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冬華の怒りとカルマの決意

『水使い! 邪魔をするか!』

 フレイアは冬華を見据えると全身から黒い炎を迸らせる。

「ミズチ! 喰い尽くせ!」

 冬華が声を上げると水の大蛇は体をうねらせ上昇していくと、一気にフレイアへと急降下していく。

『その程度の水蛇!』

 フレイアは黒い炎を放ちミズチを迎撃する。

 ミズチの頭の上にいる冬華は水の双剣でそれを斬り落としていく。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 黒い炎を斬り落とされて行く中フレイアは闇を練り込み高濃度の黒炎を放つ。

『あぁぁぁっ!』

 冬華は剣をクロスさせそれを防ぐ。

 水の双剣は黒炎に相殺され、ただのショートソードとダガーに戻る。

「くっ!? ミズチ!」

 冬華はすかさず命じる。

 ミズチの体から小型のミズチが飛び出していきフレイアへ喰らいついていく。

『くっ!? おのれ!』

 フレイアは喰いつき這いあがってくるミズチを炎で払い除けていく。

 しかし、一度喰らいついたミズチは後から後から這い上がっていき、ミズチとミズチとが結びついていき一体のミズチと成る、その頃にはすでに蜷局(とぐろ)を巻きフレイアの動きを封じていた。

 ミズチはフレイアを締め上げていく。

『ぐあッ、くぅっ!?』

 ミズチはただ締め上げているわけではなかった。このミズチは冬華の浄化の力で作られた水蛇、締め上げるたびにフレイアの体は浄化されていく。フレイアの纏う黒い炎は次第に色を薄め力を弱めていく。

 そして冬華の乗るミズチがフレイアを蜷局を巻くミズチごと頭から喰らいつき飲み込んでいく。

『ぐっ、うあぁ、あ……』

 フレイアは苦悶の声を上げながらミズチに飲み下された。

 冬華はミズチの体の中へと流し込まれて行くフレイアを見据え水の剣を突き刺した。

 そして、直接浄化の力を叩きこむ。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ゴボゴボゴボゴボゴボ……

 ミズチの中でフレイアはもがき苦しむ。

 冬華がトドメとばかりにさらに力を込めた時、地面から黒炎が噴き出した。

ボボボボボボボボゥ

「っ!?」

 冬華は咄嗟に飛び退き黒炎を躱す。しかしミズチは黒炎に呑み込まれてしまった。

 黒炎の火力にミズチは瞬時に蒸発していく。

「まずっ!? 防御して!」

 冬華は麻土香たちに声を上げると地面に手をつき、目の前に水を噴出させ水の壁を作る。

 そしてミズチは大爆発を起こした。

ドッカァァァァァァァァッン

「くっ!?」

 冬華は再び水蒸気爆発を目にするとは思はわなかった。

 水の壁の横を熱風が吹き抜けていき、冬華はその暑さに顔を歪める。

 チラリと麻土香たちの方を見ると、岩の壁がそそり立っている。

 どうやら麻土香が光輝たちを守ってくれたようだ。

 冬華は声が届いていたことにホッとした。

 

 爆発が収まり砂塵が晴れてくるとフレイアの姿が見えてくる。

『おのれぇぇ、水使いめぇぇぇぇぇ!』

 フレイアは怨嗟のこもった声を上げ、冬華を睨みつける。

 冬華はフレイアの姿に驚愕する。

 フレイアの足元が抉れていることから、地面から這い出てきたみたいだ。ミズチの攻撃を地中に潜って躱していたのだろう。冬華は身代わりに残したフレイアの残滓(ざんし)を突き刺していたようだ。

 そしてフレイアの片腕が失われていた。身代わりとしてその片腕を使ったのかとも思えるが、どうも違うみたいだ。切り口がズタズタになっている、まるで爆発に巻き込まれたような。

