わからない災厄
森を足元にして見る夕陽はなんだか不思議な感じがする。現実感がないとゆーか、実は夢なんじゃね? って思ったりする。こんなところに生身でいるなんて今までじゃ考えられないことだったから……
重力に引かれて落下がはじまる。
……ズザッ
「フ~、もう大体オーケーかな」
コツさえつかめば何とかなるもんだな、ひょっとして俺才能あるんじゃね?
それこそ、アニメやゲームの主人公ばりに……
「アキ」
不意に呼ばれ振り向くと、目の前に薪が飛んできていた。
「!?」
体が瞬時に反応し、真剣白羽取りのように両手で挟み取る。
バチンッ、ガンッ
……取り損ねた。
「いってーーーー」
「クックックッ、まだまだじゃな」
ばあちゃんだった。
「ばあちゃんいきなり投げてくんなよ~」
「バカもん、敵はどこからくるかわからんのじゃぞ」
「そりゃ、そうだけどさぁ」
俺は額をさすりながらぶぅたれる。
「もう日が暮れる、今日はここまでにして夕食にするぞ」
「へ~い」
夕食後俺は食器を片付けながら聞いてみた。
「なぁ、ばあちゃん……いきなりなんだけど災厄ってなに?」
「ん?ずいぶんと唐突じゃな」
「気になってたんだけど後でいいかなって。で、今思い出した」
「おぬし思い付きで行動するタイプなのか?」
ばあちゃんは呆れ声でそんなことを言う。
「そういうわけでもないんだけど……」
「ん~災厄か……それはな……」
「うん……」
「ワシもよくは知らんのじゃ」
もったいぶってそれかい! お約束かよ! ホントに異世界かよ! あやうくズッコケるとこだったわ、恥ずかしい……
「おいおい!? よくわからんことで呼び出されたんかい俺たちは!」
本気で抗議する俺にばあちゃんは説明し始める。
「まぁまて、古い文献にはな、この地ゲーティアにはあるものが封じてあると記されておるのじゃ」
「あるもの? 物なのか?」
「さぁのう、物なのか者なのかはわからん。ただ、その封印が解かれると世界が滅ぶとされておるのじゃ」
話が異様にデカくないかい?
「滅ぶって、大袈裟じゃねぇの?」
「そうじゃの、ワシもそう思うが、用心に越したことはないからのう」
「まぁ、そうだけど……」
備えあれば患いなしってことか。
「それに、前回封印が解けかけたことがあってのう。噴き出した瘴気にあてられた魔物が変貌して各段に強くなってしもうたんじゃ。城や村の人たちにも被害が及んだ」
「それやべぇじゃん、どう治めたんだ?」
「うむ、封印は四つの石碑によって成り立っておってのぅ、その石碑を修復したんじゃ。応急処置ではあったがのう。そのせいで周期が早まったのかもしれん」
ばあちゃんはその可能性を今更ながらに思い至ったようだ。
「なんでしっかり直さなかったんだ?」
「今の段階ではここまでしか修復できないと言ったおったな」
「え? ばあちゃんたちが直したんじゃないの?」
「違う。召喚してこちらに来ていたものたちじゃ」
「マジか。スゲェな。で、その人たちは?」
「わからんのじゃ、生きておるのか死んだのか。はたまた元の世界に還ったのか……」
(ん? ばあちゃん、なんだか少し悲しげな声してた……)
「そっかぁ、わかんないのかぁ……ん?ちょっと待って」
今肝心なこと言ってたよね!
