問いの二 覆うは白、隠すは本質 終
「どうだい、調子は?」
「まったく医者も大げさなんだよ。 退屈で死んじゃいそうだよ!」
頭に包帯を巻かれているわりに、神城は元気そうだ。 あの後すぐに病院に連れて行き、大事には至らなかった。 しかし、一週間ほどは安静にと言われたらしい。 唾つけとけば治るよ! などと言ったらしいが…… 医療に関わる人にそれは意味のない言葉というものだ。
空いている窓から、優しく夏風が入り込む。
「…女は自首、男の方は事故死かい。なんとも、後味が悪いねぇ」
「…………」
金本はあの後、交通事故で帰らぬ人となった。 止める人がいなくなり、彼女もまた警察に逮捕という形となった。
「んーで? 話してよ、今回の謎の答えを」
「……分かってると思っていたけど」
「んー。まぁ推測だけど…… 姉弟愛?」
おどけてみせる神城に、僕は何も答えなかった。 姉弟愛、そう言えるのだろうか…… そうだとしても、普通では無かったのだろう。
佐野が彼女から聞いた話。 それと僕の仮説は、嬉しくはないがほとんど一致してしまった。
彼女には夫がいた。 優しい人だったそうだ。 しかし…… ある日、彼女に手を出した。それが、あの顔の傷の理由。 それでも、彼女は夫を愛し続けたのだ。
その光景を。 彼女の弟、金本 剛は。 許すことが出来ずに…… 殺害したのだ。 そこから全ては始まった。
「……姉の傷を隠し。 自分を殺し、誰かになり代わった」
「……そうすることで。 全てを無かったことにしたつもりだったんだろう」
金本 剛という人物を消し去り。 愛する人のために、他人を演じようとした。 そして、姉の姿を正当化するために。 同じ姿の人間を増やそうとした。
「馬鹿だよね。 そんなこと無理に決まってんのに……」
それでも。 愛する人のためと、それだけの理由で。 彼は、自分を捨てたのだ。 そしてまた、彼女も。 弟の罪を隠すために、自らの素顔を消し去ろうとしていた。
「お互いが大事だから。 理由は、そんな単純なもの、だったんだろう」
「……そうかい。 でもさーー」
「ああ。 それを認める理由には、ならない」
酷く真っ直ぐな愛情で。 許せることのない、悲しいものだ。
「……ミイラってのは。 亡くなっても綺麗なままで、って意味もあるらしいよ」
神城は外を見つめて、そう言った。
「弟にとっては。 傷を隠すだけじゃなくて、どんなになっても綺麗だという証明みたいなもんだったのかねぇ」
「……それを確かめる術は、もう無いよ」
「確かに、ねぇ」
ただ、確かなのは。 どれだけ間違った行いだったとしても。 彼の、姉に対する気持ちは。本物だったということだろう。
「写真屋さん。 助けてくれて、感謝」
酷く落ち着いた声で、神城はそう言った。想定外のことだったので少し動揺した。
「……写真屋さんの本質は、まだ隠れたままかい?」
「……なんのことだい」
「…あんな風に。声を荒げて、怒れるんじゃないかい」
「……僕も、人間だからね」
「……また。 いや、なんでもないよ」
何かを言いかけて、言葉を飲み込んだ。 神城にしては、珍しい。
「……んんー! あ、でさ! しばらく居候するからよろしく!」
「……聞いてないんだが」
「そりゃそうさ、言ってないもんね!」
そう言って、からかうように笑う。それを見て、少し安心した。
先ほどの顔はどこか、悲しそうに見えたから……
「てか。お見舞いならなんかないの?」
「ああ、すまない。 長居するつもりは無かったから、何も」
「こんの…… 罰当たりぃぃ!」
怪我人と思えない大声が、病室に響いた。
問いの二 覆うは白、隠すは本質 完
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