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ある兵士の戦い

 その頃、城では事態が急変していた。

 謁見の間……

 ロマリオが娘のローザを庇い肩口を負傷していた。

「ぐっ……なぜ……」

「お父様!?」

 ローザは悲痛な声を上げる。

 ロマリオは傷口を押さえ信じられないものを見るような表情で斬り付けてきた人物を見る。

「な、何をしているのですか! 将軍!」

 傍らに控えていたマリアが血相を変え声を上げる。

 斬り付けたのはレオルグだった。

 最前線で指揮を執り戦っていると思われていたレオルグは報告と称し城へ戻っていた。

 そしてロマリオの下へと訪れると、隙を突いてローザへ対し斬りかかってきたのだ。

「何って、見ての通りですよマリア殿。陛下、わたしはこのときのために今まで城に仕えていたのですよ」

 レオルグは言葉遣いは丁寧だが、その表情はロマリオを蔑み歪んだものだった。

「裏切ったっということか?」

 ロマリオは悔し気に下唇を噛みめる。

「裏切り? そんなことを言っては将軍が可哀想ですよ? あれほどまで忠義を尽くしていたというのに」

 レオルグは自分以外にもレオルグがいるようなことを言った。

「なに!? ではキサマは偽者だということか!? 本物の将軍はどこだ!」

 ロマリオは声を荒げて言うと、傷に痛みが走り顔を歪ませた。

 レオルグはニヤリと嗤い告げた。

「さあ? 死んだ者がどこへ向かうのか、そんなことはわたしにはわかりかねますね」

「そ、そんな……」

 マリアは口元を押さえ目を見開き驚愕する。

「バカな! 将軍がそう簡単にやられるものか!」

 レオルグの実力は誰よりもよく知っている。若いころにはレオニールと3人、剣で競い合っていた仲だ。

 ロマリオは敵の言うことなど信じることができなかった。

「ちゃんと殺しましたよ、首を刎ねてね」

 レオルグは手で首をスパッと斬るジェスチャーをする。

「くっ……」

 ロマリオは愕然とする。

「そんなに悲しまなくてもいいでしょう。体は埋葬したのでしょう? それともどこかに捨て置きましたか? 可哀想に」

 レオルグは憐れむように言う。

 ロマリオは何を言っているのかわからなかった。

「アルマが、いえ、偽アルマと言った方がいいですか? ヤツが体を乗り換えて行きましたからね。そちらで倒したでしょう?」

 確かにカルマと汐音が倒していた。あの時の体が本物のレオルグのものだと言っているようだ。

「まさか、あの時にはすでに死んでいたというのか……」

「ええ、弱っているところをスパッとね」

 レオルグは再びジェスチャーをする。

 ローザは見ていられず目を伏せてしまう。

 おそらく麻土香の魔法から守るために放ったアギトの魔法で吹き飛ばされたところを狙われたのだろう。

 マリアはあの時の事を思い出し、そう推測した。

「ならばあなたは正真正銘偽者ということですね」

 マリアはそう確認すると魔力を練り込みはじめる。

「いえ? 首から上は将軍のものですよ。首はわたしが再利用させていただきました」

 エコでしょ? と言いそうな軽い調子で言い放った。

「キサマァァァァッ!」

 ロマリオは死者を冒涜するような行為に怒りを露わにする。

「そんなに怒らなくても、すぐに会わせてあげますよ」

 そういうとレオルグは剣を握り込みロマリオたちへと近づいて行く。

「暴風よ!」

 マリアはレオルグの歩みを止めるため竜巻を放った。

「ふん!」

 レオルグは剣で竜巻を斬り裂く。

「誰かおらぬか! 敵が侵入した!」

 ロマリオはその隙を突いて、兵士を呼び寄せる。

 兵士たちが謁見の間へ入ると状況を把握するのに戸惑いの色を見せた。敵が誰なのかわからなかったのだ。

「ヤツは偽者だ! 将軍はヤツに殺された! 将軍の無念を晴らすぞ!」

 ロマリオはレオルグを差し兵士たちを鼓舞する。

 兵士たちは戸惑いを見せるも、怪我を負ったロマリオがローザをレオルグから守るようにしている状況からそれが真実と悟り、そして怒りを露わにするとレオルグに斬りかかって行く。

