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アキと麻土香

(……柔らかい感触がする。あ~癒されるわ~)

「……あれ?」

 アキは体を包み込むような柔らかく温かな感触に気付き目を開いた。

「……これは一体……何があった!」

 アキはサラに抱きしめられていた。そして無意識にサラの胸を揉んでいた。安らぐはずだ。

 アキは再びその感触を確かめる。

「……ん、あ……」

 サラは何かエッチな声を漏らしはじめた。

「ハッ!? いかんいかん、つい夢中になってしまった」

 アキは名残惜しそうに手を放す。

「で、何がどうなったんだっけ?」

 アキは記憶を遡る。サラのぬくもりを感じながら。

 確かサラと戦ってて、サラを言葉責めにしたんだった。それから……うん刺された。そこまではまあ、予定通りだったわけだけど……まさか追い打ちをかけて魔法をぶっ放してくるとは思わなかったなぁ。危うく死にかけたし。そんなに憎かったのかな? ちょっと凹む、イヤかなり凹む。ハァ……で、マジでヤバくて自己治癒力を高めるのに意識を集中してたから動けなくて、こうなったわけか……ふむ。

「いやいや、そうだとして、サラさんが俺を抱きしめてる意味がわからん!」

 アキは意識を集中する直前の事を思い出す。

 えっと……あれ? サラさん正気に戻った? サラさん泣いてた気がする。で、サラさんは気を失ったのか。精神に負荷がかかり過ぎたのかもな。いじめ過ぎたか? でもこれ大丈夫か? ちゃんと目覚める、よね?

