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戦うお姉さん2

「(どうする? どうする私! ここが正念場だよ! こんなところで死んでる場合じゃないんだよ!)」

 麻土香は自らを鼓舞し、頭を巡らせる。

 倒す必要はない、ていうか無理だし! 何とか足止めして時間を稼げればたぶん冬華ちゃんがきてくれる! はず……そういう話だったもん、だから私ここに来たんだもん。

 麻土香は冬華から連絡を受けローズブルグの宿屋で落ち合う約束をしていた。麻土香は一足先に着いていた為宿でのんびり過ごしていた。そこへこの騒ぎである。きっと冬華もこの騒ぎの渦中にいるだろうと思い出てきたのだが、冬華ではなく光輝たちの戦闘に遭遇してしまったのだ。

 冬華が、いやシルフィがこの騒ぎが起こることを予期して自分を呼び寄せたのだと麻土香は理解していた。

 冬華たちもすぐに駆け付けてくれるだろうと頑張ってはみたが、一向にくる気配がない。麻土香は内心「嘘つき~」と涙目になっていた。

 目の前には怒りを露わにする化け物。味方はイチャイチャカップルに脳筋そうな男、一人は倒れていて動かない。

「……ん? なんか見覚えが……」

 麻土香は倒れている人物にはじめて目を向ける。そして、目を見開いた。

「も、ももも、モルガナじゃん!? それ本物!?」

 ここに来て麻土香は場違いな声を上げうろたえはじめる。

 いきなり投げかけられた声に光輝はビクッとなり答える。

「ええ、本物ですよ。何とか救うことはできたんですけど……結局またピンチになってます」

 光輝はフレイアに視線を戻し警戒する。

「へ~そうなんだ……」

 麻土香はそれを聞き、まだチャンスはあるのではないかと思いはじめる。

 モルガナを救ったという事は、冬華と同じように浄化の力が使えるということだ。光輝の力があればヤツを倒すとまでは行かないが撃退することは可能かもしれない。

 しかし、麻土香は知らない。光輝もまた力を使いこなせていないことを……

 希望が見えた(錯覚だが)麻土香はやる気を取り戻し、光輝たちへ声を掛ける。

「もうこうなったら協力して戦うしかないね。何とか時間を稼ぐからその間に回復して戦える状態になって!」

「わかった。汐音頼む」

 光輝は頷くと回復を汐音に頼んだ。

 麻土香はフレイアを見据えると、フレイアにまとわりつく黒い炎の濃度が増しいることに気付く。ゴチャゴチャ考えている間に力を溜め込んでいたようだ。

 麻土香はイヤイヤながらも駆け出した。そして手をかざし魔法で攻撃をはじめる。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 さながら移動砲台のように走りながら石の槍を放っていく。

 しかしフレイアは避けもせず体を炎へと変え、石の槍はフレイアの体を通過し地面に突き刺さっていく。

「(ですよねぇ)」

 麻土香はガックリと肩を落としながら尚も石の槍を放ち続ける。

『いつまで効きもしない攻撃を繰り返しているつもりだ!』

 フレイアのイラつきが頂点を超え、闇の炎が(ほとばし)る。闇の炎が手のような形に変わり麻土香を捕らえようと放たれる。

「ヒッ!?」

 その手は嫌らしくニギニギさせながら迫ってくる。これに捕まればお約束のサービスカットになる。あんな得体の知れない手に弄ばれるなんてまっぴらだと、麻土香は死に物狂いで逃げ、石の槍を放ち続ける。

 フレイアのまわりを一周ほど駆け抜けると観念したのか麻土香は立ち止まる。

「ハァハァハァ……」

『フフッ、ようやく諦めたか』

 フレイアはニヤリと嗤い手を振るった。闇の手が麻土香を捕らえようと迫る。

 麻土香は再び地団駄を踏む。この意味はすでに承知の通りだろう、足から魔力を地面に流し込んでいたのだ。

 麻土香の前に岩の壁がそそり立ち闇の手を防ぐ。

 そして、地面に両手をつけると一気に魔力を流し込む。

「これでも食らいなさい! 砂の束縛(サンドバインド)!」

 麻土香が声を上げると、フレイアの足元が砂に変わり足を捕らえる。そして先ほど放った石の槍も砂に変わると触手のようにフレイアに絡まり、そのまま地中へと引きずり込んでいく。

『くっ、こんなもの!』

 フレイアは忌々し気に吠えると、体を炎に変え外へ飛び出そうとする。

「逃がすか! はぁぁぁぁっ!]

 麻土香は再び魔力を流し込むと、地中からさらに砂の触手が飛び出し絡まっていく。

『くっ、しつこゴフッ……』

 フレイアは何か言おうとしていたが砂の触手が口を覆い話すことができなくなる。

「ンフッ、このまま触手プレイでもしてやろっかなぁ?」 

 麻土香は嫌がらせのように言う。

 麻土香のその発言を聞き「麻土香さんってそういう人なんだ……」と汐音はかなり引いていた。

「でも逃げられたら厄介だから、このまま押し込む! はぁぁぁぁっ!」

 麻土香は再び魔力を注ぎ込むと、砂の触手はフレイアを逃さないよう隙間無くフレイアの全身を覆っていく。

 そして地中へと引きずり込もうとする。

『んぅぅぅぅっ……!』

「クッ……うぅぅぅぅっ」

 フレイアも抵抗しているようで、麻土香は苦しそうに踏ん張っている。

「ま、まだなの!!」

 麻土香は光輝に向け声を張り上げる。

「待たせた!」

 いいタイミングで回復を終えた光輝が立ち上がる。

「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃって! もうもたないから!」

 麻土香は悲痛な声上げる。その腕はガクガクと震えていた。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 光輝は剣に光を纏わせると光をさらに集め始める。