 冬華はハッとなる。

 片腕は吹き飛び、自分で爆発を起こしたくせにむっちゃ睨んでくる。こいつは……

「あんた、自爆してんじゃん! 八つ当たりしてんじゃないわよ! バカじゃないの!」

 冬華はフレイアを罵倒した。

 フレイアはミズチをただ焼き尽くそうとしていただけだった。そして、たまたま水蒸気爆発が起こっていまったのだ。そのせいで這い出てきたところ爆発に巻き込まれ片腕を失っていたのだ。バカと言われても仕方がない愚行だった。

『キサマが仕掛けたモノだろう! 許さんぞぉぉぉぉっ!』

 フレイアは本気でわかっていない様子だ。

 フレイアは逆上し黒い炎を迸らせる。しかし、腕の再生にまでは至らなかった。連戦の為そこまでの力が残っていないのかもしれない。

 冬華はただでさえ激怒しているところへ逆切れされ最後の理性が吹き飛んだ。

「許さない、だって?」

ブチッ

 冬華の中で何かが切れる音がした。

「それはこっちのセリフよ! 私の仲間を傷つけたことを後悔して、消えろぉぉぉぉっ!」

 冬華の足元から水が噴き出し冬華を包んでいく。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 水が冬華の全身を包むと、弾かれたように飛び出す。

『燃え尽きろぉぉぉぉぉっ!』

 フレイアは残りの力のすべてを籠め黒炎を放つ。

 冬華は真正面から黒炎へ向かって行く。

「冬華ちゃん!」

 麻土香が悲鳴にも似た声を上げる。

 黒炎が冬華へ直撃する直前、冬華の体が二人に分裂する。

 一人は冬華本人、そしてもう一人は冬華を覆っていた水が冬華から別れ冬華の姿を模し冬華を投影していた。それぞれに水の剣を一刀づつ持ち振りかざす。

 そして同時に炎を斬り抜くと、そのままの勢いで両脇からフレイアへと斬りかかる。

 フレイアはどちらが本物かわからず一瞬硬直する。

 しかし、力の残っていないフレイアにとってこの硬直が致命的となった。

 

「「鏡華水撃(きょうかすいげき)!」」


 二人の冬華は鏡に映っているかのように左右対称で、同じ動き、同じ力、同じスピードで同じ箇所を切り刻んでいく。同じタイミングの為ダメージは増幅されていた。

 硬直していたフレイアは躱すこともできず、見る見る斬り刻まれ体に纏っていた黒い炎は霧散していく。


「「これでトドメだぁぁぁぁぁっ!」」


 二人の冬華はフレイアの胴を横薙ぎに斬り裂いた。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 フレイアは断末魔を上げると弱々しい残り火をチロチロと揺らめかせる。

 冬華の内の一人はバシャンと音を立てて水へと戻り手にしていたダガーは落下し地面に刺さる。

 冬華はフレイアを見据えると水の剣を向ける。

「これで終わりよ!」

 冬華が水の剣を振り上げた時、


ボッフゥゥゥゥゥゥッン


 間の抜けた轟音が冬華の耳に届いた。

「何!?」

 冬華が音のした方を見ると、城の屋根部分が吹き飛んでいた。

 そしてそこから闇の靄が噴き出していく。

「何が起こってるのよ!」

 冬華はわけがわからず困惑の声を上げた。あそこで誰かが戦っているのか、仕掛けられていた何かが爆発したのかはわからない。ただロマリオとローザの身が危ないとだけはわかった。

