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侵食

 結衣を回復しながら汐音は横たわるサラを見て訊ねる。

「マリアさん、サラさんは元に戻ったんでしょうか?」

 マリアは総司を回復しながらサラをチラリと見て答える。

「わかりませんが……見た感じ無傷のようですし、アキさんがうまくやってくれたんじゃないでしょうか」

 汐音は瘴気を抑えているアキへと視線を向け呟く。

「うまくですか? ……あの傷では、うまくやったようには見えませんが」

「フフッ、そうですね。でもサラの顔には泣いた跡がありますから、サラを救うために受けたのでしょう。それだけサラを想ってくれているんですね」

 マリアはサラの頬を撫でる。

「そうですか? 五十嵐君なら傷を負わずにサラさんを無力化できそうですが……」

 汐音は不思議そうに首を傾げている。

「おそらくですが、サラを正気に戻すために傷を負ったのでしょう。サラにとって最も強烈な記憶といえばアキさんが亡くなった時でしょうから……それを再現させたのではないでしょうか」

 あくまでもマリアの推測でしかないが、サラに掛けられた暗示を解くだけの強い衝撃と言えば、それくらいしか思い浮かばなかった。

 マリアは辛そうな表情をする。

 サラを正気に戻すため、敢えて傷を負ったアキに申し訳なく思っていた。そして、それを行えば、サラの辛い記憶を呼び覚ますことになる。大切に想っているサラを苦しめなければならなかったアキの気持ちを思うと辛くなったのだ。

「アキさんには辛い役目を押し付けてしまいましたね」

 マリアはアキの横顔を見る。

 するとアキの様子に変化が現れた。

「くっ!?」

 アキの表情が苦悶に歪む。

「アキさん! 大丈夫ですか?」

 マリアは心配そうに声を掛ける。

 アキは余裕がないのかマリアへ返事を返すことなく汐音へと視線を向ける。

「汐音! 結衣の回復はまだ終わらないのか!」

 アキの剣幕に汐音はアキが切迫しているのだと気付き、短く答える。

「もう少しで終わります」

 フレイアとの戦いの後ということもあり汐音の魔力もあまり残っていない。結衣の命をつなごうとはじめに多くの魔力を注いだため、魔力が減り回復速度が下がって来ていた。

 アキの様子からあまり思わしくない事態になってきているのだと汐音は察し、魔力をひねり出して回復に魔力を注ぐ。

「くっ……そうか」

 アキは苦しそうに目の前の黒い半球体を睨みつける。

 マリアは苦しそうなアキを見つめ、あることに気付いた。

 アキがどうやって瘴気を抑えているのかはわからないが、覆っているモノとアキとが繋がっていることがわかった。黒い半球体からアキへと何かを伝って行くように瘴気がアキに流れ込んでいるのが見て取れた。

