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戦うお姉さん

 麻土香は背中に嫌な汗を掻き頬を引き攣らせていた。

 カッコよく登場したはいいものの、麻土香は焦っていた。麻土香が今指差しているような、いかにもヤバそうな敵と戦ったことなどなかったからだ。人を焼き殺そうとして高笑いするようなヤツにろくなヤツはいない。できることなら関わりたくないと思っていた。

 しかし、さすがに目の前で冬華の仲間が殺されるのを黙って見ていることもできず、つい手を出してしまったのだ。もはや引き下がることなど許されないだろう。いや、見逃してはくれないだろう、このヤバそうな敵は。

(どうしよ~どうして手を出しちゃったのよ私!)

 麻土香は心の中で泣いていた。そして、手を出した数分前の自分を呪っていた。

 かろうじて表情には出さずにいた。そんな表情を見せればたちまち攻撃されてしまう。フレイアは麻土香の隙を窺うようにずっと麻土香を見据えているのだから。

 フレイアに見据えられ、麻土香は恐怖と緊張で頭の中が真っ白になっていた。

(お、落ち着け私。まずは深呼吸よ……スーハー、スーハー……落ち着いた? ん~うん、たぶん大丈夫)

 「(さて、どうしようか)」

 麻土香は気持ちを落ち着かせると、フレイアを見据え考える。

 とりあえず、あの子たちを逃がすのが先決よね。当然邪魔してくるだろうから何とか足止めしなきゃか。さっきみたいに炎で囲まれるのも厄介よね……どうやって足止めしようか。

 麻土香が考え込んでいると光輝が声を掛けてきた。

「なぜキミがここに?」

 麻土香は光輝をチラリと見てこう思っていた。

 キミ?……たしかこの子アギトじゃなかった、アキ君と同い年なのよね? ということは私より年下でしょ? 口の利き方がなってないわ、そこのところハッキリさせとかないと、と。

 そんなことを言っている場合ではないのだが。

「そんなことはいいから早く逃げなさい。時間は稼いであげるから」

 麻土香は視線をフレイアへ戻して言う。

「しかし……」

 光輝は女性に庇われて自分だけ逃げることに抵抗があるようだったが、そんな事を考える間もなくフレイアが動いていた。

『逃がすわけがないでしょう!』

 フレイアは光輝たちへ巨大な炎を放っていた。

「!?」

 光輝は咄嗟に汐音を庇うように抱きしめる。

ボフンッ

 炎は光輝たちへは届かなかった。

 光輝たちの前に石の壁がそそり立ち炎を防いでいた。

「はぁ~」

 麻土香の魔法で防いだのだが、麻土香は二人を見て溜息を吐いていた。

「(羨ましい……)」

 光輝たちを見て、そんなことを呟けるだけには余裕が出てきたようだ。というか、振り切れていた。

 今のでもうやるしかないという状況になり、迷いがなくなったのだ。

 麻土香は光輝たちから視線をフレイアに戻すと、再び炎を放とうとしているのが目に映った。

「その子たちに手出しはさせないよ!」

 麻土香は声を上げると手をかざし魔法を放つ。

石の槍(ストーンスピア)!」

 石の槍がフレイアへ向け射出される。

『そんなもの!』

 フレイアは狙いを石の槍へと変えを炎を放つ。

 石の槍へ炎が命中し共に霧散する。

『フンッ』

 フレイアは鼻で嗤う。

「あ~鼻で嗤った! ムカツクぅぅぅ!」

 カチンときた麻土香は地団駄を踏むように地面を踏みつける。

 傍から見るとかなりみっともなく見え、光輝たちは呆気に取られていたが、それもすぐに一変する。

『グフッ!?』

 フレイアが苦悶も声を漏らした。

 フレイアの背後に岩のゴーレムが現れており、石の槍で一突きしていたのだ。

 麻土香はニヤリと笑う。先ほどの地団駄は油断を誘うためのフェイクだった。

 そして、麻土香が地面を踏みつけるたびに、フレイアのまわりの地面がせり上がりゴーレムへと姿を変える。

「ゴーレムたち、やっちゃいなさい!」

 麻土香がそう命じるとゴーレムたちはフレイアへ向け攻撃を仕掛けていく。

『ゴーレム程度で!』

 フレイアはゴーレムへ狙いを定め炎を放つ。動きの鈍いゴーレムは格好の的のように見える。事実、炎は一発も外すことなくゴーレムに直撃していた。

 ゴーレムの破片が飛び散り土煙が立ちのぼる。

『フハハハハハハハッ、脆すぎる。ただのゴミではないか』

 フレイアは嘲笑う。

 しかし麻土香は動じない。その顔に笑みを張り付けたまま立っていた。

ヒュンッ

『!?』

 フレイアは何かを察知したように顔を反らすと、石の槍が頬を掠めた。

 土煙が晴れると、フレイアの目の前に石の槍を握ったゴーレムがフレイアへ突きを放っていた。

 ゴーレムのフォルムはゴツゴツとした岩のイメージとは違い、無駄な岩が取り除かれたシャープな造形をしていた。そのおかげで、先ほどよりも動きがスムーズになりスピードも上がっていた。