 フレイアは顔を上げそれを見上げると弱々しく呟く。

『あ、あの、無能め……いいザマだ……だが、そろそろか……』

 フレイアの呟きを聞いた冬華は何か知っていると思い問いただす。

「どういいうことよ!?」

『ふん、教えたところでなのも変わらない、もう手遅れだ。……私の役目もこれで終わり、引かせてもらう』

「終わり? 役目って何よ!?」

『フハハハハハハッ、今日のところは見逃してやる。次に会う時は皆殺しにしてヤル! 次があればだがな、アッハハハハハハッ』

 フレイアは怨嗟のこもった嗤い声を響かせ影に消えて行った。

「くっ!?」

 冬華は状況がつかめず困惑していた為、フレイアの逃亡を見過ごしてしまった。

 冬華はフレイアの消えた地面を忌々し気に一瞥するとダガーを拾い上げる。

「終わった?」

 瓦礫の陰からひょこっとカレンが顔を出し様子を訊ねる。

「一応ね」

 冬華は剣を鞘に納めカレンとその後ろへと視線を向ける。

「あれ? おじいちゃんたちは?」

 冬華は二人がいないことに怪訝そうな表情になる。

「ああ、おじいさんは魔物退治に言っちゃったよ、魔物に押されてるっぽいからって。総司さんは結衣さんのところへ」

 カレンは兵士たちが魔物と戦っている戦場と、結衣がいるであろう城へと視線を泳がせる。

「ふ~ん、そっか。んじゃ、コウちゃんたちのとこいこ」

「うん」

 冬華はカレンと連れだって光輝と合流する。

 光輝の下へ行くとすでに麻土香も合流していた。

「コウちゃん!」

 冬華は城へ険しい視線を向けていた光輝へ声を掛ける。

 光輝は冬華の方へ向き直ると礼を言う。

「冬華ちゃん、すまない助かった」

「ううん、遅くなってゴメンね」

 冬華は申し訳なさそうな表情をする。

 そんな表情をされるとさすがに光輝もバツが悪くなる。本来ならば、留守を預かっていた光輝たちが事態を収めなければならないはずだ。冬華に落ち度はない。

 光輝が謝罪しようと口を開きかけたとき、麻土香が割って入ってきた。

「ねぇ、城で何が起こってるの?」

 しかしそれに答えられるものはいなかった。

「わかんないけど、急いで向かった方がいいよね」

 冬華は光輝へと訊ねる。

「そうだな」

 光輝と冬華は頷くとモルガナを抱え城へ向かおうとする。

「と、冬華!」

 後ろから呼び止められ、冬華は体をビクリとさせ硬直する。

「……コウちゃんたちは先言ってて」

 冬華は立ち止まると光輝へそう告げる。

「わかった」

 光輝は察したように頷くとみんなを連れて先へ進む。

 麻土香は冬華の方を見ながら首を傾げていた。

 冬華は明後日の方向を向いたままチラリとカルマを見て訊ねる。

「何よ?」

 カルマは頭を掻きながら口をパクパクさせ言い難そうにしている。

 冬華はチラチラ見ながら言葉を待つ。

 カルマは意を決したように口を開く。

「あ、ありがとな助けてくれて」

「うん……」

「えっと……」

 気まずい空気が流れる……

「……」

 冬華はイライラしはじめる。

「……それだけ?」

「え、あ、ああ……」

 カルマのその煮え切らない返事に冬華の我慢は限界をむかえる。

「助けてくれてありがとうじゃない! 前にも行ったでしょ! あんた弱いんだから見栄張ってるとホントに死んじゃうんだよ!」

 冬華の剣幕にカルマは黙り込む。

 冬華はカルマの胸倉を両手で掴み上げる。

「わかってるの! 死んじゃったらもう二度と会えなくなるんだよ! 何も言えなくなるんだよ! 何も伝えられなくなるんだよ!」

 冬華はアキを失ったときのことを思い出していた。生きていたからいいものの、そうでなければずっと何も言えないままだった。何も伝えられないままだった。だからそんな思いしたくなかった、してほしくなかった。

「だからもう、あんな無茶しないでよ……」

 冬華は知らず知らず涙を流し訴えていた。

 カルマの驚く顔を見て冬華はハッとなり顔を伏せると、カルマから離れる。

「もう、行くから」

 冬華は踵を返し、俯きながら歩いて行く。

 カルマは冬華の涙を拭う後ろ姿を見て思う。

 このまま冬華を行かせていいのか? オレはまた怖じ気付くのか? 男を見せるなら今しかないぞ! 冬華も言っていただろう自分の口で言えと! 冬華を泣かせたままでいいのか!!