「アキさん!? 瘴気に侵食されているんですか?」

 マリアの言葉にアキはピクリと反応する。

「だ、大丈夫ですよ。すこ~しだけですから……」

 アキは努めて笑顔を見せているが、その引き攣る笑顔では無理が見え見えだった。

「そんな!? どうすれば……」

 マリアは焦るように頭を巡らす。

「ホントに大丈夫です。姫さんが来るまでの辛抱ですから……それに、結衣が回復したら変わってもらいますから……」

 アキは苦しそうにそう告げた。

 汐音は自分がのんびり回復していた為アキが苦しんでいるのだと自分を責める。

「ごめんなさい。私がもっと早く回復できていれば……」

「そんな事ねぇよ。汐音はよくやってると思うぞ……光輝のヤツを支えてくれてるしな」

 アキは瘴気の侵食に苦しみながらも汐音を気遣う。

「私にはそれくらいしかできませんから……」

 自分の無力さをよく理解していた汐音は辛そうに表情を曇らせる。

「そんなことない。力のあるなしに関係なく、人には誰しも必ず役目がある。汐音が今ここにいる理由も必ずある! それはきっと光輝の力となるはずだ」

 アキは努めてイケメン風に言ったが、侵食のせいか顔は引き攣っていた。

 汐音は昨日同じことを言っていた者を思い出した。

「今の言葉……ライアーの」

「っ!?……うあっ!?」

 雑談に興じているとアキが急に苦しみ出した。

「五十嵐君!?」

「アキさん!?」

 二人の焦ったような声に気付きカレンもアキへと視線を向ける。

 汐音たちよりも近くにいるカレンにはよく見えていた。

 瘴気がすごい速度でアキへと向かい侵食しているのを。

「アキ!」

 カレンはカルマの回復を終えアキへと手を伸ばす。

バチンッ

「きゃっ!?」

 瘴気がカレンの手を拒み、弾き返した。

 カレンは手を押さえアキを見る。

 さっきまでは見えなかったが、アキのまわりを覆うように瘴気が漂っていた。

「アキ!?」

 カレンは悲痛な声を上げる。

「カレンちゃん! 結衣さんの回復を手伝って!」

 汐音はカレンと二人掛かりですぐにでも回復を済ませようとする。

 カレンは急ぎ結衣の下へ行き、回復魔法を掛ける。

 アキはさらに苦しみ出す。

(こんな世界など、人間など滅んでしまえばいい)

 アキの中に声が聞こえてくる。

「ぐあぁぁっ!? くっ、入って来るな! 俺の中に、入って来るなぁぁぁぁぁっ!?」

 黒い半球体は形を維持できなくなり、破裂するように瘴気は飛び出した。

 瘴気はまわりへ拡散するのではなく、アキを目指して流れていく。

 アキの中へ次々と瘴気が流れ込んでいく。

(どうしてみんな僕をいじめるの?)

(殺してヤル! 人間など死んでしまえ!)

(必ず抑え込んでみせる!)

(来るな! 来るなバケモノ!)

(キミ大きいね。僕と一つになろうよ)

(今だぁぁぁぁぁっ)

(必ず助けるから)

(ただ知りたいだけなのに……)

(来ないで、来ないで、イヤァァァァァァっ!)

「うあぁぁぁぁぁっ!? 黙れ! 聞きたくない! やめろ! やめてくれ! あぁぁぁぁぁっ!?」

 アキは頭を抱え地面を転がり苦しみもだえる。

「アキ!?」

「五十嵐君!?」

「アキさん!?」

 三人の悲痛な声が響く。

「……う、ん……ア、キ?」

 アキの耳に一瞬サラの声が聞こえた気がした。

 そして、アキは意識を失った。




 ……


 ……闇


(ここは、どこだ?)


(あれ? 目線が高い気がする……何だこれ?)


 ……遠くから大勢の足音が迫ってくる

「いたぞ!」

 鎧武者のような格好の男が声を上げる

「「おぉぉぉぉぉっ!」」

 男の声に呼応するかのように大勢の鎧武者たちは声を上げ、刀を振り上げて迫ってくる

(うわぁぁぁぁっ!?)

『(どうして、どうしてまた僕を殺そうと……)』

(なんだ? 誰が喋ってる?)

 鎧武者たちが一斉に斬りかかる

『(くっ!? どうして、どうしてだ……)』

ザシュザシュザシュッ

『(……わからないわからないわからない、どうしてだぁぁぁぁぁっ!?)』

 鎧武者たちは引き裂かれ押し潰され殺されていく

(うっなんてことを……)

 突如四つの光が辺りを包む

『(なんだ? ……これは!? クソッ! クソッ! クソォォォォォッ!?)』



 ……


 ……闇


(次はなんだ?)


 ……森の中、目の前に一人の黒髪の女と三人の男

「すまない、すまない」

 男の一人が悔し気な表情で女に謝罪する

(誰かに似てる気がする……)

「私が決めたことだから……あの子のことお願いね」

 女は悲しげな微笑みを浮かべる

「……ああ」

 男は消え入りそうな声で頷く

「必ず抑え込んでみせる! はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 女は両手を広げ迫ってくる

『(なんだ? 何をする気だ? やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉっ!)』

(あれ? この女の人……)



 ……


 ……闇


(またか……)


 ……村の(はずれ)、目の前に村人らしき女が腰を抜かして後ずさっている

「来ないで、来ないで、イヤァァァァァァっ!」

(え? 今取り込んだ、のか?)

『(どうしてみんなこんなに恐がるんだろう? あ、そうか見た目か)』

(え!? 今の女の人に姿を変えた?)

