失踪
「スースー……ん、お兄ちゃん? ……ん?」
冬華はアーサーがいないのをいいことにアキのベッドに潜り込んでいた。アキの言ったように世間体などどうでもいいと開き直っての強行だった。
しかし、
「あれ? お兄ちゃん? ……いない……」
冬華は寝ぼけ眼をこすりながらアキがいないことを確認した。
枕元に紙切れが一枚置いてある。
冬華はその紙を手に取りボーッと眺める。
置き手紙のようだ……
自分探しの旅に出ます。
探さないでください。
by 空雄
PS エロい格好でベッドに潜り込むんじゃねぇ!
エロい格好? なんのことだろ? 冬華はボーッとそんなことを考え、もう一度文面を読み込む……冬華は一気に目が覚めた。
「自分探し? ……夜逃げしたぁぁぁぁっ!?」
冬華はベッドから飛び起き、部屋を出ると総司の部屋に飛び込む!
「ソウ君! お兄ちゃん来てる?」
冬華はまだ寝ていた総司を叩き起こし訊ねる。
「ん~アキ? ……知らな、い!? な、なんて格好してるんだ!」
冬華は寝起きのまま飛び出して来ていた。
上は薄手の布の服、下は下着のみというなかなかエロい格好をしていた。
「チッ!」
冬華は舌打ちすると総司を置いて部屋を出る。
「そんな格好で出歩くな!」
部屋の中からそんな声が聞こえてきたが、冬華はお構いなしにカレンの部屋へ入って行く。
冬華は、アキが自分の格好を見てムラムラし、自分探しの旅に出る前にカレンの秘境を探検し財宝に手を出していないかと危惧していた。
「カレンちゃん! 秘境は荒らされてない? 財宝は無事?」
冬華はカレンを起こすと意味のわからない事を口走る。
「ふぇ? ……」
寝起きのカレンはまだ夢の中だと思い、二度寝に入ろうと目蓋を閉じる。
「寝るなぁ! 起きないと引ん剥いて確認すんぞ!」
冬華は返事を待たずしてカレンの服を引ん剝いていく。
「へ? ……!? ちょっ、ちょっと冬華ちゃん何してるの!?」
カレンは服を引ん剥かれ最後の砦へと手を掛ける冬華に気付き、最後の砦を必死で守りながら声を上げた。
「何って、秘境の確認よ! お兄ちゃんが迷い込んでないか見せなさい!」
冬華はもう夢中になって引き剥がそうとする。もう何を言っているのかわからなかった。
「こんなところにアキがいるわけないでしょ!」
カレンは涙目になって最後の砦を死ぬ気で守る。
「見てみないとわかんないでしょ! いいから見せなさいよ!」
冬華は目的を見失っていた。カレンの秘境を見ることに目的がすり替わっていた。
「見なくてもわかるよ!」
カレンが声を上げるのと同時に扉をノックする音が聞こえてくる。
「カレンちゃん、冬華ちゃん来てる?」
総司だった。
「何よ! 今取り込み中よ!」
冬華が苛立つ声を上げる。
「なんだ、やっぱりいるじゃないか」
ギィ
扉が開かれようとする。
今の現状を見られるのはマズイ! こんなあられもない姿、アキにも見せてないのに、人に見られたらお嫁にいけない! カレンは乙女の純情を守るため声を張り上げた。
「開けちゃだめぇぇぇぇっ!」
カレンは枕を扉へ向けて投げつけた。
バフッ
パタン
声に気付いたのか、枕効果なのか、総司は扉を開くのを断念してくれた。
「はぁ、危なかった……」
カレンがホッとし油断した瞬間。
ズルッ
「!?」
最後の砦はあっさり突破され秘境を晒されてしまった。
「ふむ、確かにいない」
冬華は顎に手をやりマジマジと見ると呟いた。
「キ、キャァァァァァァァァァァァァァッ!?」
カレンは甲高い悲鳴を上げると引ん剥かれた服で秘境を隠す。
「だから言ってるじゃない! いるわけないでしょ! 何考えてるのよ!」
カレンは涙目で冬華を睨みつける。
「あはは、だよねぇ。でも女の子同士なんだし、そんな悲鳴上げなくてもいいじゃん」
冬華は乾いた笑いを漏らし、過剰に反応するカレンに呆れたように言った。
「悲鳴も上げるわよ! 冬華ちゃんの目あぶなかったもん! 襲われてると思ったもん!」
カレンは掛け布を手繰り寄せ包まる。
「そんな事しないよ~」
冬華はカレンににじり寄り肩に手を乗せようとする。
「してたじゃん!」
カレンは冬華の腕をガシッと掴み、警戒心マックスで冬華を見据える。
「えぇぇ……」
冬華は顔を引き攣らせる。
「まったくもう……ハァ、それで? 何があったの? アキがどうとか、秘境がどうとか言ってたけど」
カレンは溜息を吐くと冬華に向き合い改めて訊ねた。
「秘境? なんのことかわかんないけど、これ見てよ」
冬華は自分が口走っていたことすら忘れ首を傾げると、下着に挟んでいた手紙を取り出しカレンに見せた。
カレンはどこにしまってるのよ!? と頬を引き攣らせつつ、その手紙を受け取り内容に目を通した。
「え? エロい格好って……」
カレンは冬華の格好を見て絶句する。
「冬華ちゃん! そんな格好でアキのベッドに潜り込んだの!? ダメだよ兄妹なんだから!」
カレンは本文よりも追伸の方に食いついていた。
「いやいや、そっちじゃなくて自分探しの方だよ」
冬華は冷静に指摘した。
「え、あ、うん、ゴメン。そうだよね」
