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修行3

 アキは光輝の正面に立ち木刀を正眼に構える。

「よし、とりあえず見せてくれ」

「ああ、わかった」

 光輝は木刀に手をかざす。

「光よ、清浄なる光よ、剣に纏いて力と成せ! 真聖剣!」

 光輝は木刀に光を纏わせ構えをとる。

 真聖剣を構える光輝を、アキは見定めるように観察する。

 アキは険しい表情を見せ一つ頷く。

「なるほどな……じゃあ、打ち込んで来い」

 光輝はそれを聞きコクリと頷く。

「キエェェェェェェッ!」

 光輝は気勢を上げるとアキに打ち込んでいく。

 アキは剣閃を見逃さないよう観察する。まともに打ち合っては木刀がすぐに折れてしまうため、光輝の真聖剣を受け流していく。


 その光景をサラは浮かない顔で見ていた。

「サラさん? どうしたんですか、そんな浮かない顔をして」

 カルマと話を済ませた汐音がサラの表情が気になり訊ねた。

「い、いえ。なんでもありません」

 サラは汐音から視線を逸らせて答えた。

 サラは汐音の洞察力が鋭いのを知っていたため、距離を置こうとした。

「そうですか? 思いつめていたように感じたのですが気のせいでしたか……」

 汐音はそういうと引き下がってくれた。

 サラは内心でホッとした。昨日のアキの様子がおかしかったことを気にしているとは知られたくなかったのだ。折角信じてもらえたアキが、また疑われてしまうと思ったからだ。

 アキは悪夢にうなされていたのだけれど、目覚めた後の反応が以前と違って冷たかった。どんな時でも優しかったアキとは思えない反応に、サラは戸惑いを感じていた。

 サラは自分を誤魔化すように、それは光輝のせいだと思い込もうとしていた。

 今思えば、あの時の対応は自分のモノとは思えないほど酷いものだったと、サラは自己嫌悪していた。そして、なぜあんなことを口にしたのかと疑問に感じていた。

 一度疑問を抱くと、些細な疑問があとからあとから出てきてしまった。

 例えば、アキはマーサの事をマーサ殿と呼ぶ。マーサの立場を考えての対応だと思うけれど、あのアキがそんな事を気にするだろうか? あの冬華の兄ということもあり、気にしないとも思える。しかし反対に、兄として手本となろうと立場を考えるようにしているのかもしれない。

 アキの生存はタリアから聞いた。アキはタリアと連絡を取り合っていたということだ。いつ知り合ったのだろう? アギトに扮していた時だとは思う。ではいつ? 牢に投獄されていた時なら十分時間はあっただろうけれど……

 アキはなかなかサラに手を出そうとしない。大事にしてくれているのだとは思う。しかし、あのアキが我慢できるだろうか? いや、肝心なところでチキンだから手を出せないのだろう。

 と、疑問は出るが、答えも出るという些細な疑問ばかりだ。

 だからこそ戸惑う、アキは何も話してくれない。ただ微笑みかけてくるだけで。サラにはそれだけで十分だった。だから気にも留めなかったのだが……

 サラは考える。

 いつからだろう? わたしがそんなことを考えるようになったのは? アキが戻った頃はそんなことは考えもしなかったのに……ここ最近、かな? 最近なんだか温かい気配を感じることがある。見守られているような、そんな気配。……冬華ちゃんが言ってたファンクラブ? って言う人達なのかな? よくわからないけれど、その頃からだと思う、些細なことが気になりはじめたのは……よし、今度アキに確かめてみよう。

 サラは考えをまとめると、アキへと意識を集中する。


 明らかに浮かない顔をしているサラを気にしつつ、汐音は光輝たちを見つめる。

 ハッキリ言って眩しかった。光輝の真聖剣をアキが木刀で受け流すたびに光が瞬いているため、目がチカチカしてきていた。

 汐音は視線を少し反らし、直視しないようにした。

「あれ?」

 汐音はあることを思い出し、声を漏らしていた。

「どうしました?」

 今度はサラが訊ねてきた。その表情は迷いが晴れたようなスッキリしたような表情だった。

 汐音はその急な変貌ぶりに戸惑い、返事を忘れていた。

 サラは無視されるとは思っておらず、汐音を見て首を傾げる。

「汐音さん?」

「え? あ、はい。すみません。えっと、五十嵐君、どうして木刀を使っているのかと思いまして」

 汐音はアキを視線で追いながら疑問を告げた。

「どうしてって、光輝さんの修行に付き合うためでしょ?」

 サラは汐音の疑問の意味がわからず再び首を傾げた。

「ええ、そうなんですが……冬華ちゃんの話だと五十嵐君、一刀はあまり得意ではないってことですから」

 汐音は冬華の言葉を思い出しながらそう言った。

 サラもそれを思い出し、「あっ!?」と声を漏らした。サラも忘れていたようだ。だから迷うことなく普通の木刀をアキに手渡していたのだ。

「ですが、サラさんが差し出した木刀を五十嵐君が受け取らないとは思えませんし、修行ですからそれでもいいと思って普通の木刀を使っているのでしょう。私のただの思い過ごしでしょうね」

