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石碑防衛

「アキ! アキ! どこにおるんじゃ!?」

「アキさん! どこですか!?」

 マーサと、マリアはアキを探し瓦礫の中へ呼び掛ける。

 ロマリオとローザは避難はせず側で体を休めている。まだ何が起こるかわからない。危険を避ける意味でも固まっていた方が得策だと判断したのだ。

 二人も心配そうに瓦礫を見つめていた。

「父上、空雄様は大丈夫でしょうか?」

 ローザはロマリオに庇われながら見てしまっていた。アキがあのシンの爆発に巻き込まれ酷い怪我を負い吹き飛ばされた瞬間を。

 ローザはその光景を思い出し顔を顰める。

 ロマリオは安心させるようにローザの肩に手を添える。

「わからないが、今は無事を祈るしかあるまい」

 ローザはぎこちない微笑みを見せ頷いた。


ガラゴロン


 マリアが瓦礫をどけていると何かが転がり落ちる音がした。

 その音の方へ行ってみると、瓦礫の間からフラフラと手が揺れているを見つけた。

「アキさん!」

「……ここにいま~す」

 掠れるような声が聞こえる。

 マリアは駆け寄り瓦礫をどかしていく。

 マーサは駆けつけると、瓦礫がどかされていくのを見守っていた。

 瓦礫がどかされるとアキが横たわっていた。

「うっ!?」

 マリアは口を押さえ顔を顰める。

 マーサは険しい表情をしアキへと近づく。

 アキは引き攣る笑顔で手を振っている。

「うぃ~っす、ばあちゃん……悪いんだけど、回復してくんね?」

 アキはかすれた声でお願いする。

 アキの状態は、体から滲み出た血でローブを赤く染め、片腕は瓦礫の下敷きとなりつぶれている。言葉を発するたびに辛そうな表情になる。見るからに重体だった。

 瓦礫が頭やダメージを負った体に落下していたら危なかったかもしれない。

 アキの状態を見てマーサは神の加護に感謝した。

「待っとれ、すぐに回復してやるわい」

 マーサは手をかざすと回復魔法を掛けていく。

「アキ、よくこの状態で生きておったな。しぶとい生命力をしとるのう」

 マーサは褒めているのか貶しているのかわからないことを言う。生きていてホッとしているのは確かなようだが。

「うっせぇ。しぶといは余計だ!」

 だいぶ回復してきたのか、話すのもスムーズになってきていた。

 回復中に聞くことを聞いておこうとマーサは質問する。

「おぬし、この傷でどうやって生き延びた? おぬしの妙な力と関係があるのか?」

「妙って……うんまあ、そんなとこ。この方法を実戦で使ったのははじめてだけどうまくいってよかったよ。まあ、力の概要は教えられないけどねぇ。誰がどこで聞き耳を立ててるかもわかんねぇし」

 アキはまわりに気配がないのを知っていながらそう言った。手の打ちは明かさないのが鉄則だから当然だろう。

「ふむ、では、今までどこにいたのじゃ? 生きておったのならすぐに戻ってこんか! だからこんな面倒なことになってしまったのじゃぞ!」

 マーサは、アキがなかなか戻って来なかったから偽のアキを招き入れてしまいこの騒ぎになったのだと、責任を押し付けるような意地悪なことを言う。

「俺がワリィのかよ!? 俺はちゃんと死んでたから悪くない!」

 アキは主張の仕方が少しおかしかった。

「死んでおったじゃと!? どういうことじゃ!」

 マーサは声を上げる。死んだと聞けばその反応もうなずけるというものだ。その証拠に、今の話を聞いていた者たちも聞き入るようにアキの言葉を待っていた。

 ただこの(くだり)はアキにとって二度目、もう飽きていた。

「あ~その話は今度ゆっくりするよ。今はそんな時間ないし」

 アキはそういうと立ち上がる。動けるまでには回復できたようだ。

「まだ回復は終わっとらんぞ!」

 マーサはアキのボロボロのローブを掴み引きとめる。まだ聞きたいことがあったのだ。

「動けるようになったからもういいよ。たぶん時間もないし」

 アキは曖昧なことを口走る。

「しかし、まだ戦闘は終わっておらん。万全の状態に戻しておいた方がよいじゃろう」

 マーサはもっともな意見を言ったがアキは頷かなかった。

「まあ、そうなんだけど。ここまで回復すれば後は自分で何とかするからいいよ」

 アキは目を閉じると体を隅々まで意識を向け、体の状態を探る。そしてまだ回復しきれていない箇所の気を活性化させ自己治癒力を高める。先ほども同じようにダメージ箇所の自己治癒力を高め命をつないでいたのだ。

