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プレゼント(お土産)

 翌朝、俺はまた森に入っている。

 昨日見つけた川を目指している。あそこ風が気持ちいいんだもん。

 当然たどり着くまでは魔物相手に修行するけどね。

 忍者を目指す俺としては、(いや、目指してはいないけれど)反射速度をもっと上げたい。投擲の練習もしたいし使いどころも考えないといけない。

 そうそう、当然ながら苦無はなかったんだけれどね、ナイフも余分にはないみたいで、結局石で練習するしかないんだけれど。ナイフ投げの練習はしたかったんだけどなぁ。街かどっかで手に入れてからのお楽しみということにしておこう。魔物からドロップとかしないかな?

 とにかく先に述べた練習をしながら川を目指そう……



 お昼頃、サラはキャラバン隊と別れ森へ入っていく。

 もうすぐマーサとアキの待つ小屋に着く。約3日くらいしか離れてなかったのにずいぶん久しぶりな気がする。

 サラは不意に不安がよぎる。

 ちゃんと食事取っていたかしら?おばあちゃんの味付けは独特なのよね、アキさんも料理できるかわからないし……餓死とかしてないわよね? さすがに3日で餓死はないわよね。……大丈夫よね?

 サラの歩調が気持ち早くなった。


「ただいまぁ」

 サラが声を掛け小屋の中に入ると、奥からマーサが出てくる。

「うむ、おかえり早かったじゃないか」

「面倒事もなかったから」 

 サラは無意識にキョロキョロまわりを見る……

「アキさんは?」

「ん? 外におらんかったか? 昼食まで外で修行しとるはずじゃが……それにしては戻るのが遅いのう」

 マーサは窓から外を見ながら言う。

「え? 外にはいなかったよ」

「もしや森に入っ」

「!?」

 サラはマーサの話を聞き終える前に小屋から飛び出した。

「おい、サラ!」

(一人で森に入るなんて! アキさん一人じゃ……)

 サラは焦る気持ちを抑えきれず森の中を走る。

「アキさーーーーーーん! 返事をしてくださーーい!」

 声を張り上げるが返事はない。不安がますます膨らむ。

 森の中を走る走る……腕や脚を枝葉ですり切れても走る。

(アキさんにもしものことがあったら……)

 そう考えるだけでサラは頭の中が真っ白になる。


ガサガサ……


 サラは繁みの中で何かが動く音に気付く。

「アキさん!」

 すぐさま呼びかけたが草陰から飛び出してきたのはアキではなく魔物だった。ゲル状の魔物に蜘蛛を大きくしたような魔物が数体。

「邪魔しないで!!」

 サラはナイフの柄に付いている魔石をかざす。

「風よ!」

 無数のかまいたちのような風の刃が魔物たちを一瞬で粉々に切り割いた。

 サラはそのまま突っ切って走る。

「アキさん、アキさん……」

 サラは不安で胸が押し潰されそうだった。

「!?」

 奥へ進むと魔物の死骸がちらほらと転がっている。死骸の跡をたどっていくと川のせせらぎが耳に入ってくる。死骸は川の方に続いているようだった。

 森が開けると川があり、川辺の草の茂っているところに人が倒れているのが目に入る。

 サラは最悪の事態が頭をよぎり、足が止まる。

 ガクガクと足が震え、呼吸が乱れ、涙が頬を伝う。

「あ、アキ……さん?」


 サラは涙を拭いながらよく見ると、その人物のまわりには白い半透明なオーブが飛んでいた。まるで守っているかのように……

 サラはこの光景に見覚えがあった。

 あの時、はじめてアキを見つけたとき、今のようにオーブが魔物から守るよう飛び回っていたことを……

「アキさん!?」

 サラはアキの名を呼び駆け寄る。

「クーーー、クーーー」

「……寝てる?」

 サラは腰が砕けるようにペタンとアキの側に座り込んだ。

「心配させないでよ……バカ」

 サラは無事を確認し安堵で胸をなでおろした。

 そのころにはオーブは見えなくなっていた。

 オーブ、霊だったり、魂だったり言われたりするけれど、この世界では精霊だと言われている。

 精霊・・・四大元素である、火、水、風、土の属性に別れ、それぞれコミュニティを形成し役目を担っている。そして、その長である王が支配し守護している、と言われている。人間を警戒して接触を避けているようで詳しくはわかっていないのである。