 汐音はサラを刺激しないためにそう言った。どちらとも言えるため汐音も悩んでいた。修行とは言え、光輝を相手に得意でない普通の木刀では相手は務まらない気もする。そしてアキならばそんなハンデものともしないかもしれないとも思っていた。結論を言えば、なぜ普通の木刀を使っているのかわからなかったのだ。

「そうですか……」

 サラは確認事項が増えたと思い、頭の中にメモを取った。


 数え切れないほどの光の(またた)きが起こった後、アキは声を上げた。

「光輝、限界まで魔力を籠めろ!」

 アキが声を上げると、光輝は木刀に魔力を籠めはじめる。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 光輝の真聖剣は昨日と同じように輝きを増していく。

「クッ!?」

 なんの変化のない真聖剣を見て光輝は顔を顰める。

「まだだ! 限界までと行っただろう!」

 アキは怒声を上げる。

「グオォォォォォォォォッ!!」

 光輝は魔力を絞り出す勢いで真聖剣へと魔力を流しこむ。

 そこでフッと光輝の意識が途切れる。

 真聖剣の輝きは消え、光輝は糸の切れた人形のようにその場に倒れた。

「会長!」

「光輝!」

 汐音とカルマが光輝へと駆け寄る。

 汐音は光輝を抱き起し、容態を見る。

「呼吸は……してる。怪我もしてない」

 汐音は光輝へと視線を向け、内側を見るように視線を鋭くする。

「え!? 魔力が尽き掛けてる!?」

 汐音は焦るように光輝へ手をかざすと、回復魔法を応用し自分の魔力を光輝へと注ぎ込んだ。

 アキはその様子を黙って見守っていた。

「……うっ、くっ、ハァハァ……」

 光輝はまだ目覚めてはいないが、呼吸は整ってきていた。

「これはなかなか難しいな……汐音、光輝をしばらく休ませてやってくれ」

 アキは難しい顔をすると光輝の事を汐音に任せた。

「え、ええ」

 汐音はカルマに頼み光輝を木陰へと運んでもらった。

「五十嵐君はどうするんですか?」

 立ち去ろうとするアキに汐音は訊ねた。

「今日はもうやめた方がいい。あまり無理をすると取り返しのつかないことになる。光輝にもそう伝えておいてくれ」

「え、ええ。わかりました……」

 汐音は光輝のもとへと駆け寄る。

 アキは言うだけ言うとサラを連れてその場をあとにする。

「サラ、マーサ殿に頼まれたお使いがあるんだろ? 手伝うよ」

「え、はい! ありがとうございます、アキ」

 サラはアキの優しさに笑顔で答え、アキの腕に腕を絡め城門の方へと歩いて行く。



「う、つ……」

「お、目が覚めたみたいだぞ」

「会長? 大丈夫ですか?」

 汐音は光輝の様子を窺うようにのぞき込む。

 光輝は汐音の顔を間近で見て、寝起きドッキリのように硬直した。

「え? し、汐音君?」

「はい。それで具合はどうですか?」

 汐音は再度訊ねた。

「えっと、とても寝心地がいいいです」

 この距離感、光輝は瞬時に確信した。これは膝枕だと。昨日アキがされているのを見ていたこともありすぐにピンときていた。

 汐音は顔を赤くしそっぽを向く。

「ち、違います。私が聞いているのは体の方です」

「体?」

 光輝は汐音の体を見た。

「えっと、なんと申しましょうか……とてもスタイルはよろしいかと」

 光輝はアキのように変態だと思われないように慎重に言葉を選んだ。

「な!? 何言ってるんですか! 私のではなく会長の体の具合を聞いているんです!」

 汐音は顔を真っ赤にして声を上げた。

 光輝は動揺の為か見当外れな回答ばかりしていた。

「アッハハハハハハハハッ、この調子なら大丈夫だろ。光輝がそんな事いうないんて珍しいよな」

 カルマは光輝の様子を見て大丈夫そうだと安心し、腹を抱えて笑い出した。

「笑わないでください!」

 汐音はカルマを睨みつけ声を上げる。しかし、テレが残っている状態で怒っても迫力に欠けていた。

「お前のそんな表情も珍しいよな。可愛くていいんじゃねぇか? よかったな光輝」

 カルマは汐音の顔をまじまじと見ると、光輝にそう告げた。

「何がいいんですか!」

 汐音が抗議の声を上げる。

 光輝は何のことかと首を傾げる。そのせいで汐音の上でもぞもぞ動く形となってしまった。

「っ!?」

 汐音はビクッとすると光輝の頭をガシッと押さえる。そしてキッと光輝の目を見据える。

「会長。動かないでください」

「は、はい」

 ヘビに睨まれてた蛙の如く光輝は硬直してしまった。

 カルマはそんな二人を見てなおも笑い続ける。 光輝はこの流れを変えるべく話を変えることにした。

「アキはどうしたんだ?」

「五十嵐君なら会長が倒れた後、サラさんとどこかへ行ってしまいました。会長、魔力の使い過ぎで倒れてしまっていたんですよ。だから、今日はもうやめた方がいいと言って……」

