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ある男の話

ちょっと頭にブッ込みました。

「人だ! 人が流れ着いたぞ!」


 ここはローズブルグ城から川沿いを北に向かった先にあるリーフ村。薬草、香草などを特産物としていて、各地の村や街からも多くの薬師が仕入れにやってくる。城から近いということもあり、特に大きな事件も起きない平和な村だった。

 そうだったのだが、ある日、村の脇を流れる川の岸にある男が流れ着いた。その男は白髪で綺麗な碧い瞳をしていた。そして全身、特に左半身に大火傷を負っていたので、村へ運びこみ治療をしてやることにした。

 間の悪いことに回復魔法を使えるものが出払っていて薬草での応急処置しかできなかった。

 男の名は「アギト」といった。喉も焼けていたらしく話す言葉は聞き取りにくいものであったが名前だけは何とか聞き取ることができた。

 アギトはローズブルグへ向かおうとしていたが、静養の為、しばらくこの村に滞在することにしたようだ。

 しかし……

「おじいちゃん、あの人怖い。……あの人いつまで村にいるの?」

 そういうのは孫のシェリーだった。礼儀正しい男だとは思うのだが、他では違うのだろうか?

「なぜそう思うんだい?」

「だってあの人、包帯まみれだし……一人でブツブツ何か言ってるんだもん」

 包帯は治療した後だから仕方ないのだけれど、確かに出ているのは右目と口だけだから怖いと言えば怖いが、独り言とは……

「包帯は仕方ないだろう? 怪我をしているんだ。独り言にしても誰でもするだろう?」

「そんなことないもん! 一人の時いつも言ってるもん! あたし見たもん!」

 シェリーは怒って行ってしまった……

 ほかの者にも聞いてみたが、どうやら本当だったようだ。誰かと会話をしているようだとも言っていた。それ故、皆気味悪がって近づかなくなっている。

 アギト本人に聞いてみると……


「ずびばぜん、ぶがじがだどぐぜでじで」

(すみません、昔からの癖でして)


とのことだったが、皆が気にしていることを告げると、気を付けると言っていた。

 傷が癒えるまでお互い我慢してもらうしかない。



 数日後、傷もだいぶ癒えたころ事件は起こった。

 魔物の群れが突如村を襲ってきたのだ。村には結界が張ってあるから安全ではある。しかし、魔物の群れは村ではなく、川遊びをしていたシェリーたちを狙っていた。

「シェリー! 早く逃げるんだ!」

「え~ん、おじいちゃ~ん」

 子供の足では逃げきれず、すぐに囲まれてしまった。子供たちは泣きじゃくり、大人たちは成す術もなく立ち尽くす。助けようと駆け出そうとする者もいた。

 しかし、もう遅い、もう間に合わない。魔物が子供たちに手を掛けようとした。

 そのとき、一陣の風が吹き魔物を薙ぎ払った。皆が見守る中、一人の男が子供たちの前にふわりと舞い降りた。その男は白髪で包帯まみれのアギトだった。

「伏せていろ」

 アギトは子供たちのそう告げると、両の腕を広げ、魔物に向かって薙ぎ払うように、そして巻き上げるように腕を振るう。すると‥‥何もなかった空間から風が巻き起こり魔物たちに押し寄せ巨大な竜巻となる。魔物たちは竜巻に絡めとられ巻き上げられていく。そして渦巻く風の刃に切り刻まれ絶命していく。

 竜巻は魔物、魔物の死骸ごと森の彼方へと飛んで行き、そして霧散した。

「もう大丈夫、村に戻りなさい」

 アギトが優しく声を掛けると、子供たちは泣きながら親元へと駆けていく。

「えーん、おじいちゃーん、ヒックヒック」

「シェリー、よかった、よかった」

 皆が無事を喜んでいる中、アギトは宿へ戻ろうと傍らを歩いていく。

 そんなアギトへ皆が引き止め礼を述べていく。気味悪がって近寄ることをしなかった皆が、今はアギトに歩み寄っていく……現金なものだと呆れてしまう光景だが……


「助けていただいたお礼ができてよかったです」


 アギトはこんなことを言う。礼儀正しいと言うよりお人好しなのかもしれない。 しかし、これをきっかけに皆とも打ち解けることができたようだ。久しぶりに話してみて気付いたけれど、声からしてずいぶんと若い印象を受ける。その為なのか、シェリーも怖がらなくなり今ではすっかり(なつ)いている。


「お兄ちゃん、あそぼ!」


 こんな風に。

 アギトが村を発つまでの短い間だけれど、二人にとって楽しい思い出ができるといいと願う。


 それにしてもあの魔物の群れ、今まであれほどの群れで襲ってくることはなかったのだけれど……キャラバン隊の言っていた話は本当なのかもしれない。


「魔物が以前よりも強くなってきている、結界があるとはいえ気を付けた方がいい」


 この地ゲーティアにいったい何が起こり始めているのだろうか?

 願わくば、孫たちが幸せに暮らせる日々がいつまでも続きますように……



迷った挙句ここにいれたけれど、よかったのだろうかと、また迷う。

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