「よくも将軍を! おぉぉぉぉぉっ!」

 レオルグは兵士たちの攻撃を剣で軽々受けとめる。そして受けきれなかった攻撃は生身の腕や体で受けとめていた。

 しかし兵士たちの剣はレオルグに怪我を負わせることができなかった。その硬い皮膚で防がれていた。

「なっ!?」

 驚愕する兵士たちをよそにレオルグは剣を振り兵士たちを一斉に薙ぎ払った。

「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

「わたしを偽アルマのような悪知恵だけの男と一緒にしないことです」

 レオルグはかつての仲間を蔑むように言う。やはり仲間意識など皆無のようだ。

 後に残るはロマリオとローザ、マリアと数人の兵士のみ。

 ロマリオはローザの前に立つと壁となりローザを逃がそうとする。

「逃げろ! ローザ!」

 ローザを死なせるわけにはいかない。娘ということもあるが、国を守るためにも死なせるわけにはいかなかった。

 ローザも自分の役割を理解しているため苦渋の決断をする。

 涙を流し、歯を食いしばりながら逃げようとする。しかし恐怖からか足がもつれて転んでしまう。

「きゃっ!?」

 レオルグも逃がすつもりはないようだ。標的はロマリオではなく、封印を施すことのできるローザなのだから。

 倒れているローザへ近づこうとするのを阻止するかのように、ロマリオが落ちている剣を掴み立ちふさがる。

「行かせるわけがないだろう! 姫を守るのだ!」

 ロマリオがそう命じると兵士の一人がローザの護衛に着いた。

 それを目の端で確認すると、ロマリオは渾身の力を籠めレオルグへと斬りかかって行く。

「おぉぉぉぉぉっ!」

 ロマリオと共にマリアはナイフを振りかざし、兵士たちも剣を振り上げ斬りかかっていく。 

 しかし、レオルグはただ立ち尽くしその攻撃の悉くをその体で受け止める。

「クソッ!?」

 剣が通らずロマリオは悪態を吐く。

 そして、レオルグは忌々しそうに睨むロマリオを一瞥すると、(いびつ)に嗤い剣を横薙ぎに振り抜いた。

「ぐあぁっ!?」

「きゃぁぁっ!?」

 兵士たちが二人を庇ったため致命傷は避けられたが、ロマリオたちは吹き飛ばされてしまう。

「あなたは後です。そこでじっくりと見ていてください。愛娘が死んでいくさまをね」

 レオルグは顔を醜く歪ませるとローザへと近づく。

 レオルグとローザの間に最後の兵士が割り込み立ちふさがる。

 兵士の後ろに隠れローザは声を上げる。

「ち、近づかないで!」

 振るえる体を抑え込み姫として虚勢を張る。

「フフッ、気がお強い。嫌いではありませんよ、気の強い女性は。だからご安心を、痛みを感じることなく逝かせてさしあげましょう……そこをどけ」

 レオルグは醜く歪んだ顔のまま丁寧に言うと目の前の兵士を睨みつける。

「どけと言われてどくバカがいるか? 姫を殺させるわけにはいかないんだよ」

 兵士はこの場にふさわしくない軽い調子で言い放った。その兵士は頭をすっぽり覆う兜をかぶっていたため、顔はハッキリとは見えなかった。

 その兵士とは思えぬ物言いにローザは目を丸くし一瞬震えが止まった。

 レオルグは眉尻をピクリとさせると苛立ちを見せる。

「ふざけたことを……死んで後悔するがいい」

 レオルグは虫を払い除けるように剣を振るった。

ギュイン

「なっ!?」

 レオルグの剣は、決して体格がいいとは言えない普通の兵士の剣に受け止められていた。

 止められるとは思いもしなかったレオルグは驚愕で一瞬動きを止めてしまう。

「敵を前に動きを止めるとは、自殺行為だぞ?」

 兵士は冷たくそう呟くと小石でも蹴るかのようにレオルグを蹴り上げた。

「ぐほっ!?」

 レオルグは軽く宙を舞い床へと転がる。

「ゲホッゲホッ……き、キサマァァァッ」

 レオルグは怒りに染まった視線を向ける。

 ローザは口元を押さえ目の前の出来事が夢ではないかと驚きの表情を見せていた。倍はあるのではないかという体格差をものともせず蹴り上げたのだ、信じられるはずがなかった。