 これの良い所は手をかざす必要がなく、手が動かなくてもできるところだ。悪い所は意識を失ったら使えないところ。さっき意識を失わなくてよかったとアキは本気で思っていた。下手すれば死んでいるところだった。

 シンはアキの攻撃は効かないと油断しアキの攻撃を受けたが、アキも最後の最後で勝利を確信し油断した。その結果防御が間に合わず爆発の直撃を受けてしまった。

「(ホント、油断大敵ってやつだな……)」

 アキは一人呟いた。

「ん? 何か言ったか?」

 マーサはアキが何か言った気がし訊ねた。

「いや、何も……んじゃ、俺行くわ」

 アキは踵を返し歩き出す。

「行く? どこへじゃ?」

 マーサは訊ねる。

「石碑のとこ。結衣のヤツが守ってくれてるはずなんだけど、さっきのシンの言葉が気になる。まだ敵が潜んでるかもしれねぇから」

 アキはそういうと振り向く。

「ばあちゃんたちは王様と姫さん守っててくれ」

 アキはそう告げると謁見の間を出て行こうとする。

「わたしも行きます!」

 マリアが声を上げアキの後をついてくる。

「でも……」

 アキはマーサに視線を向ける。ロマリオたちの護衛をマーサ一人に任せて大丈夫なのかと心配していたのだ。

 マーサは一つ頷く。

「倒れておる兵士たちを治療してやればここは何とかなる。それよりも今は石碑の防衛じゃ!」

「……わかった。じゃ、行きますか」

「はい!」

 アキは頷くと、マリアを連れ駆け出した。



 石碑まで、二人はこんな話をしていた。

「アキさん、やはり本物のアキさんはお母さんやサラの言っていた通りの人でした」

 マリアはアキの背中を見ながら言いだした。

 アキはマリアが何か話があるのだと思い、立ち止まるとマリアへ振り向き訊ねる。

「なんスかいきなり?」

「あのシンがアキさんに成り代わっていた時、表面上は優しそうでしたが冷たい印象を受けたんです。そして、こんな人にサラを任せていいのかと不安でした」

 マリアは表情を曇らせる。

 アキは周囲を気にしながら黙って聞いている。

「そこへあなたが現れた。そしてお母さんたちの言った通りの人だった」

「……なんて言ってたのかすっげぇ不安なんですけど」

 アキは頬を引き攣らせる。

「それはですね……」

 マリアは聞いていたアキの印象を包み隠さず話そうとする。

「あ~いやいや、言わなくていいですから! 傷つきたくないんで……」

 きっといいことは言っていないだろう、サラはともかくマーサは辛口評価に違いない、聞いたら凹む。確実に凹む。

 アキはそう直感し、耳を塞ぐとうずくまる。

「フフッ、何を言われると思ったんですか?」

 嫌がるアキを見て、マリアは楽しそうに微笑んだ。

 マリアがサラたちから話を聞いて抱いているアキの印象はこうだ。

 頑張り屋で仲間思いの心の温かな優しい人、少しアホなところが残念な、そんな印象だった。

 アキが聞いたら前半部分が過大評価過ぎると照れてしまうところだ。後半は聞かなかったことにしただろう。 

「(よかった、これが本当のアキさんなんだ)」

 マリアの呟きは耳を塞いでいるアキには聞こえなかった。

 マリアはアキの手を耳から外し告げる。

「サラのことよろしくお願いしますね」

 マリアは優しく微笑むと、アキはガバッと立ち上がりマリアの手を取る。

「マリアさん! お母さんと呼んでいいですか!」

 アキは真面目な顔でそう言い放った。母親公認の称号を手にしたのだと舞い上がったのだ。

「それはまだ早いんじゃないでしょうか……」

 マリアはこのアキの変わりように頬を引き攣らせる。

「そうですねぇ、まず今のこの状況を収めるのが先でしょ?」

 マリアはニッコリ微笑んでそう言った。

「任せてください! こんなのすぐに収めちゃいますよ! ハハハハハッ」

 アキは嬉々としてやる気を出す。

 マリアは母親公認をたてに見事アキを手なずけた。


 これがアキとマリアのはじめての会話だった。


 

