表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/288

しばしの別れ

 戦いは終わり、避難所の人たちも戻ってきている。町の復興もすでにはじまっていた。

 アキは城の一室のベッドで休んでいた。

 怪我はカレンが治療してくれた。と言っても特に酷い怪我はしていなかった。サンディを庇って受けた傷は、少し切っただけで大したことはない。槍を脇の下で挟んだ、ただの演出だった。

 回復に来たカレンは大怪我をしていると思い焦るように回復し、一瞬で回復したことに驚いていた。ほとんど怪我をしていないのだから一瞬で回復するのは当たり前である。カレンは自分の手を見て嬉しそうにしていた。自分の力が上がっているのだと勘違いしていたようだ。真実を知ってガックリしていたのは言うまでもない。

 嵐三たちは当然気付いていた。だからあのとき取り乱していなかったのだ。

 冬華はお兄ちゃん子だから取り乱しても仕方がない。

 アーサーは素直ないい子だから怒っても仕方がない。

 気付いていないのはアキの実力を知らない者たちと、心配性なカレンだけだった。

 なぜアキがそんな演出をしたのかと言うと、恩を売っておこうと思ったからだ。何せ大爆発を起こし町を破壊してしまったからだ。賠償金など払えない。

 ランディの様子からサンディが城の重要人物だろうと推測しアキは行動に移した。

 そして、その試みは成功した。お咎めなしだ。おまけにこんなビップ待遇を受けている。逆になんだか申し訳ない気分にアキはなっていた。

 冬華からは詐欺師呼ばわりされ、嵐三からは小言を言われたけれど、アキは「あいつらが町中で襲ってきたのが悪いんだ!」と開き直っていた。「お前たちが町中で戦ってたのがいけねぇんだろ」と言わないだけましだったかもしれない。どちらにしろゲスかったのだが・・・


「それで、お兄ちゃんはなんでまだベッドで休んでるの? どうしてアーサー君が一緒に寝てるの?」

 冬華はベッドに腰掛け鋭い視線を向けて訊ねてくる。

「怪我をしたことになってんだから一応そう見せないといけないだろ? お前たちが回復するまでは演技してないと。アーサーの事は……アーサーに聞いてくれ。俺は悪くない!」

 アキは断じて言い切った。

 怪我に関しては魔法で治してもらっているのだからそんな演技は必要ないのだが。アーサーに関しては、なぜかアーサーがベッドにもぐり込んで寝ていた。

 ずっとアキにベッタリだった冬華が、先に(・・)もぐり込んでいるアーサーを見て、機嫌を損ねたようだ。自分の指定席を奪われたことなのか、自分以外のカワイイ子と仲良くしていることなのか、はたまた両方なのか……とにかく機嫌が悪そうだった。

「む~」

 可愛い寝顔を見せるアーサーを起こすことは冬華にはできなかった。代わりにアキを睨みつけた。

「なに怒ってんだよ?」

「怒ってないし!」

 冬華は頬を膨らませそっぽを向く。怒っていることまるわかりである。

 さわらぬ神に祟りなし。アキは冬華を放っておいて他へと視線を向ける。

 今この部屋には、冬華とアーサーだけでなく、他のみんなも来ている。

 冬華はベッドの上に座り、シルフィはそのすぐに立っている。

 アーサーはアキの隣で寝息を立て、ミュウはアーサーを見守りつつ、時折アキがアーサーに変なことをしないか睨みをきかせている。

 総司とカレンはベッドの正面にたち、嵐三は椅子に腰かけている。

 フラムは空いたスペースで体を鍛えては筋肉の調子を確認していた。

 こうして現状の報告をするために集まっていた。もちろん自己紹介は済んでいる。

「で、シルフィこっちの状況はどうなってんの?」

 アキはシルフィへと訊ねた。一番わかりやすく説明してくれるだろうと思ったからだ。

 シルフィはアキの側へ来ると嬉しそうに話し出す。指名されたのが余程嬉しいようだ。

『えっとね、……』

 シルフィはアキの前では常に素だった。アキには着飾った自分ではなくありのままの自分を見てほしいと思っていた。シルフィが精霊だからなのか、着飾りたい人間とは真逆の考えを持っていた。

 シルフィはアキがいなくなってからの事を話した。

 封印が残り一つだということ、レイクブルグとサンドガーデンの浄化が済んでいること、麻土香たちのこと、光輝の修行のこと、モルガナのこと、敵のことをアキがちゃんと理解できるように丁寧に話していく。