(その精霊が人の側にいるなんて……)

 サラはアキの前髪を掻き分けそっとのぞき込む。

「アキさん、不思議な人……」




 夢を見ていた……


 暗く暗く怖い夢


 闇の中を走っている


 誰かを探している?


 誰を?


 見つからない


 それでも走り続ける……


 ユイが泣いている……ソーシは何してるんだ


 ソーシも泣いている……


 ソーシが……壊れそうだ


 助けないと……


 俺が……


 手を伸ばす……


 …………


 優しい暖かなぬくもりを感じる……


 まわりが明るくなってくる……


 ……



 ……ん? 額になにかぬくもりを感じる。

 俺は目を開けると……そこには女神がいた。

「俺……死んだのか?」

「死んでません!」

 サラさんだった。あれ? 顔赤いけどどうしたんだろ?

 俺は大口を開けてあくびをしあいさつをする。

「ふあぁ~~、おはようございます」

「おはようございます、こんなところで寝てるとあぶないですよ」

 サラさんは困った顔で言う。

「すいません、つい気持ちよかったから」

「仕方のない人ですね」

 俺は起き上がって伸びをする。

「ん~~~よく寝た……あ!? サラさんケガしてる!」

 サラさんの腕や脚に擦り傷があった。久々の再開でいきなりサラさんの体を総チェックする俺って……傷を発見できたからプラマイゼロ?

「あぁ、急いでいたので枝で擦りむいただけですよ」

 サラさんは傷を隠そうとする。

「ダメだよ! 女の子なんだから、傷は早く治さなきゃ。痕残っちゃうよ」

 俺は隠そうとする手をどけて、左手をかざす……

「あっ」

 淡い光に包まれて傷は少しづつ癒えていく。

「ありがとうございます。アキさんもう魔法使えるんですね」

 関心したように言うサラさんに、なんだか嘘をついたような罪悪感が……

「はい、って言いたいのは山々なんだけど、実は……」

 俺はそっと左手の指輪を見せる。

「あ、マジックアイテムですか」

「あはは、残念ながら俺魔法使えないみたいなんですよ」

「えっ!?」

 サラさんはかなり驚いているようだ。ホントに珍しいんだな魔法使えないのって……

「ばあちゃんも驚いてたよ。まぁ、使えないものは仕方ないよねぇ」

「そうですか……でも大丈夫です! アキさんはわたしが守りますから!」

 サラさんは胸の前で両手を握りしめて宣言した。

 サラさんのこういう仕草ホントカワイイな。

「ハハッ、ありがとうございます」

「はい!」

 サラさんは自信に満ちた笑顔で返事をした。

 あ!? そーだ、忘れるところだった。


「サラさん、おかえりなさい」


 俺はサラさんの方に向き直って笑顔で言った。

「あ……」

 サラさんは何やら驚いて固まっている。

「あ、はい、ただいまもどりました……フフッ」

 あれ? 今度は嬉しそうだ。なんでだろう? 俺は素直に聞いてみた。

「なんです?」

「いえ、異性の方におかえりなさいって言われるのは、なんだかくすぐったい感じがしますね」

 サラさんは照れくさそうに頬を染めて微笑んでいる。

「そうですか?」

「はい」


 ん~そう? ……思い出がよみがえる。

「ただいま~」

「おにいちゃん早くない?」

「別にいいだろ早くたって」

「え~~……まぁいいけど」

 冬華はしかめっ面全開で言う。

 ヒドイッ、なんで嫌そうなんだよ! 俺泣きそうだよ!