 アキたちが石碑のある二階が吹き抜けとなっている広間へ着くと、石碑の側に結衣が倒れていた。そして総司が防戦一方で追い込まれていた。追い込んでいたのはサラだった。

「サラ! 何をしているの! 止めなさい!」

 マリアが声を掛けるがサラは気にもとめず総司を攻撃し続ける。術か何かに掛かっているようだ。

 総司は相手がサラだということで手が出せないでいるようだった。

「マリアさんは結衣を! 総司!」

 アキはマリアに結衣を任せると総司とサラの攻防に割り込んだ。

「チッ!? また邪魔が……」

 サラは忌々し気にアキを睨みつける。

「っ!? サラさん」

 アキは再びサラに睨みつけられ、胸が痛くなる。

 アキはここで戦った記憶がスラッシュバックした。

「くっ、またここなのかよ……」

 アキは記憶を振り払うように頭を振る。

「総司、何があった?」

 アキは徒手空拳で構えをとると総司に訊ねた。

「わからない、俺が来た時にはサラさんが石碑を破壊しようとしているところだったんだ。結衣なら何か知ってるだろうけど……」

 総司は悔しそうな表情をしている。サラが邪魔で結衣の状態を確認することができないでいたようだ。

「ここはいい、総司は結衣のところに行って何があったのか聞いてくれ。どうせ気になって集中できないだろ?」

 アキが総司に視線を向けた一瞬の隙をついて、サラは石碑を狙って動き出す。

 視線は外してもサラの動く気配を察知したアキはピクリと反応し、サラの前に躍り出る。

「せかっちさんだなぁ、サラさんは」

 アキはニヤリと笑う。

 ホントは微笑んで見せたかったが、サラが親の敵でも見るかのような目で睨んできていたため微笑みがぎこちなくなり、ニヤリといやらしくなってしまった。

「いやらしい笑いを向けるな!」

 サラは顔を歪め嫌悪感を吐き出すと右手に持つ改良型ダガーで斬りつけてくる。

 アキはサラに嫌悪感を向けられ胸がズキズキ痛くなる。

「くっ!?」

 アキがダガーを躱すとサラはその隙をついて石碑へ向かおうとする。

「チッ!? ゴメンサラさん!」

 アキは舌打ちし謝るとサラの腕を掴み後方に投げ飛ばした。

「キャッ!?」

 サラは床を転がると回転レシーブのように綺麗に起き上がり、再び突っ込んでくる。

「おのれ!」

「サラさん! もうやめろって!」

 アキはサラの斬り付けるダガーを最小限の動きで躱し声を掛け続けた。

「黙れ! 敵のくせに気安く名を呼ぶな!」

「敵って……」

 敵と呼ばれ動揺したアキは動きを止める。

 サラはそこを見逃さずダガーを突いてくる。

「フンッ!」

ガシッ

 アキはその突きをサラの腕を掴むことで防いだ。

 サラは左手をアキの顔に突き出し魔法を放つ。

「風よっ!」

ボフンッ

 アキは顔面に風の刃が直撃する。

 しかしアキはケホケホッとむせるだけで平気そうな顔でサラの顔を見つめ返す。

「クッ、バケモノめ!」

 サラは驚愕し悪態を吐くと、足でアキの体を蹴り押し距離をとった。

 アキはサラにバケモノ呼ばわりされたショックで手を放してしまった。

 操られているとはいえ、立て続けに心を抉られるような言葉を叩きつけられるとさすがに辛くなってくる。サラにそんなことを言わせている術者、おそらくはシンだろう、シンが憎くてたまらない。シンを仕留めきれなかったことを後悔し、下唇を噛みしめる。

 アキの想いなど関係なくサラは攻撃を仕掛けてくる。そして隙を見ては執拗に石碑を狙ってくる。


 駆け寄ってきた総司はマリアに結衣の状態を訊ねる。

「マリアさん! 結衣は! 結衣は無事なんですか!?」

 その表情は不安に彩られ、本当に心配しているようだ。

 結衣の様子を見ていたマリアはホッとしたように告げる。

「気を失っているだけですね」

「よかった、よかった……」

 それを聞いた総司は安堵する。

 マリアはポーチから薬瓶を取り出し結衣に嗅がせる。気付け薬なのだろう、それを嗅いだ結衣は余程酷い臭いなのか顔を顰めると目を覚ました。

「ん、う……マリアさん? ……総司! ハッ!? サラさんは?」

 結衣は気が付き状況を確認すると(せわ)しなくまくし立てる。

「結衣! よかった無事で」

 総司は嬉しさのあまり今にも泣き出しそうな顔で結衣を抱きしめる。結衣のぬくもりを感じ結衣の無事を実感する。

「総司……」

 結衣は驚いていたが嬉しそうに総司を抱きしめ返す。

「結衣さん、何が、サラに何があったんですか?」

 マリアは邪魔することに気が咎め、遠慮がちに訊ねた。

 結衣はマリアに見られていることに気付き顔を赤くしながら総司から離れる。

 総司もバツが悪そうにしている。

「えっと……」

 結衣は思い出しながら何があったのか語り出す。


相変わらずアキは綺麗な年上女性に弱いです。

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