 アキは不安を振り払うかのように頭を振る。

「よし、とりあえず今の状況は整理できた。総司たちと合流するか」

 アキはサラを抱きしめたまま立ち上がる。

「ぐふっ!?」

 アキはサラのぬくもりとお胸様の柔らかさのおかげで気付かなかったが、傷はまだ治っていなかった。かろうじて動ける程度には回復していたが、動くたびに激痛が走る。

「い、痛いんですけど……どうしよ? またお胸様のお力をお借りようか」

 アキは手をニギニギさせる。

「いやいや、気を失ってるサラさんにそんなことはできん! 断じてできん!」

 さっきバッチリしていたのはこの男だった。

「とりあえず、移動しながら回復するか」

 アキは気合を入れて立ち上がろうとする。

 するとサラの手がアキからスルリとはずれ、倒れてしまう。

「おっと!」

 アキはサラの腰に手を回し受けとめる。サラの顔が天を仰ぎ、そしてお胸様が強調される。

 アキは見入ってしまった。

 そして気付く。サラの胸にあのネックレスが輝いているのを。

「……つけてたんだ」

 アキはサラの顔を見る。

 サラの頬には涙が伝っていた。

 アキはその涙を拭う。

「また泣かせちゃたな……ゴメン、サラ」

 アキはサラを抱きしめた。

「痛ぁっ!?」

 力が入り過ぎ傷に障った。

「うぅぅぅぅぅ……」

 名残惜しいがアキは我慢した。

 再び立ち上がろうとした時、アキを凝視する視線を感じた。

「!?」

 アキは横を向く。

 しゃがみ込み頬に手をあて、アキの事をじーっと見ている黒髪の女がいた。

「……」

「……」

 二人は視線を合わせたまま硬直する。黒髪の女はジトッとした視線を向けていた。

「だ、だれ?」

 アキは訊ねた。

「まさか気を失ってる女性に痴漢行為をするような男だったとはねぇ」

 黒髪の女は呆れたように言い放った。

「ちょっと待て! 俺はそんなことはしていない!」

 胸は揉んでいたけれど。

「ふ~ん、胸をじーっと見てたみたいだけど?」

 揉んでいたところは見られていなかった。アキはここぞとばかりに言い募る。

「これは見ちゃうだろ! こんな立派なモノ健全な男なら見てもおかしくはない! そこで手を出さなかったことを評価してほしい!」

 とっくに出していたことは決して口には出せないが。

「いやいやいや、そんな力説しても抱きしめちゃダメだよ~」

「なに言ってる! 外国人は挨拶のようにハグしてるだろう!」

 アキは苦しい言い訳をする。

「ん~確かにそうだけど……まあ、すぐに離れてたから今回だけは見逃してあげるよ」

「お、おう、ありがとう」

 痛みの為離したのが幸いしたようだ。アキは密かに腹の傷に感謝し、なぜか礼を言った。

 そして、さっさと話題を逸らすことにする。

「いや、そうじゃなくて、おたくどちらさん?」

 目の前の黒髪の女に訊ねると、アキは立ち上がりサラに肩を貸し体を支え歩き出す。時間を短縮するため歩きながら話すことにした。

 黒髪の女は驚いたような、ショックを受けたような表情をする。

「え!? ウソ! 覚えてないの? ほら? ね?」

 黒髪の女はアキの前に回り込むと自分の顔を指差し見せつける。

「ん?」

 アキは目を細め、黒髪の女の顔をまじまじと見る。

「あれ?」

 黒髪の女はアキの左右の目の色が違うことに気付き目を細めまじまじと見る。

「なんで左右の目の色が違うの?」

「あ~カラコン。一個落とした」

「へ~綺麗な色だね……なんでカラコンつけてるの?」

「ん~変装用」

「へ~」


じ——————っ


 二人は見つめ合ったまま硬直する。

 アキは目の前の顔と記憶の中の顔を照合していく。

 黒髪ってとこでかなりしぼられるな。俺たちと同じように召喚されたんだろう。後は女だな、うん。で、長髪を束ねてる。意外と美人さんだ。ここまでだと汐音なんだけど、メガネは掛けてないし……

 黒髪の女は何かに気付きハッとなると、顔を赤くし視線を逸らす。

 考えることに集中しすぎて、二人の顔はかなり近づいていた。

「ん~わからん、誰だっけ?」

 結局答えは出なかった。

「な、なんでわからないのよ! 麻土香よ! ま、ど、か! モルガナに操られてた黒い女よ!」

 麻土香は顔を真っ赤にして声を上げる。聞きようによっては腹黒女のように聞こえてしまう言い方だった。

「あ~黒髪の女こと麻土香ね。うんうん、冬華から聞いてるよ~。髪束ねてるし、服も違うし、印象変わったから気付かなかったよ。うん、こっちの麻土香もなかなかいい感じだぞ。ハハハッ、元気そうでよかったよ」

 アキは嬉しそうに笑い声を上げる。忘れていたことを誤魔化すように。

「そ、そうかな? ありがと……じゃなくて、あの時は助けてくれてありがとう」

 麻土香は褒められたことを照れたように礼を言い、言いそびれていた礼も言った。

「ああ、俺は何もしてないし、実際に助けたシルフィに言ってあげてよ、ってもう言ってるか?」

「うん。でもアキ君が助けようとしてくれたからシルフィさんも動いてくれたんでしょ? だったらアキ君にもお礼言わなきゃ」

「そう? じゃあ素直に受けとっとくよ」

「うん、そうして」

 麻土香は嬉しそうに微笑む。二度と会えないと思っていたアキと会えて、普通に話すことができて嬉しかったのだ。

「で、その麻土香がなんでここにいんの?」

 アキは小首を傾げ訊ねる。

「なんでって、冬華ちゃんに合流しようって言われたから来たんだけど。ていうか呼び捨てなんだ……」

 理由はそれだけではない。麻土香は冬華からアキの生存を聞いていた。「お兄ちゃんに会えるよ~」という冬華がちらつかせたエサにつられ、麻土香はノコノコやって来ていたのだ。