 目の前に他の村人が通りかかる

『僕と一つになろうよ』

 村人男はニヤリと笑う

「いいぜ、一つになろう」

『(あ、やっぱり見た目なんだ)』

(なんか嬉しそうだな。でもたぶん違うと思うぞ……)

 村人男に納屋に連れ込まれ押し倒される

「さあ、一つになろうぜ、ハァハァ」

 村人男は鼻息を荒くし着物を脱ぎはじめ、着物を剥ぎ取っていく

『うん、一つになろう』

 村人男の表情は青ざめ豹変する 

「う、うわぁっ!? 来るな! 来るなバケモノ! うわぁぁぁぁっ!?」

(また取り込んだ?)

『(また怖がっちゃった。なんでだろ?)』

 納屋の外が騒々しくなっていた

「ここです! 女に化けたバケモノが男を連れ込んだのは」

(それ逆じゃねぇか? 男の方だろ連れ込んだの)

 納屋が開け放たれる

「見つけたぞ! バケモノめ!」

 戦士風の男が憎しみを籠め言い放った

『(またこの人たちだ、なんでいつも怒ってるんだろ?)』

「ここは我々にお任せください」

 術士風の者たちが前に出て何かを唱えはじめる

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 辺りは光に包まれる

『(うわぁぁぁぁっ!? どうして? どうしてみんな僕をいじめるの?)』 

(……悲しんでいる、のか?)

『(ただ知りたいだけなのに……)』



 ……


 ……闇


(まだ続くのか……)


 ……洞窟の中、目の前に四人、いや五人の男女がいる

(この洞窟見覚えがあるような……)

『殺してヤル、人間など死んでしまえ!』

「くっ、私には倒すことができないのか……」

 中心の女が忌々し気に言い放つ

「やむを得まい、今一度封じる!」

 男の一人が言い放つと四人は四方に散り術を詠唱しはじめる

 女は一人時間を稼ぐために斬りかかってくる

「おぉぉぉぉぉっ!」

『人間が! 人間風情がぁぁぁぁっ!』

「今だぁぁぁぁぁっ!」

 四人が術を発動すると辺りを四つの光が包みこむ

『ぐわぁぁぁぁぁぁっ!? 俺は必ず甦る、その時こそはぁぁぁっ』



 ……


 ……闇


(映画の予告編見てる気分になってきた)


ドッズゥゥゥゥン


(うおっ!? なんかスゲェ衝撃がきた)

(うっ、眩しい……)

『(わぁっ、綺麗なところ……)』

(感激してるっぽいな……ていうか、なんか体の感覚がおかしい。実体がないような……!?)


ズシンッズシンッズシンッ


 大きな足音が近づいてくる

(っ!? マジか!? テ、ティラノサウルス!?)

『わぁっ、キミ大きいね。僕と一つになろうよ』

 ティラノサウルスは首をクイッと傾げる

(えっ!?)

『え?』

 食われてしまった



 ……


 ……闇


(次は何かな~)


(……また洞窟?)


 ……洞窟の奥の広い空間、黒い半透明の結晶の前にローブを纏った男が立っている

(ここって……)

 フードの男は結晶の中を覗き込み悲しげな表情をする

「もうすぐだ、もうすぐお前を……」

 男は表情を怒りへと変える

「お前を犠牲にしないと守れないような世界……こんな世界など、人間など滅んでしまえばいい。奴らに邪魔はさせない!」

 男が結晶に触れると瘴気を取り込んでいく

「お前だけは必ず助けるから」

 男は優し気な表情を見せた。

(こいつは……誰だ?)



 ……


 ……闇


 ……けて 


 ……闇の中から声が聞こえてくる

(え? なんだって?)

「助けて……」

 助けを求めているようだ

 しかし、誰が?

「あの人を助けて……」

(あの人?)

「あの子を助けて……」

(あの子??)

「あんた誰だ? 誰の事を言ってる?」

「お願い、助けて……」

「おい! 聞こえてんのか!?」

「……」

「……」

 声が聞こえなくなると闇が濃くなっていく


『キミも僕と一つになろうよ……空雄』


(っ!?)

(……これはアルスの?)

『深淵を覗く者は、深淵からも覗かれているんだよ』

「いや、俺は別に覗きたくなんかなかったんだけど……むしろ無理やり見させられたんだけど! おい! 聞いてんのかよ!」

 アキの愚痴は届かず、アキは闇へと呑み込まれていく……


書いてみてわかる。これが生みの苦しみか……

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