……よくわからんが、サラさんが嬉しそうだからいっか。



 俺が悲しい思い出に落ち込んでいると、緊張した面持ちでサラさんが呼びかけてきた。

「あの~アキさん?」

「はい?」

 サラさんはウエストポーチから何かを取り出す。

「はい、お土産です」

 手渡されたのは、小さな宝石が埋め込まれているネックレスだった。

「え、いいんですか? ありがとうございます!」

 俺女性からのプレゼントなんてはじめてだから超うれしいんだけど!(お土産だと言うことはこの際忘れよう)

 俺はわーわーっと我を忘れて本気で喜んでしまい、サラさんと目が合ったときは恥ずかしさで(うつむ)いてしまった。きっと顔がヤバイほど赤くなっていただろう。それほど顔が熱かったから……

「フフッ、喜んでもらえてよかったです」

 サラさんも嬉しそうだ。

「着けていいですか?」

「もちろん」

 俺は首の後ろに手を回して着けようとする……あれ? ネックレスって着けるのむずいな……ん~~~~~~~腕攣り(つり)そうだよ。

「フフッ、わたし着けましょうか?」

 見かねたサラさんが笑って言ってくれた。

「お願いします」

 俺がネックレスを手渡すと……サラさんはそのまま、ごく自然に俺の首の後ろに手を回してくる。

 甘い香りが鼻をくすぐる……いい匂い

「!?」

(てかサラさん顔近い!? 近い近い近い近い近い近い近い近い近い!)

 俺が硬直しているのにもお構いなくサラさんはネックレスを着けてくれる。

「はい、できました」

 サラさんが離れていく……名残惜しく体がついて行こうとするのをギリギリ押し止める。

 もう少しこうしていたかったけど、理性が吹っ飛んで抱きしめちゃいそうだったからある意味助かった。

 離れていくとき目が合ってしまった。俺が真っ赤になって硬直しているのを見て状況に気付いたのか、サラさんも真っ赤になって俯いてしまった。

「あ、ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」


 なんとか硬直が溶けると、サラさんの胸元に光るものに気付いた。ここで胸元を見る俺もどうかとは思うけどね。

「あれ? これサラさんのと同じ?」

 俺は自分のネックレスとを見比べて言うと、この言葉にサラさんがビクッと反応する。

「こ、これはその、で、出店で二つセットだと安くしてくれると言われて、それで買ったもので! け、決してペアとかでは……その……」

 ここまで狼狽えるとなんか逆に落ち着いてくるな。

「アハハッ、お得だもんね」

「なんで、笑うんですか!?」

 サラさんは頬を膨らませて抗議する。

「なんかカワイイなと思って」

「か、カワイイ!?」

「はい」

 サラさんはみるみるうちに顔がゆで上がり俯いていく。

「アキさん……年下のくせに生意気です」

「あはは、ごめんなさい」

 からかいすぎたかな? と心配になっていると、サラさんが控えめな声で言う。

「あの……同じものは、その……イヤ、ですか?」

 そんな上目遣いで言われると!? 破壊力が半端ない!! 俺はしどろもどろになりつつも答える。

「イ、イヤじゃないです」

「そうですか、えへへ」

 そんな笑顔されたら、俺勘違いしそうだよ~もうお腹いっぱいです。

「そ、そろそろ戻りましょうか。ばあちゃんも心配してるだろうし」

「そ、そうですね」

 俺たちは立ち上がり小屋へと戻る。


 小屋へ向かって歩き出すと、魔物の死骸が目についた。

「このへんの魔物ってアキさんが?」

「え、はい。半日かけちゃいましたよ。魔法使えないから大変でした」

「そうですか(わたしがしっかり守ってあげなくちゃ!)」

 ん? なんだろ? サラさんは決意に満ちた目を輝かせている。



 そう言えば、さっきなんか夢見てなかったっけ?

 結構重要そうな夢だったような……ん~~ダメだ内容忘れた。


こんな事ありえないよ

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