 若干バカにされている気分にはなったが、アキはわかりやすくて満足顔で聞いていた。

「サンキュ、さすがシルフィの説明はわかりやすいな、冬華だったら話が脱線して意味不明になるからなぁ」

『えへへ』

 シルフィは褒められて嬉しそうに微笑む。

「む~」

 冬華の膨れっ面がさらに膨れる。

「まさかここまで後手にまわっていようとはのう」

 嵐三が渋い顔で呟く。

「今回の勇者様御一行はそんなに弱いのか?」

 アキは残念な子を見るように冬華と総司をチラ見して言う。実際にシルフィが憑依した状態のアキにまったく歯が立たなかったのだからそう言われても仕方がなかった。

 冬華は眉をピクリとさせる。弱いと言われたのが気に障ったようだ。

 総司は表情を暗くする。返す言葉もないのだろう。

「うむ、時代なのかもしれんのう。平和な日本からきたのじゃ、それは仕方ないじゃろう。それに今回、敵はこちらの戦力を奪っておったようじゃしのう」

 嵐三は総司と麻土香の事を言っていた。

 総司はバツの悪そうな表情をする。

「だよなぁ、俺なんて総司にズバッと斬られたしなぁ。ズバッと」

 アキは斬られたところを手刀でなぞって見せる。

「俺みたいな雑魚相手に手加減なしなんてありえねぇよ。なんか恨みでもあったのかねぇ」

 アキは嫌味ったらしくニヤニヤ言う。悪い顔をしていた。

「それは悪かったと思ってるよ」

 総司は本当に悪く思っているようだ。これで総司の記憶は戻っているのだとアキは確信した。

「でも、どの口が雑魚って言ってるんだよ。どう見てもこの中じゃアキが一番強いだろう」

 総司は本心を告げた。以前の異世界へ来る前のアキならともかく、今のアキと戦って勝てる気がしなかった。それなのにアキは何を言っているのだろうと首を傾げる。

「何言ってんの? 俺の事慰めてんの? それとも嫌味? 魔法使えねぇ俺がお前らに勝てる要素なんてねぇだろ。強さなら冬華、火力なら総司だし。まあ、シルフィたちを除いてだけどなぁ」

 アキは本気で言っていた。二人の力がなかったらアイズたちを撃退できなかったかもしれないと思っていたからだ。

 総司は魔法抜きでも十分過ぎるほどアキは強いと思っている。それなのになぜこれほど自分を下に見ているのかがわからなかった。

 冬華は褒められたことが嬉しく。頬が緩みそうになったいた。

 しかし、今は怒っているところだ、喜んでやるわけには行かない。冬華は一人で意地になっていた。

「とはいえ、一番強くなくちゃ困る光輝がこのままってのも困りものだなぁ」

 あれからそこそこ時間は経っているというのに光輝の修行は今だ進展がないという。切っ掛けすらまだとなるとかなりキツイ、アキは額に手をあて考え込む。

(俺が修行に付き合ってもいいけど……やっぱり面倒くさい。他にやりたいこともあるしなぁ。ん~)