「調子に乗るなぁぁぁぁぁっ!」

 レオルグはその体格を生かし、力任せに切り込んでいく。

 兵士はローザが巻き込まれないように前に出て迎え撃つ。

ガインッ、ギンッ、グインッ

 その一撃一撃が重く、今にも剣が折れてしまうのではないかと思われた。そしてそれを受ける兵士の体がもたないのではないかと、ローザは心配で見ていられず一瞬目を伏せてしまった。

 その瞬間、


ザシュッ

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 絶叫する声がが謁見の間にこだました。

 まさかと思いローザが恐る恐る目を開けると、兵士が剣を振り抜いてた。そして、レオルグの腕が一本失われていた。

 腕のあった部分からは血のように体液が流れ出ている。

 その光景にローザは口を塞ぎ顔を顰めていた。

「あ、女の子に見せるようなもんじゃないな」

 兵士は軽い調子で言うとその様を見せないよう、ローザの前に立ち壁を作る。

「き、キサマ! 何者だ!」

 レオルグは怨嗟のこもる声を吐き出す。

「これから死ぬ奴には知る必要のないことだ」

 兵士は冷淡にそう告げると、一歩踏み出しおもむろに剣を突き刺した。豆腐に包丁を突き通すように。

「……へ?」

 レオルグはいきなり目の前に現れた兵士に成す術もなく剣で貫かれていた。

 ある程度間合いを取っていたにもかかわらず一瞬で飛び込み目の前に現れたのだ。

 そして、自慢の体に剣が刺さるなどとは思ってもいなかったレオルグは、自らに刺さる剣を見て間の抜けた声を漏らし、動かなくなる。

 兵士は剣を抜くと一閃! 剣を横薙ぎに振り抜きレオルグの首を飛ばした。

 そこに鮮血はなく、首がコロコロと転がると体は崩れ落ちていく。最初の一突きで核を貫いていたようだ。蔑んでいた偽アルマ同様、核を有する魔物だったようだ。

 兵士は床に転がる首を見つめ黙祷する。謝罪でもするかのように……

「あ、あの、あなたは?」

 ローザは条件反射的に訊ねた。

 そして兵士がレオルグの首に黙祷を捧げているのに気づき、涙を拭うと黙祷を捧げた。

 マリアに支えられ立ち上がったロマリオはローザの無事に安堵し、兵士に頭を下げる。

「よくやってくれた。姫を救ってくれてありがとう」

 兵士は一つ頭を下げるだけで何も言わない。

 頭をスッポリと覆う兜をかぶっているぐらいだから恥ずかしがり屋なのだろう、なんてことはないはずだ。一国の主に対するこの素っ気ない対応、この国の兵士ではありえない態度だった。その態度で兵士がこの国の兵士でないことがわかり、ロマリオとマリアは警戒を強めた。

「あなたは何者ですか!?」

 今度はマリアが先ほどのローザと同じ質問をする。同じ質問でも警戒心の表れた強めの口調になっていた。

 二人の警戒をよそにローザは自分を救ってくれた者の名を聞きたくて兵士の顔をジッと見つめていた。

 兜の隙間から不思議な双眸が窺えた。

 右目は綺麗な碧い瞳、そして左目は漆黒の瞳。

 ローザは不思議そうにその瞳を見つめていた。

「……わたしは……」

 兵士が名乗ろうとした時、謁見の間へ駈け込んでくる者たちがいた。

「陛下!? おお、無事であったか」

「マーサ、なぜここに?」

 駈け込んで来たマーサにロマリオは驚きの声を上げる。

 今は戦闘中、他の侍女たちと共に避難しているはずだった。それがなぜかここに来ている。レオルグの事も、目の前の兵士の事もある。異変に敏感になるのも当然だった。

「ワシは陛下に危機が迫っておると聞き、それを伝えるためにきたのですじゃ」

 マーサは状況を確認しながらそう告げる。

 床に転がるレオルグの首、ロマリオとマーサ、ローザの立ち位置、目の前の剣を握る兵士、この状況を見てこの兵士がレオルグを殺した危機の元凶なのだと判断し、いつでも魔法が放てるように魔力を練りこみはじめる。

「危機? 一体誰にですか?」

 マリアは訊ねる。

 確かにたった今危機は回避されたところだ。しかし予見したのならともかくマーサは聞いたと言った。何者かがここに侵入していると知っていた者がいる、ということだ。

 その侵入者が仮にレオルグだとして、レオルグが偽者で敵であったことはたった今知った事実である。それを知る者は敵以外には居ないはず。新たな敵を招き入れていることになる。