 光輝の剣が太陽のそれのように輝きはじめる。

「眩しっ!?」

 麻土香は直に見てしまい、目が眩みそうになる。

 光輝は真聖剣を振り下ろした。

「おあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 麻土香もつられて声を張り上げた。これで終わってほしいと願いを込めて。

 その剣閃は真っ直ぐに縦に扇状に伸びていき砂に覆われたフレイアを切り裂いた。

「やったぁぁぁっ!」

 麻土香は喜びの声を上げた。これでこんな戦いも終わるのだと心の底から喜んだ。

 しかし、喜んでいたのは麻土香だけだった。

 光輝たちは知っていた。今のがただの二ノ太刀だということを……

 案の定、麻土香が気を緩めた隙を見てフレイアは砂の束縛から抜け出してきた。

『キサマァァァッ! またしても私の顔に砂をつけてくれたなぁぁぁぁっ!』

 フレイアはさらなる怒りを吐き出し麻土香を睨みつける。

「え!? な、なんで? なんで効いてないの!?」

 麻土香は動揺を隠しきれずに尻餅をつき後ずさる。

 それもそのはず、今だ誰も麻土香の誤解を解いていなかった。

「す、すまない! 僕もまだ力を使いこなせていないんだ!」

 光輝は麻土香が勘違いしていることに気付き、素直に謝りそう告げた。

「へ? ……それ聞いてないんですけど……ど、ど~しよぉぉぉぉっ!?」

 麻土香は情けない表情となり絶望の声を上げた。

 その情けない麻土香を見てフレイアはニヤリと歪に嗤う。

『アッハハハハハハハハハハッ! 万策尽きたようだなぁ』

「ヒッ!?」

「くっ!?」

 フレイアの狂気に満ちた嗤い声を聞き麻土香は恐怖した。

 光輝は成す術もなく、悔しさで下唇を噛みしめる。

ザンッ

 そこへ一人の男が躍り出た。

 麻土香は期待に満ちた視線を向ける。

 脳筋男と密かに称したカルマだった。

 麻土香は「え~」と肩を落としガッカリした。実力のほどは知らないがなんとなく頼りなさそうに見えたのだ。脳筋男だし。

「ここはオレが囮になる。お前たちは逃げろ!」

 カルマはそう告げると剣を構えフレイアを見据える。

「バカ言うな! お前一人でおさえられるような相手じゃない!」

 光輝がその申し出を拒否する。

「馬鹿野郎! お前たちが死んだら元も子もないだろう! 今はこうするのがベストなんだよ!」

 カルマは光輝たちを守るため、そして世界を救うために命を差し出す覚悟を決めていた。

「そんな……」

 汐音はカルマの覚悟に気付き、そしてそれ以外に光輝を守る術がないことを悟った。

「冬華ちゃんになんて言ったらいいんだよ!」

 光輝は冬華の名前を出し、何とかカルマを踏みとどまらせようとする。

 しかし、カルマの決意は固かった。

 ただ暴れたくて兵士になったカルマだったが、冬華に、光輝たちに出会い、生きること戦うこと、そして守ることの意味を知り、ともに戦おうと誓った。

 そんな仲間の為なら命を差し出すことは難しいことではなかった。

 ただ、心残りがあるとすれば冬華と喧嘩別れしたままだということだ。

 カルマは光輝たちへ視線を向けると告げた。

「冬華にはすまなかったと伝えておいてくれ、それから……」

 カルマはフレイアに向け駆け出した。

「オレは冬華にベタ惚れだったってな! おぉぉぉぉぉっ!」

「カルマ! クッ」

 光輝はカルマを止めることができず悔し涙を流す。

『アッハハハハハハッ、まずは脳筋男か? ならば望み通り焼き殺してくれる!』

 フレイアは体から闇を(ほとばし)らせると闇の炎を放出した。

 カルマは闇の炎を斬り払おうとするが、闇の炎は剣を焼きカルマを包み込んでいく。

 カルマを包み込むと容赦なく焼き尽くしていく。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

『焼け死ねぇぇぇぇぇっ、ハハハハハハハハハハッ』

 フレイアの狂気に染まった嗤い声がこだまする。

「カルマァァァァァァァァァッ!」

 光輝がカルマの名を叫んだその瞬間。


ドッパァァァァァァァァァァッ……


 地面から水柱が吹き上がると水蛇のような形を成し、(あぎと)を開くとカルマごと闇の炎を飲み込んだ。

 そして闇の炎をかき消すと、その口からカルマを吐き出した。

ペッ

ドスッ

 カルマはヨロヨロと体を起こす。

「ゲホッゲホッ……」

「カルマ!」

 水を吐き出すカルマに光輝が駆け寄る。

 カルマの体からはまだ湯気が立ち昇っていたがなんとか無事のようだ。

 光輝がホッと胸を撫で下ろすと、怒気を孕んだ声が降り注いできた。


「このバカルマ! そういうことは自分の口から言いなさいよ!」


 声のする頭上を見上げると、水蛇の頭の上に怒りに満ちた表情の冬華が仁王立ちしていた。

「と、冬華……」

「冬華ちゃん!」

 カルマは頬を引き攣らせ、光輝と汐音は安堵の表情を見せる。

「冬華ちゃん遅いよ~」

 麻土香は地面にへたれ込むと涙目になり不満を漏らす。

 冬華はショートソードを抜くとフレイアに突き付け言い放つ。


「ぶっ殺す!」


麻土香はよく頑張ったぞ。

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