 汐音は光輝の頭を固定したままそう説明した。

「そうだったのか……アキをガッカリさせてしまったかもしれないな……」

 光輝は目を伏せて自分の不甲斐なさを恥じた。

「そんなことは!?」

 汐音が声を上げるのと同時に後ろから声を掛けられた。


「仲がよろしですね」


 光輝はガバッと置きその声の方へ振り向く。カルマも同じように振り向いていた。

 汐音は普通に振り向いていたが二人の様子がおかしいのに気づき、警戒をはじめる。

 目の前にはその低い声からして男と思われる人物が立っていた。男はローブを纏いフードを深く被り杖を突いていた。

「あなたは何者ですか? なぜ気配を消して近づいたんですか?」

 光輝は警戒を解かず訊ねた。

 気配を消して現れるなんてろくなヤツじゃない。光輝とカルマが警戒していたのはそのためだった。

「気配? これは失礼しました。魔物に襲われないように気配を消していたのですが、それを忘れてそのまま来てしまいましたか。お恥ずかしい」

 男は悪びれもせずそう言った。

「それで、あなたは何者で、なぜここに? 顔は見せてくれないんですか?」

 顔を隠すヤツにろくなヤツはいない。光輝はアキを思い出していた。

「わたしはライアーと申します。ただの旅人です。ここへは大きな魔力を感じたので様子を見に来たのです。しかし、いきなり消えてしまいました……」

 男はライアーと名乗ったが顔は隠したままだった。

 光輝たちは今だ警戒中だ。

「えっと……ハァ、これでいいですか?」

 ライアーは溜息を吐くとフードを少しだけ上げて見せる。

 光輝たちは息を飲んだ。

「わたしは以前まで武芸者でした。しかし修行中に怪我をしてしまい光を失ってしまいました」

 フードの下は包帯でグルグル巻きにし両目を覆っていた。

 ライアーの持つこの杖は、視覚障害者の人たちが使う白杖(はくじょう)の役割を果たしているのだろう。

「もはや武芸者としては生きて行けず、こうして旅をし自分にできることを探している最中なのです」

 光輝はライアーの話を聞いている最中注意を払っていたが、ライアーからは妙な気配は感じなかった。危害を加える気があるなら声を掛けずに攻撃を掛けてくるはずだと判断し警戒を解いた。

「そうでしたか。旅をするには大変じゃないですか? その……目が……」

 光輝は言いずらく口ごもってしまう。

「ハハハッ、大丈夫ですよ気を遣っていただきありがとうございます。この杖で障害物は判別できますし、人は気配でわかりますから。こんなところで修行の成果が出るとは思いもしませんでしたがね」

 ライアーはそういうと、笑いだす。

 光輝たちは笑っていいものかと悩んでいた。

「それで、さっきの魔力ですが、キミでしたか?」

 ライアーは光輝へと体を向け言った。

「え? はい、わかるんですか?」

「目が見えないとね、感覚が鋭くなるんですよ。今君の中の魔力は極端に減少している。その代わりに別の魔力が注ぎこまれていますね。とても優しい、キミのことを想っている、そんな魔力を感じます」

 ライアーは口元を緩めながら言った。

「え? どういうこと?」

 光輝は意味がわからず訊ねた。

「ああ、それなら……」

 カルマは思い当たることがありそれを口にしようとする。

「ワーワーッ!」

 汐音が顔を赤くし声を上げるとカルマの胸倉を掴み上げる。

「(それ以上口を開けば、二度と開けないようにしますよ)」

 汐音は眼光鋭くカルマを睨みつけ小声で脅迫する。

「お、おう。わかったよ」

 カルマは頬を引き攣らせ頷いた。冬華といい、汐音といい、異世界の女はみんなこんなに気が強いのか? カルマは戦慄した。異世界半端ねぇ、と。

 首を傾げている光輝を正面にとらえ、ライアーは口を開いた。

「なにか迷いを抱いているようだね。……どうだろう、わたしが修行を見て上げようか?」

 ライアーはいきなりそう申し出てきた。

「しかし、会長は……」

 汐音は光輝が疲労しているため修行はさせたくないと思っていた。焦る光輝は修行をしたがるはず、そんな無茶をさせるわけにはいかなかった。

「あ、もちろん実践とかではないですよ。わたし、こんなですから」

 ライアーは両手を広げて見せる。目の見えない自分には無理だということだろう。

「では何を?」

「わたしが見るのは、そうですね……心の修行、と言ったところですかね」

 ライアーは胸に手をあてそう告げた。


 ライアーのインパクトに注意が行き、光輝はこの時失念していた。ここが城壁の内側だということを……



結衣が孤立していきますねぇ。

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