 そして侵入者が目の前の今だ正体不明の兵士ならば直ちに叩かなければならない。

 いずれにしてもまだ敵がいることになる。

 マリアは周囲と目の前の兵士を警戒しつつマーサの言葉を待つ。

「アキじゃよ、アキに聞いたのじゃ」

 マーサの後ろからアキが駆け込んできた。

「陛下! ご無事で……!?」

 アキは謁見の間の惨状を見て言葉を失う。

 ローザの無事を確認し、床に転がるレオルグの首を見て険しい表情になる。

 ローザはアキの出現にピクリと反応する兵士に気付いた。

 気になり様子を窺うと、真っ直ぐアキを睨みつけ、その瞳には仄暗い憎しみのようなものを宿していた。

 ローザはビクッとし、後ずさった。

 そのローザの反応に気付いたロマリオはローザにの手を掴み引き寄せる。

 アキは兵士の視線に気付き、鋭い視線を向ける。

「アキさん、危機とは一体なんのことですか?」

 マリアは自分の考えのどちらが当たっているのか確認する。アキの答え次第で攻撃対象が変わるのである。目の前の兵士か、それとも……

 アキは兵士を見据え口を開く。

「それは……」

 アキが言いかけるとその兵士は一歩アキに近づく。

「動くでない!」

 マーサは兵士に向け手をかざし兵士を制止する。動けば魔法を放つと暗に語っていた。

「それはそこにいる男です」

 アキは兵士を指差しそう告げた。

 ロマリオたちの警戒心が一気に跳ね上がる。

「そんな! その方はわたくしを守ってくれました。そんなはずは……」

 ローザは信じられない様子で声を上げるが先ほどの瞳を思い出し声尻の勢いが弱まる。

「お前は黙っていなさい!」

 ロマリオはそう言うとローザを背後に隠し、マリアはいつでも魔法を放てるように手をかざす。

 兵士は全員を一瞥すると口を開く。

「先ほど聞かれた答えですが……俺はその男に恨みがあるものです」

 アキは昨晩聞いたセリフと同じセリフだと気付きハッとなる。

「キサマ、昨晩の侵入者! 確かライアーとか言ったか」

 昨晩の侵入者と聞きマリアたちは今にも魔法を放ちそうになる。

「……あ? ライアー? 知らないなぁ誰の事だ?」

 兵士はバカにするように言い放った。明らかにマリアたちに向ける言葉遣いとは異なっていた。

「とぼけるな!」

 アキは声を荒げて睨みつける。

 兵士は今にも魔法を放ちそうなマリアたちに向かい告げる。

「俺が用のあるのはその男だけです。あなた方に危害を加えるつもりはありませんよ」

「戯言を! その男の言葉を信じてはいけません! 隙を見せれば襲ってきます!」

 アキはすかさず注意を促す。

「チッ、うるさいヤツだ!」

 兵士は舌打ちをすると一歩踏み出す。

 それを敵対行動とみなしマリアたちは動いた。

「動くなと警告した! 暴風よ!」

「炎よ!」

 マリアは竜巻を、マーサは炎を放った。

「チッ!」

 兵士は舌打ちすると、魔法の直撃を受けた。

 兵士を包むように竜巻がうねり、そのうねりへ炎が駆けめぐる。

 炎の竜巻が兵士を焼き尽くしていく。

ガシャン、ガラン、ゴロン

 轟轟とうねる炎の竜巻の音に混じり鎧が落ちる音が響く。

 鎧の中身が消し炭となってしまったのか? そこまでの威力はないはずだとマリアたちは疑問を抱く。

 それ以前に悲鳴の一つも聞こえてこない。

 効いていないのか、それとも実体のない魔物ないのか疑問が尽きない。

 魔法を解いて確認するのが手っ取り早いがそれをしていいものかと迷ってしまう。解いた途端に襲ってくるかもしれない。このまま焼き尽くしてしまった方が安心できる。

 そんなことを考えていると、異変が起こった。

パンッ!

 破裂音と共に、轟轟とうねっていた炎の竜巻が霧散し消滅した。

「なんじゃと!?」

「そんな!?」

 マーサとマリアは驚愕で立ち尽くす。

 炎の竜巻が消えたあとにはローブを纏いフードを被った男が立っていた。

 マーサはその男を見て目を見開き呟いた。

「そんな、まさか……アギト、じゃと……」


もうバレバレだなこれ……

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