問いの二 覆うは白、隠すは本質 1
「ねぇねぇねぇねぇ! なんでなんでなんでなんで‼︎」
「…………」
本当に、顔を包帯で覆っている。 佐野の言葉を信用していなかったわけではないが、やはり自分で見るまで実感は湧かないものだ。
「ねぇ、もう夏だよ? 暑いでしょ? 我慢してるんでしょ? そこまでする必要あるの?」
神城は止まることなく問いを投げかけている。 僕が近づいてることに気づきもしない。 そのことに対して思うのは、やはり彼女は変わった人だと言うことで。 彼女にしたら目の前に『理由』が現れたのだから、大人しくなど出来ないのは当然なのだろう。
「……神城さん」
久しぶり、と言ってもあれから一ヶ月も経ってはいない。 でも、僕はやけに緊張していた。
「ん? ああ! 写真屋さん! こんな時間になにしてるんだい?」
「……そのままお返しするよ」
「え? だってさ! この人、すっごい変人じゃん! 何が悲しくて顔に包帯巻きつけなきゃいけないのさ!」
…君に変だと言われたらどうしようもない。 類は友を呼ぶ、と言うやつだろうか。 僕は横目に包帯を巻いた人を見た。
背が高い、しかし少しぽっちゃりとした体型だ。 頭から首元まで包帯で覆っているが、体格的に男性なのは間違いないだろう。
とても奇妙だ。 神城さんが食い付くのも分かる気がする。 わざわざそんな格好をする理由を知りたくなるのも頷けた。
「神城さん、こういうのが今流行ってるんだよ」
「はぁ? なに、遂に世間は頭がおかしくなったの? ミイラの格好なんてハロウィンとかだけで十分だよ、非日常を日常に取り入れるなんて無理があるでしょ」
言っていることはもっともなのだが。 流行りとは一つの大きな塊だ。 初めは一つの『個』でも、広がれば大きな『群』となるのだ。 100人を1人で相手にするのは無謀というものだ。 だから、流されるしかない。 余計な異論は唱えず、ただ過ぎ去るまで流されていればいいのだ。
「我らは、ミイラ」
それはなんの前触れも無く聞こえた。 随分と幼さの残る声で、ミイラの姿をした人はそんな言葉を発した。
「はぁ? ……写真屋さん、今のも流行り?」
「いや、僕も分からない」
流行りかどうかも分からなければ、その言葉が示す意味も捉えられない。
「我らはミイラ、我らはミイラ、我らはミイラ………」
まるで呪文のようにブツブツと呟きながら、その人はその場からゆっくりと立ち去っていく。 僕はそれを追うこともなく、ただ後ろ姿を眺めるだけだった。
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「あんまんで良かったかな?」
「…食べれればなんでも。 ピザまんが良かったけどね」
少し不満気な表情で神城は僕からあんまんを受け取った。 好みがあるなら先に言ってくれ、そんな言葉を飲み込んで僕は神城の隣に座った。
「……追いかけるかと思った」
それは僕の素朴な疑問。 ミイラ、と呼ぶのは少し抵抗があるのだが。 とにかく、あの人が去って行くのを神城は引き止めることなく立ち止まっていた。 目の前の『理由』を知ることが出来なかったのだから、知るまでは付きまとうものかと………
僕の質問に答えることなく、神城はあんまんを頬張り遠くを見つめている。 答えたくないのか、答える理由がないのか…… どちらか分からないが。 問いただす程、僕も聞きたいわけではなかった。
「ミイラ取りがミイラになる、ってね」
不意に神城がそう呟いた。 僕を見ることなく、遠くを見つめて独り言のように。
「いったい、ミイラはどこにいるんだろうねぇ……」
「……友人が言うには、テレビに出たらしいが」
僕がそう答えると、ようやくこちらを向いて。大きなため息を吐き、面倒そうに言葉を発した。
「写真屋さん。 わたしが言ってるのはミイラの行方のことだよ」
「だから、誰かは分からないが始めた人がいるんだよ」
「はぁ、全く……」
そう言って神城は立ち上がった。 そして僕を指差す。
「わたしが言いたいのはね。 こんなに沢山のミイラ取りを作ったミイラさんはどこにいるのかってことさ」
「……いやだから。 あの格好を始めた人がいて」
「だーかーらーぁ…… そいつもミイラ取りかもしんないでしょ?」
いまいち理解出来ない。 僕は言葉を見失い黙った。
「ミイラ取りがミイラになる。 この言葉の登場人物はミイラ取りだけさ。 わたしが知りたいのは、ミイラ取りが探しに行ったミイラの行方ってこと」
「……始めた人物も、ミイラ取りだということかい?」
僕がそう言うと、神城は僕に向けていた指を自分の口元へ当てた。
「神問うて、人解かん」
そう呟いた彼女は少し嬉しそうに笑った。
「ミイラ取りが生まれた理由、それを知ってるのはミイラご本人だけ。 さて、そこには一体どんな理由があるのかねぇ……」