 冬華は今だくすぶっている麻土香の恋心をうまく利用し、麻土香は冬華の思惑にまんまと乗せられた。

 麻土香の頬は少しほころんでいる。

 光輝にキミ呼ばわりされたときはイヤだったが、アキに呼び捨てにされても悪い気はしなかった。

 アキはまわりを見て不思議に思い訊ねた。

「ふ~ん、なんで麻土香一人なんだ? 冬華は?」

 アキは普通に呼び捨てのままだった。麻土香の言葉はアキには聞こえていなかったようだ。

「え? ああ、みんな石碑のとこでゴチャゴチャしてたから私一人でアキ君の様子見にきたの。光輝君はさぁ、意外とまわりに流されるから決断遅いよね」

 麻土香はいきなり光輝のダメ出しをした。

 アキは肩を竦め、光輝のフォローをする。

「まあ、光輝は良くも悪くも真面目だからな、用心深くなってみんなの意見を聞いちゃうんだよ」

 悪いことではないが、時と場合による。アキは一つ溜息を漏らした。

「ていうか(くん)付けやめてくんない。なんか慣れないんだよ。呼ぶならアキでいいから。それが嫌なら空雄君にしてくれ」

 アキは祥子に呼ばれて慣れていた呼び名を候補に出した。

「あ、そう?……じゃあ、アキで」

 麻土香は照れくさそうに名を呼んだ。

「おう! で、風音(かざね)も来てんのか?」

「うん、今は避難所にいるよ」

「ふ~ん、来てんのかぁ……」

 アキは何か考え込んでいた。

 麻土香はアキの隣を歩き覗き込む。

「……綺麗な人だね」

 麻土香はサラを見て呟いた。

「ん? そうだな」

「……好きなの? この人のこと」

 麻土香は数歩先の地面を一点に見つめて訊ねる。

「ん? 好きだよ」

 アキはサラを見つめて告げた。

「ふ~ん、そっか……」

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「え!? べ、別に~こんな綺麗な人高嶺の花なんじゃないかなって。普通に無理でしょ、振り向いてくれないよ~」

 麻土香は自分がなんでこんなことを言っているのかわからなかった。

「な、失礼だな! こう見えても相思相愛……のはず、なんだけど、どうだろ?」

 アキは自信なさげな顔になる。

「わ、私に聞かないでよ」

 麻土香は困ったように言う。

「え~相談に乗ってくれてもいいだろう? 年上なんだし、彼氏の一人や二人いるだろ?」

「二人いちゃダメでしょ! アキ、二股とかしてないでしょうね?」

 彼氏などいたことのない麻土香は矛先をアキへと向け話を逸らした。

「す、するわけねぇだろ! そんなのあるわけねぇっての、俺なんかモテねぇのに……」

 アキは不貞腐れたようにブツブツ言う。

「そうなの? フフッ(カッコイイと思うけどなぁ……)」

 アキの慌てぶりに麻土香はなんだか楽しくなってきて笑いが漏れる。 

「そうだよ! 悪かったな、ふんっ」

 アキは麻土香の最後の言葉が聞こえなかった為、普通にバカにされたと思い、そっぽを向いてスタスタ歩いて行く。

「あ、待ってよ~」

 二人は話ながら石碑のある広間へ向かった。



 そして異変が起こる。

「っ!? なんだ? 嫌な気配がする! 石碑の方から……まさか!?」

 アキは嫌な予感が一気に膨らみ険しい表情になる。

「ん? どうしたの?」

 麻土香は不思議そうにアキの顔をのぞき込む。

 そして、


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 揺れと共に地響きが鳴り響く。

「え!? な、なに?」

 麻土香はアキのローブを掴み戸惑いを見せる。

「クソッ!? 麻土香!」

 アキは悪態を吐くと麻土香を呼ぶ。

「はい!」

 アキの真剣な気配に気づき緊張が走る。

「麻土香に頼みがある」

 麻土香はアキに真剣な眼差しを向けられドキリとする。

「はい」

 麻土香はアキの顔に見惚れていた。

 麻土香はアキのこの真剣な表情に惹かれていた。

 あの時、言葉を掛けてくれたアキの表情が頭から離れないのだ。

 麻土香は首元を押さえアキの頼みを黙って聞き頷く。

 アキはサラを運びやすいように担ぎ直し、広間へ向け駆け出す。

 麻土香は駆け出して行くアキの背中を惚けたように見送っていた。

「……はっ!? 言われたことちゃんとしなきゃ嫌われちゃう!」

 麻土香は、いつの間にかアキに嫌われないことを前提に考えるようになっていた。

 麻土香は頭を振り、余計な雑念をはらうと目的地へ向け駆け出して行った。


感想があると励みになるのですが……感想ほしいなぁ。


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