くなっていた。結衣が引くほどにだ。そんなものを見てしまったものだから、冗談でも自分に言い寄ってきたことなど話せるはずもなく、その件に関しては公開しなかった。

 そして、サラのアキへの想いなどを聞いていくうちに結衣は気付いてしまった。サラのアキへの愛は重すぎると。このままではアキのストーカーになってしまうのではないかと危惧していた。

 結衣は自分がサラを正しい道へ戻してやらなければならないと使命感に目覚めていた。それがアキへの恩返しになると思ったからだ。

 しかし……現状行っている観察はすでにストーカーのそれであった。

 アキが麻土香やカレンに視線を向けるとサラの瞳に闇が宿るのを見てしまった。あの二人がアキに想いを寄せていることをサラは感じていたのかもしれない。

(恐るべし女の勘)

 結衣は自分も女だということは棚に上げそんな呑気なことを考えていた。

 そして我に返ると、サラを正そうと話し掛ける。

「サラさん、こんなとこでコソコソ見てないでアキと話せばいいんじゃないかな? なんか寂しそうだよ?」

「いえ、ダメです。わたしに気を遣って話してくれないこともあるかもしれません。まずは観察からです。情報を集めて外堀を埋めてから攻め込みます」

(え? なに? アキの逃げ道を先に塞ごうとしてる? これは……マズイ)

「大丈夫ですよ、アキならサラさんに隠し事なんてしませんって、サラさんが上目遣いでお願いすればイチコロですって」

 サラの美貌をもってすればそのくらいたやすいだろう。しかしサラはどういうわけかそこには自信を持っていないようだった。

「いえ、アキはああ見えて意思の強い所がありますから、そんな程度では揺るがないと思います」

(う、確かに、妙なところで譲らないのよね、あのバカ。あたしが総司と喧嘩して泣いてると必ず来て総司に謝らせてたっけ。ホントはあたしが悪かったのに、どんな理由があったとしても女の子は泣かすなって譲らなかった……自分はよくサラさん泣かせてるくせに、ホントバカ)

 結衣は一瞬頬が緩んでしまった。

「っ!? な、なんですか? サラさん目が怖いですよ……」

「え? そうですか? ごめんなさい」

 サラは謝ると再びアキの観察へと戻る。

(今一瞬サラさんがあたしをロックオンしてた。あたしが少しアキの事考えてただけなのに……女の勘こわぁ~)

 結衣がサラの勘の鋭さに驚愕していると、サラの表情が驚きの色を見せ、そして瞳に闇が宿り嫉妬の炎が燃えはじめたことに気が付いた。

 結衣はアキに何か動きがあったのかと視線を向けた。

 結局結衣も一緒になって観察を続けてしまっていた。

 

 ただ食べているだけのアキはすぐに腹の具合もいい感じになっていた。

 腹が満たされると、放置していたものが気になるようになってくる。

(やっぱりスゲェ見られてるな、誰だ?)

 視線は一か所ではなく複数から感じていた。きっとサラファンクラブの者たちだろうと、アキは放っておいた。

 すると不意に声を掛けられた。

「少し、お話よろしいですか?」

(こんな隅でいじけて飯食ってるようなヤツに話しかけてくる酔狂なヤツは一体誰だ?)

 アキは興味をそそられ声の主へと振り返った。実際には退屈だったうえに声が女性のものだったから振り返ったのだ。

「……」

 アキは周囲の視線が一際集まているのに気付いた。その中には突き刺さるようなものも含まれていた。

 声を掛けてきたのはローザだった。もちろん侍女を引き連れてきていた。一人でアキのもとに来るはずがなかった。

(なるほど、だから視線が集まっていたのか)

「どうしました? お姫様が俺のようなものにどのような御用でしょう?」

 アキは一人納得すると、失礼のないように丁寧に対応した。しかし、ローザの後ろの侍女たちは顔を顰め睨むようにアキを見ていた。

(なんかめっちゃ睨んでる。なんかミスったかな? ていうか、あれ普通に侍女じゃないだろ。護衛の兵だろ、姫さんの護衛だから女性士官から選ばれたのかもな)

「空雄様にお礼を申し上げたくて参りましたの。助けていただきありがとうございました」

 ローザは護衛に侍女とは違い笑顔を絶やさず頭を下げ礼を言った。

 護衛の侍女たちは驚愕の表情になりアキを睨みつける。

(なんで俺が睨まれにゃならん)

「頭を上げてください」

 アキは手が出そうになるも、護衛の侍女たちの監視の目が鋭くなったため手を引っ込めた。

「姫様を守るのは当然の事ですので」

 封印や瘴気を抑えるためには姫の力がどうしても必要なのだ。アキとしては、それにプラスして「女の子だから」という理由もつけ加えられていた。

「わたくしの力が空雄様たちには必要ですものね」

 ローザは少し寂し気に顔を伏せる。当然、護衛の侍女たちの目が光る。

「それだけではないですよ、女性をまもるのは男の務めですから」

 アキは当たり障りのない事を言った。下手なことは言わない方が得策だと判断したのだ。

「そ、そうですか……」

 ローザは期待していた言葉を聞けず、少し気を落したようだ。当然、護衛の侍女たちの目が光る。

(俺にどうしろっていうんだ!?)

 アキが困り果てているとローザが口を開いた。

「空雄様はわたくしが姫ではなくても助けてくださいましたか?」

 アキは質問の意図がわからなかったが素直に答えることにした。

「自分の力で守れるものでしたらできる限り守りますよ」

 アキは自分の力を過少評価している。すべてを守れるなどとは思っていない。すべてを守るなど口が裂けても言うつもりはなかった。アキに守れるものなど、少ししかないのだから。

「空雄殿のお力で本当に人が守れるのですかな?」

 ローザとは違うおっさんの声が耳に届いた。

 アキはこの失礼な声の主をチラリと見る。

 やはりおっさんだった。兵士のおっさんだった。


結衣がんばれ! 引き込まれるな!

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