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はじめての戦い

 翌日俺は森の奥に入っていた。

朝食を食べ、座学を終えて外で一人修行していたのだがやはり一度魔物を見てみたいと思い、こっそり森の中に入ったしだいである。

そして、魔物にかこまれているのである……

 まずい、こそっと覗き見るだけでよかったんだけど、覗き見た瞬間に振り向かれて目が合っちまった。

 なにこの嗅覚! 野生動物並じゃん! 魔物だから野生動物なんだけれど……

 今の俺がどこまでやれるか試したい気持ちがなかったと言えば嘘になる。しかしこの状況は想定外だ。

 まずは一匹を相手にしたかった。

 魔物は四体、ゲームで見かけるモンスターに酷似している。

 三体は犬型、ヘルハウンドっぽい獰猛な牙と爪がヤバイ。あの巨体から繰り出される攻撃をまともにくらったら肉が引き剥がされること必至である。

 残りの一体はゲル状の〇ライムっぽいな。しかしこいつはゲームほどかわいらしくない。なに? このムカツク顔! なんかイライラするわ~イライムと名付けてやる。

 などと考えていると、ヘルハウンドが距離を詰めてきた。

 俺は剣を構えて呼吸を整える。

「落ち着け~、焦ったら終わりだぞ~」

 魔物を注意深く観察する。

 二匹が跳びかかってくる、俺は右に飛び退きながら一体に向けて剣を振りぬく。

ドスッ

「ぐっ」

ギャウッ

 ヘルハウンドは地面に転げ落ちたがあまり効いてないようだ。

「クーーーッ!?」

 衝撃で腕が痺れる……

(あっ!? 魔力制御忘れた……)

 飛び退いた先にイライムが口らしき部分から粘液を飛ばしてきた。

(これ当たったら溶けるヤツだ)

 俺はバックステップで躱すと一体のヘルハウンドが地面に落ちた粘液を飛び越え襲ってくる。

 左からも最初に跳びかかってきた一体が向かってくる。

 俺は魔力を脚に籠め(こめ)勢いよく左のヘルハウンドに突っ込み、すぐさま腕に魔力を籠め剣をヘルハウンドの顔に突き刺す。

 剣を刺し停止した俺の背後からヘルハウンドが追撃してくる。

 俺は突き刺さったままのヘルハウンドを振り回して背後から来たヘルハウンドにぶつけた。

ギャウン

 最初に切り付けたヘルハウンドが起き上がり向かってくる。

 俺はジャンプで躱すとヘルハウンドはそのまま突っ込み、起き上がりかけているヘルハウンドと激突する。

 俺は着地するとそのまま重なり倒れているヘルハウンドに距離を詰め二体諸共叩き切った。

「よし! 残りイライム!」

 俺は反復横跳びのように再度ステップで粘液を避けながら近づき一気に薙ぎ払う。

 「切った!」と思ったその矢先、切り口がウネウネとくっつき元のイライムに戻る。

 たしか無形の魔物は(コア)を壊さないといけないって書いてあったな。なんかゴーレムみたいだ。

 ゲル状な上にどこにコアがあるのかわからない……どうしよう。魔法が使えたら焼き払うだけなんだけど……

 俺は距離を取り観察しながらしばし考える……


……考える。


……イライラしてきた。


「あの顔ぶん殴りてぇ! ……あ!?」

 ひらめいた俺はイライムの粘液攻撃を避けイライムの上空にジャンプした。

 掌に魔力を籠め、落下と同時に思い切り張り手をした。

「うーーーりゃ!」

ドーーーーン!

 俺の張り手と地面に挟まれたイライムは粉々に吹き飛び、地面は小さなクレーター状になっている。

……イライム相手にやりすぎたかな。

「ゲッ!?」

 手にイライムのネチョネチョが付いてる。

「キモッ!」

 

 これが異世界でのはじめての戦闘だった。



 てわけで、俺はさらに奥に向かっている。

 このネチョネチョキモイんだよ。水の流れる音が聞こえるからたぶんこの辺に……

 獣道を進んでいくとひらけた場所に出る。

「あった! 川はっけーーん!」

 北東の方から南に向け小川が流れていた。

 やっと手洗えるよ~

バチャバチャ

「もう二度とあんなことはしない」

 心に誓う俺であった。

 それにしてもこの川の水スゲェ綺麗だなぁ。

ゴクッゴクッ

「うまっ! 水道水みたいに鉄くさくない」

 いや、最近の水道水もそれほど鉄くさくはないんだけど、この水と比べるとねぇ……

 空気もうまいし排ガスのない空気ってこんななんだな。心と体が洗われる気分だ。

 いいとこ見つけたなぁ、陽射しも気持ちいいし・・・

「……ふあぁ~~~、眠くなってくるなぁ」


ボ~~~


 ……いきなりだけど、やっぱり川と言えば水切りだよなぁ。あれ? 石切り? 石投げ? ま、いっか。

 川に来ると無性に石投げたくなるのは日本人だからかな? ドラマでもアニメでも必ず投げてるよね。特に何の意味もないのに投げるよね。ホント謎。

 と思いつつ、俺は丸く平たい石を探す……

「あ、これいいな」

 俺はアンダースローで振りかぶって投げる。

ヒュッ……バシャッ、バシャッ、バシャッ、バチャ

(3回か……)

 そして、また投げる。

ヒュッ……バシャッ、バチャ

(1回って……)

 またまた投げる。

ヒュッ……バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バシャッ、バチャ

「おーー、今のはよかった」

 ん~石を投げるのは遺伝子レベルで刷り込まれた習慣なのかもしれない。

 夢中になって投げ続け、何度目かの投石。

ビュッ……バッシャーーーーン

 川が小さな間欠泉みたくなった。

ザーーーー……ビチビチッビチビチッ

(雨かよ!……あ、魚が取れた)

 なぜだ? ん~~あ! 集中しすぎて投げるとき魔力籠めてたかも。

 …………なるほど。投擲(とうてき)か!