カレンは何も悪くないのになぜか謝った。
「これ、おじいさんに知らせた方がいいよ」
「それもそうだね。じゃあ、おじいちゃんのとこ行こう」
冬華はすぐさま立ち上がると部屋を出て行こうとする。
「ちょっ、ちょっと待った! 冬華ちゃん服着て服!」
カレンは掛け布に包まったまま冬華を引き止めた。
冬華とカレンは着替えると外で待ったいた総司を連れて嵐三のもとへと向かった。
嵐三はすでに起きて座禅を組んでいた。
嵐三はアキの起き手紙に目を通すと一つ溜息を漏らす。
「冬華、アキのベッドに潜り込むのは構わんが、エロい格好というのはいかんぞ。アキとて男じゃ、寝ぼけてそのまま間違いが起こらんとも限らんのじゃから」
嵐三は本文ではなく追伸の方に食いつき、注意した。
「いやいや、だから、そっちじゃなくて自分探しの方だってば! おじいちゃん何か知らない? お兄ちゃんと何か話してたよね?」
冬華はアキが嵐三にコソコソ何かを言っているのを見ていたため、今回の件と何か関係があると思っている。
「うむ、アキは先に出ると言っておったな。ローズブルグで合流しようと言っておったぞ」
嵐三は顎に手をやり髭を弄ぶように指を動かす。髭など生やしてはいないのだが。
「ホントに?」
冬華は疑いの視線を向ける。
「もちろんじゃ。自分の惚れた女子が自分の偽者と一緒におるとなればじっとなどしておれんじゃろ。お前たちの前ではそうは見せんかったがのう」
嵐三の言葉を聞き、確かに、アキが我慢できるはずないと思いたった。昨日の剣幕を見ているからなおさらだ。
「でも、一人でなんて……」
カレンが心配そうに呟いた。
今回はシルフィが付いているわけではない。本当に一人なのだ、魔法も回復もできないアキ一人なのだ。心配になるのも無理はない。
「大丈夫じゃろう。今の空雄ならそこいらの魔物程度相手に死んだりはせんよ」
嵐三は何か確信があるように言った。
「おじいちゃんがそういうならそうなんだろうけど……あのバカ兄! 私ぐらい連れて行ってくれてもいいのに……」
冬華は頬を膨らまし、ここにいないアキに文句をいう。
「まあ、ローズブルグへ向かえば合流できるんだし、回復したらすぐにでも向かおう」
総司が話をまとめにかかる。この際にやれることをやろうと考えていた。
「そういうことじゃ、アキに会いたいのであればさっさと力を回復させるのじゃな」
「は~い」
冬華は早く回復できるように努めることにした。
「よし、とりあえずご飯にしよう!」
……
……木々の生い茂る森林地帯。
道なき道をフードを深く被った男が進んでいく。
山の麓、違和感のある場所を見つけ、踏み込んだ。
そこには大岩があり、大岩に隠れるように闇へと続く洞窟が口を広げていた。
男は入り口の前に立つと、意を決したように闇の中へと足を踏み入れた。
魔物がいつ襲ってくるかもわからない。男は周囲の気配に気を配りながら慎重に進んでいく。
奥へと進むにつれ気温が上がっていく。地熱の為なのか、この山が活火山なのかはわからない。
男は額から流れる汗を拭いながら進む。
どれくらい進んだだろうか、ここまで魔物に出くわすことはなかった。
しばらく進むと、奥に光が射しているのが見えた。
男はそこが目的地かと思いさらに警戒を強める。
慎重に進んでいくと、風が流れていることに気付く。あの光は外から射し込んだ日の光なのだろう。風はそこから流れてきているようだ。
男は岩の影から光の射す広い空間を除き見る。
目の届く範囲には何者も存在しなかった。気配もない。
男はそれでも慎重にしばらく待つ。
何も起こらないことを確認すると男は一歩足を踏み出した。
ゾクリ
男は寒気を感じ足を止め、呼吸も止めていた。
その空間に足を踏み入れた瞬間、汗がにじむほど熱がこもっていた洞窟が急に冷え込み始めた。
いや、この空間だけがひんやりとしていたのだ。
男の背中には嫌な汗が流れていた。
「っはぁ!? ハァハァハァ……」
男は呼吸をしていないことに気付き空気を吸い込む。
呼吸を整えると、光の射す中心へと進んだ。無意識に光の中にいたいと感じていたのだろう。
男はまわりへと注意を向けたが、気配はない。しかし、イヤな感じが体にまとわりついてはなれない。
男は闇の中のキラリと光るモノに目が止まった。
目を凝らして見ると、そこには巨大な結晶が闇に包まれ鎮座していた。
男はその結晶に近づいた。
「!? これは……」
その黒い半透明の結晶の中には黒髪の女性が祈るように硬直している。
生きているようにも死んでいるようにも見える。
「くっ!?」
男は咄嗟に結晶に触れた。
結晶にまとわりつく闇が男の手に絡みついていき、男の中へと侵入しようとする。
「チッ!?」
男は舌打ちをすると結晶から手をはなし闇を振り払う。
男はフードをとり黒髪の女性を見つめる。
黒髪の男は怒りとも悲しみともとれる表情を見せ呟いた。
「必ず、必ず助けてみせる」
黒髪の男は再び結晶へと手を伸ばした。闇が体を蝕んでいこうと構わずに……
……
「…………くっ!?」
アキはどこへ……