 カルマは自分を怒鳴りつけると冬華の後を追いかける。

「冬華!」

「何よ!!……!?」

 冬華は足を止め硬直する。

 カルマが後ろから冬華を抱きしめていた。

 そして耳元に顔を寄せ告げる。

「冬華、オレはお前たちの為なら、いや、お前の為なら何度でも無茶をする。しちまうんだ。体が勝手に動いちまうんだよ。だから、お前の言う通りいつ死んでもおかしくねぇ。だから、今伝えとく」

 冬華は体を包むカルマの腕に手を添え黙って聞いている。

「冬華、オレはお前のことが好きだ」

 冬華は体をピクリとさせる。

「他の誰よりも! お前の兄貴よりもお前の事を、想ってる!」

 カルマは抱きしめる腕に力がこもる。

「お前を守れる男になる! だから、だからオレと!」

 冬華は目を閉じ頭を横に倒しカルマの頬に寄せる。

 カルマはそれを頷いたのだと思い、冬華を振り向かせようと腕の力を抜く。

 そして、

ドスンッ

「ぐふっ!?」

 カルマは背負い投げされた。

「な、いきなり何すんだテメェ!」

 折角の良い雰囲気をぶち壊した冬華にカルマは憤慨した。

「ふん、悔しかったらさっさと私より強くなりなさいよね!」

 冬華は挑発するように言い放つ。その顔はどこか嬉しそうに見える。

 カルマは立ち上がると冬華に詰め寄り顔を突き合わせ言い放つ。

「上等だ! 冬華ぐらいすぐに追い越してやるぜ!」

「へ~そんなに自信あるんだ?」

 冬華はニヤニヤしながら言う。

「当たり前だ! なんたってオレはカルマ様だからな!」

 カルマはオレ様宣言する。なんの根拠もない自信だった。

 冬華は若干呆れていたが微笑んで見せる。

「ふ~ん……そんなに自信あるんなら、少し先行投資してあげる」

 冬華は意味ありげなことを言う。

 カルマは言ってる意味がわからなかった。

「は? お前何言って……」

 冬華は手を伸ばすとカルマの頬に手を添える。

 カルマはその手に気を取られ隙を見せる。

チュッ

 冬華はカルマの唇に唇を重ねた。

 カルマは硬直し呼吸を止める。心臓すらも止まっているのかと錯覚した。

 冬華は唇を離すと頬を紅潮させ微笑む。そして、

バチンッ

 両手でカルマの頬を挟み込む。

 カルマの顔は押しつぶされ間抜けな顔になる。

「アッハハッ、変な顔~」

 カルマは可愛らしく笑う冬華の顔をボーッと見つめていた。

 冬華は手を放すと城へ向け歩き出す。

「ほら行くよ! 投資してあげたんだからしっかり強くなんなさいよ! カ、ル、マ、サ、マ!」

 冬華はニカッと笑うと足取り軽やかに城へ向かい歩いて行く。

「お、おう! 任せとけ!」

 カルマは胸をドンと叩き冬華を追い掛けていく。


 そんな二人を物陰から見ていた者たちがいた。

「(いいんですか? こんな盗み見るようなことしてて)」

 カレンが咎めるように言う。

 カレンは総司が先行しているとはいえ、こんな道草食っていていいのかと気が咎めていた。

「(そうです! プライバシーの侵害ですよ! まったく、こんなことしてる場合ではないというのに)」

 汐音も同調する。頬は紅潮しているけれど。

「(そんな事言って、二人だってしっかり見てたじゃない! わぁ~大胆、とか言って興奮してたじゃん)」

 麻土香に痛いところを突かれ二人は黙り込んでしまう。

 なんだかんだ言っても二人もお年頃、色恋には興味深々だった。

「(まずい! こっちに来るぞ! 早く行こう!)」

 光輝もちゃっかり見ていた。


 この後、離脱にもたついたせいで冬華に見つかり、全員怒鳴られるのだった。


冬華愛が……

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