「どうしたのじゃ?」
「あの~俺たちって還れるんだよね?」
俺はズバリ直球で聞いてみた。
「……」
俺は無言の重圧に耐えられなくなり声を上げる。
「無言はやめて!」
「……すまんのう、還しかたはわからんのじゃ」
ばあちゃんは申しわけなさそうに言った。
「やっぱりか! そんな雰囲気出てたよ。還すなんて一言も言ってなかったもんなぁ。ハァ~淡い期待がさらに薄くなったーーー」
「すまん」
ばあちゃんが頭を下げた。
俺は驚き何とか頭を上げるように言い繕おうとする。
「あ~いや、その……そう! わからないってことは可能性がないってわけじゃないじゃん? だから、還る方法を一緒に探してくれたらいいなぁなんて……頭上げてくれよ~」
「無論そのつもりじゃ……ありがとうのう」
ばあちゃんは微笑んで言う。
話終わって俺は、
7.魔物に関する勉強に入るのだった。
翌朝、リオル村
サラは……眠れなかった。
「ファ~~ァ、ひどい顔……」
(アキさんのこと考えてたら眠れなくなるってどれだけ意識してるのよ、恥ずかしい。今日帰るのにこんな顔見せられないじゃない)
サラは鏡とにらめっこしながら、どうやって目の下のクマを隠そうかと考えていた。
「ハァ~顔洗って朝食にしよ……」
食堂に行くとサラの顔を見た女将さんが心配してきた。
サラはあまり余計な事を言うとまた勘ぐられそうなので誤魔化すことにした。
今日発つことを言うと、調子の悪そうなサラを見かねて、城に向かうキャラバン隊の馬車に乗せてもらえるように手配してくれた。
(なんだか心配ばかり掛けてるなわたし……)
サラは自嘲気味に笑うと申し訳ないとは思いつつ、ここまできたらご厚意に甘えることにした。
(ホント女将さんには感謝してもしきれないな)
キャラバン隊は準備があるらしく、出発はお昼になるそうなのでサラは買い物に来ている。
「せっかくだからアキさんにお土産買っていこうかなぁ」
(べ、別にそう言うんじゃないからね! ただのお土産だから!)
サラは、心の中で言い訳をする。
というわけで、ただいま出店のアクセサリーを物色中
「あ、これ綺麗。アキさんに似合うかなぁ。わっ!? 高いなぁ、ってこれペアリング!?」
さすがに指輪はダメよね。それに高いのも気を使わせちゃうし……
サラはそう思い他の物を探す。
「あ、こっちのネックレスならいいかな。小さな宝石?……これ魔石が付いてる」
サラはマジックアイテムかと思い店主に聞いてみる。
「すいませーん、これってマジックアイテムですか?」
「え? あ~それは……そうなんですけど、効果がわからないんですよ」
「はぁ」
サラは効果のわからない物を店に並べて大丈夫なのかと訝し気に店主を見る。
「いろいろ試したんですけど何も起こらなかったんですよ。ですから普通のアクセサリーとして販売しています」
それを聞いたサラは考え込む。
発動条件があるとか? そんなことはとっくに調べているはずよね。ホントに特に効果のないものなのかも……そう思いはじめ買う方向へと思考が移っていく。
「普通のアクセサリーならそんなに高くはないわよね?」
「二つセットでしたらさらにお安くしますよ!」
店主はすかさずセット購入を進めてくる。
「買います!」
サラは即決した。
「まいどあり~」
フンッフッフンッフッフ~~ン
サラはいい買い物できたと思い鼻歌が漏れる。そしてこの二つの行き先を考える。
一つはアキさんでぇ、もう一つはわたし……!? これってペアルックじゃない!? どうしよ~アキさん気にするかなぁ? 嫌だったりするかなぁ?
あ、でもお土産だから大丈夫よね? お土産と言えば大量に買ってばら撒くものだもんね?
うん! きっと大丈夫!
サラはそう結論づけキャラバン隊との集合場所へと足を進める。
「アキさん喜んでくれるかなぁ、フフッ」
こうして買い物を終えキャラバン隊と合流し出発した。
途中で野営することになるけれど、護衛がいるから大丈夫とのことだ。この分だと明日のお昼には着くかな。
そうそう、このキャラバン隊は北東の山間にある村からきているそうだ。
キャラバン隊に同行してる女性の話によるとレイクブルグ近くの街は見た限りでは壊滅していたそうだ。しかし、通り過ぎたあとに人影を見たらしいんだが、誰も信じてくれなかったらしい。真相は、確認のために戻るのは危険で得策ではないから見なかったことにした。なのだろう。この女性もそのことはわかっていたらしく仕方がないと諦めていたそうだ。それでも罪悪感のようなものが残っていて、懺悔のようにわサラに話したのだろう。
レイクブルグ付近がそんな状態になっているなんて……このキャラバン隊よく無事に通り抜けられたわね。護衛のみなさんがかなりの手練れってことかしら。
サラはそう思い護衛の体さばきや足の運びを窺い見る。その視線に気づいた護衛の一人がサラの方を照れくさそうにチラチラと見る。
このときサラはこんなことを思っていた。
(あの人きっと勘違いしてる。誤解されないようにもう見るのはよそう)
サラは視線を逸らして別のことを考える。
「黒髪の男女、無事だと言いいのだけれど……」