 砕かれたと思われたゴーレムたちがフレイアへ向け再び攻撃を仕掛ける。

 目の前のゴーレムが連続突きを放つ。

『クッ!?』

 フレイアは体を左右に動かし躱していく。

 その背後から別のゴーレムが石の槍を横薙ぎに振り抜く。

 フレイアは体を屈めそれを躱す。

 また別のゴーレムが石の槍を上から打ちつける。

『チッ!?』

 フレイアは横に飛び退き躱した。

 しかしそこにも別のゴーレムが先回りし、待ち構えていた。

 ゴーレムたちは連携しながら攻撃を仕掛けていた。


 麻土香は岩の上に立ち、険しい表情でその光景を見据えている。その額には薄っすらと汗をかいていた。

「麻土香さん!」

 フレイアの意識がゴーレムに向いている間に麻土香の近くまで来ていた汐音が、麻土香の異変に気付き呼びかける。

 麻土香は視線をそのままに告げる。

「は、早く行きなさい! 今のあなたたちは足手まといよ!」

 麻土香が声を上げると、ゴーレムの動きが鈍り、フレイアの打ち込んだ炎で一体破壊された。

「くっ!?」

 麻土香の表情がさらに険しくなる。

 すべてのゴーレムを麻土香が魔力で制御し操っていた。連携させるほどに操るには、かなりの集中力を必要としていた。

 今一瞬意識が逸れたことで制御が鈍ったのだ。

『なるほど、そういうことですか』

 フレイアは麻土香へ視線を向けニヤリと嗤う。

 フレイアはゴーレムの攻撃を掻い潜りながら麻土香へ向け炎を放つ。

 その炎は麻土香には届かず、足元の岩へ当たる。

ボフンッ

「うわっ!?」

 岩が一瞬揺れ、麻土香の集中力を奪う。フレイアの狙いはそこにあった。麻土香に当てる必要はなかった。意識を逸らすことができればそれだけでよかったのだ。

 フレイアは、動きが鈍くなり連携をとれなくなったゴーレムたちへ魔法を放つ。

『ハァァァァァァァァァッ!』

 フレイアの体から炎がほとばしり全方位へ炎が放たれた。

 ゴーレムたちは次々と破壊されていく。

『アハハハハハハハッ』

 フレイアの狂気に満ちた嗤いが響き渡る。

「チッ!?」

 麻土香は舌打ちするとゴーレムの操作を切り、一体のゴーレムの命令を上書きする。

 ゴーレムに施してある基本的な命令はフレイアへの攻撃。操らなければオートでそれを遂行する。麻土香はその命令を別の命令へと書き換えた。

 他のゴーレムが破壊されて行く中、その一体は炎を掻い潜りフレイアへと近づき羽交い絞めにする。

『な、なにを!?』

 フレイアはこのままゴーレムごと串刺しにでもされるのだと思い、体を炎へと変えようとする。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 麻土香は両手を地面へ押しつけ魔力を注ぎ込んだ。

 すると、フレイアのまわりの地面が壁のようにせり上がり、そのままフレイアを包み込み岩のドームを造り上げる。

 麻土香はフレイアに向け言い放つ。

「あんたも同じ目にあいなさい! はぁぁぁぁっ!!」

 さらに魔力を注ぎ込むと岩のドームの中からフレイアの叫び声が上がる。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 今頃フレイアは岩のドームから降り注ぐ石の槍によって串刺しのなっているだろう。

 そして麻土香はすぐさま声を掛ける。

「今のうちに逃げて!」

「あれで仕留めたんじゃないのかよ?」

 カルマが能天気に言う。あくまでも麻土香がそう感じただけで、本当はもっと切迫した感じに言っていた。

「あんなのあいつに効くわけないでしょ! 私は冬華ちゃんみたいに力を使いこなせないのよ!」

 要するに、まだ浄化の力は使えないということだった。当然フレイアが受けているものはただの土系統の魔法ということになる。効いていないのは間違いなかった。

「だから、早く……!?」

 麻土香が岩のドームへ視線を向けると、ドームの一部が赤く光っていた。

 見ただけで今何が起こっているのかがわかる。内側から高温の炎が放出されているのだろう。(じき)に岩が解け炎が外へと溢れてくるだろう。

 麻土香はもう一度地面に手をつき魔力を注ぎ込む。

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ドームの上からさらにもう一層ドームを重ねる。

 それでも直に破られるのは目に見えている。

 焦る麻土香は声を張り上げる。

「早く逃げてぇぇぇっ!」


ドッゴォォォォォォォォ……


 岩のドームの崩壊する音と共に炎が吹き上げる音が辺りを包む。

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 麻土香たちは爆風の余波を受け吹き飛ばされた。

 麻土香は起き上がると振り返る。

 ドームのあった場所に黒い炎が燃え盛っていた。

 黒い炎が凝縮していくと人の形へと戻って行く。

 フレイアへと形を戻すと、その体には怒りを表すかのように黒い炎が纏われていた。

『許しませんよ、小娘がぁぁぁぁぁ!』

 フレイアは怨嗟のこもった声を上げる。

 麻土香はその声を聞き頬を引き攣らせる。

「や、やばっ!? 怒らせちゃった……(冬華ちゃんまだなの!? これ以上無理なんですけど~)」

 麻土香はなかなか戻らない冬華に愚痴をこぼす。

 光輝たちは怒りに染まった黒い炎を目の当たりにし戦慄した。


がんばれ麻土香!

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