 今の間は単語を思い出してたわけじゃないからね、ホントだよ。

 魔法を使えない俺にはいい攻撃手段かもしれない。牽制にもなるしいいね。石なら捨てるほど落ちてるし。

 俺は魚を拾いながら考える。

 投げナイフとかいいかも。さすがに苦無なんてないだろうし手裏剣なんて尚更ね。

 ふむふむ、なんか俺の戦闘スタイルが忍者じみてきてるような……ま、忍者カッコイイしいいんだけどね。よし! その方向で修行していこう!

 こうして俺の戦闘スタイルの方向性が決まった。

(あれ? なんか主人公から遠のいたような? 気のせいだよね?)


 とりあえず魚を持って帰って昼飯にしよう。




 マーサは鏡に向かって話をしている。

 決してボケてしまったわけではない。この世界での通信手段の一つで、鏡を使った通信用の魔法である。印を記した特定の鏡にアクセスして会話をするもので、テレビ電話のようなものだ。

 一般的には書簡(手紙)を用いることの方が多い。運んでくれる者がいればであるが。今は森の中、人っ子一人いないこの地では無理な話である。

 マーサほどにもなれば魔法での通信の方が早くて確実で楽なのだ。

 召喚の儀が終わったであろう頃合いを見て今通信しているのである。

 召喚は呼んだら終わりではない。不安定にしてしまった空間を安定させるところまでが一連の術なのである。

 鏡の向こうに映る40代前半くらいの綺麗な女性がマーサに訊ねる。

「見つかりましたか?」

「ああ、とは言っても一人だけじゃがな……他は間に合わなんだ」

「そうですか……残念です」

 女性の表情が少し曇る。

「見つけた方はどうです?」

 マーサはアキを思い浮かべて答える。

「ふむ、悪いヤツではないのう。取り乱してもおらんし順応性が高いのか、まぁ変なヤツじゃよ。」

「ヤツ? 男性ですか?」

「そうじゃ。だがあのサラが気に掛けるくらいじゃからのう。いいヤツじゃよ」

「そうですか、あの子が……フフッ」

 女性はサラの反応を想像し、少しうれしそうな表情をうかべる。

「ところで、あの子は?」

 マーサは決まりの悪い表情で答える。

「サラはちょっと調べものを頼んでいてね、ここにはおらんのじゃ。だから、城に戻るのは少し遅くなりそうじゃ」

「わかりました、陛下にはそう伝えておきます」

「そちらはどうなのじゃ? 召喚の儀は?」

 マーサの問いかけに女性は幾分か険しい表情をしたが、表情を引き締め報告する。

「お母さんの懸念した通りでしたが、光輝(こうき)さんが治めてくれました。今は力をつけていただいています」

 マーサは眉を寄せる。

「やはり狙われたか。しかし、光輝と言ったか、あ奴と違って優秀そうじゃな」

 女性は少し困ったような表情を見せる。

「いえ、それは仕方のないのでは?比べるのはいかがなものかと思いますが」

「それもそうじゃな」

 マーサは納得した顔で頷く。

 女性は一瞬後ろを振り向くと口を開く。

「お客が来たようですのでこのへんで。それではお帰りをお待ちしています。お母さん」

「うむ、ではなマリア」


 マーサは通信魔法を解除する。

 儀式はなんとか終わったか。これでとりあえずは安心じゃな。あとはサラが戻り次第帰るだけなのじゃが……

 マーサは儀式が終わったことに安堵しこれからのことを考えながら外へと出ると、外にいるはずの人物がいないことに気付く。

「……!? アキがおらん!」

 どこに行きおった! ……まさか森の奥に行ったのではあるまいな! 早く探しに行かねば。もしものことがあったら……

 マーサは額に脂汗を流し、慌てて森へ向かおうと振り返る。

「あ、ばあちゃん、ほい、お土産~」

 アキが森の茂みから出てきた。

「!?」

「どした? 焦ったような顔して」

 アキは怪訝そうな顔をして言う。

「どうしたではないわ! どこへ行っておった! おぬしがおらんので焦っておったのじゃ!」

 マーサは声を荒げて言う。

「あ~~、ごめん」

「まったく、心配かけさせおって……ん? 魚?」

「おう、魚! 焼いて食おうぜ~」

「おぬし川まで行っておったのか?」

 マーサは目を吊り上げて訊ねる。

「え? あはははは、大丈夫! 逃げ足だけは速いから!」

(悪さがバレて焦るイタズラ小僧のような顔しおって)

 マーサは一瞬呆れた顔になると、アキを一周見て回る。

「ふむ、ケガはなさそうじゃしたしかに逃げ足は速そうじゃな」

「ささ、飯にしよ!」

 アキは誤魔化すようにマーサの背を押して急かす。

「わかったから、押すでない」

 マーサはやれやれと言う風に進む。

「ところで、ばあちゃん苦無ってない?」

「クナイ? なんじゃそれは? おぬし本当に唐突じゃの」



 ちなみに午後、アキは走り込みや筋トレで基礎体力作りに専念した。

 川行きたかったがマーサの監視の目が厳しく、抜け出すことができなかったのだ。

「でも基礎は大事だぞ!」

 アキは人差し指を立てて、いずこかを見て言う。

「おぬし、誰に言うておるんじゃ?」





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