「……じいちゃん、光輝の修行みてやってよ」

 アキは嵐三へ困り顔でお願いした。

 孫にお願いされて断ることなどありえない! 嵐三はやる気を出した。

「うむ、折角じゃし稽古つけてやるとしよう」

 アキの顔をジッと見ていたカレンが不思議そうに訊ねた。

「ねぇアキ、火傷の痕ってどうしたの?」

 そういえば、と冬華と総司もアキの顔をまじまじと見る。あのアキにはちゃんとあったが目の前のアキにはなかった。

「ん? そういえばないなぁ。なんで?」

 アキは自分も今気づいたように嵐三へと訊ねた。

「わしに聞かれても火傷の事など知らんしのう……ふむ、一度死んで生き返ったときに怪我と一緒に治ったんじゃないか? おそらくじゃが」

「だってよ」

 アキはさらっと流した。アキとしては顔に火傷が無くなったことは喜ばしいことだから気にならなかった。

「ちょっと待って! 死んだってどういうこと!」

 冬華がアキに掴み掛からん勢いで声を上げた。

 総司とカレンも同じように驚いていた。

「いや、死ぬだろ。あれで死ななかったら人間じゃねぇだろ」

 アキは逆に驚いたように言う。

「じゃあ、どうして……」

 冬華は、どうして生きているのか疑問だった。

 まさか悪魔に魂を売ったとか? 異世界だからないとは言い切れない。しかしアキからは嫌な感じはしない。冬華はますます困惑する。

 待ってましたとばかりにアキはニヤリと笑う。その怪しい笑いが冬華の不安さらにかきたてる。

「ふふん、それはだなぁ。これだ! 蘇りネックレスゥ」

 アキはネックレスを取り出すと、某国民的アニメの猫型ロボット風に声高らかに言った。

「……」

 アキは冷ややかな視線をその身に集めてしまった。

 冬華の不安はばかばかしくなり消し飛んだ。こんなバカ、悪魔の方が願い下げだろう。

「……コホン、今のは忘れてくれ」

 アキの羞恥心がマックスを振り切ってしまった。

「これな、サラさんに貰ったんだけど、これについてた魔石がどうも俺を生き返らせてくれたみたいなんだよ。まさに愛は時空を超えるってやつ?」

 アキは照れたように言った。

「そ、そう……」

 しかし、冬華たちは浮かない顔をしている。

 当然アキもそれに気づいている。

「で、お前ら何隠してんの?」

 アキが単刀直入に告げ冬華たちはあからさまに動揺を見せた。

「え、あ、その、えっと……」

 冬華は口ごもる。

 総司とカレンは顔を逸らしてしまっている。

「はぁ、どうせ俺の偽物でも出たんだろ?」

 アキは溜息を漏らすと呟いた。

「なんでそれを?」

 冬華が驚いたようにアキを見る。アキはカマを掛けてたつもりだったが、どうやら確信を突いていたようだ。

「げっ、やっぱりか。……シルフィが、そのアキは本物だって言ってただろ? 「その」って。だったら俺以外にもアキがいるのかと思ったんだけど、いるんだな?」

「う、うん」

 冬華は観念したように頷いた。

「なんで黙ってた?」

「だって、お兄ちゃんの偽物だよ。ということは、その……」

 冬華は言い難そうにしている。それだけでアキには察しがついた。信じたくない現実が突き付けられた。

「サラさんか……」

 アキは感情を抑えるように声を静めて言ったが、かえってそれが威圧的に聞こえた。

「う、うん」

 冬華は自分が叱られた気分になり表情を暗くする。

 アキはそんな冬華の頭を優しく撫でてやる。冬華の表情が幾分か明るくなる。

「サラさんはそいつを本物だと信じたわけか……」

 アキは辛そうな表情をする。それがどういう意味なのかわかっていたからだ。

 シルフィが辛そうなアキを見ていられず声を上げた。

『でも、強力な暗示にかかっている可能性もあるし。それさえ解ければ』

「……そうだな。取り戻せば済むこと、だな」

 アキが少し元気を取り戻しシルフィはホッとした。

「それも大事じゃが、敵を招き入れていることに変わりはないんじゃぞ。急がねば封印が解かれてしまうぞ」

 嵐三は孫の恋の行方も気になるが封印のことも気にしていた。

「だな、冬華たちの足止めのためにアイズたちがここに来てたのかもしれねぇし」

『光輝と汐音に見張ってもらってるから少しは時間稼ぎできると思うよ』

 シルフィがアキへと告げる。

「じゃあ、冬華たちの力が回復したらすぐに戻ろう」

 アキはみんなへそう告げる。本当はすぐにでも飛んで行きたいところだが、行ったはいいがすぐに戦闘になり力が出ませんじゃ話にならない。ここは我慢するしかないとアキは判断した。

『お姉様、そろそろ』

 ミュウがシルフィへと声を掛ける。

『え!? もう?』

 シルフィは嫌そうにしている。

『ええ、これ以上は危険です』

 ミュウは申し訳なさそうに言うが、その表情からシルフィの身を心配しているのがよくわかった。

『わかったよ。……アキ、ゴメンね。私たち体を維持するのもそろそろ限界なの。力を蓄えるために一旦消えるね』

 シルフィたち精霊は自然界から取り込んだ魔力によってこの世界に形を成して存在している。魔力を使い過ぎると体を維持できなくなり消滅してしまう。なのでシルフィたちは効率よく魔力を取り込むために自然界に還る必要があった。

 アキと冬華はそのことを聞いていたため無理をさせ過ぎたと反省していた。

「そうか、折角再会できたのに寂しいな……無理させてごめんな」

 アキはシルフィを引き寄せると優しく抱きしめた。

 シルフィもアキのぬくもりをしっかり記憶するように抱きしめる。

『ううん、アキの為ならどうってことないよ。大丈夫、すぐ近くにいるからね』

チュッ

 シルフィは離れ際にアキの頬にキスをした。

『冬華も、アキを困らせちゃダメだよ』

 冬華は寂しそうな表情を見せる。

『そんな顔しないで。すぐに戻ってくるから、ね?』

「うん」

チュッ

 シルフィは冬華を抱きしめ、頬にキスをした。

『じゃあ、またね』

 シルフィは二人へ微笑みかけると消えて行った。

 ミュウはアーサーを抱え上げると、お辞儀をして消えて行く。

 フラムはアキと拳を合わせると、ポージングを決めニカッと笑い消えていった。

「……」

「なんでフラムはいつもポージングするの?」

「肉体美を見てもらいたいんだよ。今度褒めてやれよ。よっ、キレてるよ! って」

「やぁよ、そんなことしたら毎回あの暑苦しいの見せられるじゃん」

「どうせ毎回ちゃんと見てんだからいいだろ? あいつも喜ぶからさ」

「え~~」

「お前の仲間にも同じようなのいただろ? あの、カル……カルカン?」

「誰よそれ、そんなの知らないわよ」

 と、二人はフラムのポージング談義に花を枯らせていく。


フラムはいいヤツだよ。暑苦しいだけで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